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第58話「親友」
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――――
――
日が昇り、周囲から様々な生活音が聞こえてくる。
フローガは屋上で床に座り込んで空を眺めていた。今日は休日で学校も休み。アンジュはまだ部屋でゆっくりと休んでいる。
「……ザジ」
いつものようにフローガが名前を呼ぶと、背後にザジが現れる。
いつもと様子の違うフローガに、何があったのか察しは付いていた。いつもはしっかりと着込んでいる服も、今は制服のシャツとスラックスだけ。表情も何か憑き物が落ちたかのようにスッキリとしている。
「こっち」
フローガは軽く顔だけ後ろを向き、ザジに隣に来るようトントンと床を叩いた。
珍しい誘いに、ザジは少し困ったように笑みを浮かべながら、フローガの横に腰を下ろし、胡坐をかく。
「…………いいのか、これで」
「ああ。後悔はない」
崩した口調で話すザジ。
いつもは主従関係のある二人だが、一番付き合いの長い幼馴染で、大切な親友だ。
「……何となく、こうなる気はしてた」
「なんで」
「だって、フロウの好みじゃん、あの女」
「っ!?」
フローガは驚いて顔を真っ赤にさせた。
今までそんな話をしたこともないし、恋愛なんて一度もしたことがないのに何で女性のタイプをザジが知っているのか分からず、フローガは口をパクパクとさせた。
そもそもザジにはアンジュが男に見えているはず。本来の姿が見えたのは、昨夜の間だけ。
「お、お前……まさか……」
「覗いたりなんかしてないよ。ただ、フロウの怪我を心配して一瞬だけ部屋の様子を覗いた時にベッドに運んでるのが見えただけ。あー、お前のタイプど真ん中じゃんって。そこからは見てないよ、そんな悪趣味なことしない」
「そ、そうか……」
「ちゃんと周囲を監視してから安心しろ。あと、あの生徒なら無事だ。時間はかかったが、どうにか暗示は解けた。他の部下にもちゃんと声をかけておいたから、夜のあいだ部屋に近付いた奴はいないよ」
「……色々、すまない」
自分の代わりに動いていたザジに、フローガは頭が上がらない。
彼のサポートなしに、頭領としての役割をこなすことは不可能だっただろう。臣下としても友人としても、彼には感謝の念が尽きない。
「ザジは、どう思う」
「……番に、あの女を選んだこと?」
「ああ。それに……」
「…………まぁ、フロウが何を言いたいのかは分かるよ。僕は……まぁ狼族としてああは言ったけど、お前が決めたことならそれに従う」
以前、ザジに言われたことをフローガは思い出す。
いずれは狼族として、子を残さなければいけないこと。長としての役割があること。忠告はしたが、友人としては彼の気持ちを尊重したい。
ずっと幼い頃から一族を率いていかなければならないという重圧に耐えてきた彼を、支えてあげたい。そして何より、その重荷から解放させてあげたいと思っていた。
「先代の頃から、暗殺任務はずっと減ってたじゃん。それって、そういうことだったんじゃないの?」
「そう、かもしれないな……」
「フロウにいたっては仕事受けてるヒマもなかったし」
「……引き継ぐタイミングがあれだったしな……」
「僕らの世代はほぼ仕事として人を殺していないんだよ。もう、それでいいんじゃない?」
「お前は反対するのかと思ってた」
「仕事に関しては別に。番のことに関しては、まぁ色々と思うところはあるけど」
フローガは少しだけ困った顔をした。
しかしザジは本気で怒ったりしている訳でもない。ただ、一族の女たちが残念がるだろうと思うと、その後の対処が面倒だと思う程度だ。
「別に、あの女を一族の人間として里に連れてこようって訳でもないんだろ」
「ああ……アンジュにはアンジュの帰る家がある」
「なら、いいんじゃないのか。とりあえず今は、家に帰れるかどうかって問題だし」
「そうだな。今後はもっと忙しくなるだろう。俺もずっとアンジュのことを見ていられなくなる。ザジ、頼めるか」
「ご命令とあらば」
二人は顔を見合わせ、互いの拳をトンとぶつけた。
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日が昇り、周囲から様々な生活音が聞こえてくる。
フローガは屋上で床に座り込んで空を眺めていた。今日は休日で学校も休み。アンジュはまだ部屋でゆっくりと休んでいる。
「……ザジ」
いつものようにフローガが名前を呼ぶと、背後にザジが現れる。
いつもと様子の違うフローガに、何があったのか察しは付いていた。いつもはしっかりと着込んでいる服も、今は制服のシャツとスラックスだけ。表情も何か憑き物が落ちたかのようにスッキリとしている。
「こっち」
フローガは軽く顔だけ後ろを向き、ザジに隣に来るようトントンと床を叩いた。
珍しい誘いに、ザジは少し困ったように笑みを浮かべながら、フローガの横に腰を下ろし、胡坐をかく。
「…………いいのか、これで」
「ああ。後悔はない」
崩した口調で話すザジ。
いつもは主従関係のある二人だが、一番付き合いの長い幼馴染で、大切な親友だ。
「……何となく、こうなる気はしてた」
「なんで」
「だって、フロウの好みじゃん、あの女」
「っ!?」
フローガは驚いて顔を真っ赤にさせた。
今までそんな話をしたこともないし、恋愛なんて一度もしたことがないのに何で女性のタイプをザジが知っているのか分からず、フローガは口をパクパクとさせた。
そもそもザジにはアンジュが男に見えているはず。本来の姿が見えたのは、昨夜の間だけ。
「お、お前……まさか……」
「覗いたりなんかしてないよ。ただ、フロウの怪我を心配して一瞬だけ部屋の様子を覗いた時にベッドに運んでるのが見えただけ。あー、お前のタイプど真ん中じゃんって。そこからは見てないよ、そんな悪趣味なことしない」
「そ、そうか……」
「ちゃんと周囲を監視してから安心しろ。あと、あの生徒なら無事だ。時間はかかったが、どうにか暗示は解けた。他の部下にもちゃんと声をかけておいたから、夜のあいだ部屋に近付いた奴はいないよ」
「……色々、すまない」
自分の代わりに動いていたザジに、フローガは頭が上がらない。
彼のサポートなしに、頭領としての役割をこなすことは不可能だっただろう。臣下としても友人としても、彼には感謝の念が尽きない。
「ザジは、どう思う」
「……番に、あの女を選んだこと?」
「ああ。それに……」
「…………まぁ、フロウが何を言いたいのかは分かるよ。僕は……まぁ狼族としてああは言ったけど、お前が決めたことならそれに従う」
以前、ザジに言われたことをフローガは思い出す。
いずれは狼族として、子を残さなければいけないこと。長としての役割があること。忠告はしたが、友人としては彼の気持ちを尊重したい。
ずっと幼い頃から一族を率いていかなければならないという重圧に耐えてきた彼を、支えてあげたい。そして何より、その重荷から解放させてあげたいと思っていた。
「先代の頃から、暗殺任務はずっと減ってたじゃん。それって、そういうことだったんじゃないの?」
「そう、かもしれないな……」
「フロウにいたっては仕事受けてるヒマもなかったし」
「……引き継ぐタイミングがあれだったしな……」
「僕らの世代はほぼ仕事として人を殺していないんだよ。もう、それでいいんじゃない?」
「お前は反対するのかと思ってた」
「仕事に関しては別に。番のことに関しては、まぁ色々と思うところはあるけど」
フローガは少しだけ困った顔をした。
しかしザジは本気で怒ったりしている訳でもない。ただ、一族の女たちが残念がるだろうと思うと、その後の対処が面倒だと思う程度だ。
「別に、あの女を一族の人間として里に連れてこようって訳でもないんだろ」
「ああ……アンジュにはアンジュの帰る家がある」
「なら、いいんじゃないのか。とりあえず今は、家に帰れるかどうかって問題だし」
「そうだな。今後はもっと忙しくなるだろう。俺もずっとアンジュのことを見ていられなくなる。ザジ、頼めるか」
「ご命令とあらば」
二人は顔を見合わせ、互いの拳をトンとぶつけた。
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