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16.この子うちの子
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俺はカードの内容を見て声を限りに絶叫した。
いや、薄々わかってはいたけど!でもまさかほんとにただの犬じゃないなんて思わないだろ!
目を背けていたかったことを、データとしてまざまざと突きつけられるのはなかなかキツイ。
肝心のノエルは『どうしたの?』と言わんばかりにおすわりをして首を傾げている。チクショウ、かわいい!
「ノエル、お前ただのわんこじゃなかったのか?」
「ワフン?」
「フェンリルの仔だって、ほんとなのか?」
「ワンッ!」
そのとおりですご主人!とでも言いたげに、ノエルは元気に返事する。
通りで賢いはずだ。完全に人語を理解している。
「でも、それならどうしてあんな道端で死にかけてたんだ?充分強いのに」
「きっと、リディに拾われた時はほんとにただの子犬同然だったんでしょう。ノエルをこんな子犬らしからぬ強さにしてしまったのはリディ、あなたです」
「えっ、俺っ!?」
そんな馬鹿な。俺が一体何をしたっていうんだ。
俺はノエルと出会ってからここ数日のことを順を追って思い返した。
「まず、傷ついたノエルを助けてお世話してあげただろ?……それで、ダンジョンに連れて行って一緒にマッピングした。そんで、リュックに仕舞いながらダンジョンを30階層まで潜って、ノエルにドラゴンを接待プレイで退治してもらって…………あとはドロップしたジャーキーを食べさせて、いっぱい遊んであげただけなのに、一体何がいけなかったんだ」
「何かもです!このおバカさん!どう考えてもドラゴンを倒したところから明らかにおかしかったでしょう!」
「えぇ……?」
「おそらく、ドラゴンを倒した経験値がノエルちゃんにそっくりそのまま入ってしまったんです。もしかしたらそれまでのダンジョン踏破も同行ボーナスぐらいは入っていたかもしれませんけど。その上、30階層の宝箱で出るにふさわしいような魔導具でトレーニングを行い、ジャーキーでドーピングまでしていたんですから、こんなわけのわからないステータスにもなります」
げげげ。シャレでファーストスレイヤードッグとか言ってたけど、ほんとにそういうカウントされていたのか。子犬のドラゴンスレイヤーなんて聞いたことないぞ。
でも、確かにS級の冒険者でもソロでは危ういようなドラゴンを一人で倒したならレベルがガン上がりするのも納得だ。
なんてことだ。見た目はこんなにかわいい、ただのワンコなのに。
「ごめんな、ノエル……俺がバカなばっかりに、お前をこんなにしちまって……」
「クゥーン……」
元気だして、とでも言うようにノエルが俺の足元にまとわりつく。
いつものように抱っこししてやると、嬉しそうに腕の中に収まった。
なんにも変わらない、かわいいノエルだ。俺はもう一度カードを眺める。
「ノエル・アルディオン………そうだよな、お前、もううちの子なんだもんな」
俺がノエルの飼い主だ。何を悩む必要がある。
称号は全てを明らかにしている。俺は『神獣の主』で、ノエルは『竜王妃のペット』だ。犬だろうか神獣だろうが、ノエルがうちの子だということには変わりない。
俺はノエルの飼い主としての責任を果たすだけだ。
大事そうにノエルを抱きしめているのを、ソーニャは穏やかな顔つきで眺めていた。
※※※
その後、俺とソーニャはこれからのことについて話し合った。
ノエルがうっかり誰かを傷つけてしまったりすることがないようにしないといけないし、ノエルの正体がバレて良からぬ考えを起こす人間が出ないようにしなくちゃいけないからな。
結論として、ソーニャがギルドで管理している魔導具を買い取ってノエルにつけさせることにした。
能力の制御が苦手な冒険者のための矯正道具のひとつで、本人の同意の上で装着すると、腕力でも魔法でも、任意の能力を抑制することができる。
その上でただの子犬として扱うのが、一番安全だ。
話し合いが終わると、もうだいぶいい時間になり、俺は買ってきた食材で簡単に夕飯を用意した。
その間ソーニャは一度ギルドに戻り、魔導具を取りに行ってくれる。
魔導具は魔力でサイズ調節できる細い腕輪のようなものだったので、少しサイズを大きくしてノエルの首につけてみた。
特に苦しそうな様子はなかったので、大丈夫そうだ。上からチョーカーをつけ直してやれば、完全に覆い隠せる。
当面はこれで様子をみようということにして、俺とソーニャはようやくテーブルに腰を落ち着けた。
俺にはそんなに凝った料理はできないので、作れたのは芋とキャベツと塩漬け肉を煮込んだごった煮と、人参のロペぐらいだ。
それに店で買ってきたパテを出して、スライスしたパンを並べて終了。
それだけなら至って平凡なご飯なんだけど、ソーニャが道すがら屋台で買ってきた串焼きが加わり、一気にテーブルが賑わって豪勢なディナーになった。
異空間収納から秘蔵のワインを開けて、ささやかなもてなしをする。
俺とソーニャは『このパテは旨い』とか『パンはあの角のパン屋のやつがいい』とか取りとめのない話をしていたが、ワインボトルが残り少なくなった頃にソーニャは言った。
「あなた、いつまでこの街にいるつもりなんですか?」
ジャガイモを切っていた俺のナイフの手が止まる。暫く沈黙が続いた。
静かな空間に、すっかり満腹になって眠っているノエルのすやすやという寝息だけが響いている。
「そんなの…………俺にわかるわけないだろ」
いや、薄々わかってはいたけど!でもまさかほんとにただの犬じゃないなんて思わないだろ!
目を背けていたかったことを、データとしてまざまざと突きつけられるのはなかなかキツイ。
肝心のノエルは『どうしたの?』と言わんばかりにおすわりをして首を傾げている。チクショウ、かわいい!
「ノエル、お前ただのわんこじゃなかったのか?」
「ワフン?」
「フェンリルの仔だって、ほんとなのか?」
「ワンッ!」
そのとおりですご主人!とでも言いたげに、ノエルは元気に返事する。
通りで賢いはずだ。完全に人語を理解している。
「でも、それならどうしてあんな道端で死にかけてたんだ?充分強いのに」
「きっと、リディに拾われた時はほんとにただの子犬同然だったんでしょう。ノエルをこんな子犬らしからぬ強さにしてしまったのはリディ、あなたです」
「えっ、俺っ!?」
そんな馬鹿な。俺が一体何をしたっていうんだ。
俺はノエルと出会ってからここ数日のことを順を追って思い返した。
「まず、傷ついたノエルを助けてお世話してあげただろ?……それで、ダンジョンに連れて行って一緒にマッピングした。そんで、リュックに仕舞いながらダンジョンを30階層まで潜って、ノエルにドラゴンを接待プレイで退治してもらって…………あとはドロップしたジャーキーを食べさせて、いっぱい遊んであげただけなのに、一体何がいけなかったんだ」
「何かもです!このおバカさん!どう考えてもドラゴンを倒したところから明らかにおかしかったでしょう!」
「えぇ……?」
「おそらく、ドラゴンを倒した経験値がノエルちゃんにそっくりそのまま入ってしまったんです。もしかしたらそれまでのダンジョン踏破も同行ボーナスぐらいは入っていたかもしれませんけど。その上、30階層の宝箱で出るにふさわしいような魔導具でトレーニングを行い、ジャーキーでドーピングまでしていたんですから、こんなわけのわからないステータスにもなります」
げげげ。シャレでファーストスレイヤードッグとか言ってたけど、ほんとにそういうカウントされていたのか。子犬のドラゴンスレイヤーなんて聞いたことないぞ。
でも、確かにS級の冒険者でもソロでは危ういようなドラゴンを一人で倒したならレベルがガン上がりするのも納得だ。
なんてことだ。見た目はこんなにかわいい、ただのワンコなのに。
「ごめんな、ノエル……俺がバカなばっかりに、お前をこんなにしちまって……」
「クゥーン……」
元気だして、とでも言うようにノエルが俺の足元にまとわりつく。
いつものように抱っこししてやると、嬉しそうに腕の中に収まった。
なんにも変わらない、かわいいノエルだ。俺はもう一度カードを眺める。
「ノエル・アルディオン………そうだよな、お前、もううちの子なんだもんな」
俺がノエルの飼い主だ。何を悩む必要がある。
称号は全てを明らかにしている。俺は『神獣の主』で、ノエルは『竜王妃のペット』だ。犬だろうか神獣だろうが、ノエルがうちの子だということには変わりない。
俺はノエルの飼い主としての責任を果たすだけだ。
大事そうにノエルを抱きしめているのを、ソーニャは穏やかな顔つきで眺めていた。
※※※
その後、俺とソーニャはこれからのことについて話し合った。
ノエルがうっかり誰かを傷つけてしまったりすることがないようにしないといけないし、ノエルの正体がバレて良からぬ考えを起こす人間が出ないようにしなくちゃいけないからな。
結論として、ソーニャがギルドで管理している魔導具を買い取ってノエルにつけさせることにした。
能力の制御が苦手な冒険者のための矯正道具のひとつで、本人の同意の上で装着すると、腕力でも魔法でも、任意の能力を抑制することができる。
その上でただの子犬として扱うのが、一番安全だ。
話し合いが終わると、もうだいぶいい時間になり、俺は買ってきた食材で簡単に夕飯を用意した。
その間ソーニャは一度ギルドに戻り、魔導具を取りに行ってくれる。
魔導具は魔力でサイズ調節できる細い腕輪のようなものだったので、少しサイズを大きくしてノエルの首につけてみた。
特に苦しそうな様子はなかったので、大丈夫そうだ。上からチョーカーをつけ直してやれば、完全に覆い隠せる。
当面はこれで様子をみようということにして、俺とソーニャはようやくテーブルに腰を落ち着けた。
俺にはそんなに凝った料理はできないので、作れたのは芋とキャベツと塩漬け肉を煮込んだごった煮と、人参のロペぐらいだ。
それに店で買ってきたパテを出して、スライスしたパンを並べて終了。
それだけなら至って平凡なご飯なんだけど、ソーニャが道すがら屋台で買ってきた串焼きが加わり、一気にテーブルが賑わって豪勢なディナーになった。
異空間収納から秘蔵のワインを開けて、ささやかなもてなしをする。
俺とソーニャは『このパテは旨い』とか『パンはあの角のパン屋のやつがいい』とか取りとめのない話をしていたが、ワインボトルが残り少なくなった頃にソーニャは言った。
「あなた、いつまでこの街にいるつもりなんですか?」
ジャガイモを切っていた俺のナイフの手が止まる。暫く沈黙が続いた。
静かな空間に、すっかり満腹になって眠っているノエルのすやすやという寝息だけが響いている。
「そんなの…………俺にわかるわけないだろ」
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