すれ違い夫婦の不幸な結婚

かかし

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本編

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熱い
痛い
怖い
でも、ふわふわして気持ちイイ………
頭が真っ白で、自分が何をしていて何を口走っているのかも分からない。
ぼんやりとした頭の中で、私は彼を初めて見た時を思い出した。

貴方は覚えているだろうか。
私とは、本当は見合いの席よりもずっとずっと前、高校生の頃に毎朝電車の中ですれ違ってたんだってこと。
金色に染まった髪、着崩した制服の上から羽織っていた黒で大きなロゴの付いたパーカー。
今とは随分雰囲気違ったけど、私はすぐに分かったよ。
だって、匂いも声も同じだったから。

同じ雰囲気の人達と、いつも駅のホームで笑い合ってる姿がすごく好きだった。
他校生だったし、私なんかとはカーストが違い過ぎて話し掛けなんて絶対出来なかったから、きっと彼にとってはモブ以下だったと思う。
背景の一部で、覚えてないと思う。

それでも、私は確かに貴方に淡い恋をしていたんです。

貴方の傍に居たΩの子達が羨ましくて仕方なかった。
貴方を笑わせれるお友達の人達が羨ましかった。
だからって何か行動出来た訳じゃないけど、でも長く伸ばしてた髪を切って整えてみたりはした。
色気づいて似合わないからやめろって、妹にも両親にも言われたけど。

受験シーズンになって、生活サイクルが変わったのかすっかり見なくなった貴方にお見合いの席で会えた時、本当に嬉しかったんです。

貴方はずっと眉間に皺を寄せて、嫌そうな顔をしていた。
それが嫌で見たくなくて私はずっと俯いていたけれど、それでも私は嬉しくて嬉しくて、ともすれば喜んで笑ってしまいそうなのを歯噛みして誤魔化しました。
金色だった髪は黒に近い茶色になっていて、やんちゃな雰囲気もすっかり落ち着いていましたが、それでも相変わらず美しい人で。
お見合いの席に来てくれたってだけでも嬉しかったのに、何をどう間違えたのかそのまま今日という日まで進んでしまい。
貴方は嫌で嫌で仕方なかったでしょうに、それでも私は一生の想い出だと感じる程に嬉しかったのです。

「………り、………汐里………」

嗚呼、遂に幻聴が聞こえたのだと思った。
だって、貴方が私をそんなに熱の篭った様な声で呼ぶ筈がないもん。
でも幻聴じゃなくて夢なのかもしれない。
どっちかと言えばそうかも。
だって、こんなに力強く私を抱き締めることなんて絶対にありえない

「ごめん、ごめんな。噛むよ………」

何をだろう?
どうして、何を謝っているんだろう?
夢の中でも現実でも、貴方が間違っていることなんて何一つもないのに。

「いい、よ………ぁっ、なたに、なら、なにされても………」
「………っ!」

苦しそうに、息を詰めるような声が聞こえた。
夢の中でも、私は貴方を苦しめるしか出来ないのか。
そう思ったとほぼ同時位に、凄まじい痛みと脳が弾けるような快感がした。

また真っ白に染まる視界。
でも今度はあのチョコレート色の瞳が見えなくて、すごく寂しいって思った。
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