傭兵魔術師は異世界で英雄を目指す

畑の神様

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1章

初訓練

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「さて、あいつら逃げずにちゃんと来るのかね?」


 俺はそんなことを呟きながら、魔術で気配を薄くした状態のまま、森の入り口周辺で待機していた。

 あの日、俺はノアとレオとエリスの三人に森で見たことを黙っていてもらうのと引き換えに、訓練をすることが決定したからだ。

 待ち合わせ場所は既に別れ際に告げてある。後は三人が本当に自分の意志でやってくるかどうかだったのだが……。


「ああ、本当に来ちゃったよ……」


 どうやら彼らの意志は本物だったらしい。三人は周囲の目を気にしながら、慎重にこちらへとやってくる。これでどうやら俺は本格的に訓練をやらなければならないみたいだ。まぁとりあえず、今日は三人がどれくらい動けるのか見て見ることにするかな?


「おい、師匠ぉ~どこだよ~! いるんだろ~?」
「だめだよレオ、そんな大声出したら、見つかっちゃうよ!!」
「そうね、ここはまだ森の入り口、こんなところで騒げばすぐに大人が来ちゃうわ。それ以上叫ぶのは控えるのが賢明ね」


 そんなことを考えながら待っていると、ようやく三人が指定した通り、森の入り口から少し入ったところにやってきたので、俺も魔術を解いて姿を現すことにする。


「……まさか、本当に来るとはな? 正直驚いたぞ、ただでさえ昨日あんな目に会ったばっかだって言うのにさ」
「――ひっ!」
「あれ、なんだやっぱりもういたんじゃないか師匠、いたなら返事してくれればいいのに」
「……不意打ちなんて、ちょっと卑怯だわ。ほら見て、エリスなんか少し腰抜かしてるじゃない」
「いや、済まない。まさかそこまで驚かれるとは思ってなかったんだ。次からは気を付けるよ」


 いや、ほんとに……というか、そこまで驚かれると俺ちょっと傷つくんだが……そんな幽霊みたいな扱いはやめてほしいな、ほんと。俺の心が痛い。


「で、ヴァン君。私達をここに集めたのはいいけど……結局のとこ、今日はどんなことをするつもりなの
?」
「ああ、そうだぜ師匠、今日は何するんだ?」
「そうだな、まずはそれを説明しておくか、俺としては今日は3人の実力、要は現状でどの程度の力を持っているのかを見してもらおうと思っている。それがわからなければ訓練のしようもないからな」
「実力を……見せるですか……。でもやって私達の実力を見るつもりなの、ヴァン先生?」
「それは簡単。これから三人には……ゴブリンと戦闘してもらおうと思っている」
「えっ!? ゴブリンと!?」


 エリスは声を上げて驚く。しかし、ノアとレオはむしろ落ち着いた表情で頷いていた。どうやらその可能性はすでに考えていたらしい。

 ノアはその上で出て来たらしい疑問を解消しようと、質問を返してくる。


「なるほど……それを見て、私達の戦闘スタイルやもろもろを理解しようってことなのね? でもそんなに上手くいくものなの?
 そりゃあ森をずっと歩き回ってればそのうち嫌でも遭遇するだろうけど、それじゃあいろいろと無駄が多くない?」
「その点は心配ない。ゴブリンの場所なら俺が魔力を察知すれば簡単に見つけ出せる。なんなら相手の数もわかるぞ?」
「師匠はそんなこともできるのか!」
「やっぱりヴァン先生ってすごいんだね!」
「……魔力を察知できるって、それはすごい程度じゃ済まないと思うのだけれど……」


 ……いやいや、魔力の察知程度、前世じゃ出来て当たり前だったぞ? というか出来なきゃ殺られる。敵の中に魔術を使える者がいるかどうかを判断するのは常識で、それができないような奴はまず真っ先に意識外からの唐突な魔術にやられるだけだ。魔術が広まってるこの世界でもその程度、そう珍しくないと思っていたのだが……違うのかな?


「ノア、魔力を察知できるってそんなすごいのか? 俺としてはノアもできるんじゃないかと思っていたんだが……」
「無茶を言わないで、そんなことをできるのはあなたぐらいのものよ。私にはそんな芸当出来ない、というより、そんなの高位の魔法使いでないとできないわ」
「そ、そうなのか……」


 まじか、良くこの世界の人よく死なないな……あーでもほとんどの人が魔術を使えるって事は、最初から魔術が飛んでくる前提で闘ってるのか……それなら別に相手の魔力を察知できなくても問題は無いか、まぁそんなに殺伐とした戦いがあるかどうかもわからんけど。


「まぁ、いいか。じゃ、とりあえずはそう言うことだ。それじゃあずっとこんな入り口付近に居て村人に見つかってもマズいし、早速行こうか?」
「ええ、そうしましょう」
「うん、わかった。行こうヴァン先生!」
「よっしゃ、頑張るぜ!!」


 三者三様の返事を確認すると、俺は森の奥へと足を進める。ノア、エリス、レオの三人は俺の後ろをゆっくりとついてきた。

 俺は歩き始めるとすぐに、立てた人差し指と中指の二本の指を額の前まで持って行き、一気に下方へと振りおろす。探索魔術を発動するための固有動作ルーティーンだ。ソナーのように広がった俺の魔力は反射し、俺の元へと帰ってくると同時に、その詳細を俺の頭の中へと直接投影してくれた。

 うん、どうやら丁度良くそう遠く無い場所にゴブリンが3体ほどいるみたいだから、行ってみるかな?

 こちらは三人、相手も三体。丁度いいだろ。


「よし、三人とも、早速ゴブリンを三体ほど見つけた。少し走るぞ?」
「え、でも、私は……」
「何言ってんだよエリス! ほら、早くいこうぜ」
「ええ、レオの言う通りよエリス。取りあえずいきましょう。後のことは行ってから考えればいいわ」
「よし、準備はいいな。それじゃあ行くぞ?」


 俺はそう言うと、いつもより少しゆっくりと目的の場所へと走り始めた。

 え、なんで、ゆっくりかって? それは、


「え、うそ!? ちょ、速っ!?」
「え、そんな、待ってよ、ヴァンくーん!!」
「絶対五歳児じゃないわ、あれは五歳児の皮を被った何かよ、絶対!」


 ……全力で走ったら三人を置いて行っちゃうからだよ。一応これでも、かなりゆっくり走ってるつもりなんだけどな……。

 俺は三人がついてこれるように、もう少しだけ速度を落としながら、ゴブリンの元へと向かった。
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