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第13話「練習」
しおりを挟む周囲の木々よりも高いフェンスを飛び越え、グラウンドに着地したフローガはゆっくりとアンジュのことを下ろした。
今日の授業よりも高く飛んで、まだ少しドキドキする心臓を落ち着けるように何度か呼吸を繰り返す。魔法ではなく、単なる跳躍力だけであんなに高く飛ぶことが出来るなんて、狼族は凄いとアンジュは心の中で思った。
「大丈夫か」
「は、はい。でも、こんな遅い時間に大丈夫でしょうか?」
「問題ない。別に攻撃魔法を練習しようって訳でもないし、夜間でも練習に来る生徒はいる」
「そうなんですね」
アンジュは怒られる心配がないと分かり、ホッと胸を撫で下ろした。
「それじゃあ、まずは魔力操作からだ。魔法を使って疲れるのは、余計な魔力を消耗しているから。箒で飛ぶ程度の魔法なら、別に疲れることもない。その辺の子供にだって出来る魔法だからな」
「は、はい」
「魔女に使い方を習った程度ってことは、実際に使用するのは初めてなのか?」
「初めて、ってことはないんですけど、本当に1回軽くだけ光を灯す魔法を使ったくらいです」
「なるほどな」
フリードはグラウンドの端に立てかけてある箒を二本、魔法で引き寄せた。
まるで箒が磁石のようにフリードの手に引き寄せられ、アンジュは小さい声で「おー」と呟いた。
「これくらいで驚くな。いずれお前にも使えるようになる」
「本当ですか?」
「ああ。自分の魔力を糸のように伸ばして、対象物にくっつけて引っ張るような感じ、といえば分かるか」
「言ってる意味は分かります。今の私に使えるような気はしませんけど」
「今はそれでいい。ほら、箒」
「はい」
「いいか、まずは……」
アンジュはフリードから箒を受け取り、一から魔法の使い方を教わった。
一つ一つ、丁寧に魔力の込め方や姿勢まで教えてくれるフリードに、アンジュは素直に驚いた。どちらかといえば乱暴なイメージを持っていたため、説明も雑なものと思っていた。
まるで小さな子供に教えるように、分かりやすい言葉でゆっくりと相手のスピードに合わせて指導してくれている。フリードへの印象を改めなければいけないと、アンジュは思った。
「お、おお……」
「ふん、今日はこれくらいでいいか。降りて来い」
授業よりも高く飛べるようになり、前進と後退も覚えたアンジュは満面の笑みを浮かべながら地面に着地した。
「ありがとうございます! 物凄く分かりやすくて、私なんかでも空飛べるようになりました!」
「授業でも飛んだだろ」
「あれは飛ぶというより浮くというか……イクさん……クラスメイトが教えてくれたんですけど、そもそも私が魔法自体を使ったことがないって知らないから、説明がちょっと難しくて……」
魔法の授業は初めてだとは言ったが、魔法を使用すること自体が初めてだとは言っていない。普通であれば幼いときから日常的に使っているはずなのだから。
それすらしてこなかったのには、やはり何かしら理由があるのだろう。フリードは彼女の生い立ちに何か謎があるのではないかと思った。
「……お前の親は魔法を教えなかったのか」
「え? あ、はい。そういえば、人前で使うなって言われてたんですけど……兄を探すことに頭がいっぱいで忘れてました。約束破っちゃったけど、許してくれるかな……」
「魔法を使ってはいけない理由でも?」
「それは、私にもわからないです。兄は普通に父から教わっていたんですけど、私だけは使っちゃ駄目よって……なんでですかね。今のところ特に問題はなさそうですけど。魔力が少ないから、とかですかね」
「その程度で使用を禁止する親はいないと思うが……」
フリードは何か考えるように、口元に手を添える。その仕草で、彼の右手の甲に小さな傷があるのが見えた。
「フリードさん、手に傷が……」
「ん? ああ、さっき窓から飛んだときに木にぶつかりでもしたか」
うっすらと血の滲んだ手の甲を見て、フリードは「かすり傷だ」と特に気にする様子もなく手をひらひらと振った。
その手をアンジュはそっと取り、ゆっくりと顔を近づける。何をするのか、急なことで反応が遅れてしまったフリードだが、傷口に柔らかな感触がしてビクッと肩を震わせた。
「なっ!?」
唇が触れ、軽くだが生温かいものに傷を舐められたのだと気付く。
「すみません、私の練習に付き合ってもらったせいで傷を負ってしまったので、お礼を……」
「お礼?」
フリードは何を言ってるんだと思ったが、自分の手の甲を見て目を大きく見開いた。
確かにあった傷が、消えている。微かに血の跡だけ残ってはいるが、間違いなく治っている。
「……どういう、ことだ」
「私、傷を治す力があるみたいで……これも内緒って言われてたんですけど、フリードさんなら誰かに言いふらさないと思いまして……」
「傷を治す……まさか……っ!?」
フリードは自分の口を手で抑えてその先の言葉を自ら遮り、再びアンジュを抱えて飛んで自室へと戻った。
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