15 / 36
Aの真実
①
しおりを挟む
―――初めて彼と会った時、嗚呼、母がまた変なのを拾って来たのだなと思った。
スラム街の子供よりも小さな身体は、吹けば飛ぶのではないかと思う程に細く頼りない。
そんな身体だからか酒には弱く、少し呑んだだけで前後不覚になる程だ。
俺は正直、コイツと関わりたくないと思っていた。
酒も呑めないし、そもそもこんな弱い身体じゃ仕事も出来ず足手まといでしかないだろうと。
母は社員との飲み会が好きだから、頻繁に開催している。
勿論、社員達の都合が優先だから、出たくない奴は出なくて良い。
評価が下がる訳でもないし。
それなのにアイツは、呑めないくせに好きなのか毎回参加してはチビチビと呑んでいた。
そんなことをされると、嫌でも視界に入る。
新人教育という名のお守りを任されているあの男が哀れだなと思ったが、見れば嬉々として世話を焼いている。
空調の風が強いのか寒がる軟弱さなのに、あの男はこの間わざわざ買ったというブランケットで包んでやっていた。
アイツの何が良いんだ?
母も妙に気に入ってるようだが、媚びるのが上手いのか?
そう思いながら仕事をしている彼を見ていて、気付いた。
彼は良く気付き、良く働いていた。
しかもそれは媚び等ではなく、そうすることで労働環境が良くなると分かっている人間の動きだった。
彼はこういった仕事をしたことがあるのだろうか?
そういう風には見えないが………
「お疲れ様です。今日は暑いので、水分補給はしっかりしてくださいね。」
しかし、彼の仕事は正直誰よりも早かったし、正確だった。
外商先や営業先の資料を頼めば、誰よりも分かりやすく見やすい資料をハイスピードで用意してくれるし、しかも心の底からの労りの言葉もセットだ。
そんなことされたら、気になってしまうに決まってる。
だがそれは全社員同じなので、勘違いはしない。
そもそも彼にとっての【特別】は―――
「先輩!俺は思うんですよ。」
「んー?何をだ?」
楽しそうな笑い声。
彼は役職関わらずある意味一定の態度を示すが、教育担当のあの男には休憩中や業務時間外等に良く笑い良く懐いていた。
やはり最初に世話を焼いたから懐いているのか?
飲み会だってあの男は甲斐甲斐しく彼の世話を焼いていたし、そもそも二人とも社員寮として商会が持っているアパートで隣同士の部屋だからっていうのもあるのだろう。
―――ズルいと、思った。
明らかに【特別】なあの男と、その他大勢でしかない俺。
こんなにも差が広がるならば、俺だって彼の教育担当になりたかった。
ふわふわと笑う彼を、愛しそうに見つめるあの男。
付き合ってるのだろうか。
ただほんの少し、認識されるのが早かっただけなのに。
内緒話をするように、身長差や体格差を気にしていないような素振りで身を寄せ合って笑う。
ズルいだろ。
その位置に、俺だって居たかった。
俺はそう思いながら、溢れそうな感情を拳に込めて握り締める。
俺の方が、彼を幸せに出来る。
俺は何の根拠もなく、そう思い込んだ。
スラム街の子供よりも小さな身体は、吹けば飛ぶのではないかと思う程に細く頼りない。
そんな身体だからか酒には弱く、少し呑んだだけで前後不覚になる程だ。
俺は正直、コイツと関わりたくないと思っていた。
酒も呑めないし、そもそもこんな弱い身体じゃ仕事も出来ず足手まといでしかないだろうと。
母は社員との飲み会が好きだから、頻繁に開催している。
勿論、社員達の都合が優先だから、出たくない奴は出なくて良い。
評価が下がる訳でもないし。
それなのにアイツは、呑めないくせに好きなのか毎回参加してはチビチビと呑んでいた。
そんなことをされると、嫌でも視界に入る。
新人教育という名のお守りを任されているあの男が哀れだなと思ったが、見れば嬉々として世話を焼いている。
空調の風が強いのか寒がる軟弱さなのに、あの男はこの間わざわざ買ったというブランケットで包んでやっていた。
アイツの何が良いんだ?
母も妙に気に入ってるようだが、媚びるのが上手いのか?
そう思いながら仕事をしている彼を見ていて、気付いた。
彼は良く気付き、良く働いていた。
しかもそれは媚び等ではなく、そうすることで労働環境が良くなると分かっている人間の動きだった。
彼はこういった仕事をしたことがあるのだろうか?
そういう風には見えないが………
「お疲れ様です。今日は暑いので、水分補給はしっかりしてくださいね。」
しかし、彼の仕事は正直誰よりも早かったし、正確だった。
外商先や営業先の資料を頼めば、誰よりも分かりやすく見やすい資料をハイスピードで用意してくれるし、しかも心の底からの労りの言葉もセットだ。
そんなことされたら、気になってしまうに決まってる。
だがそれは全社員同じなので、勘違いはしない。
そもそも彼にとっての【特別】は―――
「先輩!俺は思うんですよ。」
「んー?何をだ?」
楽しそうな笑い声。
彼は役職関わらずある意味一定の態度を示すが、教育担当のあの男には休憩中や業務時間外等に良く笑い良く懐いていた。
やはり最初に世話を焼いたから懐いているのか?
飲み会だってあの男は甲斐甲斐しく彼の世話を焼いていたし、そもそも二人とも社員寮として商会が持っているアパートで隣同士の部屋だからっていうのもあるのだろう。
―――ズルいと、思った。
明らかに【特別】なあの男と、その他大勢でしかない俺。
こんなにも差が広がるならば、俺だって彼の教育担当になりたかった。
ふわふわと笑う彼を、愛しそうに見つめるあの男。
付き合ってるのだろうか。
ただほんの少し、認識されるのが早かっただけなのに。
内緒話をするように、身長差や体格差を気にしていないような素振りで身を寄せ合って笑う。
ズルいだろ。
その位置に、俺だって居たかった。
俺はそう思いながら、溢れそうな感情を拳に込めて握り締める。
俺の方が、彼を幸せに出来る。
俺は何の根拠もなく、そう思い込んだ。
83
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
異世界召喚に巻き込まれた料理人の話
ミミナガ
BL
神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。
魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。
そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる