メリーゴーランド

かかし

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青のリボンの馬車

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シフォンは意識を失っていたようで、次に目を開けた時にはもうお昼になっていた。
ふわふわのベッドの上に居ることには気付けたけれど、どこなのかは分からない。
でも自分の居場所はここじゃないことは分かっているからベッドから降りようとしたのだけれど、力が入らない。
でも、怒られる前に退かないと………。

ドサッ
「きゃっ!若奥様!?ご無事ですか!?」

無理矢理に身体を動かせば、降りるどころか大きな音を立てて転がり落ちてしまった。
その大きな音に驚いた使用人が、慌てて飛び込んできてそう叫ぶ。
わかおくさまって、なんだろう?
シフォンはそう思ったけれど、それよりも早く退かないととばかり考えた。
だってこの人、昨日小瓶を渡してきた人だ。
お世話はしたくないと言っていたから、きっと意地悪されてしまう。
昨日噛まれたうなじも、無理矢理に暴かれた下半身も痛くて仕方ない。
そんな状態で意地悪されたくはなかった。
そういえば、首に何かついてて苦しい。何だろう、これ。要らない。

「動かないでください!ああ!包帯は外さないで!誰か!誰か若旦那様を!早く!」

外そうとしたシフォンを叱り飛ばした使用人は、誰かを呼んだ。
ぎゃんぎゃんと騒ぐ声が、頭に響いて痛かった。
頭を抱えて芋虫のように丸くなり涙を流すシフォンに触れようとした使用人だったが、昨日のシフォンの悲痛な叫び声とαとして完全に覚醒した主人の様子を思い出して震え、伸ばした手を引っ込めた。

あの夜、使用人として彼女は部屋の外に待機していた。
どうせすぐに終わって、汚れたシーツを片付けるように言われるのだろうと思ったからだ。
他の家で汚らわしいΩの世話を何度かしたことがあった使用人だったが、あんな見た目が悪いΩ、抱かれるかも怪しいなと内心嘲笑っていたのだ。
しかしその予想は、悪い意味で裏切られた。
同じように嘲笑しつつも部屋の前に待機していた護衛が慌てて飛び込もうとする程の泣き声が、扉の向こうから聞こえたのだ。
あまりの声に護衛は使用人にΩとαの行為はこういうものなのかと聞いたが、彼女は当然首を横に振った。

今まで彼女が聞いてきたΩの声は、どれも娼婦のような声だった。
加虐趣味のあるαの相手をするΩですら。
こんな拷問でも受けているかのような声は初めて聞いた。
巻き込まれたくないという感情と、これ以上は死んでしまうので止めた方が良いと止めたいという感情が交差する。
今までに味わったことのない程の恐怖と緊張で、心臓が激しく鼓動する。
やがて一際大きくΩが叫んだかと思えば、パタリと止んだ。

―――嗚呼、主人は殺してしまったのかもしれない。

そう思うと恐ろしくて震えた。
考えてみればあんなにも細いΩなど、主人の手に掛かれば一瞬で命の灯火を消すことが出来るのだ。

『医者を!早く!』

暫くして、口元を血で濡らした主人が慌てて出て来た。
その恐ろしさに身体が固まってしまったが、怒声に近い命令を聞いて無理矢理に身体を動かした。
それとほぼ同時に護衛が状況を確認し、場合によってはΩを罰さなければと中に入ろうとした瞬間だった。

『入るな!部屋に入るな!シフォンを視界に入れることは許さんぞ!』

主人が怒鳴り、威嚇のフェロモンを放つ。
今まで主人がそんな乱暴なことをしたことは、なかった。
恐ろしくて彼女は医者を呼ぶために動かしている足を速めた。
誰か倒れる音がしたけれど、振り向いたら自分が同じ目に遭ってしまうと思うととてもじゃないけれど振り向けなかった。
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