追憶のリコリス

のがみさんちのはろさん

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序章

序章 2話「目標」

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 翌朝。家族が食堂に集まって、緊急会議が行われてしまった。
 顔が怖い父、ルーフスの隣に座っているのは悲しそうな顔をしてる母ヴィオラ。
 そしてノアールの隣には呆れた顔をしてるのは6つ上で学園の中等部に通う兄、カイラス。
 突然の旅がしたい発言はそんなにマズかったのだろつか。ノアールは自分の言った言葉が両親を困らせるとは思わず、何が悪かったのだろうと首を傾げた。

「それで……ノアール? どうして急に旅なんてしたいと思ったの?」

 母、ヴィオラが少し困った表情で聞いてきた。
 何が両親を悲しませる原因なのか分からないままだが、ノアールは素直に夢の話をし始めた。

「あのね、夢でね……ノアールが、どこかで待ってるの」
「……うん? えっと、夢?」

 ヴィオラはさっきまでとは違う意味で困った表情を浮かべた。

「うん。あのね、昔のノアールはね、ころされちゃったの。それで、どこかで寂しいって泣いてるの。だから、ノアールはノアールのことをさがしたいの!」

 ザックリとした6歳児の説明に、両親は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて顔を見合せた。
 昔の私、というのがどういう意味なのか。今こうして生きている娘が殺されたという言葉を口にすることにも驚きを隠せない。
 両親二人が娘に何から聞けばいいのか困っていると、ずっと黙っていた兄、カイラスが静かに口を開いた。

「……ノア。昔の私っていうのは、もしかして前世の自分のことを言ってるの?」
「ぜんせ……うん、それ! おかあさま、前におしえてくれた! り、りん、りん……」
「輪廻、だね。そっか、ノアールは前世を思い出して、その前世の自分は誰かに殺されてしまったと?」
「うん。夢でね、見つけてって言ってたの。ノアールもね、ひとりぼっちはさみしいから、きっと昔のノアールもさみしがってるの」
「そっか。確かに、一人ぼっちは寂しいね。それで旅に出たいなんて言い出したんだね」

 兄妹の会話を聞いていた両親。輪廻や前世など、正直すぐに飲み込むことの出来ない話ではあるが、娘が旅に出ると言い出した理由を知ることができ、ルーフスはカイラスに「ありがとう」と礼を言った。

「ノアール……旅に出たい理由は分かったが、まだ幼いお前を親の目の届かないところへ行かせる訳には行かない。魔力が覚醒したとはいえ、まだ制御の仕方や魔法の使い方も分からないだろう? 街の外には魔物だっているんだ」
「……うん」

 両親がどうして駄目だと言ったのかを理解したノアールは、しゅんとしながら頷いた。
 確かに自分は外の世界を何も知らない。どこに行けば昔の自分に出会えるのか、どうやって探し出せばいいのか全く分からない。
 夢で見たことが過去の自分、前世で起きたことだというのは間違いはないが、あの夢で見た場面以外のことは何も思い出せていない。

 前世の自分を今すぐ探しに行きたいが、それで家族を心配させたり悲しませるようなことはしたくない。

「ごめんなさい……」
「いいんだよ。それより、体は平気か?」

 ルーフスは立ち上がり、椅子の上で落ち込むノアールを抱き上げた。
 前世の話を完全に信じた訳ではないが、頭ごなしに否定してノアールを傷つけたくない。
 それに前世の記憶が蘇ったという話を全く聞いたことがないという訳じゃない。突然覚醒した魔力のことも含めて、もう少し詳しく調べてみる必要がある。

「ノアール」
「おかあさま……」

 まだ少し困り顔の母、ヴィオラも歩み寄り、ノアールの頭をそっと撫でた。

「まずはこの世界や国のこと、魔法のことを学びましょう。旅に出るのはそれからでも良いのではないかしら? 春からあなたも学園に入学するのだから、しっかりお勉強して、しっかり知識をつけましょうね」
「はい、おかあさま」
「いい子ね、ノアール。まだ私たちの可愛い雛鳥でいてちょうだい。あなたが母から巣立つのはもう少し待ってほしいわ」

 優しい母に、ノアールはこくんと頷いた。
 ノアールも春からは兄も通っているアーディマス学園に入学する。まず自分に足りないものを身に付けてからでもきっと遅くはないはず。
 過去の自分はどこかで待っている。時間はかかるかもしれないが、必ず探し出す。ノアールはそう心に強く決意した。

「おにいさま、ノアールに色々教えてもらえますか?」
「もちろんだよ。それに、魔法のこともね。今は平気なんだよね?」
「うん、何ともないよ」
「遠くからも分かるほどの魔力だったのに、もう制御出来てるってこと? 父様、なにかアイテムでも使ったんですか?」
「いいや、俺は簡単な制御の仕方を教えただけだ」

 ルーフスは首を横に振って答えた。
 カイラスは顎に手を当て、うーんと小さな声で唸る。

「過去のノア……前世の自分に出来たことを魂が記憶しているのかもしれない。だから魔力の制御も無意識に出来ている……ということでしょうか?」
「なるほどな。確かに魔力の制御なんて意識せずに行えている。だが、ノアールの魔力量は異常だ。それを前世の記憶があるだけで出来るものか?」
「つまり、ノアールの前世も魔力の高い人だったのでは?」
「ああ、そういうことか。それなら納得だ」

 父と兄の話についていけず、ノアールは二人の顔を交互に見ていく。
 昨日は確かに溢れ出す魔力に戸惑ったが、今は特に体に異変は無い。いつも通りの自分だ。本当に魔力が覚醒したのかと疑わしくなるくらいに。

「基本さえ教えれば、ノアールはすぐに魔法も使いこなせるようになるかもしれないね」
「ほんとう? ノアール、魔法つかえる?」
「うん。だけどまだ分からないことばかりだから、慎重にね」

 ノアールは何度も頷き、両親と兄に満面の笑みを向けた。
 これからたくさん、色んなことを覚えよう。一刻も早く、寂しい思いをしている自分のことを見つけられるように。
 きゅっと小さな拳を握りしめて、改めて決意を固めた。

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