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第55話「告白」
しおりを挟む触れてはいけないのに、離したくないと思ってしまう。
このまま、本当に食べてしまいたいと思ってしまう。
まだ血の味がするアンジュの口内を舌で舐め、零れる吐息までも食らいつく。
「ん、ふ……ぁん」
「っ、は……」
アンジュもフローガの首に腕を回し、彼の動きに必死に応える。
舌を絡め、時折当たる彼の牙に噛みつかれそうになりながらも、キスを止める気はなかった。
ずっと、こうしたかったのかもしれない。
彼が運命の番だからなのか、全身が彼の熱を求めている。
「俺は……お前と、番になる気は、ない……」
「っ」
唇を重ねたまま、フローガは言う。
番になれば、フローガは命を狙われる。たとえ相手が運命の相手であろうと、そう思うのは当然のことだろうとアンジュは思っていた。
「……俺は……奪う者だ。俺みたいな奴が、お前を穢すなんて、してはいけないと、思った……」
「え……」
フローガの考えは自分の思っていたものと違うことに、アンジュは驚いた。
自分の保身のためではない。むしろ、クルクスの言う通り、自分が身代わりになるならそっちの方が手っ取り早いとすら彼は考えていた。
「……フローガさん」
「俺とお前は違いすぎる……」
利益のためだけに、そんなことのために抱くなんてしたくなかった。血で汚れた自分が、聖女であるアンジュに触れるなんて、それもただ抱くだけなく、番になるなんて絶対に許されないことなのだと、思っていた。
「…………酷い」
「だから、俺は……」
「もう、遅いんですよ」
そう言って、アンジュは今度は自分からフローガにキスをした。
不器用に、何度も彼の唇を啄むように触れるキスに、フローガは愛おしさを募らせていた。
「……もう、戻れないんです。貴方が何者であろうと、関係ないんです」
「……」
「フローガさんがいないことに、耐えられないんです。無かったことになんか、出来ないんです。もう、引き返すには、遅すぎるんですよ……」
血を流すフローガを見て、彼が暗殺者だと聞いたときよりもずっと怖かった。
心が引きちぎられるような思いがした。
まだ番になった訳でもないのに、まるで心が半分失ったような感覚がした。
その瞬間、理解してしまった。
自覚するしかなかった。
「好き、です……」
「っ!」
「フローガさんが、好き……離れないで、ずっとそばにいてください」
引き返せない。
それは、フローガも同じだった。
離れようとした。でも出来なかった。きっと、これが運命というものなんだろう。
フローガはアンジュの頭を引き寄せ、深く、深く、唇を重ねた。
「…………好きだ」
「……っ」
「好きだ、アンジュ……」
「っ!」
初めて呼ばれた名前に、アンジュは目を大きく見開いた。
名前を呼ばれただけなのに、胸が飛び出そうなほど高鳴る。
何度も呼ばれてきた名前なのに、彼の声で奏でられた音には特別な響きがあった。
「フローガ、さん……フローガさん……フローガさん……」
「ああ……」
「私を、守ってくれますか?」
「必ず守る、どんなものからも……」
「なら、私もあなたを守ります。どんな傷だって、あなたを癒します。私の力を、あなたにあげます。だからずっと、そばにいてください」
フローガはアンジュの首の後ろに手を回し、ネックレスを外した。
それは浴室の床にカシャンと音を立てて落ち、彼女の背後にある鏡にはありのままのアンジュが映し出される。
「っ、あ……」
「この間も思ったが、凄い匂いだな……頭がおかしくなりそうだ」
制御を失い、ヒートを起こしたアンジュの体から溢れ出すフェロモンに、フローガは喉を鳴らす。
もう止まることは出来ない。フローガはアンジュを抱き上げ、ベッドへと移動した。
本能のまま、欲望に応える。ずっと求めていた熱を、欲している。
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