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第17話「朝食」
しおりを挟む「……ん」
「起きたか」
「え?」
朝日が昇る頃、いつものようにアンジュが目を覚ますと自身のベッドに座って本を読むフローガの姿があった。
まさか彼がいるとは思わず、アンジュは驚いて布団を頭から被った。
「フ、フローガさん、いらっしゃったんですか!?」
「俺が自分の部屋にいて何が悪い」
「い、いえ……朝はいないものだと勝手に思い込んでいました。すみません……」
「……まぁ、昨日の今日だしな……お前、体は平気か」
「え? 特に問題はないです。元気ですよ」
「そうか」
少し目元が赤いくらいで顔色も悪くない。聖女の力のおかげか、彼女に毒は効いていないようで、フローガは安心した。
「あ……その、昨日はすみません。子供みたいに泣いちゃって……夜も遅かったし、他の部屋にも聞こえてたかな……」
「それなら心配ない。この部屋に戻ってきたときに防音魔法を張ったからな」
「そうなんですか?」
「ああ。お前のこと、他の奴らに聞かれるとまずいだろう」
「え? あ、ああ……昨日の……なんか、今でもピンと来てないんですけど……」
アンジュは布団から顔を出し、昨夜の会話を思い出す。
聖女のことも、アルクス国のことも、今まで聞いたことのない話で、自分がそれに関わっていると言われても簡単に飲み込むことが出来ない。
「……すぐに理解しろとは言わない。だが、聖女という存在にどれほどの価値があるか、それだけは覚えておけ」
「価値、ですか」
「ああ。聖女を巡って国が一つ滅んだんだ。お前がそうだと気付かれたら、ここが戦場になると思っておくんだな」
「……怖い」
「だったら気を付けろ。そうなったら兄のことも分からないままだ」
「それは、よくないですね。気を付けます」
首を何度も縦に振り、アンジュは口が裂けても聖女のことだけは言わない、人の傷を治したりしないようにしようと心に誓った。
「……あ、そろそろ準備しないと」
アンジュは慌ててベッドから降り、制服を持って洗面所へ向かった。
ネックレスを付けている間は女の姿が鏡に映らないので、実際の髪がどうなっているのかは分からないが、男の姿の自分の身支度を整える。
そして長い髪を結い、制服に着替える。
フローガに寝起きの顔を見られたことが今になって恥ずかしくなってきたが、同室であればそういうことも今後起きる。これくらいで動揺していたら心臓がもたない。
アンジュはパンと軽く両手で頬を叩き、洗面所を出た。
「あ、あの、フローガさんも朝ごはん食べますか?」
「……俺の分はいい」
「そう、ですか。じゃあ自分のだけ作っちゃいますね」
自分一人だけ食事をするのも少し居心地の悪さを感じなくもないが、無理強いをさせるところではない。
アンジュはいつものように味噌汁とおにぎり、そして今日は卵焼きも作ってテーブルに並べた。
「いただきます」
黙々と食事をするアンジュだが、ずっと黙ったままベッドで本を読み続けているフローガが気になって仕方なかった。
普段、彼が部屋にいる時間が少ないため、フローガがいつ食事をしているのかもわからない。もしかしたら自分が起きる前に済ませているかもしれない。
そもそも狼族である彼が自分と同じものを食べるのかどうかも分からない。
こういう時どうすればいいのか、ずっと一人だったアンジュには分からなかった。
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