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第57話「未来」
しおりを挟む「……ん」
いつの間に眠っていたのか、フローガはボーッとする頭で状況を整理する。
まだ陽は登っていない。自分の腕の中で眠るアンジュは、月明かりに照らされて美しく輝いて見える。
柔らかな彼女の肌を抱きしめ、フローガはそっと微笑む。
こんな想いが自分の中に芽生えるとは思ってなかった。
こんな優しい気持ちが自分の中にあるなんて思ってなかった。
闇の中に生きる自分が、聖女であるアンジュと番になるなんて思ってなかった。
「……そうだ」
フローガはアンジュを起こさないようにベッドを抜け出し、中途半端に脱げた上着を軽く直しながら浴室へと向かった。
床に落ちたネックレスを拾い、自身の血をシャワーで流す。
今回は自分の油断が招いた結果だが、今後は直接命を狙われるだろう。フローガはネックレスを握りしめ、改めて覚悟を決める。
「……」
ひと呼吸おいて、フローガはベッドへ戻った。
まだ静かに寝息を立てるアンジュの首元に、ネックレスを付ける。
番になったことで、発情期も落ち着くはず。クルクスに急かしてしまったが、もう簡単に壊れることはないだろう。
フローガは再びベッドに横になり、アンジュを抱きしめた。
魔法で汗などで汚れた体を綺麗にし、念の為に避妊の魔法もかけておく。自分が性行為をするときは世継ぎを作るときだけで、こんな魔法は覚える必要もないと思っていたが、今は何でも覚えてて損はないんだと身にしみて感じた。
「…………んっ」
「悪い、起こしたか」
「……フローガ、さん……?」
数秒、今の状況が分からず間近にあるフローガの顔をボーッと見るアンジュ。
少しずつ数時間前の出来事を思い出し、アンジュは顔を真っ赤にしてフローガの胸に顔を埋めた。
「お、おはようございます……?」
「ふっ……まだ夜だ」
「そ、そう、だったんですね……」
ふと、体がどこもベタついてないことに気付く。
おまけに下半身は何も身につけていない。さっきまでの情事が頭の中を埋めつくし、アンジュは泣きそうなほど恥ずかしくなってきた。
「どうした。体、ツライのか?」
恥ずかしさのあまり体を震わせて顔を隠すアンジュに、フローガは心配そうに声をかける。
確かに全身の気だるさと、特に下腹部に違和感はあるが、物凄くツライということはない。むしろ、彼と繋がることの出来た証だと、嬉しく思う。
「……一応、避妊の魔法は掛けた。何も考えず、その……中に出して、すまない」
「え……あ、いえ……」
優しく頭を撫でながら、フローガは謝る。
だが、アンジュはその言葉に少しだけ残念に思ってしまった。
番にはなれたが、彼との未来を築くことは出来ないのだろうか、と。
「……そう、ですよね……私と、その……子供が出来たら、困ります、よね……」
「……ああ、すまない。その話は、全てが終わってから考えるつもりだった」
「え?」
「現状、子供が出来たら困るのはお前も同じだろ」
「それ、は……そうですね」
「この前、ザジが話していたことをお前は気にしているんだと思うが……俺は、先のことも考えずにお前と……アンジュと番になった訳じゃない」
フローガはそっと頬を撫で、見つめ合うように顔を自分の方へと向かせた。
「……一族のことは、確かに大事だ。皆が俺の家族で、長として守らなければいけない……」
「……はい」
「だからと言って、お前を受け入れない理由にはならない。今回のことが解決したら、狼族は暗殺から離れる」
「!」
アンジュは驚いた。自分を見つめるフローガの目に、迷いは感じられない。
本気で暗殺業から手を引くことを決めたのだろう。
「元々、狼族は暗殺を生業にしていた訳じゃない。自分たちの身を守るために始めたことだ」
「でも、大丈夫なんですか?」
「先代もよく言っていた。この仕事をしているせいで、アイツ……バレックのような奴を生み出したんじゃないかって……死が身近にありすぎて、命の価値が狂い始めたんだ。それに、一族の皆が必ずしも暗殺に関わってる訳でもない。とは言っても、自分たちの身を守るための殺しは、避けられないかもしれない。一族の者が狙われたら、手段を選んでられない。だけど、仕事として引き受けることはもうしない」
「……フローガさん」
「…………結局、殺しが隣り合わせであることに変わりないが……そんな俺でも、お前はそばにいてくれるか」
フローガの子供のように泣きそうな瞳に、アンジュも彼の頬に手を添えた。
無責任に彼の抱えたものを一緒に背負いたいなんて言えない。アンジュにはその重さを理解出来ないのだから。
暗殺業のことも、殺しが悪いことだなんて綺麗事を言うつもりはない。
そもそも狼族の体を狙う者がいなければ、彼らだってそんなことをしなかった。そんなことがなければ、彼らは暗殺に長けてることを誇示する必要がなかったのだから。
「……フローガさん」
彼の人生に全く無関係だった自分が、易々と触れていいものじゃない。
だから、アンジュは今の自分に出来ることをするだけ。
「います。ずっと、隣りに」
「……アンジュ」
「私に出来るのは、一緒にいることだけです。それでも、良いですか?」
「勿論だ。それ以外を望んだら、バチが当たる」
フローガは優しく微笑み、アンジュの唇にそっとキスをした。
触れるだけのキスを、何度も繰り返す。
ただそれだけなのに、また体の奥に熱が宿る。
「……フローガさん」
「ああ……俺も、お前が欲しい」
フローガは上半身を起こし、アンジュの上に覆い被さった。
二人の熱は、まだ冷めない。いくら体を重ねても、足りない。
夜が明けるまで、何度も、何度も、二人は熱に浮かされた。
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