【BL】勇者推しの俺が何故か敵対する魔王に転生してました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
58 / 80
番外編

「彼が魔王と呼ばれるまでの話」⑦

しおりを挟む



 突如現れた魔王城に、人間達は絶望の表情を浮かべた。
 唯一魔王と戦える勇者はもう動けない。神剣の加護で魔物を倒すことが出来ても、魔王を殺すことができるのは勇者しかいない。
 今の勇者が死に、新たな勇者が誕生するのを待つしかない。
 しかし、勇者さえいれば確実に勝てる。そう人間側は思っている。
 なんという他力本願。だが今までの歴史がそうすることで成り立っているのも事実。
 変えなければいけない。
 魔王が勇者に倒される未来なんて、もうあってはならない。



「クラッド様。人間達に襲われていた魔物達を保護しました」
「ああ、ご苦労。この間魔王城に来たというサキュバスの娘はどうした?」
「メアドールですね。彼女には西の大陸の方を見に行ってもらいました」
「そうか」

 それから月日は流れ、魔王城には魔物が増えた。
 各地で人間に居場所を奪われた者たち。行き場を失った者達を保護し、力のある者には役割を与えた。特に能力の強いものは魔王様直属の部下として働いてもらっている。

「リド」
「なんですか、クラッド様」
「そのクラッド様っていうの、やめるように言ったはずだ」
「ダメです。他の者たちへの示しがつきませんから」

 クラッドは自室の机に突っ伏しながら口を尖らせて文句をブツブツ言ってる。
 彼はもう魔王。魔物の頂点に立つ者。いくら私が魔王様の右腕であったとしても、立場を明確にしなければいけない。
 もう昔のように子供扱いも出来ないのは少し残念だけど。

「二人きりのときくらいは、良くないか?」
「……そんなに嫌ですか?」
「…………やだ」

 仕方ない人だ。こういうところはまだ昔のまま変わらない。
 私は手に持っていた書類を机に置き、彼の背後に回って背中から抱きしめた。

「しょうがないですね。頑張ったご褒美ですよ」
「リド……」
「クラッド。いつもお疲れ様です」
「リドこそ、毎日動き回ってて疲れてるだろ」
「そんなことはないですよ。王である貴方は玉座でふんぞり返ってるくらいが良いんです」

 せっかく立派な魔王城を建てたというのに、クラッドは王の間にあまりいない。こうして自室で部下たちを呼んで話を聞いたり、城内を歩き回っていることが多い。
 下界にもよく行こうとするが、正直それは控えてほしいところだ。

「そうだ。リドに見せたいものがあるんだ」
「私にですか?」

 クラッドが飛び上がるように椅子から立ち、私の腕を引いて部屋の外に出た。
 満面の笑みを浮かべるその顔は、まるで昔の彼を思い出させる。
 姿が変わっても、クラッドはクラッドのままだ。

「あ、驚かせたいから目を閉じててくれ」
「はぁ……」

 言われるがままに目を閉じると、体を横に抱き上げられた。ビックリして目を開けそうになったが、彼をガッカリさせるようなことはしたくない。
 ギュッと目を閉じ、クラッドが目的の場所につくまで待った。

「いいよ、リド」

 クラッドの腕に抱かれたまま、私は目を開けた。

「……っ!」

 目の前に広がる光景に、言葉が出なかった。
 だって、それはここにあるはずのない物ばかりだったから。
 クラッドにゆっくりと下ろしてもらい、私は一歩前に踏み出した。

「……これは、天界の花」

 案内されたのは中庭。
 そこには天界にしか咲かない花や草木が一面に広がっていた。
 懐かしい故郷のもの。あの場所に未練などないと思っていたのに、自然と涙が浮かんでくる。

「フォルグに妖精の知人がいると聞いて、種を貰ってきてもらったんだ」
「そう、だったんですか……」
「ああ。しかし、下界の土では全く育たなくて骨が折れたぞ。土を耕したり綺麗な水を探したりしてな」
「もしかして、最近やたら下界に行っていたのは……」

 クラッドが少し頬を赤らめて笑った。
 私のことなど気にしなくてもよいのに。もっと自分のことを優先したらいいのに。
 そんな貴方だから、愛おしいのだけど。

「ありがとうございます、クラッド。とても嬉しいです」
「喜んでもらえて嬉しいよ。リドにはいつも苦労ばかりかけているからな」
「私は私がしたいようにしているだけです」

 私はそっとクラッドの体に寄り添った。そうすると、彼はそれが当たり前のように肩を抱いてくれる。
 私は世界のことになんか興味がない。
 ただクラッドがどう思い、どう願うのか。それだけが私の生きる理由。私の存在意義。
 だから私なんかに気を遣わず、貴方は貴方が望むことをしてくれていいのに。

「いつも感謝してる、リド。愛してる」
「私も、愛してます。クラッド……いつだって、貴方のそばに」


しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...