傭兵魔術師は異世界で英雄を目指す

畑の神様

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1章

ゴブリン狩り

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 午後は卒業試験を行うことになっているため、修行は午前中だけということで、午前中は午後に向けて戦闘の感を付けるため、ゴブリン狩りをするという結論になった。

 ふっ、計算通りだ。これで思う存分感知したゴブリン達を弟子に差し向けられる。
 ま、もっとも、最早ゴブリンの一匹や二匹はあいつらの敵じゃない。
 今のあいつらなら最初に出会ったブラックヴォルフの群れも自力で切り抜けられるんじゃないかと思う。
 少なくとも俺はそう思ってるし、それくらいの事は出来るように鍛えてきたつもりだ。
 あの時ですら無力な女の子一人を守りながらあそこまで時間を稼げていたのだから、無力な少女が戦えるようになり、尚且つ一人一人が更に強くなった今なら、むしろそれぐらいはできて当然だろうとも思うがな。

 にしても、あいつらとの修行も今日でひとまず見納めか……そう思うと少し寂しいものがあるな。
 思えば修行に付き合うようになってからはほとんど毎日あいつらと一緒だった気がする。
 そりゃ寂しく思うのも当然なのかもしれない。
 と言っても、俺もあと一、二年もすれば学園に挑む予定だから直ぐにまた会うことにはなるんだけどな。
 どんな試験かはわからないが今のあいつらで合格できない試験なんてそうそうないだろう。この世界の魔法使いとやらの平均レベルがどの程度かはわからないが、元冒険者のエリシアの強さから考えると、そこまで高いってことはないはずだ。

 確かに母さんは強いけど、それでも今の俺でも正直容易く対処できるくらいの強さだし、魔法の腕だけならノアもかなりいい線行けるだろう。戦闘なら残りの二人も言わずもがなだ。
 それなら、奴らが受からないはずはないし、なにより、弟子が合格出来て師匠が合格できないというわけにはいかない。何が何でも合格して見せるさ。

 と、俺はそんなことを考えながら固有動作ルーティーンを行い、周囲のゴブリンを把握。
 上手く弟子たちのもとにゴブリンが集まるように最低限の数のゴブリンを手にした剣で切って捨てる。
 まだ森のそう深くない場所であるのにもかかわらず、今日は不思議と出てくるゴブリンの数がやたら多い。ゴブリン以外の魔物には鉢合わせないように、なんとか立ち回っているが、それでも危険度がいつもよりも高いのは間違いない。
 エリシアは後方で俺たち四人の様子を常に監視しているようで、じっと目を光らせていた。
 時折襲ってくるゴブリンは手にした杖で軽く殴り飛ばして対処している。この程度なら魔法を使うまでも無いという事だろう。
 弟子たちの助けに入れるよう、余裕を残しながらゴブリンをあしらっているあたり、流石は元冒険者といったところか。


「まあ母さんは心配いらないか。さて、あいつらはどんな様子かな? 結構なゴブリンが向かうように仕向けたわけだが」


 俺は横から飛び出してきたゴブリンを袈裟懸けに切り捨てながら、弟子達の様子を伺う。


「はぁぁぁああっ!」


 レオは魔法で炎を纏わせた剣を気合の声と共に一薙ぎし、三体のゴブリンを真横に両断する。
 炎剣により体躯を泣き別れさせられたゴブリンはそのまま炎により跡形も無く燃やし尽くされた。
 直後、攻撃後の隙を狙ってゴブリンがもう四体程レオの後方から飛びかかってくる。


「甘いぜっ! ―――ファイア・ランス!!」


 レオは振り切った剣の柄を後方から来るゴブリンの一体に向けると詠唱を済ませ、発動待機していた魔法を発動する。
 ファイア・ランスは棒状のものを媒介とし、その延長上に炎の槍を生み出す魔法だ。
 今回は自身の愛剣を媒介とし、柄の方から炎の槍を現出させたらしい。
 生み出された槍は問答無用で対象を貫き燃やし尽くす。ここで残り三体。
 このままでは残ったゴブリン達に背後からの攻撃を受けてしまうが、


「纏めて燃え尽きやがれっ!!」


 しかし、その心配は無用だろう。
 レオは剣を持つ手を僅かにずらすことで、炎の槍による横薙ぎを放つ。
 炎の槍による横薙ぎを為す術なくその身に受けたゴブリン達は最初に貫かれたゴブリン共々、跡形なく燃やし尽くされてしまった。


「おらおら、どうした!! 次だ次っ!! さっさとかかってきやがれっ!!」


 瞬く間に七体のゴブリンを燃やし尽くしたレオは好戦的に次のゴブリンへと向かっていく。
 あ~あ~、最初は三体倒しただけであんなに誇らしげにしてたのに……もう完全に通過点になってるぞ。 
 もうあいつは何体けしかけてもむしろ喜んじゃいそうだな、あれ。
 
 レオは何かを媒介として用いる魔法に強い適性があったらしく、先程のファイア・ランスのような魔法の扱いはぴか一だ。
 おそらく出力の調整など、いろいろ複雑なところを大雑把に力技でなんとかできるあたりが向いているんだろう。
 レオはこの手の魔法の扱いならノアやエリシアを容易くしのぐ。
 確かに出力だけ見ればノアやエリシアに軍配が上がることもあるだろうが、レオの場合は持ち前の体術や剣技の中に上手く混ぜて使うため、生み出す効果は実際の出力よりも効率的で凄まじい。その一端が今の立ち回りというわけだ。


「レオは順調……というか順調すぎるだろあれ……。魔術と剣技をあのレベルで使いこなせるまでに俺がどれだけかかったと思ってやがる?」


 むむむ……はっ! いかんいかん、師匠が弟子に嫉妬してどうするというのか。
 まずい、どうやらこのまま見てるのは俺の精神的に良くなさそうだ。

 俺は心のモヤモヤ感が大きくなる前に、ノアへと視線を切り替える。
 ノアはレオとはうって変わり、ゴブリン達とは一定の距離を保ちながら、見た目にはあまり派手ではない戦闘を行っていた。
 その戦法は至って単純、遠距離からエア・バレットを連続で打ち込み続けるだけだ。一見その姿にはあまり成長が無いようにも見える。だが……


「おーノアはノアでまたとんでもないことしてやがるな。あのエア・バレット、詠唱してないぞ?
 しかもあの風の弾丸、よく見るとスクリュー回転してないか……?
 消費魔力も極限まで抑えられてるし……いよいよあいつの魔法は化物じみてきたな……」


 いや、確かに銃を基本にして理にかなった飛ばし方は教えたけどさ……、まさかそれを無詠唱でこなすと思わないだろ……。もうあれ、ほぼ完全に銃弾だぞ? あれじゃあ最早ノアは歩く銃と言っても過言じゃない。あんなの想定外だっつの。

 正直、これだけでも十分凄い。確かに凄いが、俺は知ってる。あいつが成長したのはその点だけではないということを。

 しばらくそのまま危なげなく十近いゴブリンを倒していたノアだったが、突如、彼女の不意を突くかのように、背後から二体のゴブリンが飛び出して来た。


「っ!?」


 ノアが背後のゴブリンに気づくが遅い。既にゴブリン達はノアを自分達の攻撃圏内に捉えている。
 この距離からではいくら無詠唱であろうとノアの魔法よりもゴブリンの攻撃の方が先んじて届く。
 


「ほう、これはお手並み拝見かな?」


 魔法使いであるノアにとって、接近されることはそのまま命の危機に直結する。この状況はノアにとって絶体絶命とすら言えた。
 しかし、俺はむしろここぞとばかりに観察を続ける。もちろん、この状況はエリシアも見ているだろうし、危なければ俺も助けに飛び込むつもりだ。確かに俺の位置からノアの場所までは多少距離があるが、この程度は距離の家には入らない。彼女を助けるのはそう難しいことではないだろう。だが……おそらく俺の出番はない。

 ノアは一瞬ゴブリン達の登場に驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻し、焦らず、しかし素早く腰の短剣に手をかける。


「―――はぁっ!!」


 直後、気合の声と共に短剣を抜き放ち一閃。振るわれた短剣はゴブリンの片割れの喉元を正確に切り裂いた。


「……グギャ? ガフッ―――」


 自分の喉笛が掻き切られたことに遅れて気づいたのか、茫然としていたゴブリンは激しく流血しながら崩れ落ちる。
 

「グギイイイィィッ!!」


 仲間の一人が目の前で倒されたゴブリンが丸太から切り出したような棍棒を手に、いっそう大きな奇声を上げながらノアへと向かってくる。
 ナイフを振り抜いた直後のノアに魔法で迎え撃つ余裕は無い。
 だが、ノアは冷静に向かってきたゴブリンの振るうこん棒を見やると、軌道を見抜き、最小限の動きで回避し、バックステップで距離を取る。
 この間にも他のゴブリン達がノアに接近しようと近づいてくるが、これをノアは無詠唱のエア・バレットを数発放ち、牽制。
 直後、再びこん棒を手にしたゴブリンがノアとの距離を詰め、襲い掛かってくるが、


「あなたなんて、ヴァン君の動きに比べれば、早さも恐怖も全然足りてないわッ!!」


 ノアはゴブリンが棍棒を振るうよりも早く短剣を振るい、ゴブリンの手元を切り裂いて棍棒を取り落とさせる。
 武器を失くし、動揺するゴブリン。
 ノアは即座に振るった腕を引き戻すと、隙だらけのゴブリンの胸に手にした短剣を突き立てた。


「一度あの世に戻って出直してきなさい」
「ゴフッ――――」


 ノアが捨て台詞を吐きながら短剣を抜くためにゴブリンを蹴り飛ばすと、そのままゴブリンは血反吐を吐いて崩れ落ちる。


「まったく、きりがないわね。これいつもの倍ってレベルじゃないわよ?
 ヴァン君ってば森中のゴブリンかき集めてるんじゃないでしょうね……まぁいいわ、いくら来ようと私はただ倒すだけよ。―――かかってきなさい!」


 ノアは自分に発破をかけるように告げると、再びゴブリン達と向き合う。
 彼女の視線はゴブリン達の一挙手一投足すら見逃さないというように油断なく奴らに向けられていた。


「やはりノアの状況に対する判断能力は頭一つ抜きんでているな……あれで十歳というのが信じられん」

 
 ノアの魔法は確かに凄いし、成長もした。だが、彼女が最も優れているのはそこではない。
 いかなる状況でも、冷静に状況を分析、把握し、最良の判断を下す力。それが最も長けているのだ。
 だからこそ、強いイメージが必要な魔法の連射もできるし、近接戦に持ち込まれた際の対処も行える。
 もっとも、近接戦はノアが昔と比べて大きく成長した点の一つなのだがな。

 最初、ノアは魔法使いの自分には体術などいらないと、微妙に乗り気ではなく、しぶしぶ鍛錬に励んでいたようだった。それはこの世界の共通の考えなのだから仕方ないのかもしれないが、俺の弟子になった以上、それでは困る。そこで、見かねた俺がかる~~く、身をもってその考えの甘さを教え込んでやったところ、『教えて! お願い!! いや、お願いします!! いやぁ、もう無抵抗に接近されて弄ばれるのは嫌なの!! 私が間違ってたから許してぇ!!』っと、自ら積極的に教えを乞うようになった。

 ほんとどうしたんだろうな? ちょっと懐に潜り込んで真剣で寸止めしたり、避けられそうならそのまま振り抜いたり、隙を見つけて耳に息吹きかけたりしてやっただけなのだが……どうでもいいけど普段理知的なノアの『ひゃっ!?』って声はちょっと可愛かった。

 そこでふと、ゴブリンと応戦するノアの腰、そこに仕込まれた鞘に再び収められた短剣を見やり、その切れ味を思い出す。
 

「それにしてもノアのあの短剣……意外と業物なんじゃないのか? 孤児院で埃をかぶっていたと言っていたがそれで今もなおゴブリンをあっさり切り裂く切れ味を保ってるなんて普通じゃないぞ?」

 
 ノアの振るうあの短剣は彼女が自分で持ってきたものだ。彼女に近接戦を教えるとなった当初、最初は俺が生成ジェネレートした短剣を貸していたのだが、ある日突然彼女はあの短剣をもってきて、『これからはこの短剣を使うわ、いつまでも借りてばかりじゃ悪いしね』と俺に言って以来、あれを愛用している。なんでも、あれは孤児院で埃をかぶっていたものらしく、使えるように軽い手入れだけして拝借してきたらしい。
 シスターも元々倉庫の肥やしとなっていた代物なので、特に何も言わなかったらしい。もっとも、ただ気づいてないだけの可能性もあるけどな。


「この様子ならノアも心配いらないか。ってことはあとは……」


 エリスだけだな。俺は視線を動かしエリスを探す。
 見つけた。エリスの方にはどうやら多くのゴブリンが集まっていたらしく十数匹のゴブリンがエリスを取り囲んでいた。そして、対するエリスの手に武装はない。本来であれば絶体絶命。通常ならば幼い少女は為す術なく嬲りごろされる。しかし、そんな状況であってなお、俺もエリシアも手を出さない。理由は単純。危機的状況に置かれた当の本人が、不敵な笑みを浮かべているのだから。


「―――魔力回路マジックサーキット起動ブート


 それは彼女の体の回路を動かす鍵言。
 その一言をきっかけとして、彼女の体中を魔力の奔流が駆け巡る。
 彼女の体内を循環する魔力は貧弱であった彼女の身体能力を二つほど上のステージに引き上げた。
 エリスは手を握ったり開いたりしながら体の体の感触を確かめ、強化の成否を確認する。 


「……うん、問題ないみたい。それじゃあ―――いくねッ!!」


 直後、脚部に魔力を集め、強化した足で地を蹴りだすと、エリスの体は弾かれたように前方へと飛び出す。魔力により強化された疾走は一瞬にしてエリスの眼前のゴブリンとの距離を零へと還元する。


「グギャッ!?」
「弾け飛んでッ!!」


 一足でゴブリンの懐に潜り込んだエリスは右拳に魔力を集中。
 そのまま掛け声と共に対象の中心線、鳩尾を右拳で抉り抜くと同時、右拳に収束させていた魔力をさながら砲弾のように放出、ゴブリンの腹部に叩き込んだ。


「―――グギェッ」


 魔力により強化された拳と魔力そのものの放出による壮絶な衝撃にゴブリンの体が宙を舞う。
 弾かれるように吹き飛んだゴブリンは背後の数体を巻き込みながら飛んでいき、森の木々を数本ほど倒したところでようやく力なく地に落ちた。


『ギギィ―――ッ』


 そこにすかさずエリスの両サイドのゴブリンが襲ってくる。
 しかし、エリスは焦ることなくそのまま流れるように右側のゴブリンを強化した裏拳で吹き飛ばすと、直後ゴブリンを殴り飛ばした右拳から魔力を放出。その反動を利用し弾け飛ぶと、勢いのまま左ひじを左側のゴブリンの腹部に叩き込む。
 腹部に受けた肘のせいで頭が下がるゴブリン。


「隙だらけだよッ!」


 そこをエリスは見逃さない。
 無防備にさらけ出された頭部に向けて、エリスは左足を軸にして体を後方へ反転させがら右の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
 為す術なく強力な一撃を受けたゴブリンは問答無用で吹き飛んでいく。
 瞬く間にして巻き込んで倒した個体含め十体近いゴブリン屠ったエリスはそれでもなお油断することなく残るゴブリンを好戦的に睨みつける。
  

「まだまだこれからだよ!!」


 エリスはそのまま留まることなく、魔力回路を利用した強化をフル活用しながら、ゴブリン達の中を縦横無尽に駆け巡り、ゴブリンを次々と肉弾戦で屠っていく。
 そこには既に自分には戦う力が無いのだと、自身の非力さを、劣等感を嘆いていた少女の姿は無い。
 今の彼女を馬鹿にできるものなどそうはいないだろう。

 俺はそのまましばらくエリスの戦闘を近寄ってくるゴブリンを適当にあしらいながら見ていたが、ものの数分程度でエリスは自分を囲んでいたゴブリンを倒してしまっていた。

 やはり間違いなく近接戦クロスレンジならエリスは三人の中でトップクラスだ。ゴブリン程度じゃ束になっても敵わない。
 何よりエリスはこの数年で集めた魔力を放出する技術を身に着けたことで、戦術の幅が大きく広がり、加速度的な成長を遂げた。
 エリスの格闘術に対するセンスは素晴らしく、格闘術への魔力放出の組み込み方はもはや俺でも真似するのは難しいだろう。


「予想以上に自分の育てた弟子が成長していくというのは嬉しいものだな。あいつらは強くなった。であった頃とは比べ物にならないほどに。
 ……でも、これで終わりじゃない。俺が学園に行くまでにあいつらがどれだけ成長できるか……楽しみだな」


 俺は物凄い勢いで成長を続ける弟子たちの姿を見て、その未来に胸を膨らませながら、ゴブリン狩りを続けた。
 
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