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10歳の春
スライム
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しかし、悲しいものは悲しかった。
寂しいものは寂しかった。
それもそうだ。
ミルコはまだ三歳。
本来ならば親の………或いは誰か大人の庇護が無ければ生きていけない年齢だったのだから。
最低限の庇護があったといえば、あったのだろう。
食事は最低限でもあったし、ボロく本宅から離れた別棟ではあったが住む場所もあった。
服だって毎日清潔な、けれども着古した服が与えられていた。
愛情以外は何だってあった。
文句言うのは筋違いだと、使用人の一人は嘲笑った。
けれども幼いミルコが最も欲しかったのは、その【愛情】だった。
誰かに抱き締めて欲しかった。
頭を撫でて欲しかった。
手を繋いで欲しかった。
何故こんな目に遭わないといけないのか、分からなかった。
そんなある日、ミルコは別宅に隠し通路があることを発見した。
恐らく緊急時の避難用として作られていたのだろうソレは、裏手の森の入口に繋がっていた。
鬱蒼と生い茂る木々で太陽は隠され、光が十分に届かず薄暗い。
がさがさと騒がしい音が聞こえるのは、小型の魔物だろうか。
そう思った瞬間、恐怖で足が竦み動かない。
屋敷の中、特に本宅は強固な結界で護られている。
しかし今ミルコが住む別棟にも結界が施されているのかは、分からなかった。
もしかしたらミルコを追って魔物が入って来るかもしれない。
そう考えると、逃げても逃げなくても一緒だ。
音はどんどん大きくなる。
きっと、魔物が近寄っているんだ。
そう認識すると、ミルコの眦から涙が溢れて零れていく。
どうもこうもしようがない。
がさりっ
「………ひっ!」
一際大きな音を立てて現れたのは、不思議な巨大スライムだった。
一般的なスライムは茶色で大きくても20cm位なのに対しそのスライムは灰色であったし、栄養失調気味で他の子供よりも小さいとはいえ三歳のミルコと同じ大きさをしていた。
瘦せっぽちなミルコならば、頭からバリバリと食べれそうな大きさ。
そんな大きなスライムはどっちりどっちりとボディを揺らしながら、ゆっくりとミルコに近寄って来る。
まだ幼いミルコに、スライムがどういう生態かは分からない。
けれどだからこそ、恐ろしくて仕方なかった。
逃げようと咄嗟に踵を返したミルコだったが、恐怖でパニックになっている上に運動不足の両足はいうことを聞いてくれず無様に転ぶだけに終わる………筈だった。
ぼよよんっ
「ひっ………ぅ?」
しかしその直前、そのスライムが身を滑らせてミルコを庇ってくれたのだ。
そのスライムのボディは一般的なスライムと違い固さがあったが、寧ろそのおかげでミルコの身体は適度に跳ね、衝撃が吸収された。
「あ、あいがと………」
偶然かもしれない。
けれどもミルコにはそうは思えず、スライムが庇ってくれたように思えたのだ。
ゆっくりとスライムのボディから身体を退かすと、スライムはふるふるとボディを震わせミルコの背中に回った。
「………?なぁに?」
何をするのだろうかとミルコが見ていると、スライムはボディの真ん中を器用に凹ませてみせた。
まるで背凭れの無い小さな椅子のような形だ。
しかし、何が言いたいのかが分からない。
「ぅへっ!?」
オロオロするミルコに焦れたのか、スライムはその形のまま飛び跳ねると再びミルコの背後に回り、膝カックンの要領でそのボディに座らせた。
驚き怯えるミルコをお構いなしに、スライムは小さく飛び跳ねながら移動する。
どこに連れて行かれるのかと思ったら、先程ミルコが出て来たばかりの隠し通路の出入口だった。
「かえれって、こと?」
首を傾げるも、スライムは喋れないから何も言わない。
しかし、まるでそれが答えだと言わんばかりに、スライムはゆっくりとボディを縮ませてミルコを立たせた。
ミルコは振り向くも、スライムは動かない。
やはり、帰れということなのだろう。
ミルコを食べる気があるのならば、きっととっくに食べている筈だ。
「………わかった。バイバイ。」
手を振って、ミルコは来た道に戻って行った。
その背中が小さくなり、やがて見えなくなるまで。
スライムはただ黙ってミルコの背中を見詰めた。
寂しいものは寂しかった。
それもそうだ。
ミルコはまだ三歳。
本来ならば親の………或いは誰か大人の庇護が無ければ生きていけない年齢だったのだから。
最低限の庇護があったといえば、あったのだろう。
食事は最低限でもあったし、ボロく本宅から離れた別棟ではあったが住む場所もあった。
服だって毎日清潔な、けれども着古した服が与えられていた。
愛情以外は何だってあった。
文句言うのは筋違いだと、使用人の一人は嘲笑った。
けれども幼いミルコが最も欲しかったのは、その【愛情】だった。
誰かに抱き締めて欲しかった。
頭を撫でて欲しかった。
手を繋いで欲しかった。
何故こんな目に遭わないといけないのか、分からなかった。
そんなある日、ミルコは別宅に隠し通路があることを発見した。
恐らく緊急時の避難用として作られていたのだろうソレは、裏手の森の入口に繋がっていた。
鬱蒼と生い茂る木々で太陽は隠され、光が十分に届かず薄暗い。
がさがさと騒がしい音が聞こえるのは、小型の魔物だろうか。
そう思った瞬間、恐怖で足が竦み動かない。
屋敷の中、特に本宅は強固な結界で護られている。
しかし今ミルコが住む別棟にも結界が施されているのかは、分からなかった。
もしかしたらミルコを追って魔物が入って来るかもしれない。
そう考えると、逃げても逃げなくても一緒だ。
音はどんどん大きくなる。
きっと、魔物が近寄っているんだ。
そう認識すると、ミルコの眦から涙が溢れて零れていく。
どうもこうもしようがない。
がさりっ
「………ひっ!」
一際大きな音を立てて現れたのは、不思議な巨大スライムだった。
一般的なスライムは茶色で大きくても20cm位なのに対しそのスライムは灰色であったし、栄養失調気味で他の子供よりも小さいとはいえ三歳のミルコと同じ大きさをしていた。
瘦せっぽちなミルコならば、頭からバリバリと食べれそうな大きさ。
そんな大きなスライムはどっちりどっちりとボディを揺らしながら、ゆっくりとミルコに近寄って来る。
まだ幼いミルコに、スライムがどういう生態かは分からない。
けれどだからこそ、恐ろしくて仕方なかった。
逃げようと咄嗟に踵を返したミルコだったが、恐怖でパニックになっている上に運動不足の両足はいうことを聞いてくれず無様に転ぶだけに終わる………筈だった。
ぼよよんっ
「ひっ………ぅ?」
しかしその直前、そのスライムが身を滑らせてミルコを庇ってくれたのだ。
そのスライムのボディは一般的なスライムと違い固さがあったが、寧ろそのおかげでミルコの身体は適度に跳ね、衝撃が吸収された。
「あ、あいがと………」
偶然かもしれない。
けれどもミルコにはそうは思えず、スライムが庇ってくれたように思えたのだ。
ゆっくりとスライムのボディから身体を退かすと、スライムはふるふるとボディを震わせミルコの背中に回った。
「………?なぁに?」
何をするのだろうかとミルコが見ていると、スライムはボディの真ん中を器用に凹ませてみせた。
まるで背凭れの無い小さな椅子のような形だ。
しかし、何が言いたいのかが分からない。
「ぅへっ!?」
オロオロするミルコに焦れたのか、スライムはその形のまま飛び跳ねると再びミルコの背後に回り、膝カックンの要領でそのボディに座らせた。
驚き怯えるミルコをお構いなしに、スライムは小さく飛び跳ねながら移動する。
どこに連れて行かれるのかと思ったら、先程ミルコが出て来たばかりの隠し通路の出入口だった。
「かえれって、こと?」
首を傾げるも、スライムは喋れないから何も言わない。
しかし、まるでそれが答えだと言わんばかりに、スライムはゆっくりとボディを縮ませてミルコを立たせた。
ミルコは振り向くも、スライムは動かない。
やはり、帰れということなのだろう。
ミルコを食べる気があるのならば、きっととっくに食べている筈だ。
「………わかった。バイバイ。」
手を振って、ミルコは来た道に戻って行った。
その背中が小さくなり、やがて見えなくなるまで。
スライムはただ黙ってミルコの背中を見詰めた。
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