男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

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第44話「来訪者」

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 アンジュはその場に座り込み、自身の体に何が起きたのか必死に理解する。
 全身が熱い。頭がボーっとして何も考えられない。
 これが発情期ヒートなのか。だけど、どうして急に発情してしまったのか分からない。アンジュは震える手で首に下げたネックレスを服の中から取り出してみた。

「……え、どうして……」
「なに、が……起きてる……」
「ネックレスが……」

 ネックレスについていた石が割れていた。これのせいで効果が消えてしまったのだと理解はしたが、じゃあなんで割れたのかという問題が生まれる。
 このままでは、フローガにも迷惑をかけてしまう。
 だが頭が回らない。

「は、ぁ……」

 服が擦れるだけで、体が敏感に反応する。
 生まれて初めて感じる感覚に、アンジュは酷く混乱している。自身の体の奥底で眠っていた性欲が、殻を破ってドンドン膨れ上がっていくよう。
 下腹部に感じる熱が、ちょっとした動きで刺激される。体中が疼いて止まらない。

「ぅ、んっ」

 自分から一度も聞いたことのない声が出てきまう。
 恥ずかしいのに、抑えられない。どうしたらいいのか分からず、アンジュはフローガを見た。

「っく、ぐぅ……」

 目の前を見ると、自分と同じようにフローガも苦しそうにしていたが、いつもと様子が違うことに気付く。
 彼の頭に、獣のような耳が生えている。口からは鋭い牙も見える。もしかしたら、あれが本来の彼の姿なのだろうか。オメガのフェロモンのせいで、いつもの姿を保てなくなっているのではないか。
 それでも必死でアンジュを襲わないように自分を抑えている。両手で全身を抑えつけるように抱きしめ、鋭く尖った爪が衣服を貫通して肌を刺しているのが、滲み出ている血で分かる。

「……っ!」

 アンジュは足元に落ちたカップの破片を掴み、痛みで朦朧とする意識を取り戻す。
 急いで机の引き出しに入れていた抑制剤を取り出し、手のひらに数粒出して口に放り込んだ。無理やり飲み込み、荒い呼吸を整えるように何度も息を吸う。

「っ、は、はぁ……はぁ……」

 数分経ち、段々と体の熱が引いていく。
 薬がちゃんと聞いているのだと、アンジュはホッとした。

「ふ、フローガさ……」

 大丈夫ですか、と言おうとした。
 だが言い切る前にフローガに抱きしめられてしまった。まだ呼吸が整っていない彼は、肩で息をしながら、苦しそうに声を絞り出す。

「……何してるんだ、お前は……」
「え、薬、を……」
「そうじゃない……」

 フローガは体を離し、アンジュの手にあるカップの破片を取り除いた。
 慌ていたせいでまだ掴んでいたことを忘れていたアンジュは、今になって手の痛みを思い出した。

「早く治せ……この部屋なら、力を使ってもいい」
「は、はい……」

 アンジュは傷口を舐め、手のひらの怪我を治した。
 少し傷が深かったせいか多少の時間がかかったが、一分もかからず傷は癒えた。
 フローガはアンジュの口元に付いた血を指で拭い、大きく息を吐く。

「……治せるからって、無理をするな……」
「す、すみません……無我夢中で……」
「それで、どうして急にヒートになった」
「あ、それが……」

 アンジュは首から下げているネックレスを見せた。
 何故か割れてしまった石。これのせいで魔女クルクスの魔法が機能しなくなってしまった。つまり、認識阻害の魔法も使えない。つまり、このままではアンジュは女だとバレるため部屋から出ることが出来ない。

「ど、どうしたらいいんでしょうか……私……」
「……魔女を探すしかないんだろうが……何で壊れたんだ。そんな簡単に壊れるものを魔女が渡すとは思えないが……」
「その通りだよ、これに関しては私も予想外」

 突然聞こえてきた二人以外の声に、フローガはアンジュを庇うように抱きしめ、背後に振り向いた。
 そこにいたのは、アンジュのベッドに腰を掛ける黒いとんがり帽子とローブを羽織った女性だった。


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