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Fの嘘
⑥
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そこから数日は、忙しい日々だった。
シューヤの意識はまだ戻らないままだが、入院の手続きや用意を誰かしらがしないといけない。
俺は女将に頼み込んで、俺とシューヤの退職時期を早めてもらった。
元々俺はいつ辞めることになっても良いように、引き継ぎすべきことはノートにまとめていた。
俺だけが抱えていた仕事は女将に引継ぐことで、そうそう困ることもないだろう。
取り敢えず、シューヤの意識が戻るまではここに居るつもりだ。
あれから、コットランド家の次男坊は見ていない。
ただ意外なことに、長男は俺の前に………正確にはシューヤの病室にわざわざやって来た。
大金と共に。
口封じかと素直に訝しむ俺に、そうではないと長男は苦笑した。
「慰謝料だよ。弟のことを、憲兵に突き出しても構わないとすら思ってる。」
「随分と、冷たいお言葉だ。」
あっさりとそう言った男に、今度は俺が苦笑した。
流石お貴族様。
家の恥は優秀で誉れ高い弟ですら切り捨てるかと思えば、そういう訳でもないらしい。
「弟の言い分を聞いてね。私達はどうやら甘やかし過ぎてケダモノを生み出したらしいと気付いた。」
「勝手だな。それもアンタらの責任なんじゃないのか?」
「そう、だね。」
俺の遠慮も礼儀の無い言葉に、それでも長男は特に何を言う訳でもなく目を伏せた。
思う所があるらしい。
男はまるで見舞いの果物を置くように、サイドテーブルに札束入りの紙袋を置いた男は疲れたように笑った。
「私もこうして金で解決しようとする、ケダモノのようだ。」
「ケダモノ兄弟だな。お似合いなこって。お出口はあちらだ。この金は俺が貰っておくんで。」
被害者ぶるのもお似合いだと、笑いながら出口を指す。
シューヤの入院がいつまで掛るか分からないし、無事に意識が戻って退院になったとしても今後の生活も考えるとシューヤには金が必要だ。
しかしその金の裏にどんな汚いモノが潜んでいるのかが分からない以上、直接的に受け取らせるべきではないだろう。
口封じをされたのは、恩着せがましい金を受け取ったのはあくまで俺。
その後シューヤに金が流れたとしても、そこにシューヤは関係無い。
軽薄でろくでもない男を演じたとしても、俺はそうすることでしか守ることは出来ない。
「自業自得とはいえ、随分と警戒されてるな。」
「お貴族様と平民なんて、どこもそんなもんですよ。」
いつだって、圧倒的な権力を持つ者に警戒して生きている。
俺がそう言うと、男は首を竦めて去って行った。
気取ってんなぁ………。
そもそも面会謝絶だったのに、権力振りかざして無理矢理病室に入って来たクセに。
「そんなんだから平民から好かれねぇんだよ。なぁ、シューヤ。」
眠るシューヤの目に掛かった前髪を、ソッと指で整えてやる。
穏やかな寝息。
意識はまだ、戻りそうにない。
シューヤの意識はまだ戻らないままだが、入院の手続きや用意を誰かしらがしないといけない。
俺は女将に頼み込んで、俺とシューヤの退職時期を早めてもらった。
元々俺はいつ辞めることになっても良いように、引き継ぎすべきことはノートにまとめていた。
俺だけが抱えていた仕事は女将に引継ぐことで、そうそう困ることもないだろう。
取り敢えず、シューヤの意識が戻るまではここに居るつもりだ。
あれから、コットランド家の次男坊は見ていない。
ただ意外なことに、長男は俺の前に………正確にはシューヤの病室にわざわざやって来た。
大金と共に。
口封じかと素直に訝しむ俺に、そうではないと長男は苦笑した。
「慰謝料だよ。弟のことを、憲兵に突き出しても構わないとすら思ってる。」
「随分と、冷たいお言葉だ。」
あっさりとそう言った男に、今度は俺が苦笑した。
流石お貴族様。
家の恥は優秀で誉れ高い弟ですら切り捨てるかと思えば、そういう訳でもないらしい。
「弟の言い分を聞いてね。私達はどうやら甘やかし過ぎてケダモノを生み出したらしいと気付いた。」
「勝手だな。それもアンタらの責任なんじゃないのか?」
「そう、だね。」
俺の遠慮も礼儀の無い言葉に、それでも長男は特に何を言う訳でもなく目を伏せた。
思う所があるらしい。
男はまるで見舞いの果物を置くように、サイドテーブルに札束入りの紙袋を置いた男は疲れたように笑った。
「私もこうして金で解決しようとする、ケダモノのようだ。」
「ケダモノ兄弟だな。お似合いなこって。お出口はあちらだ。この金は俺が貰っておくんで。」
被害者ぶるのもお似合いだと、笑いながら出口を指す。
シューヤの入院がいつまで掛るか分からないし、無事に意識が戻って退院になったとしても今後の生活も考えるとシューヤには金が必要だ。
しかしその金の裏にどんな汚いモノが潜んでいるのかが分からない以上、直接的に受け取らせるべきではないだろう。
口封じをされたのは、恩着せがましい金を受け取ったのはあくまで俺。
その後シューヤに金が流れたとしても、そこにシューヤは関係無い。
軽薄でろくでもない男を演じたとしても、俺はそうすることでしか守ることは出来ない。
「自業自得とはいえ、随分と警戒されてるな。」
「お貴族様と平民なんて、どこもそんなもんですよ。」
いつだって、圧倒的な権力を持つ者に警戒して生きている。
俺がそう言うと、男は首を竦めて去って行った。
気取ってんなぁ………。
そもそも面会謝絶だったのに、権力振りかざして無理矢理病室に入って来たクセに。
「そんなんだから平民から好かれねぇんだよ。なぁ、シューヤ。」
眠るシューヤの目に掛かった前髪を、ソッと指で整えてやる。
穏やかな寝息。
意識はまだ、戻りそうにない。
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