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青のリボンの馬車
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使用人に連れて来られた医者は、あまりの惨状に声をあげそうになった。
うなじと下肢から溢れる血液。
これは死んでしまっているのではないかと思ったが、骨と皮のような身体は呼吸しようと動いていたので少し安心した。
あまりの状態に、騒ぎを聞いて駆け付けた当主は流石に青褪め、夫人は悲鳴を上げた。
α夫婦である彼らは、Ωという存在に否定的ではあった。
そうであったのだが、いくら何でもこれは酷い。
そしてこんな惨状を作り出したのが愛しい息子だという事実に、卒倒しそうになった。
しかもΩ憎し、挙句にΩのクセに見目も良い訳ではないから見る価値無しとしっかりと見ていなかったが、あまりにも瘦せ細っている。
食事会の時にも何も食べなかったが、好き嫌いだと思っていた。
Ωの分際でなんてワガママをと嫌悪したのだがそうではないのかもしれない。
もしかしたらろくに食べさせて貰えなかったのか、それとも拒食症なのか。
或いはその両方か。
だとしたらこの仕打ちは、人間として許されるものではない。
発情期誘発剤を飲ませ、媚薬成分のある軟膏を使うように指示したのは当主夫婦だ。
用意して、渡したのも。
つまりこの惨状の共犯者は、自分達だということでもある。
『………生きているの?』
『はい。辛うじて、ですが。』
しかしながら番になってしまっているので、引き離そうにも引き離せない。
熱を計り、医者は発情期はまだ終わっていないと告げた。
薬による一時的………それこそ数時間だけな筈だがどういうことかと聞けば、元々不安定だったのではないだろうかとのこと。
だからこそ誘発剤の刺激で身体が本来の発情期なのではと勘違いしたのではないだろうかというのが、医者の見立てだった。
αの番になっているΩが一人で発情期を過ごすのは、心理的にも身体的にもリスクが高い。
ましてやこんな満身創痍な状態では、良くて廃人だ。
『………若様と、共に過ごさせるのが一番かと………』
『今度こそ殺してしまうかもしれないのに!?』
辛うじて息をしている程度なのであれば、次こそは本当に死んでしまうかもしれない。
例えΩであったとしても、殺人はご法度だ。
うっかり餓死してしまうことはあるかもしれないが、流石にセックスの最中に死んだとあれば明確な殺人だ。
だが廃人になられても、困る。
どうするのが正解かと頭を抱える当主夫婦だったが、当事者である息子は鎮静剤を打って無理矢理大人しくさせている。
だが薬が切れたらまた暴れだすだろう。
ヒート中の番が居るのだ。
番を得たαというのは、Ωが傍に居ないこともΩに誰かが近寄るのも厭う。
―――だからΩは嫌なんだ。
当主は思わず舌打ちをした。
崇高で完璧な生き物である筈のαを、Ωは簡単にただのケモノに変えてしまうのだ。
当主は分かっていた。
本当に汚らわしく下等な存在は、番を得たαの方だと。
しかし真に優秀なαは、αとΩの番からしか産まれない。
家の為にも、自分の息子が無様なケモノになるのを当主は指を咥えて見ているしかなかった。
『………目が覚めたら息子の部屋に放り込め。』
『あなた!』
当主の言葉に、夫人は信じられないような物を見るような顔をした。
それは夫人だけではない。
周りに居た使用人達も同じような目で当主を見ている。
『β以外がソレに触れるな。痕跡が残れば今度こそ息子が殺すかもしれん。』
それは当主がシフォンに対する、せめてもの温情だった。
他のΩやαの匂いがついた、自分の番。
番という存在に狂ったαがどう扱うかなんて、火を見るより明らかだったから。
うなじと下肢から溢れる血液。
これは死んでしまっているのではないかと思ったが、骨と皮のような身体は呼吸しようと動いていたので少し安心した。
あまりの状態に、騒ぎを聞いて駆け付けた当主は流石に青褪め、夫人は悲鳴を上げた。
α夫婦である彼らは、Ωという存在に否定的ではあった。
そうであったのだが、いくら何でもこれは酷い。
そしてこんな惨状を作り出したのが愛しい息子だという事実に、卒倒しそうになった。
しかもΩ憎し、挙句にΩのクセに見目も良い訳ではないから見る価値無しとしっかりと見ていなかったが、あまりにも瘦せ細っている。
食事会の時にも何も食べなかったが、好き嫌いだと思っていた。
Ωの分際でなんてワガママをと嫌悪したのだがそうではないのかもしれない。
もしかしたらろくに食べさせて貰えなかったのか、それとも拒食症なのか。
或いはその両方か。
だとしたらこの仕打ちは、人間として許されるものではない。
発情期誘発剤を飲ませ、媚薬成分のある軟膏を使うように指示したのは当主夫婦だ。
用意して、渡したのも。
つまりこの惨状の共犯者は、自分達だということでもある。
『………生きているの?』
『はい。辛うじて、ですが。』
しかしながら番になってしまっているので、引き離そうにも引き離せない。
熱を計り、医者は発情期はまだ終わっていないと告げた。
薬による一時的………それこそ数時間だけな筈だがどういうことかと聞けば、元々不安定だったのではないだろうかとのこと。
だからこそ誘発剤の刺激で身体が本来の発情期なのではと勘違いしたのではないだろうかというのが、医者の見立てだった。
αの番になっているΩが一人で発情期を過ごすのは、心理的にも身体的にもリスクが高い。
ましてやこんな満身創痍な状態では、良くて廃人だ。
『………若様と、共に過ごさせるのが一番かと………』
『今度こそ殺してしまうかもしれないのに!?』
辛うじて息をしている程度なのであれば、次こそは本当に死んでしまうかもしれない。
例えΩであったとしても、殺人はご法度だ。
うっかり餓死してしまうことはあるかもしれないが、流石にセックスの最中に死んだとあれば明確な殺人だ。
だが廃人になられても、困る。
どうするのが正解かと頭を抱える当主夫婦だったが、当事者である息子は鎮静剤を打って無理矢理大人しくさせている。
だが薬が切れたらまた暴れだすだろう。
ヒート中の番が居るのだ。
番を得たαというのは、Ωが傍に居ないこともΩに誰かが近寄るのも厭う。
―――だからΩは嫌なんだ。
当主は思わず舌打ちをした。
崇高で完璧な生き物である筈のαを、Ωは簡単にただのケモノに変えてしまうのだ。
当主は分かっていた。
本当に汚らわしく下等な存在は、番を得たαの方だと。
しかし真に優秀なαは、αとΩの番からしか産まれない。
家の為にも、自分の息子が無様なケモノになるのを当主は指を咥えて見ているしかなかった。
『………目が覚めたら息子の部屋に放り込め。』
『あなた!』
当主の言葉に、夫人は信じられないような物を見るような顔をした。
それは夫人だけではない。
周りに居た使用人達も同じような目で当主を見ている。
『β以外がソレに触れるな。痕跡が残れば今度こそ息子が殺すかもしれん。』
それは当主がシフォンに対する、せめてもの温情だった。
他のΩやαの匂いがついた、自分の番。
番という存在に狂ったαがどう扱うかなんて、火を見るより明らかだったから。
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