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12.王の責務
「リディが呼んでいる」
目の下に真っ黒の隈を作ったジークフリートは、書類に滑らせるペンを止めて立ち上がった。
この一週間、ジークフリートは文字通り一睡もしていない。昼間は執務にあたり、夜はリディエールを探して各地の空を飛び回っている。
そして、朝になると城に戻ってきて、再び仕事を始めるのだ。
各国に調査の手を広げさせてはいるが、賢いリディエールがそう簡単に見つかるとは思えない。
他の者などさほどアテにしているわけではないが、リディエールがそうまでして自分のところに戻りたくないと思っているのかと思うと、そのことのほうが辛くてたまらなかった。
第二王子のコンラートは、中立的な立場で見ているだけにジークフリートに同情的だ。
浮気の真相を知った兄、ラインハルトは『余計な策を弄するからだ』と憤慨していたが、それでは父が余りにも可哀想ではないかとコンラートは思う。
コンラートは銀の髪をリディエールから、金の瞳をジークフリートから受け継いだ、どちらかと言えば中性的な見た目の王子だ。
中身はと言うと、これまた中庸で、両親どちらの性格も持ち合わせていた。
特に顕著に見られるのが、番への接し方だ。
コンラートは既に番を得て、離宮で暮らしている。
王太子である兄を差し置いて先に番うのは気が引けたが、元々15年前にラインハルトが番い、その2年後に自分も番う予定になっていた。
ラインハルトの挙式が延期になり、その後の話し合いで結婚を先延ばしにすると決定した時点で、ラインハルトからは『俺とリディアのことは気にせず番うように』と告げられている。
それでもしばらくは憚って様子を見ていたが、結局7年前に待ちきれず婚約者であるロイと結婚し、番になった。
皆に祝福されて愛する人と結ばれた自分は、恵まれているのだろう。義姉であるソフィアにもそうあってほしいと願ってやまないのは本当だ。
しかし、この期に及んで動くつもりのないラインハルトの姿勢には賛同し難いとコンラートは思う。
つまらない策を弄してソフィアとの中に茶々を入れようとしたのだから腹を立てるのは当然だが、だからと言って大事な番を追うことも許さず王座に縛り付けて仕事をさせようという姿勢には反感を覚える。
だって、番なのだ。それが側に居ないだけで、どんなにつらいかわからないのだろうか。
「父上、今日はもう寝てください。後のことは私がやっておきますから」
コンラートが父親を労ると、ジークフリートはそれでも首を横に振る。
「いや……リディの残した仕事もある。それを残しては胸を張って探しに行けないからな」
どうやら先程の『呼んでいる』発言はストレスのあまり見た白昼夢だったらしい。
コンラートはジークフリートが可哀想でたまらなくなった。
だというのに、未だ怒り治まらぬラインハルトはツンとしたままでいる。
「甘やかすな、コンラート。今回のことは父上の自業自得だ。きっちり反省してもらわなくては、また同じようなことが起きると困る」
あんまりな兄のいいように、コンラートはムッとして言い返す。
「甘えているのはどっちですか!ソフィアのことが大事なのはわかりますが、いつまでも父上に王の仕事をさせておいて、後何年王太子の身分でいるつもりなんです?」
「何?」
「今兄上はお幾つですか?100歳はとっくに超えているでしょう。父上が即位された時は、まだたったの50歳ほどでしたよ?すぐに全権から引いたわけではなかったとしても、先代の王の在位は100年ほどです。父上はもう150年間王としての責任を果たされてるんですよ。番である母上とゆっくり過ごす余生を犠牲にして働いてきたんです」
「む……しかし、それとこれとは」
「同じことですよ!いくら母上が良しとしているからと言って、いつもまでも親に甘えているからこんなことになるんです。確かに、婚約者を尊重するのは素晴らしいことですよ。ですけど、そのために他人の番との時間を引き換えにしてるんだってことぐらいは自覚なさったらどうです?当たり前みたいな顔をして呑気でいるから、父上だって業を煮やして小細工をしたくなるんです。いい加減親に楽をさせるぐらいの気概を見せてください!」
普段は王太子である自分を立てて、滅多に口答えなどしない弟に正論で滅多打ちにされて、ラインハルトは遂に黙り込んだ。
「それに、父上に浮気されたと誤解したままで、母上は一体どんな気持ちでいるか。一週間経っても迎えに来てくれないなんて、きっと寂しくて悲しんでらっしゃるに決まっています。それも自業自得とおっしゃるんですか?」
「リ、リディ……!!!!!すまないリディ…………!!!!俺が愚かなせいで…………!!!!」
うおお、と苦悩の声を上げているジークフリートは、哀れと言うより他にない。
ラインハルトは流石に決まりが悪くなり、改めて自分のしてきたことを反省した。
間違ったことをしてきたつもりはなかったが、周囲が自分たちの都合を尊重して許してくれていたことは事実である。
そのことへの感謝と配慮が足りなかったせいだと言われると、その通りだと認めざるを得なかった。
「申し訳ありません、父上。自分たちのことばかりで考えが及びませんでした。いずれ王になるものとして、王宮はしっかり私が守ります。どうぞ母上を迎えに行ってあげてください」
かくして、ジークフリートは竜王としての職務を免除され、城を飛び出したのだった。
目の下に真っ黒の隈を作ったジークフリートは、書類に滑らせるペンを止めて立ち上がった。
この一週間、ジークフリートは文字通り一睡もしていない。昼間は執務にあたり、夜はリディエールを探して各地の空を飛び回っている。
そして、朝になると城に戻ってきて、再び仕事を始めるのだ。
各国に調査の手を広げさせてはいるが、賢いリディエールがそう簡単に見つかるとは思えない。
他の者などさほどアテにしているわけではないが、リディエールがそうまでして自分のところに戻りたくないと思っているのかと思うと、そのことのほうが辛くてたまらなかった。
第二王子のコンラートは、中立的な立場で見ているだけにジークフリートに同情的だ。
浮気の真相を知った兄、ラインハルトは『余計な策を弄するからだ』と憤慨していたが、それでは父が余りにも可哀想ではないかとコンラートは思う。
コンラートは銀の髪をリディエールから、金の瞳をジークフリートから受け継いだ、どちらかと言えば中性的な見た目の王子だ。
中身はと言うと、これまた中庸で、両親どちらの性格も持ち合わせていた。
特に顕著に見られるのが、番への接し方だ。
コンラートは既に番を得て、離宮で暮らしている。
王太子である兄を差し置いて先に番うのは気が引けたが、元々15年前にラインハルトが番い、その2年後に自分も番う予定になっていた。
ラインハルトの挙式が延期になり、その後の話し合いで結婚を先延ばしにすると決定した時点で、ラインハルトからは『俺とリディアのことは気にせず番うように』と告げられている。
それでもしばらくは憚って様子を見ていたが、結局7年前に待ちきれず婚約者であるロイと結婚し、番になった。
皆に祝福されて愛する人と結ばれた自分は、恵まれているのだろう。義姉であるソフィアにもそうあってほしいと願ってやまないのは本当だ。
しかし、この期に及んで動くつもりのないラインハルトの姿勢には賛同し難いとコンラートは思う。
つまらない策を弄してソフィアとの中に茶々を入れようとしたのだから腹を立てるのは当然だが、だからと言って大事な番を追うことも許さず王座に縛り付けて仕事をさせようという姿勢には反感を覚える。
だって、番なのだ。それが側に居ないだけで、どんなにつらいかわからないのだろうか。
「父上、今日はもう寝てください。後のことは私がやっておきますから」
コンラートが父親を労ると、ジークフリートはそれでも首を横に振る。
「いや……リディの残した仕事もある。それを残しては胸を張って探しに行けないからな」
どうやら先程の『呼んでいる』発言はストレスのあまり見た白昼夢だったらしい。
コンラートはジークフリートが可哀想でたまらなくなった。
だというのに、未だ怒り治まらぬラインハルトはツンとしたままでいる。
「甘やかすな、コンラート。今回のことは父上の自業自得だ。きっちり反省してもらわなくては、また同じようなことが起きると困る」
あんまりな兄のいいように、コンラートはムッとして言い返す。
「甘えているのはどっちですか!ソフィアのことが大事なのはわかりますが、いつまでも父上に王の仕事をさせておいて、後何年王太子の身分でいるつもりなんです?」
「何?」
「今兄上はお幾つですか?100歳はとっくに超えているでしょう。父上が即位された時は、まだたったの50歳ほどでしたよ?すぐに全権から引いたわけではなかったとしても、先代の王の在位は100年ほどです。父上はもう150年間王としての責任を果たされてるんですよ。番である母上とゆっくり過ごす余生を犠牲にして働いてきたんです」
「む……しかし、それとこれとは」
「同じことですよ!いくら母上が良しとしているからと言って、いつもまでも親に甘えているからこんなことになるんです。確かに、婚約者を尊重するのは素晴らしいことですよ。ですけど、そのために他人の番との時間を引き換えにしてるんだってことぐらいは自覚なさったらどうです?当たり前みたいな顔をして呑気でいるから、父上だって業を煮やして小細工をしたくなるんです。いい加減親に楽をさせるぐらいの気概を見せてください!」
普段は王太子である自分を立てて、滅多に口答えなどしない弟に正論で滅多打ちにされて、ラインハルトは遂に黙り込んだ。
「それに、父上に浮気されたと誤解したままで、母上は一体どんな気持ちでいるか。一週間経っても迎えに来てくれないなんて、きっと寂しくて悲しんでらっしゃるに決まっています。それも自業自得とおっしゃるんですか?」
「リ、リディ……!!!!!すまないリディ…………!!!!俺が愚かなせいで…………!!!!」
うおお、と苦悩の声を上げているジークフリートは、哀れと言うより他にない。
ラインハルトは流石に決まりが悪くなり、改めて自分のしてきたことを反省した。
間違ったことをしてきたつもりはなかったが、周囲が自分たちの都合を尊重して許してくれていたことは事実である。
そのことへの感謝と配慮が足りなかったせいだと言われると、その通りだと認めざるを得なかった。
「申し訳ありません、父上。自分たちのことばかりで考えが及びませんでした。いずれ王になるものとして、王宮はしっかり私が守ります。どうぞ母上を迎えに行ってあげてください」
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