竜王妃は家出中につき

ゴルゴンゾーラ安井

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11.ダンジョンと親衛隊

 救世主ノエルのお陰で、地獄の20階層マッピングはようやっと終わりを迎えた。
 まさか3日でマップが完成するなんて、嬉しすぎる誤算だ。

 そうそう、まだ引っ越してはいないが、一昨日遂にこの街に小さな家を借りたんだ。
 ノエルを責任持って飼うと決めた以上、宿屋じゃまずいもんな。
 ソーニャは手のひらを返して、『ノエルちゃんは私が引き取ってもいいですよ』と言ってきたりしているけど、一度拾ったからには最後まで自分で責任を持ちたい。それに、ノエル自身が俺にすごく懐いているし。
 
(遂に家まで借りちゃったなぁ。ちょっと家出のつもりだったのに)

 気付けば城を飛び出てから、もう二週間近くになる。
 竜王妃になってから……いや、ジークハルトと出会ってから、今までこんなに長いこと離れていたことはなかったから、ちょっと戸惑ってしまう。

 まさか、浮気じゃなくて本気だったんだろうか。
 いざ居なくなってみたら案外平気で、仕事も問題なく回るし、大丈夫だと気づいたのかもしれない。
 もしかして、もう迎えに来るつもりがないとか……??

 ふとした時にそんなことを思い悩んだりするようになってしまって、つい上の空になる。
 ソーニャはそういう俺の姿を見るたびに何か言いたげな顔をしているけど、今のところ触れないでくれていた。
 ノエルが顔をペロペロしてくれるのだけが癒やしだ。



 そんな状態ではあるものの、ダンジョン攻略は至って順調に進んでいた。
 ソーニャはギルドの仕事があるから居なくなってしまったけど、今はノエルと一緒に攻略に励んでいる。
 マッピングの大変さは相変わらずあるけど、ワープフロアに比べたら超イージーだから問題なし。
 ボスもたいしたことはなかったし、遂にソーニャと約束した30階層までたどり着いた。
 
 そういえば、ダンジョンについて説明したことなかった気がするな。
 めちゃくちゃ今更だけど、サラッとだけ解説しとこう。リディくんのダンジョン入門解説だ。

 まず、ダンジョンっていうのは魔物が常に湧き続ける異空間のこと。
 どんな構造になっているかはそのダンジョンによって様々で、迷宮みたいになっているものもあれば、草原や洞窟みたいに自然を感じるようなところもある。
 全てのダンジョンに共通して言えることは、ある日突然発生すること、階層が存在してフロアごとに出現するモンスターが違う。
 ダンジョン内で倒したモンスターは全てドロップ品となり、死体が残ることはない。
 それと、ダンジョンに傷をつけたり目印をつけたりすることもできない。これらはほんとに不思議で、多くの研究者がその謎を解明しようとしたけど、未だに何もわかっていないんだよな。
 
 ダンジョンには階層ごとにフロアボスがいて、ボス部屋というものが存在している。
 ボス部屋に入れるのは1パーティーだけで、パーティーが全滅するかボスが倒されるかするまで扉が開くことはない。撤退して逃げる時は別だけど。
 ボスは最初に倒すと特別な宝箱を落とす。これはドロップ品とは別で追加特典ってやつだ。
 宝箱の中には特殊武器やレアなアイテムが入っている事が多いから、多くの冒険者にとってファーストスレイヤーになるのは憧れだ。俺も子供の頃は、ファーストスレイヤーになるんだー!って木の棒を振っていたもん。
 だから、ダンジョンには無限にボスもモンスターも湧き続けるし、全階層を攻略されてもダンジョンが消えるようなことはないんだけど、定義上このボスの初回討伐が全て完了したら踏破済みダンジョンと呼ばれることになってる。未踏破ダンジョンって言えば、まだ頑張ればボスの宝箱が取れるんだなってことね。

 ちなみに、俺がマッピングにヒーヒー言ってる間に、25階層までのボスは既に倒されてしまってた。
 20階層のボスは宝箱を吐き出したから、足踏みしているうちに追い抜かれてしまったんだろう。
 別に今更レアアイテムとかにそこまで興味があるわけじゃないし、誰か必要なやつのところに行ったんたならそのほうがいいからいいんだけど、追い抜かれた理由を思うとちょっと悔しいんだよなぁ。むうう。


 だけど、俺が見た範囲ではそこまで強い冒険者は見えないなって思っていた通り、26階のフロアでみんな右往左往していた。
 26階で湧くモンスターは主にゴーレム系で、物理でゴリ押しするだけじゃ歯が立たない。
 調子に乗ってボコボコにされてた奴らを見かねて助けたりしていたら、ギルドではシンパっぽいものが湧いてたりして、最近ちょっとギルドに顔を出しづらかったりする。親衛隊ってなんなんだ?まじで。
 些細なことでも過剰に褒めちぎってくるし、どこにでもついてこようとするから、やりにくくて仕方ない。
 ダンジョンの深層まではついてこられることはないから、今やダンジョンは安らぎの空間だ。

 
「よーし、記念すべき30階層のボスだ!思い切り暴れるぞ!!!」

 テンション上げてボス部屋に乗り込んだ俺は、流星剣を構えてボスへと対峙した。
 強敵との闘いは、緊張感があって最高に血沸き肉踊る。
 広いボス部屋は炎がコンセプトなのか、至る所に火が灯っていて、汗が吹き出すほど暑い。
 侵入者に向かって、ボスが物凄いスピードで近づいてきた。
 
「コイツは……!!!!!」

 大きな体躯、広げられた悪魔のような羽、並の剣では弾かれてしまう硬い鱗、鋭い爪。
 咆哮を上げて限界まで開いた口からは、長い舌と凶悪な牙が覗いている。
 しかし何よりも恐ろしいのは、その喉から放たれる強烈なブレスだ。時にマグマの如き炎を吐き、時に毒の霧を吹きかけてくる。
 ダンジョンボスに相応しいその姿は、まさにモンスターの王者と言えよう。
 30階層でこいつが出てくるのは、相当難易度の高いダンジョンだ。

「オオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!」

 一際大きな声を上げて、モンスターが咆える。まるで仲間を呼ぶような、自分の存在を誇示するかのような鳴き声。
 そいつは一際高い場所まで舞い上がり、俺の眼前まで急滑空する。
 そして、俺の目の前で――――――――――――ひれ伏した。


「あぁ……やっぱり、そうなるか…………」


 モンスターの王者、ドラゴン。ドラゴン。竜。竜神の眷属。
 竜人の頂点であり竜神の血を引く王族の番である竜王妃には、全ての竜が跪く。

 一切の抵抗の意志を持たず、好きにしてくれとばかりに全面降伏している眷属を痛めつけるなんてことができようか。
 ハァ……とため息をついて、諦めて俺が出ていくかと思っていたら、後ろに避難させていたノエルがトコトコと歩いてきて、ドラゴンをつま先でチョンと突っ突いた。

 途端、ドラゴンは『うわー、やられましたー』と言わんばかりに大げさに丸まり、宝箱を差し出してドロンと消えていった。なんという接待プレイ。
 ノエルは『やりましたよ、ご主人!』と言わんばかりにキラキラとした眼差しを向けてくる。

「なんていうか………これでいいのか……?????」

 楽しみにしていたダンジョンボス戦の結末がこれとは、悲しすぎる。
 ノエルは居てくれるが、やっぱり一人で黙々と潜っていくだけのソロプレイは何だかつまらなくなってきた。


(ほんと、いつになったら迎えに来るんだよ…………)


「ほんとに許してやらないぞ」


 俺は未だ影すら見せない夫を小さく罵った。

 
 
 

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