男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

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第25話「疑問」

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「あの、フローガさん……」
「なんだ」
「あ、兄がいなくなったの……アルクス国のことが、関係してるんでしょうか……」

 アンジュの問いに、フローガはすぐに言葉を返せなかった。現状でどう説明していいのか、どこまで話してもいいか、簡単に答えを出せるものではない。
 しかし、黙っている訳にいかない。フローガは一つ息を吐き、頷いてみせた。

「無関係とは、言えないだろうな」
「……そう、なんですね……私、兄が家を離れるの、反対すれば良かった……」

 小さく呟いたアンジュの言葉に、フローガはハッと気付く。
 何故、雪の深い山奥に住んでいたイデアが魔法学園に入学しようと決めたのか。そのキッカケは何なのか。

「お前の兄はなんでこの学園に来た」
「え?」
「お前たちは人と関わらずに暮らしていたんだろう。なんで兄はお前を残して学園に来たんだ」
「あ……それは、私にもよく分からないんですけど……ある日、突然兄が言い出したんです。魔法を学びたいって……」
「急に?」

 アンジュは当時のことを思い出しながら話し出す。
 あれは五年と少し前。アンジュは高い熱を出して寝込み、イデアは懸命に看病をしていた。そして少し遠くの森にある薬草を取りに戻ってきたとき、少し様子が違っていたことを今でも覚えている。
 何かあったのかと聞いても、大丈夫だからと言うだけ。

「……それで、治ってから暫くして魔法学園というところに入学すると……」
「その薬草を取りに行ったとき、誰かに会った可能性があるな」
「兄は魔法を覚えたら私に何かあっても助けてあげられるからって……兄も私も、治癒の力がそんな特別なものだとは知らなかったので……」
「そうか。兄が出ていってから、お前の家に誰か訪ねてきたことはないのか?」
「いえ、クルクスさん以外は誰も……ああ、兄が行方不明になったと教えてくれた、この学園の方が一人だけ……」

 フローガは腕を組んで考える。
 つまりイデアは誰かから学園のことを教えられて入学を決めた可能性が高い。
 だが、妹を一人残しておく必要があったのだろうか。街に行くな、要は人と関わるなと言われていた。その忠告を破ってまで行かなきゃいけない理由とは何なのか。
 まずアンジュを残していった理由。考えられるのは、両親の亡骸を放っていけなかったから。それに、アンジュは両親から魔法を使うなと言われていたこともあり、約束を破るのは自分だけで良いと思ったのか。
 イデアが何を考えていたのかはどれだけ悩んだとしても本人に聞かないことには分からない。今はイデアが誰にこの学園のことを聞いたのかが重要だ。
 その相手はアンジュたちがアルクス国の生き残りだと知っている可能性がある。聖女の可能性があるアンジュを狙わなかったのかは疑問だが、結局アンジュもこうして学園に来てしまった。

「……あの、フローガさん」
「なんだ」

 黙ったままでいるフローガに、アンジュは恐る恐る声を掛けた。
 しかし、声を掛けてきた割りにすぐ話そうとはしない。必死に言葉を選ぶように、口を開いては閉じてを繰り返している。

「どうした、気になることがあるなら言え」
「あ、はい……えっと、あまり詮索するのはよくないと思うんですけど……」
「?」
「どうして、そんなに詳しいんでしょうか……それに、私のこと……色々と探っているような感じ、ですし」
「……それを聞いて、どうする」
「兄のこと……フローガさんは噂で知ってると最初に会ったとき言ってましたよね」

 初めて会ったとき。この寮での最初の夜のこと。確かにフローガはイデアのことを聞かれ、そうアンジュに言っていた。
 そして、それから兄のこと、この学園での噂などを調べていて疑問に思ったことがあった。

「……誰も、噂なんて知らないんです。人が消えたなんて話、誰もしてませんでした」
「…………」

 この学園に幼い頃からいるイディックですら、そんな噂は知らなかった。
 それなのに、彼だけが知っていた。それだけでなく、過去に滅んだアルクス国のことや魔女クルクスのこと、普通の学生であれば知らないことを彼は知っている。兄探しのヒントになればとアンジュは聞かれれば素直に応えていたが、何も疑問に思わない訳でもない。

「……あなたは、何者なんでしょうか。本当に兄のこと、何も知らないんですか?」



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