男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
57 / 78

第57話「未来」

しおりを挟む



「……ん」

 いつの間に眠っていたのか、フローガはボーッとする頭で状況を整理する。
 まだ陽は登っていない。自分の腕の中で眠るアンジュは、月明かりに照らされて美しく輝いて見える。
 柔らかな彼女の肌を抱きしめ、フローガはそっと微笑む。

 こんな想いが自分の中に芽生えるとは思ってなかった。
 こんな優しい気持ちが自分の中にあるなんて思ってなかった。
 闇の中に生きる自分が、聖女であるアンジュと番になるなんて思ってなかった。

「……そうだ」

 フローガはアンジュを起こさないようにベッドを抜け出し、中途半端に脱げた上着を軽く直しながら浴室へと向かった。
 床に落ちたネックレスを拾い、自身の血をシャワーで流す。
 今回は自分の油断が招いた結果だが、今後は直接命を狙われるだろう。フローガはネックレスを握りしめ、改めて覚悟を決める。

「……」

 ひと呼吸おいて、フローガはベッドへ戻った。
 まだ静かに寝息を立てるアンジュの首元に、ネックレスを付ける。
 番になったことで、発情期も落ち着くはず。クルクスに急かしてしまったが、もう簡単に壊れることはないだろう。
 フローガは再びベッドに横になり、アンジュを抱きしめた。
 魔法で汗などで汚れた体を綺麗にし、念の為に避妊の魔法もかけておく。自分が性行為をするときは世継ぎを作るときだけで、こんな魔法は覚える必要もないと思っていたが、今は何でも覚えてて損はないんだと身にしみて感じた。

「…………んっ」
「悪い、起こしたか」
「……フローガ、さん……?」

 数秒、今の状況が分からず間近にあるフローガの顔をボーッと見るアンジュ。
 少しずつ数時間前の出来事を思い出し、アンジュは顔を真っ赤にしてフローガの胸に顔を埋めた。

「お、おはようございます……?」
「ふっ……まだ夜だ」
「そ、そう、だったんですね……」

 ふと、体がどこもベタついてないことに気付く。
 おまけに下半身は何も身につけていない。さっきまでの情事が頭の中を埋めつくし、アンジュは泣きそうなほど恥ずかしくなってきた。

「どうした。体、ツライのか?」

 恥ずかしさのあまり体を震わせて顔を隠すアンジュに、フローガは心配そうに声をかける。
 確かに全身の気だるさと、特に下腹部に違和感はあるが、物凄くツライということはない。むしろ、彼と繋がることの出来た証だと、嬉しく思う。

「……一応、避妊の魔法は掛けた。何も考えず、その……中に出して、すまない」
「え……あ、いえ……」

 優しく頭を撫でながら、フローガは謝る。
 だが、アンジュはその言葉に少しだけ残念に思ってしまった。
 番にはなれたが、彼との未来を築くことは出来ないのだろうか、と。

「……そう、ですよね……私と、その……子供が出来たら、困ります、よね……」
「……ああ、すまない。その話は、全てが終わってから考えるつもりだった」
「え?」
「現状、子供が出来たら困るのはお前も同じだろ」
「それ、は……そうですね」
「この前、ザジが話していたことをお前は気にしているんだと思うが……俺は、先のことも考えずにお前と……アンジュと番になった訳じゃない」

 フローガはそっと頬を撫で、見つめ合うように顔を自分の方へと向かせた。

「……一族のことは、確かに大事だ。皆が俺の家族で、長として守らなければいけない……」
「……はい」
「だからと言って、お前を受け入れない理由にはならない。今回のことが解決したら、狼族は暗殺から離れる」
「!」

 アンジュは驚いた。自分を見つめるフローガの目に、迷いは感じられない。
 本気で暗殺業から手を引くことを決めたのだろう。

「元々、狼族は暗殺を生業にしていた訳じゃない。自分たちの身を守るために始めたことだ」
「でも、大丈夫なんですか?」
「先代もよく言っていた。この仕事をしているせいで、アイツ……バレックのような奴を生み出したんじゃないかって……死が身近にありすぎて、命の価値が狂い始めたんだ。それに、一族の皆が必ずしも暗殺に関わってる訳でもない。とは言っても、自分たちの身を守るための殺しは、避けられないかもしれない。一族の者が狙われたら、手段を選んでられない。だけど、仕事として引き受けることはもうしない」
「……フローガさん」
「…………結局、殺しが隣り合わせであることに変わりないが……そんな俺でも、お前はそばにいてくれるか」

 フローガの子供のように泣きそうな瞳に、アンジュも彼の頬に手を添えた。
 無責任に彼の抱えたものを一緒に背負いたいなんて言えない。アンジュにはその重さを理解出来ないのだから。
 暗殺業のことも、殺しが悪いことだなんて綺麗事を言うつもりはない。
 そもそも狼族の体を狙う者がいなければ、彼らだってそんなことをしなかった。そんなことがなければ、彼らは暗殺に長けてることを誇示する必要がなかったのだから。

「……フローガさん」

 彼の人生に全く無関係だった自分が、易々と触れていいものじゃない。
 だから、アンジュは今の自分に出来ることをするだけ。

「います。ずっと、隣りに」
「……アンジュ」
「私に出来るのは、一緒にいることだけです。それでも、良いですか?」
「勿論だ。それ以外を望んだら、バチが当たる」

 フローガは優しく微笑み、アンジュの唇にそっとキスをした。
 触れるだけのキスを、何度も繰り返す。
 ただそれだけなのに、また体の奥に熱が宿る。

「……フローガさん」
「ああ……俺も、お前が欲しい」

 フローガは上半身を起こし、アンジュの上に覆い被さった。
 二人の熱は、まだ冷めない。いくら体を重ねても、足りない。
 夜が明けるまで、何度も、何度も、二人は熱に浮かされた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

処理中です...