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第一部
26話 「迷ってる場合じゃない」
しおりを挟む俺もちゃんと気を引き締めておかないと。
勇者は着実にレベルを上げていってる。一人でも戦えるように、無茶なダンジョン攻略までして。
だから俺もいつその日が来てもいいように心の準備をしなきゃいけない。
今まではプレイヤーとして魔王と戦っていたけど、今回の俺は魔王だ。大丈夫、どうすれば勝てるのか分かってる。
魔王にとっての弱点が勇者なように、勇者にとっての弱点も魔王だ。
光と闇。対極の存在にある俺たち。ゲームでは仲間と協力し合ってようやく倒せる魔王の元に、アイツは一人でやってくるんだ。
負けるはずがない。この魔王城は俺のための城でもある。闇の力に満ちたこの場所は魔王の能力を何倍にも引き上げてくれる。
そうだ。リドに今の状況を聞いておかないと。
俺は両手で顔をパンッと一回叩き、気合いを入れた。うじうじしてても何も変わらない。目的のために、やることはちゃんとやらないと。
ーーー
「リードー」
「魔王様、どうなさいましたか?」
リドの部屋を訪ね、俺は勇者の動向や魔物達が今どうしてるのかを聞いてみることにした。
俺がそんな話をすると思ってなかったのか、最初は少し驚いていたみたいだけど、いつもの笑顔で応えてくれた。
「そうですね。こっちで今確認できる情報は、勇者の他にも魔物退治をしてる集団がここ最近で増えてきたことですかね」
「そうなのか」
「ええ。まぁ勇者はあくまで対魔王用の戦士です。逐一魔物ばかりを相手してたら身動きが取れませんからね。ですが一般兵に相手できる魔物も限られてます。私の方で弱い魔物達は下がらせて、兵士たちを相手できる者たちを配置してます」
「大変そうだな。俺、本当に何もしなくていいのか?」
「大丈夫ですよ。魔王様には勇者との戦いに備えていただかなくては」
「まぁ、そうなんだけど」
「魔王様の脅威はもう人間達に知れ渡っています。今更何かをする必要もないでしょう」
ゲームでも魔王は最後に登場するもんな。ここはグッと我慢して待ってるしかないか。でもこうして魔王の立場になると、何でも部下に任せっきりのダメ上司みたいな感じがしてならない。俺も何かみんなのために役に立ちたいのに。
てゆうか、勇者とのこともあるから罪滅ぼし的な気持ちもあるんだけどさ。
「そういえば魔王様、そのお姿ってことは幻の水晶でも駄目だったんですね」
「ん? ああ、残念ながら」
「そうですか。きっと他に方法がありますよ。気を落とさないでくださいね」
「ありがとう、リド。俺は大丈夫だよ、変化の魔法もちゃんと覚えたしどうにかなるでしょ」
「そうなんですね。それは良かった」
あの魔法はちゃんと発動してた。顔は見れなかったから分からないけど、俺がイメージした通りの格好に変わってたから大丈夫だと思う。あとは俺がちゃんとクラッドの姿を完璧にイメージできればいい。今のうちからイメージトレーニングでもしておこうかな。
この世界、写真とかないよな。ゲームで見た魔王のビジュアルを思い出すしかないか。
「……魔王様」
「うん?」
「私の気のせいなら良いのですが……何かありましたか?」
「え? な、なんで?」
「いえ。特に何がって訳じゃないんですが……顔色があまり良くないように見えて」
「……そう、か」
顔色、か。そういえばこの世界で鏡を見たことないから今の自分がどんな表情してるのかも分からない。
今の俺、どんな顔してるんだろ。リドが心配するほど、疲れた顔してるのかな。今の自分がどうなってるのかなんて気にしたことなかったからな。
「大丈夫だよ、心配させて悪いな」
「どんでもない。心配くらいして当然ですよ、我が主」
「ありがとう」
「いえ。ですが、お疲れのようでしたらお休みになられた方が良いのでは? 魔王様は記憶をなくされたりと色々ありましたから、心労が溜まっているのかもしれませんよ」
「そんなことないよ。俺なら大丈夫だから」
「わかりました。ですが無理だけはしないでくださいね」
疲れてるとしたら、遺跡での一件のせいもあるだろうな。さすがに勇者とキスしましたなんて言えるわけないし。
あの遺跡での出来事、誰にも知られてないよな。バレてたら大騒ぎだろうから大丈夫だと思うけど。冷静になるとかなり恥ずかしいことしていたもんな。
あんなキスシーンを誰かに見られてたら恥ずかしくて死んじゃう。本当に無理。耐えられない。
「魔王様、本当に大丈夫ですか? 今度は顔が真っ赤ですが……」
「へっ、平気! 何もないよ!?」
「そ、そうですか? それなら良いんですが……」
危ない危ない。俺、どうにも顔に出やすいみたいだな。ポーカーフェイスでいかなきゃ。
しっかりしろ、俺。
「そういえば、人間達の間で争いが起こっているようですね」
「争い? 戦争でもあるのか?」
「そこまで大規模のものではないようですが、小国同士での領土の争いですね。そんなことで争うとは人間は愚かですね」
「ふーん。戦争なんかして何が楽しいんだか……」
「敵国を攻め、領土を広げる。そうすることで己の力を誇示したいのでしょう」
「そんなものかね」
元の世界でも思ったけど、人間ってなんでそうも争いたがるんだろうな。
俺に対するいじめだってそうだ。格下を見つけて、優越感に浸りたがる。そんな奴ばかりが得をする世の中なんて、クソくらえだ。
「気になるのであれば、様子を見に行かれては?」
「俺が?」
「人類の支配のために何か得るものがあるかもしれませんよ」
「そうかなぁ……まぁ、気が向いたら」
「ええ。人間同士の戦略争いは時折見てて参考になります」
俺、そういう戦略とか考えて戦うゲームは苦手なんだけど。いや、だからこそ見ておくべきなのかな。今度の戦闘に役立つかもしれないし。
とりあえず今日はもう寝て、起きたら行くか。
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