69 / 80
第二部
第8話 【人喰い龍討伐クエスト2】
しおりを挟む街を出て、人喰い龍の住処となっているグロンガ山脈という場所へとオレらは向かった。
去り際にドドーリーさんが地図をくれたおかげで大体の場所は把握出来た。俺はまた蓮の肩を掴んで空を飛ぶ。
「これ、ちょっと怖いんだけど」
「慣れろ。移動はこっちの方が早いだろ」
「俺なら走れるよ」
「体力は温存しておけ。まぁ、戦う必要ないかもしれないけど」
その龍と話が出来れば、敵の情報を聞き出したい。
突然現れた人喰い龍に、自称魔王。この二つが繋がらない訳がない。
話が出来なくても、行動不能にするだけで敵側に反応があるかもしれない。
「伊織、その敵はとりあえずぶっ飛ばしていいの?」
「まぁ話が出来る程度には」
「了解。それなら任せてよ」
「勇者がいると頼もしいな」
てゆうか、蓮は武器持ってないけど大丈夫なのかな。魔法も使えるだろうけど、勇者が攻撃魔法使ってるところってあまり見ない。
勇者専用の魔法もあるはず。俺と戦ったときは使わなかったけど覚えてないのかな。いや、さすがにそれはないか。
数十分くらい移動したところで、ようやくグロンガ山脈が見えてきた。
一般人が立ち入らないように結界が張られてる。ある程度力のある者しか通れないようにしてあるんだな。
まぁ俺も蓮も軽く素通りできちゃうんだけど。
「山の頂上に強い力を感じる。龍はそこにいるはずだ」
「他に人の気配もないから邪魔は入らないね」
「この依頼書は誰も取ろうとしてなかったからな。他の街や他国でも手配書は出回ってるはずだけど怖くて近寄れないらしい」
「そんなに強いんだ」
「らしいな。でも、お前もそうだろうけどこの山に入ってから感じる気配に少しもビビってないだろ。つまり俺達は龍より上だ。問題ない」
多分、ここの龍は元々そんなに強かった訳じゃないんだ。上から上乗せされた魔法か呪いのせいで暴れてるだけ。人を喰らったせいで余計に呪いが濃くなって、多少は強くなったかもしれないけど。
例の奴が自分の力をひけらかす為に龍を利用したのかもしれない。
「少しずつ近付いてる。蓮、上から落とすぞ」
「了解!」
俺は一気に山を登り、龍の頭上へと高く飛んだ。
龍が俺達の魔力に気付き、威嚇してくる。
俺らなんて簡単に飲み込めそうな大きな口を開き、炎を吐き出そうとしてる。
俺はその口に向かって、蓮を降ろした。
「いいか、殺すなよ」
「わかってる!」
蓮は落下する勢いに任せて、自身の拳に魔力を込めて思い切り殴りかかった。
直接は当たってない。龍に当たったのは拳から放たれた衝撃波だけだ。それだけでも周囲の木々を吹き飛ばす威力がある。
たった一撃でこれか。武器がないとアイツの力を制限するものがないから攻撃も派手になるな。
重たい一撃を食らった龍の攻撃は取り消され、フラついてる。
俺は龍の前に移動し、動けないように重力波を放って行動を制限させた。
目の色が濁ってる。龍の中の魔力もグチャグチャに乱されてる。酷い状態だ。
「山の主よ。あなたは本来、人に害をなすものではないはずだ。自身の役割を思い出せ」
龍がグルルルと唸り声を上げて、その目に俺を映す。俺に襲いかかる様子はない。蓮の一撃でもう動けやしないだろうけど。
元から人喰い龍であれば、ずっと昔から恐れられているはず。でもこの龍が暴れ回ってるのは最近からだ。
それに、ここまで近づいてようやく分かった。
この龍に掛けられてる呪いが龍の神聖を捻じ曲げてる。痛くて苦しくて、助けて欲しかったんだろうな。襲いたくもないのに人間を襲うように仕向けられて、辛かっただろう。
もう大丈夫だ。
「あなたの尊厳を取り戻そう」
俺は龍の鼻の頭に手を置き、抑えていた魔力を解き放った。その魔力波で龍の体から呪いを引き剥がす。
ほんの一瞬だけだから、周囲に影響は与えてないはず。さすがに俺の魔力を完全に放ったら近くにいる人が死ぬ可能性もある。今は俺だけじゃなくて勇者の魔力も溜め込んでるからな。
あとは、この魔力に敵が気づくかどうか。呪いが消えたのを確認して、またすぐに魔力は抑えたから大丈夫だと思うけど。
正気を取り戻した龍は、静かに唸り声を上げて俺に頭を下げた。
濁っていた目も綺麗な蒼に戻ってる。もう心配ないな。
「ありがとうございます。魔族の王よ」
「俺を知ってるのか?」
「龍は長生きですから。貴方のお姿を拝見したのはまだ幼き頃でございましたが、またお会い出来るとは……」
「訳ありなんだ。それに、あなたが会ったのは俺じゃなくてクラッドだろうし……まぁいいや。それよりも、一体何があった?」
「……恐ろしい力を持った者が現れました」
龍が話してくれた。
やっぱり龍に呪いをかけたのは神剣が言っていた転生者だった。破壊の限りを尽くし、この近くにあった村を滅ぼしてしまったそうだ。その村は龍を信仰していたようで、社をなくした龍は弱ってしまったせいで呪いを自力で払うことが出来なかった。
しかし、ソイツは自分の力を扱いきれていないようで、龍に呪いをかけたあとは南の大陸に去っていったらしい。
魔王の体も勇者の神剣も、ソイツには過ぎた力だ。それでも力を暴走させるだけでも十分な破壊力。むしろ正しく使えていない方が行動を予測できなくて厄介かもしれない。
「ここの結界は張り直す。もうソイツが近づいてくることはないはずだ」
「ありがとうございます。それと、一つお願いがあるのですが……」
「俺に?」
「この山の麓に、村があります。もうその者のせいで誰一人残ってはいませんが……どうか、弔ってください……」
「わかった、約束する。それと俺からもお願いがあるんだけど……何か体の一部でも貰えないか。もう龍が暴れる心配がないことの証明をしないと……」
そう言うと、龍は目を閉じて俺の前に一つの光り輝く石を降らした。
まるで空から零れた雫のようだ。キラキラと輝く一粒の石。手に取ると、ほんの少しだけ暖かい。
「それは、龍の涙でございます。どうぞ、それをお持ちください」
「ありがとう」
俺は龍の足元でずっと黙ったまま様子を見てた蓮の肩を掴み、山を降りた。
なんで話に入ってこなかったのか聞くと、割り込めるタイミングがなかったと少し拗ねたように言ってきた。
「それにしても、さすが魔王様だね。あの龍も助けられて良かった」
「そうだな。敵の情報も手に入ったし、この龍の涙を見せれば依頼は完了だ」
10
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました
陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。
しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。
それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。
ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。
小説家になろうにも掲載中です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる