すれ違い夫婦の不幸な結婚

かかし

文字の大きさ
5 / 6
本編

4

しおりを挟む
熱い
痛い
怖い
でも、ふわふわして気持ちイイ………
頭が真っ白で、自分が何をしていて何を口走っているのかも分からない。
ぼんやりとした頭の中で、私は彼を初めて見た時を思い出した。

貴方は覚えているだろうか。
私とは、本当は見合いの席よりもずっとずっと前、高校生の頃に毎朝電車の中ですれ違ってたんだってこと。
金色に染まった髪、着崩した制服の上から羽織っていた黒で大きなロゴの付いたパーカー。
今とは随分雰囲気違ったけど、私はすぐに分かったよ。
だって、匂いも声も同じだったから。

同じ雰囲気の人達と、いつも駅のホームで笑い合ってる姿がすごく好きだった。
他校生だったし、私なんかとはカーストが違い過ぎて話し掛けなんて絶対出来なかったから、きっと彼にとってはモブ以下だったと思う。
背景の一部で、覚えてないと思う。

それでも、私は確かに貴方に淡い恋をしていたんです。

貴方の傍に居たΩの子達が羨ましくて仕方なかった。
貴方を笑わせれるお友達の人達が羨ましかった。
だからって何か行動出来た訳じゃないけど、でも長く伸ばしてた髪を切って整えてみたりはした。
色気づいて似合わないからやめろって、妹にも両親にも言われたけど。

受験シーズンになって、生活サイクルが変わったのかすっかり見なくなった貴方にお見合いの席で会えた時、本当に嬉しかったんです。

貴方はずっと眉間に皺を寄せて、嫌そうな顔をしていた。
それが嫌で見たくなくて私はずっと俯いていたけれど、それでも私は嬉しくて嬉しくて、ともすれば喜んで笑ってしまいそうなのを歯噛みして誤魔化しました。
金色だった髪は黒に近い茶色になっていて、やんちゃな雰囲気もすっかり落ち着いていましたが、それでも相変わらず美しい人で。
お見合いの席に来てくれたってだけでも嬉しかったのに、何をどう間違えたのかそのまま今日という日まで進んでしまい。
貴方は嫌で嫌で仕方なかったでしょうに、それでも私は一生の想い出だと感じる程に嬉しかったのです。

「………り、………汐里………」

嗚呼、遂に幻聴が聞こえたのだと思った。
だって、貴方が私をそんなに熱の篭った様な声で呼ぶ筈がないもん。
でも幻聴じゃなくて夢なのかもしれない。
どっちかと言えばそうかも。
だって、こんなに力強く私を抱き締めることなんて絶対にありえない

「ごめん、ごめんな。噛むよ………」

何をだろう?
どうして、何を謝っているんだろう?
夢の中でも現実でも、貴方が間違っていることなんて何一つもないのに。

「いい、よ………ぁっ、なたに、なら、なにされても………」
「………っ!」

苦しそうに、息を詰めるような声が聞こえた。
夢の中でも、私は貴方を苦しめるしか出来ないのか。
そう思ったとほぼ同時位に、凄まじい痛みと脳が弾けるような快感がした。

また真っ白に染まる視界。
でも今度はあのチョコレート色の瞳が見えなくて、すごく寂しいって思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

親愛なるあなたに、悪意を込めて!

にゃみ3
恋愛
「悪いが、僕は君のことを愛していないんだ」 結婚式の夜、私の夫となった人。アスタリア帝国第一皇子ルイス・ド・アスタリアはそう告げた。 ルイスは皇后の直々の息子ではなく側室の息子だった。 継承争いのことから皇后から命を狙われており、十日後には戦地へと送られる。 生きて帰ってこれるかどうかも分からない。そんな男に愛されても、迷惑な話よ。 戦地へと向かった夫を想い涙を流すわけでもなく。私は皇宮暮らしを楽しませていただいていた。 ある日、使用人の一人が戦地に居る夫に手紙を出せと言ってきた。 彼に手紙を送ったところで、私を愛していない夫はきっとこの手紙を読むことは無いだろう。 そう思い、普段の不満を詰め込んだ手紙。悪意を込めて、書きだしてみた。 それがまさか、彼から手紙が返ってくるなんて⋯。

エレナは分かっていた

喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。 本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...