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7歳の秋
雨
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―――雨の音が、遠く重く聞こえる。
ひゅーひゅーとか細い呼吸をしながら、フォレスはぼんやりとした視界でなんとか情報を捉えようとした。
辛うじて見えるのは、見るも無残に破損した馬車と、傍らに横たわる、腕や首があらぬ方向に曲がった死体。
あの後、侯爵家が手配した馬車は雨の中スピードを出して崖近くのカーブを曲がるというあからさまな行動をした。
そうして御者もろとも崖下へと落ちていく。
嗚呼、可哀想に………。
フォレスはそう思いながら、咄嗟に………本当に咄嗟に、バイコーンが入った魔石を馬車の外に放り投げた。
綺麗な放射線を描いて魔石は、風に乗るかのように崖近くの川へと落ちて行った。
歪んだ視界でも、それだけは確認出来た。
狙った訳ではないが、フォレスにとってこれが最大のチャンスになった。
雨の影響で川の流れは激しくなっている。
魔石は石ではあるが、人間が使いやすい用に加工されているので軽い。
貴族が使うような高級品であれば、余計に。
その軽さが原因となり、魔石は水に抗うことが出来ずに流されていくだろう。
最初で最後のチャンスだと、フォレスは思った。
バイコーンと契約が切れる、最後のチャンス。
モンスターとの契約は、召喚士の意思で破棄することができる。
だが、召喚士と契約モンスターという関係でなくなれば、当然リスクが発生する。
モンスターが召喚士を守護する理由がなくなり、寧ろ害する理由が出来てしまうのだ。
だが今、バイコーンは水の中に居る。
異変を感じて魔石から出て来るだろうが、そうなるまでに激流が距離を稼いでくれる筈だ。
そして契約が切れれば、モンスターが召喚士の魔力を辿ることが出来なくなる。
この雨ならば匂いだってかき消してくれる筈なので、バイコーンが捜し出そうとしても時間が掛かる筈だ。
「にげ………なきゃ………」
事切れてしまった御者とは違い、自分はまだ身体が動く。
痛みから完全に動かせる訳ではないが、それでもフォレスは一歩一歩、足を引き摺ってその場から離れる。
雨が体温を奪っていくが、痛みが激しい右足は燃えるように熱かった。
もしかしたら自覚が無いだけで折れてしまっているのかもしれない。
頭の片隅でそう思ったが、それでも意識して気にしないようにした。
自覚してしまったら、もう動けなくなりそうだったから。
雨音に搔き消される声量で契約解消の呪文を唱えながら、逃げることに集中する。
息を荒げてはいけない。
けれど、それ以上に足を止めてはいけない。
一歩でも遠く歩いて、一秒でも多く時間を稼いで。
例え死んだとしても、足を止めてはならない。
自分自身にそう言い聞かせて、込み上げる吐き気を耐えながら足と口を動かす。
雨はまだ、止みそうにない。
ひゅーひゅーとか細い呼吸をしながら、フォレスはぼんやりとした視界でなんとか情報を捉えようとした。
辛うじて見えるのは、見るも無残に破損した馬車と、傍らに横たわる、腕や首があらぬ方向に曲がった死体。
あの後、侯爵家が手配した馬車は雨の中スピードを出して崖近くのカーブを曲がるというあからさまな行動をした。
そうして御者もろとも崖下へと落ちていく。
嗚呼、可哀想に………。
フォレスはそう思いながら、咄嗟に………本当に咄嗟に、バイコーンが入った魔石を馬車の外に放り投げた。
綺麗な放射線を描いて魔石は、風に乗るかのように崖近くの川へと落ちて行った。
歪んだ視界でも、それだけは確認出来た。
狙った訳ではないが、フォレスにとってこれが最大のチャンスになった。
雨の影響で川の流れは激しくなっている。
魔石は石ではあるが、人間が使いやすい用に加工されているので軽い。
貴族が使うような高級品であれば、余計に。
その軽さが原因となり、魔石は水に抗うことが出来ずに流されていくだろう。
最初で最後のチャンスだと、フォレスは思った。
バイコーンと契約が切れる、最後のチャンス。
モンスターとの契約は、召喚士の意思で破棄することができる。
だが、召喚士と契約モンスターという関係でなくなれば、当然リスクが発生する。
モンスターが召喚士を守護する理由がなくなり、寧ろ害する理由が出来てしまうのだ。
だが今、バイコーンは水の中に居る。
異変を感じて魔石から出て来るだろうが、そうなるまでに激流が距離を稼いでくれる筈だ。
そして契約が切れれば、モンスターが召喚士の魔力を辿ることが出来なくなる。
この雨ならば匂いだってかき消してくれる筈なので、バイコーンが捜し出そうとしても時間が掛かる筈だ。
「にげ………なきゃ………」
事切れてしまった御者とは違い、自分はまだ身体が動く。
痛みから完全に動かせる訳ではないが、それでもフォレスは一歩一歩、足を引き摺ってその場から離れる。
雨が体温を奪っていくが、痛みが激しい右足は燃えるように熱かった。
もしかしたら自覚が無いだけで折れてしまっているのかもしれない。
頭の片隅でそう思ったが、それでも意識して気にしないようにした。
自覚してしまったら、もう動けなくなりそうだったから。
雨音に搔き消される声量で契約解消の呪文を唱えながら、逃げることに集中する。
息を荒げてはいけない。
けれど、それ以上に足を止めてはいけない。
一歩でも遠く歩いて、一秒でも多く時間を稼いで。
例え死んだとしても、足を止めてはならない。
自分自身にそう言い聞かせて、込み上げる吐き気を耐えながら足と口を動かす。
雨はまだ、止みそうにない。
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