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10歳の春
ウィル
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「そういえばお父さんは、どうしてここにいたの?ケガは?だいじょうぶ?」
「ん?あー………」
ニールの問いに、ウィルは料理の準備をしていた手を止めてガリガリと頭を掻いた。
それは、怪我をしていた方の腕。
兎型モンスターに不覚を取る程の深手だったが、今はもう痛みは無い。
本来ならばあまり好んで話したくない内容ではあるのだが、ニールとウィルは家族になるんだ。
一緒に暮らすようになる以上、身体に関わる隠し事はすべきじゃないだろう。
「ニールは獣人を知ってるか?」
「うん。見たことないけど、しってる。ずかんで見た。」
以前持ち出した図鑑は、スライムの頁があまりにも少なくて当然ながらすぐに読み終わってしまったので、ニールとシグルドは他の頁も見て過ごしたのだ。
そこには大きくて勇ましいドラゴンから、小さな小精霊まで様々な絵と説明があった。
人間の頁もあって面白いなと思っていたのだが、その隣には天使や悪魔に獣人や竜人など、人間に似ているけど人間じゃない生物も沢山書いてあった。
ただ、ニールにはやはり表現が難しくてさっぱり分からなかったのだけれど。
「そうか。どこまで知ってる?」
「にんげんじゃないけどにんげんににてる!」
「そうだ。物知りだな、ニールは。他には?」
自信満々に笑顔で知っていることを答えるニールを褒めながら、ウィルは簡易調理器具の準備を進める。
ウィルは強面な外見とは裏腹に、子供好きで褒めて伸ばすタイプだ。
そしてニールは褒められることに飢えているから、もっともっとと頑張るタイプでもあった。
「えへへっ。えっとね、モンスターじゃないどうぶつのとくちょうがある人のことってみたよ。」
正直な話、モンスターと動物の違いがニールにはよく分からない。
まぁそれも当然な話だ。
【動物】と呼ばれていた生物の殆どが、魔素に侵されて変貌しモンスターとなったのだから。
「よく知ってるな。」
「うん!でもそこまでしかわかんなかった………」
三歳以降放っておかれたニールは、教育らしい教育は受けていない。
マナーも勉強も、三歳までの教育で止まっている。
それでも三歳よりも少しばかりマシなのは、ニールが止まらなかったからだ。
シグルドと一緒に居たい。
それだけを胸に、拙い独学を繰り返したからに他ならない。
「そんだけ分かれば十分だ。ニールの言う通り、獣人は動物の特徴を外見だったり内面に持つ連中だ。総じて身体能力だったり自己治癒力が優れてるのも特徴だな。お、シグルドおかえり!悪いな、大変だったろ。」
「おかえりシグルド!!」
ニールの知識にウィルが補足を入れていると、ボディの中に水を抱えたシグルドが戻って来た。
ウィルが特に指示をしていないにも関わらず用意していた鍋やら食器やらにまんべんなく注ぎ、残った分は自分の中に保管したままにしている。
本当に賢い………というか、下手な人間よりもずっと自立した考えを持っている気がしてならない。
どこに脳みそに値する器官があるのかは、全く分からないが。
「それで、じゅうじんさんがどうしたの?」
「ああ。」
ニールの質問に、ウィルは手を動かしながら答えてやる。
獣人はその強大な力を持つ代わりに、召喚や魔法などを扱うことが出来ない。
その所為で貴族からは無能だと疎まれる所以になっている。
「俺は親父が狼の獣人でお袋が人間なんだ。で、俺は見た目は人間なんだが、他は獣人の特徴が出てる。」
臭いに敏感だし、身体能力だって高い。
ちょっとした怪我ならば、少しジッとしているだけで治ってしまう。
実際、ニールと出会った時も、兎型モンスターを撒いて木の上にでも留まっておくつもりだった位だ。
ただその代わり、ウィルは召喚魔術を行うことが出来ない。
「………お母さん、どこにいっちゃったの?」
「ん?俺の番のことか?あー………カミサマが連れて行っちまったんだ。」
急に百八十度変わった話にもウィルは慌てずに、それでいて言葉を濁しながら答えた。
ウィルは狼獣人の質が強く、番だと見初めたたった一人だけを愛した。
子供が好きで二人でいつかいつかと願っていたが、それでも七年前に起きた流行病の波はあっさりとそんな愛しい彼女を呑み込んでしまい、そうして何事も無かったかのように引いた。
「お父さん、ひとりだったの?」
悲しそうな顔でニールが言った言葉が、ウィルの心をひどく抉った。
妻が死んで七年。
一生の内で、たったそれだけの年数だ。
それでもそれは、ウィルにとって気が狂いそうな程に永い年月だった。
これから先も続くのかと思うと、本当に気狂いになりそうだった。
そんな気持ちを隠しながら、両親や妹家族の前では常の状態を装う日々だった。
「もう僕とシグルドがいるからね。なかないで。」
小さな掌が、ウィルの頬を撫でた。
今包丁を持っているから危ないと、叱るべきだと分かっているのに声が出なかった。
ただ、喉が引き攣って辛かった。
まるで、ほんの少し前のニールのように。
「ん?あー………」
ニールの問いに、ウィルは料理の準備をしていた手を止めてガリガリと頭を掻いた。
それは、怪我をしていた方の腕。
兎型モンスターに不覚を取る程の深手だったが、今はもう痛みは無い。
本来ならばあまり好んで話したくない内容ではあるのだが、ニールとウィルは家族になるんだ。
一緒に暮らすようになる以上、身体に関わる隠し事はすべきじゃないだろう。
「ニールは獣人を知ってるか?」
「うん。見たことないけど、しってる。ずかんで見た。」
以前持ち出した図鑑は、スライムの頁があまりにも少なくて当然ながらすぐに読み終わってしまったので、ニールとシグルドは他の頁も見て過ごしたのだ。
そこには大きくて勇ましいドラゴンから、小さな小精霊まで様々な絵と説明があった。
人間の頁もあって面白いなと思っていたのだが、その隣には天使や悪魔に獣人や竜人など、人間に似ているけど人間じゃない生物も沢山書いてあった。
ただ、ニールにはやはり表現が難しくてさっぱり分からなかったのだけれど。
「そうか。どこまで知ってる?」
「にんげんじゃないけどにんげんににてる!」
「そうだ。物知りだな、ニールは。他には?」
自信満々に笑顔で知っていることを答えるニールを褒めながら、ウィルは簡易調理器具の準備を進める。
ウィルは強面な外見とは裏腹に、子供好きで褒めて伸ばすタイプだ。
そしてニールは褒められることに飢えているから、もっともっとと頑張るタイプでもあった。
「えへへっ。えっとね、モンスターじゃないどうぶつのとくちょうがある人のことってみたよ。」
正直な話、モンスターと動物の違いがニールにはよく分からない。
まぁそれも当然な話だ。
【動物】と呼ばれていた生物の殆どが、魔素に侵されて変貌しモンスターとなったのだから。
「よく知ってるな。」
「うん!でもそこまでしかわかんなかった………」
三歳以降放っておかれたニールは、教育らしい教育は受けていない。
マナーも勉強も、三歳までの教育で止まっている。
それでも三歳よりも少しばかりマシなのは、ニールが止まらなかったからだ。
シグルドと一緒に居たい。
それだけを胸に、拙い独学を繰り返したからに他ならない。
「そんだけ分かれば十分だ。ニールの言う通り、獣人は動物の特徴を外見だったり内面に持つ連中だ。総じて身体能力だったり自己治癒力が優れてるのも特徴だな。お、シグルドおかえり!悪いな、大変だったろ。」
「おかえりシグルド!!」
ニールの知識にウィルが補足を入れていると、ボディの中に水を抱えたシグルドが戻って来た。
ウィルが特に指示をしていないにも関わらず用意していた鍋やら食器やらにまんべんなく注ぎ、残った分は自分の中に保管したままにしている。
本当に賢い………というか、下手な人間よりもずっと自立した考えを持っている気がしてならない。
どこに脳みそに値する器官があるのかは、全く分からないが。
「それで、じゅうじんさんがどうしたの?」
「ああ。」
ニールの質問に、ウィルは手を動かしながら答えてやる。
獣人はその強大な力を持つ代わりに、召喚や魔法などを扱うことが出来ない。
その所為で貴族からは無能だと疎まれる所以になっている。
「俺は親父が狼の獣人でお袋が人間なんだ。で、俺は見た目は人間なんだが、他は獣人の特徴が出てる。」
臭いに敏感だし、身体能力だって高い。
ちょっとした怪我ならば、少しジッとしているだけで治ってしまう。
実際、ニールと出会った時も、兎型モンスターを撒いて木の上にでも留まっておくつもりだった位だ。
ただその代わり、ウィルは召喚魔術を行うことが出来ない。
「………お母さん、どこにいっちゃったの?」
「ん?俺の番のことか?あー………カミサマが連れて行っちまったんだ。」
急に百八十度変わった話にもウィルは慌てずに、それでいて言葉を濁しながら答えた。
ウィルは狼獣人の質が強く、番だと見初めたたった一人だけを愛した。
子供が好きで二人でいつかいつかと願っていたが、それでも七年前に起きた流行病の波はあっさりとそんな愛しい彼女を呑み込んでしまい、そうして何事も無かったかのように引いた。
「お父さん、ひとりだったの?」
悲しそうな顔でニールが言った言葉が、ウィルの心をひどく抉った。
妻が死んで七年。
一生の内で、たったそれだけの年数だ。
それでもそれは、ウィルにとって気が狂いそうな程に永い年月だった。
これから先も続くのかと思うと、本当に気狂いになりそうだった。
そんな気持ちを隠しながら、両親や妹家族の前では常の状態を装う日々だった。
「もう僕とシグルドがいるからね。なかないで。」
小さな掌が、ウィルの頬を撫でた。
今包丁を持っているから危ないと、叱るべきだと分かっているのに声が出なかった。
ただ、喉が引き攣って辛かった。
まるで、ほんの少し前のニールのように。
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