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第10話 願い
しおりを挟む「……ふぅ」
主人が部屋から出ていき、ルーカスはため息を吐いた。
今日は少し対応に失敗してしまったが、外に出ていることはバレずに済んだ。
ルーカスは裸で外に出て、水浴びをする。
もう慣れた行為だったのに気持ち悪いと思ってしまったのは、あの高揚感を知ってしまったからだろうか。
ヴァイスと出会った時の、身体中の細胞が震え上がるような昂り。
思い出すだけで、体がまた反応する。
「いつも発情期《ヒート》の時しかアルファの人と会ったことないけど……こういうものなのかな」
ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、ルーカスは疑問を口にした。
しかし、主人と会う時にあんな風にはならない。その理屈で言うと主人はアルファではない。だが口癖のように彼は言っている。自分がルーカスの運命の番だと。
アルファでなければオメガと番にはなれない。だったら彼はアルファのはず。
じゃあ、出会った瞬間に発情期《ヒート》になったのは何故。ヴァイスが特別なのか。
ルーカスがそういったことに疎いせいもあるが、あまり気に止めていなかったが彼は獣人の血を引いている。もしかしたら、そのせいかもしれない。
獣人が当たり前のようにいたのは、ルーカスが生まれるずっと前。獣人の特性も分からない。
ルーカスは、きっとそういうものなのだろうと納得し、さっさと水浴びを済まして部屋に戻った。
「それにしても、神に愛されるとか意味わかんないこと言われたな……」
主人に言われた言葉を思い出し、ルーカスは首を傾げた。
髪や目の色に関しては確かに他の人と違うのは理解してる。だがそれ以外で変わったところはないと、ルーカスは思ってる。
しかし、彼は自分の持つ不思議な力を知らない。
ルーカスがおまじないと言ってる、あの力。彼はあれが特別だと思っていない。
あれは、ただのおまじない。昔、孤児院の先生がしてくれた「痛いの痛いの飛んでけ」って言ってくれた言葉と同じようなものだと思っている。
それに神様に愛されているのだとしたら、こんな場所にいるはずがない。
親に捨てられる訳もない。
だからルーカスは主人の言葉を一ミリも信じることはなかった。
彼の言葉を信じたところで、ここから出られる訳でもない。
ルーカスはただ主人の言葉に従うだけ。その言葉の意味を知る必要なんかないのだ。
「てゆうか、あの人は神様とか信じてるんだ。アホみたい」
服を着ながら、ルーカスはふふっと笑った。
神様なんかいない。そんな目に見えない存在を信じる気持ちなんてない。
ルーカスは聖母の石膏像の前に立ち、そっと触れた。
「これがあの人の神様なのかな」
主は見てると言った。少年の嘘を許しはしないと。
それなら、毎日外に出てるのにバレていないのはどういうことなんだ。この神様は自分の味方でもしてくれているのだろうか。
「神様。また明日もヴァイスさんと楽しくお話出来ますように」
信じてないけれど、今願うならこの一つだけでいい。
それだけ叶えば、他にはいらない。
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