傭兵魔術師は異世界で英雄を目指す

畑の神様

文字の大きさ
26 / 26
1章

エピローグ

しおりを挟む


「う、うん……ここは……」


 目を覚ます。
 未だぼやける視界のまま辺りを見回してみると、どうやらここは俺の部屋のベッドのようだった。
 

「俺はいったい……いや、待て。確か……」


 そこで、ようやく止まっていた思考が回り始める。
 そうだ。思いだした。
 俺は母さんと弟子達と共に入った森で、卒業試験の直前に襲ってきた殺戮鬼デス・オーグと戦ったのだ。
 

「そうだ。そうだった。俺は奴に勝ったのだったな……全く、我ながらよくあんな奴に勝てたものだ」


 殺戮鬼デス・オーグとの戦いに勝てたのは奇跡だ。
 あの戦いをもう一度行えば、俺が勝てる保証はない。
 今回はなんとか乗り切れた。
 だが、もしもこれから先、奴を超える障害が現れたとしたら……、


「……強く、ならなきゃいけないな。今よりもっと、より強く……」


 と、俺が自身の未熟を再確認したところでギィという木の軋む音と共に、俺の部屋のドアが開かれ、誰かが入ってくる。母さんだ。
 母さんは入ってくるなり、
 

「ヴァン~~ご飯の時間で、す……よ……」


 言って、静止。俺の姿を見て、茫然とした表情をしている。
 これはもしや心配させてしまったかな?
 俺はひとまず母さんがなるべく安心できるように、片手をあげ、『やぁ、母さん』と気さくに声をかけてみたのだが……、


「…………」
「…………」


 訪れる沈黙。比喩ではなく時が凍った。
 まずい、反応を間違えたか? 空気が重い、重すぎるぞ? もっと『ハローッ!! マイマザーッ!!』くらい言っておくべきだったかもしな……いや待て、それじゃただのバカだ。とにかく今はこの状況をどうにか―――


「ヴァンッ!!」
「か、母さんッ!?」


 どうやら、俺の反応などはなから関係なかったらしい。
 母さんはその場に俺の昼食をその場に置くと、一目散にこちらに駆け寄り、抱き着いてきた。


「ヴァンッ……ああ、ヴァンあなたって子はッ!! 無茶をしてッ!! かれこれ一か月、目を覚まさないあなたを母さんがどれほど心配したか……ッ!!」
「い、一か月っ!? 俺はそんなに寝てたの……っていうか、あのー母さんッ!? 痛い痛い痛い!! ミシミシいってるッ!! まだ治りきってない肋骨やらなんやらがなんか不味い感じの音たててるからッ!! お願い、いったん俺を開放してくれッ!!」
「ああ、ヴァンッ……ヴァンんんんッ!!」
「ああああーーーッ!!」


 戦闘の怪我と≪過負荷駆動オーバークロック≫の反動で傷ついた全身が悲鳴を上げているが、俺には母さんを振りほどくことはできなかった。
 正直、クソ痛かったが、俺が母さんにかけさせたであろう心配を考えれば、この位は受けて当然なのかもしれないと思ってしまったからだ。
 とにかく、俺は母さんが落ち着いて、悶えている俺の状態に気づくまで、そのまま軋む体の痛みに耐え続けた。


*****


「さて、ヴァン。それじゃあ洗いざらい話してもらいましょうか?」


 肋骨の痛みに耐え抜いた俺を待ち受けていたのは……母による尋問であった。
 なんというか、もう少し俺に優しくしてくれてもいいと思うのだ。俺、一応怪我人だぞ?
 とはいえ俺もここまで来て隠すつもりなど既にない。
 むしろ母さんの方から聞いてくれるのならば好都合とも言える。


「わかったよ母さん。全部話すよ。え~と、どこから話したもんかな……。それじゃあまずは―――」


 それから俺は母さんに全てを語った。前世の事、転生の事、魔術の事、そして、幼い頃から行ってきた俺の修行の事、全てを包み隠さず話して聞かせた。
 母さんは何も言わずに黙って聞いてくれていたが、俺の前世の話を聞いている時の母さんはどこか悔しそうで、目元には涙すら浮かべていた。
 そうして30分程だっただろうか?
 俺は母さんに全てを語り終えた。
 全てを俺の口から聞いた母さんただ黙って震えている。
 無理も無いか、自分の息子の知らない過去、知らない人格の存在を聞かされたのだ。動揺しない方がどうかしている。
 ……正直、怖い。母さんが俺の事を認めず、壁を作って突き放すのではないかと、俺の心が恐怖している。
 だが、俺からこれ以上母さんにかける言葉はない。
 後は、母さんの決断をただ待つのみだ。
 やがて、黙っていた母さんがこちらを見つめてゆっくりと口を開く。
 俺は母さんに酷い罵倒を浴びせられることすら覚悟して、


「もう……ヴァンのおバカッ!!」
「……へ?」


 想像よりも遥かにマイルドな罵倒に毒気を抜かれてしまった。
 っていうか、なんだよおバカって……そんなツンデレヒロインみたいな罵倒予測できるわけがないだろう。
 

「か、母さん? なんで俺がその……おバカなの……?」
「もう、全てよ全て、まるっと全部含めておバカさんっ!!
 まず、あなたの前世はもう言うまでも無くバカ! もっと自分のやりたいようにして
いいに決まってるじゃない。それに私に転生の事を話さなかった事はもっとおバカ!!
 私がそんな、その程度の事であなたを見捨てるわけがないでしょう!! 
 心外だわーまったくもうっ!!」
「ッ……母さん……俺は……」


 そうか、俺は……俺は母さんの事を何もわかっちゃいなかった。
 転生だとか、前世とか、魔術とか、そんなことは何の関係も無かったのだ。
 ああ、俺はなんと不毛な心配をしていたのだろうか。
 例え、俺が何者であったとしても、母さんが俺の母さんで、俺が母さんの息子であることは変わらないというのに……。
 俺は母さんに謝ろうと、口を開きかけ……しかし、続く母さんの言葉に遮られた。


「ああ、それに……それにね……」
「えーと、あの、母さん……?」
「それに……あなたがそのことを話してくれないから!!
 私が、私が……あなたの前で、どれほどの醜態をさらすことになってしまったと思っているのよぉぉぉおおッ!!」
「…………………はい?」
「ああぁぁぁもうそのとぼけた顔ぉぉぉ!! もうバカもバカ、特大バカよぉっ!! もう、ヴァンのバカぁぁああ!!」
「……ぷ、ぷははははッ!!」
「いやぁぁぁあ私を見て笑わないでぇぇぇえええっ!!」


 いや、無理無理、無茶を言うな。これが、これが笑わずにいられるか!!
 俺がこの世界に生まれて数年。
 勝手に母さんの事を気遣ったつもりになって、隠し続けてきた秘密が、母さんにとっては大したことではなかったのだ。
 いや、それどころか、母さんにとっては俺の前で醜態を晒してしまっていたことの方が重要だったのだと言うのだから、これはもう笑うしかないだろう。
 ああ、やっぱり母さんは母さんだな……。
 

「母さん、俺は……母さんの子供に生まれてよかったよ……」


 俺は未だに自らの醜態の数々を思い出して悶えている母さんを見ながら、そう呟いた。
 まぁそんなになるくらいなら初めからやらなければいいのにと思わなくもなかったが……ある意味それでこそ母さんだともいえるのかもしれない。

 と、そこでふと、俺の頭に疑問が浮かぶ。
 それにしても、一か月。≪過負荷駆動オーバークロック-第二段階セカンドフェイズ≫の後遺症だとしても長すぎる。
 心当たりがあるとすれば、奴の最後の攻撃、あれを避けた時のあの感覚だけだが……あれが何だったのかは正直俺自身にもさっぱりわからない。
 それに弟子達の事も気になる。俺がもしも本当に一か月も寝ていたのだとしたら、あいつらは一体どうしたのだろうか?


「母さん、そういえば、レオ達は……?」
「ふぇ? え~と、あ、ああ!! あの子達ならもう行ったわよ。あなたの弟子として恥じないような人間になるって息巻いてたわ」
「そうか……無事行ったのか」


 俺に気を使って出発を後らせたりしていないか心配だったが、どうやらそれは無駄な心配だったらしい。
 だが、そうか……あいつらはもう行ったのか……。
 いかんな、もう当分あいつらの姿を見ることができないと思うとやはり少し寂しいなと感じる。
 前世の俺ならこんな感情は湧かなかっただろうに。
 俺がそんな自分の心境の変化に驚きを覚えていると、突然母さんが思いだしたように声を上げた。 


「あ、そうだ!! あの子達から手紙を預かってるのよ!!」
「あいつらから……?」
「そうよ!! 直接あなたにお別れが言えないからってね。
 あなたが起きたら渡してくれって頼まれてたのよ。え~と、どこにしまったかしら?」

 そう言って、部屋の引き出しを漁ること数分。


「え~と、あっ!! あったわ!! これよ、これ!!」


 母さんが引き出しから取り出したのは三通の手紙だった。
 俺は手渡された手紙にじっくりと目を通していく。
 まず、最初の手紙はレオからだった。


『師匠!! 本当は師匠が目を覚ますまで待って、直接言いたかったけど、魔法学園のある王都への馬車は一年に数回しかこんな辺境の村には来ない。これを逃すと俺達が王都へ行けるのは大分先になっちまう。
 きっと師匠の事だ。俺達が師匠を待って出発を先延ばしにしたって知ったら怒るだろうから、先に行かせてもらうことにしたぜ』


 おお、流石は俺の一番弟子、よくわかってるじゃないか。
 俺は弟子の俺に対する理解度に感心を抱きながら、さらに読み進める。


『師匠、俺、師匠の弟子になってたくさんの事を教わったよ。
 戦闘技術に、魔法の使い方に、索敵技術、本当にたくさんの事を教わったんだ。
 でも、中でも今回の事は特別だ。圧倒的格上の敵、それに対し、ただ震えるんじゃなくて、俺達を守るために真っ向から立ち向かっていった師匠の背中はまだ俺の目に焼き付いて離れない。
 あの背中が、力を得て奢っていた俺に、みんなを守りたいって気持ちを思い出させてくれた。
 でも、思えば師匠はあの日もそうだった。
 俺が挫けそうになって、守り切れないと思った時でも、師匠は俺達を助けてくれた。
 あの日、師匠が俺達を助けてくれなかったら俺達はこうして生きてはいなかったと思う。
 だから、改めて言わせてもらうよ、師匠。
 あの日、俺たちを助けてくれて、本当にありがとうございました。
 そして、師匠。俺は誓うぜ。俺は今まで見てきた師匠の背中に恥じない男なる!! なって見せる!!
 二度と、みんなを守り切れなかったあの日のような思いをしないために……。
 どうせ師匠の事だからそのうち魔法学園にはやってくるんだろ?
 だから、さよならは言わない。師匠、先に行って待ってるぜ!!』


 ああ、あいつらしい。
 そう素直に思った。
 ってか、あいつ俺に対する理解力本当に高いな。というか、むしろ高すぎてちょっと怖い。エスパーかってレベルだ。
 そういうのって確かノアの専売特許じゃなかったか?
 もしかして、俺がただわかりやすいだけ……?
 いや、ないな。断じてない。
 前世じゃ寡黙な傭兵やってた俺だぞ? わかりやすい事なんてあるはずがないんだ。
 
 俺は無理矢理にそう断ずると、続く手紙に視線を移す。
 次はノアからの手紙だった。


『ヴァン君。どうせこっちに来るのだろうから多くは語らないわ。まずはありがとう。
 あなたのおかげで、私たちは……私は強くなることができた。でも、それだけじゃない。
 あなたがいなかったらあの日、エリスは私を庇って死んでいたわ。
 エリスが今も生きているのはヴァン君、あなたのおかげです。本当にありがとう。
 それに、エリシアさんと出会えたのもあなたと出会えたからこそ。
 あんなに温かくしてもらえたのは久しぶり……いや、もしかしたら初めてだったかもしれないわね。
 大人の人たちは魔法の才能があった私たちを心なしか恐れていたから……凄く、嬉しかったわ』


 確かに、あいつは口調も、動作も、思考も、何もかも少し大人びている節があった。
 それはきっと、最初からそうであったのではなく、そうならなければいけなかったのだろう。
 それを証明するように、ノアはエリシアの前では心なしか子供らしさを感じさせていた。おそらく本人に自覚はないだろうがな。
 まぁ正直、俺はそれよりもノアが冒頭から俺の魔法学園行きを断定しているところの方が衝撃的だ。
やっぱりあいつ、エスパーだろ。
 俺がわかりやすくない以上、それしかあり得ない。あり得ないったらあり得ないんだ。

 俺はそんなささやかな抵抗を脳内で行いながら、手紙を読み進める。


『ああ、長くしないつもりだったのに結構長くなっちゃったわね。
 どうやら私も自分が思っていたよりも随分とあなたに伝えたいことがあったみたい。
 とりあえず、私が伝えたかったことはこれで全部よ。
 最後にこれだけ、ヴァン君、ありがとう。先に学園で待ってるわ。

 追伸……最初はあなたにレオを取られそうで焦っちゃったけど結果的にあなたのおかげでレオといられる時間が増えてよかったわ。ありがとね!』


 ……………………は?
 え、いや、ちょっと待って? ぇ?
 この追伸、ノアってもしかしてってか、もしかしなくても……レオの事が好きだったのかっ!?
 いや、でもそう考えたら妙に納得がいく節も……、レオが弟子にしてくれって頼んできたときも妙に焦って弟子入り志願してきたし……。
 まじか……まったく気づかなかった……。
 いや、前世でもある意味俺その辺とは無縁……とは言わなくても、あまり縁の無い殺伐とした世界生きてたし? その辺の機微が苦手でも仕方がないと思うんだ。
 もしかして、この分だと同じ要領でエリスもあいつの事好きなんじゃないか!?
 いや、エリスの事だ。二人に置いて行かれるのが嫌だっただけって可能性は大いにある。というより、俺は今までそうだと思ってたんだが……う~ん、どうなんだろ。
 まぁどうせ考えても仕方ないか。俺にはわからんし、関係も無いだろう。色恋沙汰はあいつらで好きにやってくれればいい。
 
 俺は気を取り直して最後の……エリスからの手紙に視線を移した。


『ヴァン先生、お体は大丈夫かな……?
 先生のことだからきっと大丈夫なんだろうとは思うけれど、私はやっぱりちょっと心配です。
 先生は無属性だからって理由で、みんなから見捨てられて、レオ君達にも守ってもらうことしかできなくて、そして全てを諦めていた私に、沢山のものを授けてくれました。
 魔力回路に、戦う技術、そして立ち向かう勇気、それと……。
 とにかく、先生は多くのものを私に与えてくれました。
 先生がいたから、今の私はここに居ます。
 そして、例え無属性であろうとも、臆することなく魔法学園に出発できます。
 きっと、無属性の私には、学園では辛いことがたくさん待っていると思う。
 でも、それでも、今の私なら耐えられると、そう思っています』


 ……そうだ。きっとそうだと思う。
 三人の中で、特に俺の安否を気遣ってくれた、そんな優しいエリス。
 彼女は強くなったとはいえ、無属性だ。
 この世界に無属性に対する劣等意識が存在する以上、それは彼女の行く道に多くの障害を与えるだろう。
 もしかすると、最悪入学を断られてしまう可能性もある。
 それでも今の彼女なら何とかして見せるだろうが……それが困難な道であることには違いない。
 
 俺は複雑な思いを抱えながら、先を読み進め……その心配が俺の杞憂であったことを悟った。


『先生は優しい人だからきっとここまでの文を見て、きっと私の事を心配してくれているんだろうね。
 でも、安心してください。私は大丈夫です!!
 もう、弱かった私はいません。力の話じゃない。心の話です!!
 例え何があろうとも、先生に教わった数々の事を胸に、私は突き進みます。
 壁があったら乗り越える。超えられないならぶち壊す!! それだけです!!
 そうして、いつか、先生の隣に立てるような、そんな人になって見せます!!
 先生はきっと魔法学園にいつかくるのだろうな~って思います。
 だから、その時までには先生を驚かせられるくらいには成長しといて見せようと思うので、是非是非期待していて下さいね!! 先生の事、待ってます!!』


 エリス。その時を待つまでも無い。俺は充分、この瞬間にも驚いてるよ……。
 最初は自分に自信が無くて、戦うことなんてできなくて、ただ誰かに守られてるだけだった。
 そんなエリスがここまで強くなったんだ。驚かないはずがない。
 でも、一つだけあいつは勘違いをしてるけどな。
 あいつの心は強くなったんじゃない。最初から強かったんだ。
 ただ、それを曝け出せていなかっただけ。
 その証拠に、俺が初めてあいつらに出会った時、あいつは死ぬ覚悟をしてノアを庇っていた。
 まだ十歳にもなってなかった女の子がだぞ?
 そんな子の心が弱いわけがないだろう。
 俺はただ、それを曝け出すための手助けをしたに過ぎないんだ。
 ああ、でも、なんだろう。なんていうか、嬉しいものだな、これは……。

 エリスの成長に軽く涙ぐんで感動していた俺だったのだが……、読み進めてふと気づく。
 よく見ると、エリスの手紙にもノアのものと同じように少し空間を挟んで追伸がしてある。
 ここまでの内容に十分な感動を得てしまい、思わず見落としていた。
 俺は母さんが持ってきてくれたものの中にあった紅茶に手を伸ばし、その味に舌鼓を打ちながら、その追加の文に目を通し、次の瞬間、


『追伸―――私をこんな体にしたのは先生なんだから、ちゃんと責任とってくださいね、ヴァン!!』 
「ぶふうううううううーーーッ!?!?!?」


―――その全てを盛大に空中に噴出した。

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
 なにこれ、なにこれ、なんだこれはッッッ!?
 いや、わかっている。こんな体にしたっていうのはきっと魔力回路を体内に植え付けたことを言っているのだろう。いやだが、それにしてもこの言い方ではまるで―――


「あらあら、ヴァンちゃん? これは……一体どういうことなのかしら? ふふ、うふふふふ……」
「か、母さん!? いつの間に俺の後ろにっ!? いや、待て、待ってくれ。違う。これには山よりも高く、谷よりも深遠なよんどころない事情というものがあってですね!?」
「ふふふ、御託はいいのよ、ヴァンちゃん。話はゆっくり、ゆうぅぅぅッッッくりと聞いてあげるから、ね?」
「あ、あああああ……」


 まずい、母さんが臨戦態勢だ……。
 呼び方が何故かヴァンちゃんに戻っているし、もうなんか笑顔と笑い方が凄まじく怖い。
 にじり寄ってくる母さん。
 ベッドの上で後ずさる俺。
 されど、ベッドの上に後ずされる距離など、僅かしかないわけで……。


「さぁ、ヴァンちゃ~ん? たッッッくさんお話し、しましょうねぇ~?」
「ギャぁああああぁア嗚ああああ」


 この後、何があったかは語りたくも無い。
 ただ一つ、語ることがあるとするならば、母さんという存在は特定の場において、殺戮鬼デス・オーグに匹敵、あるいはそれを超越する恐ろしさを発揮するということだけ、言っておこうと思う。


*****


 弟子たちが王都へと旅立った後、母さんへの正体バレの心配がいらなくなった俺は思うがままに、全力で己を鍛え続けた。
 あの日自覚した我が身の未熟さ、そして、今この瞬間にも恐ろしい速度で成長していっているであろう弟子達に負けないよう、俺は自分を肉体面、魔力面、精神面、あらゆる側面において、高め続けていった。


―――そうして月日は流れ、三年の時が過ぎた。



「それじゃあ、母さん。行ってくるよ」
「ええ、あの子たちによろしくね。
 ……頑張るのよ。辛くなったら、いつでも母さんの元へ戻ってらっしゃい?
 そうじゃなくても、ちゃんとたまには顔見せたりしてくれると嬉しいわ」
「はは、心配性だな母さんは……まぁうん、善処するよ。それじゃあ……」
「……そうね。元気でね、ヴァン」
「うん、母さんこそ、体調には気を付けて」
「ありがとうね。行ってらっしゃい、ヴァン」
「ああ、行ってきます、母さん」


 俺はそう母さんに告げると、王都へと向かう馬車に乗り込み、生まれ故郷の村を出発した。
 目指す先は魔法学園。あいつらが先に向かった、魔法使いのための学園。
 これから俺を何が待つかはわからない。
 学園の授業の内容、あるであろう資料の数々、王都の街並み、そして……成長した弟子達。
 未知なる多くの事が俺を待っているだろう。
 ああ、楽しみだ。楽しみで仕方がない。
 俺はこれから俺を待ち受ける出来事への期待に胸を膨らませながら、王都へと向かう馬車の激しい揺れに身を任せた。


―――――――――≪一章・完≫――――――――――
 
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

enemy
2017.09.28 enemy

1章完結おめでとうございます?
続きが気になります?更新してください(。>д<)

2017.12.10 畑の神様

感想ありがとうございます!
返信がかなり遅くなってしまい申し訳ございません。
著者の近況が忙しく、なかなか投稿できない状況になってしまっています。
出来るだけ早く復帰したいとは考えているので今しばらくお待ち下さいますようお願いします……。
読んで頂き、本当にありがとうございます!

解除
花蓮かおる
2017.01.06 花蓮かおる

1章完結おめでとうございます
第2章が楽しみです

2017.01.13 畑の神様

感想ありがとうございます!
リアルが忙しく書くのが止まっていて申し訳ございません!
時間が出来次第二章も書いていこうと思っているのでお待ちいただければ幸いです!

解除
ryo
2016.06.27 ryo

一章完結おめでとうございます。更新待ってます

2016.07.01 畑の神様

感想ありがとうございます!
次章はまたプロットを立ててからになるので少し時間がかかってしまうかもしれませんが、気長にお待ちいただければと思います!
これからも今作をよろしくお願い致します。

解除

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。