竜王妃は家出中につき

ゴルゴンゾーラ安井

文字の大きさ
20 / 38

20.竜王妃、人心を動かす

しおりを挟む
「うぬぬぬぬぬ~~~~」

 俺は、自宅のリビングのテ―ブルに突っ伏して、一人うめき声を上げていた。
 ノエルが何事かと足元をぐるぐる回っている。
 選択肢がなかったからとはいえ、最高に厄介な案件を抱えてしまったぞ。

「どうしよう……この街に知り合いなんか、ソーニャ以外一人もいねぇんだけど……!クソォ~!ソーニャめ~!!!お前の人選基準どうなってんだよ!!!!」

 そもそも、なんで余所者の自分がこんなにこき使われなきゃならないのか。
 俺は通りすがりの竜王妃で、三桁単位で地上から遠ざかっていた時代遅れの世間知らずだ。
 国の裏事情や政治の情勢には詳しくなっても、今の庶民の常識なんかわからない。
 そう考えると、この150年間で自分がひどく退化してしまった気がして、それも悔しかった。

「俺だって、サボってたわけじゃないんだぞ……!竜王妃の仕事は頑張ってたんだからな……!!!しょーがないじゃん、他のことがわかんなくなってたってさあ………!!!」

 なあそうだろ?とノエルを抱っこして問いかけると、ノエルは『なんだかわからないけど、ご主人はエライ!』とでも言いたげなピュアな眼差しでペロペロと労ってくれる。
 うう、ノエルだけだ、俺の味方は。こういう動物の無条件に自分を慕ってくれるところ、ほんとに救われるんだよ。

「ん……??まてよ……?……………そうか、その手があったか!!!!」

 向き不向きは人それぞれ、個性いろいろ適材適所。助け合うのが人の道。そんなのわかってたじゃないか。
 冒険者の俺では太刀打ちできない問題なら――――竜王妃としてやればいい。


 ※※※



「お願いですから、私と一緒にこの街を救ってくれませんか?」



 心を痛めて今にも気を失ってしまいそうです、といういかにも儚げな風情で、俺は切々と訴えかけた。
 場所は冒険者ギルド、目の前には勝手に増えた親衛隊たちの姿がある。
 
 あの後、俺は装いを変えて竜王妃仕様の服装にチェンジし、髪も自分でできる範囲で結って身なりを整えた。
 ソロで頑張る無名の冒険者リディは一匹狼だが、国を引っ張る政治家の竜王妃は人心を転がしてナンボの商売だ。
 今まで培ってきた猫と弁舌で、俺はこの街の平和が如何に危機に面しているか、そのために立ち上がりたくとも一人では何もできない無力さに心を痛めているかということを切々と語ってみせた。
 元々俺に対して好意を持っている親衛隊たちは、前のめりになって耳を傾け、しまいには感涙して雄叫びを上げ始める。

「皆さん、どうもありがとう。心優しく正義感のあるあなた方に話を聞いてもらえただけで嬉しいです。少しでもこの考えに賛同してくれる方は、ここに署名を……」

 ハンカチでうそっこの涙を拭いながら公安課バイト職員の誓約書を配ると、ほとんどのメンバーがノータイムで記入した。
 中には途中で正気を取り戻しかけた連中も居たが、『先着200名までです』『仲間になってくれた皆様には握手会を検討しています』と告げると、残りの用紙を巡って争いが起きた。
 
「争わないでください、暴力を振るうとリディが悲しみますよ。あなた方の熱意とリディの心に免じて、追加で人員を募集します」

「ありがとうございます、ギルド長!ささ、皆さん。ここにまだ用紙がありますから、喧嘩はやめて」

 しれっと奥から出てきて増刷した誓約書を渡してきたソーニャに乗って、俺も竜王妃のおっとりスマイルで語りかける。
 追加の用紙もすぐになくなり、かくて一日で280人の冒険者が治安課の臨時職員となった。


 ただ頭数だけ集めたってしょうがない。
 所詮荒くれ者の集まりだし、きちんと仕事をしてくれるかなんてわからないのが実情だ。
 だけど、俺の真の狙いは職員を集めることではなく、この誓約書にサインをさせることにある。

 まともに読んだやつなんていやしなかっただろうが、この契約書には『この臨時職員契約は仮のものであり、登録後一定期間の働きを考慮して正規臨時職員として昇格することとし、それまでは出来高に応じ報酬は日払いで支払われる』『登録者は公安課に属する者としてギルドの名を汚すことのない振る舞いを心がけ、街の治安維持及び向上に努める』『公安課としての特権を利用して他の冒険者に悪事を働いた場合、これを厳しく罰する』『ギルド側が悪質と判断した場合、この契約は即座に打ち切られ、然るべき対処をもって処罰することに加え、街からの永久追放とする』などなどの内容が記載されている。

 つまり、マジメに働かなければ金は入ってこないし、お行儀よく生活しないと罰則があり、悪さをするとお仕置きの上街から出禁にするよ、ということだ。
 ただ悪さをした冒険者を一方的にギルドが処分するだけなら不満も出るが、本人がサインした誓約書があるとなれば話は別だ。
 こちらは大手を振ってよくない手合いを叩き出せるし、うまくすれば本当に良いアルバイトをゲットできるんだから、メリットしかない。
 
 そして、金銭的に逼迫している冒険者救済のため、一日一食、食堂で一定金額までのランチが食べられる特典をつけた。週二回公衆浴場を無料で使用する権利もある。これらは冒険者カードで管理されるため、他人に不当に奪われたり売買されることはない。
 最後に、成果を上げたら翌日俺に握手付きで激励してもらえるというオプションをつけた。要らんだろうけど。


「いやあ、なかなかやりますね、リディ。お猿さんのままだと思っていましたが、見直しました」

「だろ?俺だって公務はやってきたし、それなりに腹芸だってできるんだからな」

 俺とソーニャは腹黒い笑顔を浮かべながら、顔を突き合わせて不気味に笑った。
 一体何人追放になるかわからんが、愉快なことこの上ない。
 あとは結果を御覧じろだ。 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

処理中です...