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第59話「苛立ち」
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休日が終わり、いつものように学園生活を送るアンジュ。
フローガと番になったことで彼の魔力が自分の中にも共有されるようになり、それが周囲に気付かれたらと心配していたがクルクスのネックレスはそれすら隠してくれているようだった。
しかし敵の方には既にバレているのか、アンジュを狙う嫌がらせはピタリと止まった。
「今日は一日平和だったな、クロード」
「そうですね」
放課後になり、一緒に寮へと戻ろうと廊下を歩きながらイディックが軽く笑う。
自分の代わりにフローガが狙われているのかと思うと、アンジュの心境は穏やかではない。だがそう簡単に彼が負けるとも思わない。
もちろんアンジュ自身が狙われなくなったわけでもない。いつ自分の身に何が起きるか分からない。アンジュは胸ポケットに入れているピアスにそっと服の上から触れる。
大丈夫。番になったおかげか、フローガの存在を離れていても身近に感じることが出来る。それだけで安心感が今までと全く違う。
「なぁ、お前」
後ろから声を掛けられ、アンジュとイディックは立ち止まって振り返る。
見たことのない生徒が二人。別のクラスの人だろうか。それともイディックの知り合いだろうか。アンジュはチラッとイディックの方を見たが、彼も知らない生徒のようで急に呼び止められたことに少しだけ困惑しているようだった。
「なに? オレらに用?」
「いや、お前じゃねーよ」
その言葉に、呼ばれたのは自分だったとアンジュは彼らを警戒する。
自分に声を掛けてくる生徒なんて滅多にいない。同じクラスの生徒に話しかけられることはあるが、彼らは全くの初対面だ。それに様子がどこかおかしい。ずっとこちらを馬鹿にするかのような嫌な笑みを浮かべている。
「そこのお前……なんか変なニオイしないか?」
「え?」
アンジュは顔に出さないようにしたが、痛いくらい心臓が脈打った。それはオメガの匂いを感じ取ったということなのか。だがもう番になった今はフェロモンは出ないはず。
じゃあ彼らは一体、何に対して言っているのだろう。アンジュは下手なことを言わないように相手の言葉を待つ。
「そう、獣臭いんだよ」
「そういえばコイツ、あのフローガ・アインザムカイトと同室だろ?」
「アイツってまさか普通の人間じゃないのか?」
「獣人だったりするんじゃねーの?」
「もしかしてもう食われた?」
「マジかよ、あれに気に入られたから部屋変わらなかったってこと?」
こちらの返事も待たず、二人は好き勝手に喋り続けている。
会話を聞いているだけで不快な気持ちが止まらない。そもそも何が言いたいのかも、何故アンジュを引き留めてまでその話を聞かせたいのかも分からない。
アンジュが苛立ち、口を挟もうとした瞬間、同じように感じていたイディックが二人の話に割って入った。
「あのさ、もういい? オレら、もう帰りたいんだけど」
「なんだよ、お前には関係ないだろ。てゆうかさ、アイツってアルファだろ? それに気に入られてるってことは……」
「コイツ、オメガだったりする?」
アンジュは言葉に詰まった。否定すればいいだけのことなのに、動揺して声が出ない。
「はぁ? そんな訳ないだろ、何言ってんだよ。それだったら入学時の検査で分かってるはずだろ」
「だってさぁ、それ以外なくねぇ?」
「本当にオメガだったらさぁ、俺らにもヤらせてよ。興味あるじゃん、オメガの体って」
「そうだよな。てゆーか、アルファってだけで特別扱いされ過ぎなんだよアイツ。俺らだっておこぼれ貰っても良くない?」
「どうせオメガなんて足開くしか能がねーんだし」
「フローガだけじゃなくて俺らも相手してよ」
そう言いながら手を伸ばしてくる生徒の腕を、アンジュは反射的に振り払った。
オメガが冷遇されていた過去は知っている。だが、ただそれだけの理由で馬鹿にされていい理由にもならない。
そうでなくても、この体はもうフローガのもの。他の人に触れられたくはない。
「……触るな」
彼らを睨むアンジュの目が、一瞬だけ赤く染まった。
アンジュから感じられる威圧感に、二人の生徒はたじろぐ。見た目は気弱そうで地味な男子生徒なのに、放たれる圧は完全に野生の獣だ。
「て、てめぇ!」
「あ、おい!」
男子生徒の一人がアンジュに掴みかかろうとし、それを止めようとイディックが二人の間に入ろうとした。
しかし生徒の手はアンジュに届く前に、彼女の後ろから伸びた手に掴まれた。
「俺の名前を呼んだか」
低く響くその声に、そこにいた男子生徒やイディックは息を飲んだ。
まさか現れると思っていなかった人物、フローガは長い髪で顔が隠れているせいで表情はハッキリと見えないが、血のような赤い眼が睨んでいるのだけは分かる。
「お、おい……」
「ッチ」
絶対に勝てない。本能がそう叫ぶ。フローガの手を払い、二人は震える足でその場から走り去った。
イディックは突然現れたフローガに驚いて、まだ声が出ない。彼のそばであの圧を感じて平然としているアンジュにも驚きを隠せない。
「フローガさん、どうしてここに?」
「妙な気配を感じて……早く帰るぞ」
「え、あ……イクさん、すみません、先に帰ります」
「…………あ、ああ……また明日なぁ」
フローガに手を引かれ、去っていくアンジュの背を見送りながら、イディックはへたりとその場に座り込んだ。
怖いとは思っていたが、予想を上回る圧を放っていた。一瞬、自分の首が絞められたと勘違いする程度には死を覚悟したくらいだった。
「……クロードって結構凄い奴だったんだな……」
そんな相手と同室で、優しい人だと言ったアンジュに、イディックは尊敬の念を抱いた。
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