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番外編
「彼が魔王と呼ばれるまでの話」①
しおりを挟む白い花を手に、かつて王座の在った場所に向かう。
ここはもう魔王城ではない。
この世界にはもう、勇者も魔王もいない。
全てのものが等しくあろうとする世界。
そうなろうとしている世界。
それが今のアイゼンヴァッハ。
小さな魔王と勇者が多くの者の認識を変えてくれた。
少しずつだけど、確かに世界は彼が望んだ世界になりつつある。
緩やかだけど、確実に。
「おはようございます、今日はとてもいい天気ですよ」
私は二つ並んだ墓標に花を添え、話しかけた。
この王の間を二人の墓標にしようと提案したのは私だった。それに皆が賛同してくれた。
勇者の墓には彼の亡骸には神剣を持たせている。こうしておくのが良いと私が判断した。
「クラッド。私はたまに、彼のことを思い出しますよ。私たちの、小さな王のことを」
この世界を変えてくれた王、異世界の少年、イチノセ・イオリ。今頃、彼はどうしているのでしょうね。元気にしているといいのですが。
「そういえば、彼には話していないことがたくさんありましたね。まさか貴方が記憶の一部を隠していたとは……」
私は思わず笑ってしまった。
貴方にとって、幼い時の自分は見られたくなかったのでしょうね。
泣き虫で、臆病だった自分を。
「小さい頃の貴方は、可愛かったですね」
私は、目を閉じて遠い日の思い出を振り返る。
まだ私の羽根が白かった頃。
100年より少し前のこと……――
ーーーーーー
天界は常に平和で、天使は誰もが心穏やかに暮らしていた。
下界の人間達のように争うことはなく、皆が笑顔で過ごしていた。
私もその一人だった。
気まぐれに下界の様子を見に行くまでは。
そもそも、下界にわずかながら興味を抱いた時点で私は皆とどこか違っていたのかもしれない。
下界では人間と魔物の争いが毎日のように起こっていた。
状況は人間の方が優勢だった。人間の中に勇者と呼ばれる特別な力を持った人物がいるらしく、その者が多くの人に魔物を退治できる力を与えているらしい。
その勇者もすでに高齢で、自分で戦うことが出来ないから、他の者にその加護を与えていると噂で聞いたが、これは少しやりすぎなのではないかと思う。
人間が魔物を借る理由の大半は、その体から採取できる素材のため。そして自分達より強いものを排除したいだけ。人間の王はどうやら自分たちが常に上位種でなければ満足できないようだ。
正直、私は馬鹿馬鹿しいと思っている。天界は中立の立場を取ってはいるが、その気になれば人間界など容易く滅ぼせる。当然だ。だって神の使い、それが天使なのだから。
そうしないのは、天使たちに争う心がないからだ。もし神より啓示があれば、何の疑問を抱くことなく人間など消している。
しかし、神様はどうやら人間がお気に入りなのか勇者に神剣なるものを授けてしまった。だから、この世界のバランスは常に傾いてる。
「……ん?」
荒廃した小さな村の片隅で、何かが動いた。
ここはどうやら魔物の集落があったようだ。あちこちに焼けた遺体がある。
惨い。何故このようなことが出来るんだろう。同じ命なのに。人間はそれほど偉いのだろうか。天使の私からすれば、どちらも下等生物。上も下もない。
「……ぅ、ひっく……」
動いて見えたものに近付くと、そこにいたのは小さな魔物だった。
黒くて小さな羽根を震わせ、小さな手で地面を掘っている。
「何をしているのです?」
「っ! だ、だれ?」
「通りすがりの天使ですよ。それで、貴方はこんなところで何をしてるんですか」
「……お、おはか」
「お墓?」
よく見ると、彼のそばには背中に大きな傷のある遺体があった。
もしかして、この人は彼の親なのだろうか。彼を守って亡くなったのだろう。
「……助かったのは君だけ、なのですか?」
彼は泣きながら頷いた。
彼らが何をしたというのだろうか。ここまでの報復を受けるようなことをしていたとでも言うのか。
これは、あまりにも惨い。
「……お手伝い、しましょうか?」
「え……」
「貴方の手、ボロボロじゃないですか」
「……平気……お母さん、ぼくを庇って死んじゃった。だから、ぼくがやらなきゃ……」
そう言って、彼は再び穴を掘った。
私はその様子をただジッと見ていた。邪魔してはいけないと、思ったから。そもそも天使が神の許しもなく下界の者に干渉することは許可されていない。だから私は、見ていることしか出来なかった。
歯がゆい。自分の行動ですら許可を得ないと何も出来ないなんて。
彼の涙を拭うことすら、今の自分にはできない。
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