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1章
殺戮鬼、襲来
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そうして二時間ほどが経ち、時は午後の一時。
俺達は時間も頃合いだということでゴブリン狩りを引き上げ、更に森の奥へと進んでいた。
というのも、今回はゴブリン達がまだ森の浅い場所であるにも関わらず多く出現してくれたため、ゴブリン狩りに際して森の奥まで進むことはなかったからだ。
だが、卒業試験を行うにあたり、あいつらの実力、そして……俺の実力を鑑みるに、森の浅い場所では都合が悪い。
弟子達ももちろんだが、俺の本気は完全にこの世界の常識を逸脱しているはずだ。
万が一ありきたりなものであったとしても、それは戦闘、あるいは魔法の鍛錬を積んできた大人の話であって、こんなまだ十にも満たない子供がなせるものでは確実にないと思う。
そんなものを村の人たちに見せるわけにはいかないのだ。
―――何しろ俺はこれから……本物の戦場の感覚、本気の殺意、そして、自分に対して明確に向けられる殺気の恐ろしさ、それらを、あいつらに自らの身をもって教えるつもりなのだから……。
間違っても、そんな姿を無関係な者に見せるわけにはいかなかない。
だからこそ、確実に人気のないであろう森の奥深くを目指している。
森の奥に行けば行くほど、それだけ危険度も高くなり、人の目が届く確率もより少なくなるからな。
もちろん、道の誘導は俺が下手な魔物とは遭遇しないように、さりげなく行っている。
もっとも、この森の魔物は基本的にゴブリンしか存在しない。数年前のブラックヴォルフが例外だったのだ。
あんなものは森の奥の奥、最深部の方に存在する魔物のはずであってそうそう、俺達が立ち入ることのできる位置に出現する魔物ではない。
「……はず、なんだけどなぁ……?」
俺は思わずそう声を漏らしながら、数メートル先に確認したブラックヴォルフと思われる魔力反応を迂回するようにみんなを誘導する。
全員特に不審に思うことなく、俺についてきてくれるので問題はないが、明らかにおかしい。
これで俺がブラックヴォルフの反応を避けたのは既に八度目だ。
本来ブラックヴォルフが群れで行動するモンスターであることを考えれば不思議ではないのかもしれないが……そもそも、この程度の場所にブラックヴォルフがこれほどいること自体がおかしい。
なんだ? 何かがこの森で起きている……? これは日を改めるべきか?
「ねぇ、お母さん。なんか森の様子がおかしくないかな?」
「え……そうかしら、お母さんにはあんまりわからないわね。レオ君たちはどう?」
「えっ? 俺は全然わからなかったぞ!?」
「えっと……私も特にない……かな?」
「そうですねエリシアさん、私もこれといった違和感はないです。強いて言えば今日はゴブリンの数が少し多かったかなってくらいでしょうか?」
「それだよノアお姉ちゃん!! 今日はノアお姉ちゃん達がゴブリンを多く引き付けてたのにそれでもかなりたくさんのゴブリンの相手を俺もさせられたし……もしかして今日は引き返した方がいいかも……」
俺がさりげなく提案した意見に対し、母さんは思案顔で呟く。
「そう言われてみれば確かに今日は後方にいた私のところまで来たゴブリンの数がいつもより多かった気がしなくもないわね……でも今日を逃すとヴァン、あなたの卒業試験をするのは難しいんじゃないかしら?」
それは確かにそうだ。もしも今日を逃してしまえば、卒業試験を行うことは難しくなるだろう。
だが、今のあいつらは現状でも十分な強さを持っている。
本当なら学園に行く前に身をもって伝えておきたかったのだが、事情が事情だ。
安全には代えられないし、その辺りは俺が学園に行ってから改めて行えばいい。
「そうだね。それは確かにそうかもしれない。でも―――」
「なに細かいこと気にしてんだよヴァン!! 大丈夫、大丈夫っ!! 何が出てきたって今の俺達なら楽勝だよ!! そんなこと言ってる暇あったらさっさと行こうぜ!!」
俺が母さんの言葉に“安全には代えられないよ”と俺が答えようとしたところで、レオが楽観的に口を挟んで来たかと思うと、レオはそのまま速度を上げて先へと進んで行ってしまう。
「あっちょっ―――」
「おぉ~! 流石レオ君、速いね!! でも、私も負けないよぉ~~!!」
「えっエリスお姉ちゃん!?」
「くっ私も負けてられないわね!! ヴァン君、先に行かせてもらうわよ!!」
「あっちょっと、ノア姉ちゃんまで!?」
そのレオの姿を見たエリスとノアも負けじと速度を上げて、レオへとついて先へ行ってしまった。
慌てて俺も声をかけて止めようとしたが、そのころには既に三人そろって遥か前方を駆け抜けてしまっていた。
幸い目立った魔物の反応はないようだからいいのだが、三人がこの調子では彼らを引き留めて村に引き返すのは難しいかもしれない。
「ヴァン、気持ちはわかるけどこれじゃあ仕方ないわ。危ないから帰ろうなんて言ったって今のあの子たちじゃ止まらないでしょう?
大丈夫よ、もしもの時は母さんが何とかしてあげるから。ほら、行きましょう」
どうやら母さんも同じ考えに至ったらしい。
母さんも俺にそう告げると三人の後を追うように速度を上げて行ってしまった。
……やむを得ないか。
確かに、あいつらは充分強くなった。通常この森で起こりうる程度の事ならあいつらだけでも十分対処できてしまうだろう。それに今は母さんもついているのだ。ならば、心配など杞憂なのかもしれない。
だが……何か嫌な予感がするのだ。背筋を這うような悪寒が常につきまとっている―――そんな錯覚。
気のせいだと言ってしまえばそれまで、しかし、果たしてこの感覚を無視してしまってもいいものなのだろうか……?
……いや、言っても仕方ないか。とにかく、今はあいつらを追うしかない。
この選択が後で裏目に出なければいいのだが……。
俺は皆の後を追うように速度を上げ、森の中を駆け抜けて行った。
****
「よっしゃっ!! この辺まで来れば大丈夫だろ! ちょうど少し開けて広めの場所だし、卒業試験にはもってこいって感じだしな!!」
「うん、いいと思うよ!」
「そうね、ここなら人目につく心配もないし、邪魔も入らなそうだわ」
レオ、エリス、ノアの三人は満足の行く場所を見つけて少しはしゃいでいる。
確かにここは試験にはうってつけの場所だろう。程よく木々の数が少なく、加えて地面も平坦だ。
加えて比較的森の深い場所で、人目に付きにくいと来ればこれに勝る場所はないだろう。
「うふふ……なんだかみんな楽しそうねぇ、ヴァン?」
エリシアはそんな風にはしゃぐ三人を見て微笑ましそうに笑って俺に声をかけてくる。
常であれば俺も元気良く頷いておくところなのだが……、
「ヴァン? どうかしたの……?」
「え? ああ、いや、なんでもないよ、母さん」
いや、これは嘘だ。何でもなくなんかない。
おかしい。やはり、何かがおかしいのだ。
どこか常に比べて木々のざわめきは大きく、生き物たちは慌ただしい。
ここまでの道中、俺は探索魔術に引っかかった幾多の魔物を回避してきた。
だが、その数も明らかにおかしい。
最初の大量のゴブリン達との遭遇もそうだが、森の奥に向かうにつれてのゴブリンとの遭遇数の減少、加えてブラックヴォルフやあるいは未だ出会ったことのない魔力の反応数の増加……。
いつもなら起こらぬようなことが幾つも起きている。
何とかある程度魔物と遭遇しないように誘導こそしたが、それが精一杯。
未だこの中で発言権の小さな俺の立場では彼らを引き帰させることができなかった。
もっとも、弟子達だけなら何とかなったであろうが、現状、ここでの判断権を持つのは監督役である母さんだ。
母さんが卒業試験をやってしまおうと決めた以上、俺の意見だけでそれを覆すのは難しい。
俺にはもしもの事態に備えながら彼らについてくることしかできなかった。
「ヴァン、あなたはまださっきの事を気にしているのね? 大丈夫よ。
何度も言うようだけど何かが起こっても必ず母さんが何とかしてあげるわ。
だから、あなたは思う存分卒業試験を頑張ってくればいいのよ」
「でも、母さん……」
「子供が余計な心配するんじゃないの。ヴァン、あなたも本当はやりたいんでしょう? 顔に出てるわよ」
「えっ……?」
顔に出てる……? そんな、まさか……いや、そうだな。そうなのかもしれない。
どうやら俺は思っていた以上にあいつらの師匠としての自分が気に入っていたらしい。
手塩にかけて育てた弟子の門出だ。もしもこれから先、あいつらがどんな壁にぶつかったとしても、立ち向かっていけるように、教えるべきものを教えておきたいというのは物事を教える立場の者としては当然の気持ちだろう。例えそれが一時的な別れだとしてもな。
そうか、だから母さんは……。
おかしいとは思っていたのだ。仮にも冒険者として活動していたというのであれば、安全を第一に考えるのは基本のはず。
だというのにもかかわらず、母さんが引き返すことをしなかったのは……。
はぁ……しょうがないか。母さんがここまで言ってくれているんだ。ここで俺がやらないというわけにもいかないだろう。
確かに不安要素はあるがあいつらは強くなったし、今日は母さんもいる。いざとなれば俺も全力で対処すればいい。何があろうと、きっと……何とかなるはずだ。
「あはは、そっか……母さん、そんなに俺やりたそうな顔してた?」
「そうね、そんなにあからさまではなかったかもしれない。でも、お母さんからしたらあからさまよ?」
「……敵わないな。流石だね、母さん」
「当然でしょ? 私を誰だと思ってるの、あなたの実のお母さんよ? そのくらいわからないわけないじゃない! えっへん!」
まるで子供のように胸を張る母さん。それが俺を安心させるため、わざと子供らしく振る舞っているのだというのが俺にはわかる。その姿は、本当に母親のようで……。
「……ああ、そうか、そうだった」
「……ヴァン?」
彼女は血のつながった母親だ。前世ではまだ幼いうちに母さんは死んでしまったから、長らく忘れていた。
サーシャは母さんという感じではなかったしな。だから、これは久しぶりの感覚だ。
この世界でたった一人の、俺の血のつながった家族……なら、わからないはずがないよな……。
「ありがとう母さん。そうだね。みんながここまで言ってくれてるんだ。ありがたく卒業試験を受けさせてもらうことにするよ」
「ええ、頑張ってきなさい」
俺は力強く母さんに頷くと、レオ達の元へと歩いて行く。もっとも、頑張るのは俺ではなくてあいつらの方なのだがな。
きっと、俺がどういう存在であろうとも、母さんなら受け入れてくれるはずだ。理由はない。理屈も無い。道理も無い。だが、何故だかそんな確信があった。
「ヴァン―! どうしたんだよぉ! さっさと始めようぜぇ~!!」
「ヴァンちゃん! 早く早くぅ~!!」
「ヴァン君、時間が惜しいわ。準備ができたのなら、早く始めましょう?」
「……うん、今行くよ!」
俺がいろんな思いを、決意を、覚悟を胸に。全てをさらけ出そうと、彼らの元へ歩みを進めようとした、その時だった。
―――――決定的な異変が起きた。
「―――ッ!? これはッ!?」
俺は思わず弟子達のいる場所の更に奥、今は何も見えないその方向を見据えて叫ぶ。
感知したのは大量の魔力反応。間違いない、魔物だ。
俺は条件反射的に鍵となる刀印を行うことで探索魔術を起動、即座に状況の確認を行う。
広範囲に放たれた俺の魔力は周囲の環境を記録し、反響。俺の脳裏にその状況を鮮明に伝えてくれた。
感知した魔力の種類はブラックヴォルフ、その数およそ二百。
これだけでもあの時の十倍以上、こいつらが村まで下りればそれだけで村は壊滅してしまうだろう。
だが、今はそれすら些末な問題だ。なぜなら―――そのブラックヴォルフ達の背後からブラックヴォルフなどゴミにすら思えるような凶悪な魔力反応の魔物が迫って来ていたからだ。
「まずいッ!! おい、レオ、ノア、エリス!! 緊急事態だッ!! 今すぐここから退避するぞッ!!」
これは紛うことなき緊急事態。故に、俺は演技の全てをかなぐり捨てて弟子達へ叫ぶ。もはや一刻の猶予すらも存在し無い。
理由はわからないがあの魔物は何故か恐ろしい速度でこちらへと向かってきている。
ここに来るのも時間の問題だ。今できることはただ一つ、一刻も早くこの場から離れることだけ。
「え? 何言ってんだよししょ……じゃなくてヴァン! これから卒業試験―――」
「そんなことを言ってる場合じゃないッ!!」
「ど、どうしちゃったの、先生……?」
「そうよヴァン君、何かあったの?」
俺の突然の豹変に困惑の表情を浮かべながら質問を投げかけてくる弟子達。
彼らは以前より強くなったとはいえ、未だ未熟。それ故に、現状の危うさがまだ理解できない。
とはいえ、今の彼らなら、ある程度の説明をすれば最適な動きをしてくれることだろう。
―――だが、今はその僅かな時間すら惜しい。
それ程の切迫。その僅かな時間をこの場からの退避に費やさなければ事態を回避できないできない状況。否、そこまでして尚、逃走への僅かな望みが生まれるかどうかというところ。
そう、言うまでもない。俺は油断していたのだ。
既に何年も入り浸り、勝手知ったつもりになってしまっていた。
森は常に死の危険を伴う場であるという当たり前の事すらも忘れるほどに。
加えて今の自分の力なら、何が起ころうとも対処できるだろうと、そうどこかで奢っていたのも要因の一つだ。
嫌な予感がしていたというのにも関わらず、本気で引き返すことをしなかったのもそれが原因。しかし、その安易な考え、安易な判断、その全てがこの事態を招いてしまった。
俺が本気を出したといても尚、この場で全員が潰えることになるかもしれない。
そんな死をもたらすとも知れない絶望が、速度に優れたブラックヴォルフを易々と追い立てる程の疾走をもって、この場へと接近してきていた。
「ヴァン、何があったのかわからないけれど少し落ち着いて―――ッ!? これはッ―――」
突然態度の豹変した俺に問いを嘆かけようとした母さんの表情が凍り付く。流石は元冒険者、早くも現状の危うさに理解が及んだらしい。
「母さんもわかっただろッ!? 今は説明してる時間はないんだッ!! いいから早く―――」
俺はここぞとばかりに母さんを焚き付け、この場からの退避を促そうと働きかけようとして、
「か、母さん……?」
―――遅れて気づいた。母さんの表情が異常な程に凍り付き絶望していることに。
「そんな……うそ、うそよッ……奴が、奴がどうしてこんなところに……よりにもよってヴァンがここに居るこのタイミングで……また、また私は……」
「おい、母さん! なぁ母さんッ!! 状況は分かったんだろ!? なら、早く避難をッ!!」
「あ、ああ……ああアアぁあああぁぁぁ」
「母さんッ!! いったいどうしちゃったんだよ!?」
「え、エリシアさん……?」
「ふぇ……ふぁわわわわっ……」
「な、なんなのよこれはッ……!?」
想定外だ。母さんがこうまで取り乱すことなど、俺は考えていなかった。
母さんがこの状態では、今から事態の回避に動いたとしても、もう間に合わない。
可能性は潰えた。もはや俺達には奴らを……否、あの化物の如き魔力反応を発する絶望から逃げる術はない。
弟子達は俺と母さんのあまりの豹変ぶりにようやく事態の異常さを理解し始めながらも、初めて見る母さんの異様な姿への動揺のあまり、正常な思考が働かず、困惑しているようだった。
「おい、母さんッ!! しっかりしてくれ母さんッ!! くそッ、いったいどうして……」
確かに事態は最悪。絶望的状況と言ってもいい。だが、それでもこれはおかしい。
母さんは元冒険者だ。曲がりなりにも戦場にその身を置いていたものである以上、死線を潜ったことも少なくはないはず。なら、この怯え方はおかしいのだ。
そうした場を切り抜けてきた者は、このような危機的状況において停滞ではなく、現状からの離脱に思考が向かうのが必然。しかし、母さんの思考は現状からの離脱に向かうどころか、まるで何かを……“あの化物そのものではない別の何か”を恐れているかのような……、
「ッ―――!? まさか……そういうことなのかッ!?」
ここに来て、ようやく俺の思考がそこに至る。
得体のしれない凶悪な魔力反応。母さんの元冒険者としては異常なまでの恐怖。そして、“ヴァンがここに居るこのタイミングで”というあの言葉。それらは一つの事実を浮かび上がらせる。
間違いない。母さんは“俺を失うこと”を恐れている。
しかし、並大抵の事では母さんはこうはならない。
ならば、考えられる理由は一つだけ。
迫りくる脅威が、それを想起させるものであったというだけの話。
つまりこの魔力反応の正体こそが、
「くっ、そういうことか……それなら母さんのこの反応も頷ける。いつかはこちらから出向こうと思っていたが、まさか、こんな時期にあちらの方から出向いてくるとは思わなかったぞッ?」
―――父さんの敵であるという事実に他ならない。
俺は森の奥の奥、その闇の深まった位置を凝視する。
ヴァンが見つめる視線の先。そこにあるのは、まるで追い立て、従えるかのように幾多のブラックヴォルフを引き連れながら、こちらへと恐ろしい速度で薄暗い森林を疾駆してくる人外の姿。
赤黒く、胎動するが如く波打つ巨体を持ち、頭部からその全身と色彩を同じくした一対の角を生やした悪鬼羅刹。聞かずとも理解した。奴こそが、その顔を見ることすら叶わなかった父さんの命を―――母さんの幸せを奪った怨敵であると。
俺は渋面を作り、張りつめるあまりの緊張感に冷や汗を流しながら、苦々しく告げる。
「なぁ? 殺戮鬼とやらよ」
―――絶望がここに具現した。
俺達は時間も頃合いだということでゴブリン狩りを引き上げ、更に森の奥へと進んでいた。
というのも、今回はゴブリン達がまだ森の浅い場所であるにも関わらず多く出現してくれたため、ゴブリン狩りに際して森の奥まで進むことはなかったからだ。
だが、卒業試験を行うにあたり、あいつらの実力、そして……俺の実力を鑑みるに、森の浅い場所では都合が悪い。
弟子達ももちろんだが、俺の本気は完全にこの世界の常識を逸脱しているはずだ。
万が一ありきたりなものであったとしても、それは戦闘、あるいは魔法の鍛錬を積んできた大人の話であって、こんなまだ十にも満たない子供がなせるものでは確実にないと思う。
そんなものを村の人たちに見せるわけにはいかないのだ。
―――何しろ俺はこれから……本物の戦場の感覚、本気の殺意、そして、自分に対して明確に向けられる殺気の恐ろしさ、それらを、あいつらに自らの身をもって教えるつもりなのだから……。
間違っても、そんな姿を無関係な者に見せるわけにはいかなかない。
だからこそ、確実に人気のないであろう森の奥深くを目指している。
森の奥に行けば行くほど、それだけ危険度も高くなり、人の目が届く確率もより少なくなるからな。
もちろん、道の誘導は俺が下手な魔物とは遭遇しないように、さりげなく行っている。
もっとも、この森の魔物は基本的にゴブリンしか存在しない。数年前のブラックヴォルフが例外だったのだ。
あんなものは森の奥の奥、最深部の方に存在する魔物のはずであってそうそう、俺達が立ち入ることのできる位置に出現する魔物ではない。
「……はず、なんだけどなぁ……?」
俺は思わずそう声を漏らしながら、数メートル先に確認したブラックヴォルフと思われる魔力反応を迂回するようにみんなを誘導する。
全員特に不審に思うことなく、俺についてきてくれるので問題はないが、明らかにおかしい。
これで俺がブラックヴォルフの反応を避けたのは既に八度目だ。
本来ブラックヴォルフが群れで行動するモンスターであることを考えれば不思議ではないのかもしれないが……そもそも、この程度の場所にブラックヴォルフがこれほどいること自体がおかしい。
なんだ? 何かがこの森で起きている……? これは日を改めるべきか?
「ねぇ、お母さん。なんか森の様子がおかしくないかな?」
「え……そうかしら、お母さんにはあんまりわからないわね。レオ君たちはどう?」
「えっ? 俺は全然わからなかったぞ!?」
「えっと……私も特にない……かな?」
「そうですねエリシアさん、私もこれといった違和感はないです。強いて言えば今日はゴブリンの数が少し多かったかなってくらいでしょうか?」
「それだよノアお姉ちゃん!! 今日はノアお姉ちゃん達がゴブリンを多く引き付けてたのにそれでもかなりたくさんのゴブリンの相手を俺もさせられたし……もしかして今日は引き返した方がいいかも……」
俺がさりげなく提案した意見に対し、母さんは思案顔で呟く。
「そう言われてみれば確かに今日は後方にいた私のところまで来たゴブリンの数がいつもより多かった気がしなくもないわね……でも今日を逃すとヴァン、あなたの卒業試験をするのは難しいんじゃないかしら?」
それは確かにそうだ。もしも今日を逃してしまえば、卒業試験を行うことは難しくなるだろう。
だが、今のあいつらは現状でも十分な強さを持っている。
本当なら学園に行く前に身をもって伝えておきたかったのだが、事情が事情だ。
安全には代えられないし、その辺りは俺が学園に行ってから改めて行えばいい。
「そうだね。それは確かにそうかもしれない。でも―――」
「なに細かいこと気にしてんだよヴァン!! 大丈夫、大丈夫っ!! 何が出てきたって今の俺達なら楽勝だよ!! そんなこと言ってる暇あったらさっさと行こうぜ!!」
俺が母さんの言葉に“安全には代えられないよ”と俺が答えようとしたところで、レオが楽観的に口を挟んで来たかと思うと、レオはそのまま速度を上げて先へと進んで行ってしまう。
「あっちょっ―――」
「おぉ~! 流石レオ君、速いね!! でも、私も負けないよぉ~~!!」
「えっエリスお姉ちゃん!?」
「くっ私も負けてられないわね!! ヴァン君、先に行かせてもらうわよ!!」
「あっちょっと、ノア姉ちゃんまで!?」
そのレオの姿を見たエリスとノアも負けじと速度を上げて、レオへとついて先へ行ってしまった。
慌てて俺も声をかけて止めようとしたが、そのころには既に三人そろって遥か前方を駆け抜けてしまっていた。
幸い目立った魔物の反応はないようだからいいのだが、三人がこの調子では彼らを引き留めて村に引き返すのは難しいかもしれない。
「ヴァン、気持ちはわかるけどこれじゃあ仕方ないわ。危ないから帰ろうなんて言ったって今のあの子たちじゃ止まらないでしょう?
大丈夫よ、もしもの時は母さんが何とかしてあげるから。ほら、行きましょう」
どうやら母さんも同じ考えに至ったらしい。
母さんも俺にそう告げると三人の後を追うように速度を上げて行ってしまった。
……やむを得ないか。
確かに、あいつらは充分強くなった。通常この森で起こりうる程度の事ならあいつらだけでも十分対処できてしまうだろう。それに今は母さんもついているのだ。ならば、心配など杞憂なのかもしれない。
だが……何か嫌な予感がするのだ。背筋を這うような悪寒が常につきまとっている―――そんな錯覚。
気のせいだと言ってしまえばそれまで、しかし、果たしてこの感覚を無視してしまってもいいものなのだろうか……?
……いや、言っても仕方ないか。とにかく、今はあいつらを追うしかない。
この選択が後で裏目に出なければいいのだが……。
俺は皆の後を追うように速度を上げ、森の中を駆け抜けて行った。
****
「よっしゃっ!! この辺まで来れば大丈夫だろ! ちょうど少し開けて広めの場所だし、卒業試験にはもってこいって感じだしな!!」
「うん、いいと思うよ!」
「そうね、ここなら人目につく心配もないし、邪魔も入らなそうだわ」
レオ、エリス、ノアの三人は満足の行く場所を見つけて少しはしゃいでいる。
確かにここは試験にはうってつけの場所だろう。程よく木々の数が少なく、加えて地面も平坦だ。
加えて比較的森の深い場所で、人目に付きにくいと来ればこれに勝る場所はないだろう。
「うふふ……なんだかみんな楽しそうねぇ、ヴァン?」
エリシアはそんな風にはしゃぐ三人を見て微笑ましそうに笑って俺に声をかけてくる。
常であれば俺も元気良く頷いておくところなのだが……、
「ヴァン? どうかしたの……?」
「え? ああ、いや、なんでもないよ、母さん」
いや、これは嘘だ。何でもなくなんかない。
おかしい。やはり、何かがおかしいのだ。
どこか常に比べて木々のざわめきは大きく、生き物たちは慌ただしい。
ここまでの道中、俺は探索魔術に引っかかった幾多の魔物を回避してきた。
だが、その数も明らかにおかしい。
最初の大量のゴブリン達との遭遇もそうだが、森の奥に向かうにつれてのゴブリンとの遭遇数の減少、加えてブラックヴォルフやあるいは未だ出会ったことのない魔力の反応数の増加……。
いつもなら起こらぬようなことが幾つも起きている。
何とかある程度魔物と遭遇しないように誘導こそしたが、それが精一杯。
未だこの中で発言権の小さな俺の立場では彼らを引き帰させることができなかった。
もっとも、弟子達だけなら何とかなったであろうが、現状、ここでの判断権を持つのは監督役である母さんだ。
母さんが卒業試験をやってしまおうと決めた以上、俺の意見だけでそれを覆すのは難しい。
俺にはもしもの事態に備えながら彼らについてくることしかできなかった。
「ヴァン、あなたはまださっきの事を気にしているのね? 大丈夫よ。
何度も言うようだけど何かが起こっても必ず母さんが何とかしてあげるわ。
だから、あなたは思う存分卒業試験を頑張ってくればいいのよ」
「でも、母さん……」
「子供が余計な心配するんじゃないの。ヴァン、あなたも本当はやりたいんでしょう? 顔に出てるわよ」
「えっ……?」
顔に出てる……? そんな、まさか……いや、そうだな。そうなのかもしれない。
どうやら俺は思っていた以上にあいつらの師匠としての自分が気に入っていたらしい。
手塩にかけて育てた弟子の門出だ。もしもこれから先、あいつらがどんな壁にぶつかったとしても、立ち向かっていけるように、教えるべきものを教えておきたいというのは物事を教える立場の者としては当然の気持ちだろう。例えそれが一時的な別れだとしてもな。
そうか、だから母さんは……。
おかしいとは思っていたのだ。仮にも冒険者として活動していたというのであれば、安全を第一に考えるのは基本のはず。
だというのにもかかわらず、母さんが引き返すことをしなかったのは……。
はぁ……しょうがないか。母さんがここまで言ってくれているんだ。ここで俺がやらないというわけにもいかないだろう。
確かに不安要素はあるがあいつらは強くなったし、今日は母さんもいる。いざとなれば俺も全力で対処すればいい。何があろうと、きっと……何とかなるはずだ。
「あはは、そっか……母さん、そんなに俺やりたそうな顔してた?」
「そうね、そんなにあからさまではなかったかもしれない。でも、お母さんからしたらあからさまよ?」
「……敵わないな。流石だね、母さん」
「当然でしょ? 私を誰だと思ってるの、あなたの実のお母さんよ? そのくらいわからないわけないじゃない! えっへん!」
まるで子供のように胸を張る母さん。それが俺を安心させるため、わざと子供らしく振る舞っているのだというのが俺にはわかる。その姿は、本当に母親のようで……。
「……ああ、そうか、そうだった」
「……ヴァン?」
彼女は血のつながった母親だ。前世ではまだ幼いうちに母さんは死んでしまったから、長らく忘れていた。
サーシャは母さんという感じではなかったしな。だから、これは久しぶりの感覚だ。
この世界でたった一人の、俺の血のつながった家族……なら、わからないはずがないよな……。
「ありがとう母さん。そうだね。みんながここまで言ってくれてるんだ。ありがたく卒業試験を受けさせてもらうことにするよ」
「ええ、頑張ってきなさい」
俺は力強く母さんに頷くと、レオ達の元へと歩いて行く。もっとも、頑張るのは俺ではなくてあいつらの方なのだがな。
きっと、俺がどういう存在であろうとも、母さんなら受け入れてくれるはずだ。理由はない。理屈も無い。道理も無い。だが、何故だかそんな確信があった。
「ヴァン―! どうしたんだよぉ! さっさと始めようぜぇ~!!」
「ヴァンちゃん! 早く早くぅ~!!」
「ヴァン君、時間が惜しいわ。準備ができたのなら、早く始めましょう?」
「……うん、今行くよ!」
俺がいろんな思いを、決意を、覚悟を胸に。全てをさらけ出そうと、彼らの元へ歩みを進めようとした、その時だった。
―――――決定的な異変が起きた。
「―――ッ!? これはッ!?」
俺は思わず弟子達のいる場所の更に奥、今は何も見えないその方向を見据えて叫ぶ。
感知したのは大量の魔力反応。間違いない、魔物だ。
俺は条件反射的に鍵となる刀印を行うことで探索魔術を起動、即座に状況の確認を行う。
広範囲に放たれた俺の魔力は周囲の環境を記録し、反響。俺の脳裏にその状況を鮮明に伝えてくれた。
感知した魔力の種類はブラックヴォルフ、その数およそ二百。
これだけでもあの時の十倍以上、こいつらが村まで下りればそれだけで村は壊滅してしまうだろう。
だが、今はそれすら些末な問題だ。なぜなら―――そのブラックヴォルフ達の背後からブラックヴォルフなどゴミにすら思えるような凶悪な魔力反応の魔物が迫って来ていたからだ。
「まずいッ!! おい、レオ、ノア、エリス!! 緊急事態だッ!! 今すぐここから退避するぞッ!!」
これは紛うことなき緊急事態。故に、俺は演技の全てをかなぐり捨てて弟子達へ叫ぶ。もはや一刻の猶予すらも存在し無い。
理由はわからないがあの魔物は何故か恐ろしい速度でこちらへと向かってきている。
ここに来るのも時間の問題だ。今できることはただ一つ、一刻も早くこの場から離れることだけ。
「え? 何言ってんだよししょ……じゃなくてヴァン! これから卒業試験―――」
「そんなことを言ってる場合じゃないッ!!」
「ど、どうしちゃったの、先生……?」
「そうよヴァン君、何かあったの?」
俺の突然の豹変に困惑の表情を浮かべながら質問を投げかけてくる弟子達。
彼らは以前より強くなったとはいえ、未だ未熟。それ故に、現状の危うさがまだ理解できない。
とはいえ、今の彼らなら、ある程度の説明をすれば最適な動きをしてくれることだろう。
―――だが、今はその僅かな時間すら惜しい。
それ程の切迫。その僅かな時間をこの場からの退避に費やさなければ事態を回避できないできない状況。否、そこまでして尚、逃走への僅かな望みが生まれるかどうかというところ。
そう、言うまでもない。俺は油断していたのだ。
既に何年も入り浸り、勝手知ったつもりになってしまっていた。
森は常に死の危険を伴う場であるという当たり前の事すらも忘れるほどに。
加えて今の自分の力なら、何が起ころうとも対処できるだろうと、そうどこかで奢っていたのも要因の一つだ。
嫌な予感がしていたというのにも関わらず、本気で引き返すことをしなかったのもそれが原因。しかし、その安易な考え、安易な判断、その全てがこの事態を招いてしまった。
俺が本気を出したといても尚、この場で全員が潰えることになるかもしれない。
そんな死をもたらすとも知れない絶望が、速度に優れたブラックヴォルフを易々と追い立てる程の疾走をもって、この場へと接近してきていた。
「ヴァン、何があったのかわからないけれど少し落ち着いて―――ッ!? これはッ―――」
突然態度の豹変した俺に問いを嘆かけようとした母さんの表情が凍り付く。流石は元冒険者、早くも現状の危うさに理解が及んだらしい。
「母さんもわかっただろッ!? 今は説明してる時間はないんだッ!! いいから早く―――」
俺はここぞとばかりに母さんを焚き付け、この場からの退避を促そうと働きかけようとして、
「か、母さん……?」
―――遅れて気づいた。母さんの表情が異常な程に凍り付き絶望していることに。
「そんな……うそ、うそよッ……奴が、奴がどうしてこんなところに……よりにもよってヴァンがここに居るこのタイミングで……また、また私は……」
「おい、母さん! なぁ母さんッ!! 状況は分かったんだろ!? なら、早く避難をッ!!」
「あ、ああ……ああアアぁあああぁぁぁ」
「母さんッ!! いったいどうしちゃったんだよ!?」
「え、エリシアさん……?」
「ふぇ……ふぁわわわわっ……」
「な、なんなのよこれはッ……!?」
想定外だ。母さんがこうまで取り乱すことなど、俺は考えていなかった。
母さんがこの状態では、今から事態の回避に動いたとしても、もう間に合わない。
可能性は潰えた。もはや俺達には奴らを……否、あの化物の如き魔力反応を発する絶望から逃げる術はない。
弟子達は俺と母さんのあまりの豹変ぶりにようやく事態の異常さを理解し始めながらも、初めて見る母さんの異様な姿への動揺のあまり、正常な思考が働かず、困惑しているようだった。
「おい、母さんッ!! しっかりしてくれ母さんッ!! くそッ、いったいどうして……」
確かに事態は最悪。絶望的状況と言ってもいい。だが、それでもこれはおかしい。
母さんは元冒険者だ。曲がりなりにも戦場にその身を置いていたものである以上、死線を潜ったことも少なくはないはず。なら、この怯え方はおかしいのだ。
そうした場を切り抜けてきた者は、このような危機的状況において停滞ではなく、現状からの離脱に思考が向かうのが必然。しかし、母さんの思考は現状からの離脱に向かうどころか、まるで何かを……“あの化物そのものではない別の何か”を恐れているかのような……、
「ッ―――!? まさか……そういうことなのかッ!?」
ここに来て、ようやく俺の思考がそこに至る。
得体のしれない凶悪な魔力反応。母さんの元冒険者としては異常なまでの恐怖。そして、“ヴァンがここに居るこのタイミングで”というあの言葉。それらは一つの事実を浮かび上がらせる。
間違いない。母さんは“俺を失うこと”を恐れている。
しかし、並大抵の事では母さんはこうはならない。
ならば、考えられる理由は一つだけ。
迫りくる脅威が、それを想起させるものであったというだけの話。
つまりこの魔力反応の正体こそが、
「くっ、そういうことか……それなら母さんのこの反応も頷ける。いつかはこちらから出向こうと思っていたが、まさか、こんな時期にあちらの方から出向いてくるとは思わなかったぞッ?」
―――父さんの敵であるという事実に他ならない。
俺は森の奥の奥、その闇の深まった位置を凝視する。
ヴァンが見つめる視線の先。そこにあるのは、まるで追い立て、従えるかのように幾多のブラックヴォルフを引き連れながら、こちらへと恐ろしい速度で薄暗い森林を疾駆してくる人外の姿。
赤黒く、胎動するが如く波打つ巨体を持ち、頭部からその全身と色彩を同じくした一対の角を生やした悪鬼羅刹。聞かずとも理解した。奴こそが、その顔を見ることすら叶わなかった父さんの命を―――母さんの幸せを奪った怨敵であると。
俺は渋面を作り、張りつめるあまりの緊張感に冷や汗を流しながら、苦々しく告げる。
「なぁ? 殺戮鬼とやらよ」
―――絶望がここに具現した。
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