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ひとめぼれ②
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―――正直な話、愛だの恋だのそういうものは興味が無かった。
妖精騎士は創造の神から愛された存在であり、創造の神を愛さなくてはならない。
それが存在理由だからだ。
だが私自身は、そんなものまるで興味は無かった。
創造の神のことは勿論愛している。
神として、我が主として。
しかし、それ以上は無い。
創造の神が私を一等気に入っていたのは知っていた。
だがどうにも、私は神以上だと思うことは出来なかった。
例え加護を奪われても、創造の神は私の愛しい神でそれ以上ではなかった。
愛とか、恋とか。
上位妖精からも好意を寄せられていたし、創造の神に気取られないようそういう行為もしたことがある。
だが、こんなもんかとしか思えなかった。
創造の神の悋気というリスクを背負ってまですることではないなと思ったから、結局、数回して完全に興味を失った。
………筈なのに。
クィルを初めて見た時に、今までに感じたことのない衝動が身体中を駆け巡った。
触れたい。
抱き締めたい。
護りたい。
確かにクィルは美しい顔ではあったが、上位妖精ではもっと美しい者は居たし創造の神に至ってはその最上位だ。
けれども私の目には、クィルが一番愛らしく見えた。
気安く接しているウィルに、嫉妬してしまう程に。
首を失って初めて、よかったと安心してしまった。
だって顔が在ったらきっと、私はひどく醜い表情をしていたと思う。
マズいな。
恋とはこんなにも、厄介なものなのか。
臭いと𠮟り飛ばし、わざわざ湯をくれたクィルの厚意には一応甘えておく。
甘えておくのだが、それよりもクィルの表情に期待してしまう。
口説いてしまおうか。
けれども彼は騎士が嫌いだと聞いている。
そもそも私はモンスターだ。
そう考えると、期待するだけ無駄か。
「これ。ウィルさんからお借りしました。着替えです。」
《ああ。わざわざありがとう。》
体格はそう変わりないし、サイズが大きめのを準備してくれているのか余裕で着ることができた。
ありがたい。
稼げるようになったら自分でも買うし新品を購入して返すが、それまでは借りよう。
そう思いながら服を着ていると、クィルからジッと見られていることに気付く。
《似合うか?》
「似合う。」
ふざけてそう言ってみれば、少し照れたように俯きながらキュッと裾を指で握ってくるもんだからたまらない。
なんだこの生き物。
保護するぞ。
キスしたい。
首を無くして良かったと思ったけれど、やはり首を無くしたことを惜しいと思ってしまう。
キスしたいけれど、出来る頭が無い。
取り敢えず私と一緒に湯を浴びてほこほこになったホワイトスライムを撫でつつ、クィルと一緒に礼拝堂の中へと入った。
《………随分と、その………》
「ボロボロでしょう?お化け屋敷みたいでお気に入りです。」
掃除はちゃんとしてますよと言いながら、クィルは真ん中辺りの長椅子にごろりと寝転んだ。
行儀が悪いと思うが、まるで気ままな猫妖精のようで愛らしいと思ってしまう。
惚れた弱味、痘痕も靨。
なんとでもどうぞ。
「どうぞゆっくりしていってください。」
《ああ。》
「でも帰る時は、一声掛けてくださいね。………寂しいので。」
どうにも彼には、私が期待していることがバレてしまっているようだ。
弄ばれている感じが少しクセになる。
私も弄びたくなってしまうのは、恋に浮かれているからか。
とはいえ今はホワイトスライムの食事の方が大事だ。
クィルが寝ている椅子の一つ前の椅子に座り、ホワイトスライムを落ち着かせる。
知らない場所で不安そうにボディを震わせていたが、長椅子の上を少しうろつくと私の膝の上に戻って来てホッとしたように力を抜いた。
クィルの寝息だけが微かに聞こえる、静かな空間。
暇ではあるが、居心地は悪くない。
寧ろ心地好くも感じる。
ぺったりと膝の上で眠る体勢をとるホワイトスライムを撫でながら、礼拝堂内に溢れる加護の心地好さにうとうととしてしまう。
創造の神よりは破壊の神に近しい騎士だった私には、破壊の神の加護が強いこの礼拝堂は安心出来る場所でもあった。
ホワイトスライムを抱えながら、クィルと同じように長椅子に寝転ぶ。
固い椅子だが、洞窟よりは寝心地が好い。
「寝ます?」
ひょこりと顔を覗かせて、クィルがそう言って微笑んだ。
ふと、生前私に懐いていた猫妖精を思い出した。
あの子は元気だろうか?
私のような騎士になりたいと言うから、私が身に着けていた黒銀の甲冑の代わりにと黒の長靴とコートをあげたらたいそう喜んでくれた、とても素直な子だった。
「おいで。」
そんな猫妖精とダブらせてしまった所為で、ついそんな気安い言動を取ってしまった。
間違えたか。
目を瞬かせるクィルを見てそう思ったが、伸ばした腕を今更引っ込めることはできない。
暫く無言で様子を見ていたら、クィルが少し顔を赤くして、おずおずと手を握って来た。
だから、そういう顔をするな。
馬鹿な男だったら勘違いする。
「良いの?」
《ああ。人間一人乗ったところで、潰れたりしないよ。》
ホワイトスライムを一度肩口辺りに移動させてやれば、少しワクワクとした表情で靴を脱いだクィルが椅子を乗り越えて乗っかってきた。
意外に重いなと思いながらも腰を支えてやれば、私の身体を敷布のようにして寝転んだ。
可愛い。
マズい。
頭が馬鹿になる。
「ふふっ。あったかい。」
………ダメだ!頭が馬鹿になる!
ふわふわとした笑顔でそう言ってすんなりと寝入ってしまったクィルに、思わず頭を抱えてしまいたい衝動に駆られる。
何で今の今まで無事だったんだ、この生き物。
私はそう思いながら、気を紛らわせる為にホワイトスライムを寝ているクィルの上に乗せた。
可愛いに可愛いが合わさっただけで、悪化してしまった。
妖精騎士は創造の神から愛された存在であり、創造の神を愛さなくてはならない。
それが存在理由だからだ。
だが私自身は、そんなものまるで興味は無かった。
創造の神のことは勿論愛している。
神として、我が主として。
しかし、それ以上は無い。
創造の神が私を一等気に入っていたのは知っていた。
だがどうにも、私は神以上だと思うことは出来なかった。
例え加護を奪われても、創造の神は私の愛しい神でそれ以上ではなかった。
愛とか、恋とか。
上位妖精からも好意を寄せられていたし、創造の神に気取られないようそういう行為もしたことがある。
だが、こんなもんかとしか思えなかった。
創造の神の悋気というリスクを背負ってまですることではないなと思ったから、結局、数回して完全に興味を失った。
………筈なのに。
クィルを初めて見た時に、今までに感じたことのない衝動が身体中を駆け巡った。
触れたい。
抱き締めたい。
護りたい。
確かにクィルは美しい顔ではあったが、上位妖精ではもっと美しい者は居たし創造の神に至ってはその最上位だ。
けれども私の目には、クィルが一番愛らしく見えた。
気安く接しているウィルに、嫉妬してしまう程に。
首を失って初めて、よかったと安心してしまった。
だって顔が在ったらきっと、私はひどく醜い表情をしていたと思う。
マズいな。
恋とはこんなにも、厄介なものなのか。
臭いと𠮟り飛ばし、わざわざ湯をくれたクィルの厚意には一応甘えておく。
甘えておくのだが、それよりもクィルの表情に期待してしまう。
口説いてしまおうか。
けれども彼は騎士が嫌いだと聞いている。
そもそも私はモンスターだ。
そう考えると、期待するだけ無駄か。
「これ。ウィルさんからお借りしました。着替えです。」
《ああ。わざわざありがとう。》
体格はそう変わりないし、サイズが大きめのを準備してくれているのか余裕で着ることができた。
ありがたい。
稼げるようになったら自分でも買うし新品を購入して返すが、それまでは借りよう。
そう思いながら服を着ていると、クィルからジッと見られていることに気付く。
《似合うか?》
「似合う。」
ふざけてそう言ってみれば、少し照れたように俯きながらキュッと裾を指で握ってくるもんだからたまらない。
なんだこの生き物。
保護するぞ。
キスしたい。
首を無くして良かったと思ったけれど、やはり首を無くしたことを惜しいと思ってしまう。
キスしたいけれど、出来る頭が無い。
取り敢えず私と一緒に湯を浴びてほこほこになったホワイトスライムを撫でつつ、クィルと一緒に礼拝堂の中へと入った。
《………随分と、その………》
「ボロボロでしょう?お化け屋敷みたいでお気に入りです。」
掃除はちゃんとしてますよと言いながら、クィルは真ん中辺りの長椅子にごろりと寝転んだ。
行儀が悪いと思うが、まるで気ままな猫妖精のようで愛らしいと思ってしまう。
惚れた弱味、痘痕も靨。
なんとでもどうぞ。
「どうぞゆっくりしていってください。」
《ああ。》
「でも帰る時は、一声掛けてくださいね。………寂しいので。」
どうにも彼には、私が期待していることがバレてしまっているようだ。
弄ばれている感じが少しクセになる。
私も弄びたくなってしまうのは、恋に浮かれているからか。
とはいえ今はホワイトスライムの食事の方が大事だ。
クィルが寝ている椅子の一つ前の椅子に座り、ホワイトスライムを落ち着かせる。
知らない場所で不安そうにボディを震わせていたが、長椅子の上を少しうろつくと私の膝の上に戻って来てホッとしたように力を抜いた。
クィルの寝息だけが微かに聞こえる、静かな空間。
暇ではあるが、居心地は悪くない。
寧ろ心地好くも感じる。
ぺったりと膝の上で眠る体勢をとるホワイトスライムを撫でながら、礼拝堂内に溢れる加護の心地好さにうとうととしてしまう。
創造の神よりは破壊の神に近しい騎士だった私には、破壊の神の加護が強いこの礼拝堂は安心出来る場所でもあった。
ホワイトスライムを抱えながら、クィルと同じように長椅子に寝転ぶ。
固い椅子だが、洞窟よりは寝心地が好い。
「寝ます?」
ひょこりと顔を覗かせて、クィルがそう言って微笑んだ。
ふと、生前私に懐いていた猫妖精を思い出した。
あの子は元気だろうか?
私のような騎士になりたいと言うから、私が身に着けていた黒銀の甲冑の代わりにと黒の長靴とコートをあげたらたいそう喜んでくれた、とても素直な子だった。
「おいで。」
そんな猫妖精とダブらせてしまった所為で、ついそんな気安い言動を取ってしまった。
間違えたか。
目を瞬かせるクィルを見てそう思ったが、伸ばした腕を今更引っ込めることはできない。
暫く無言で様子を見ていたら、クィルが少し顔を赤くして、おずおずと手を握って来た。
だから、そういう顔をするな。
馬鹿な男だったら勘違いする。
「良いの?」
《ああ。人間一人乗ったところで、潰れたりしないよ。》
ホワイトスライムを一度肩口辺りに移動させてやれば、少しワクワクとした表情で靴を脱いだクィルが椅子を乗り越えて乗っかってきた。
意外に重いなと思いながらも腰を支えてやれば、私の身体を敷布のようにして寝転んだ。
可愛い。
マズい。
頭が馬鹿になる。
「ふふっ。あったかい。」
………ダメだ!頭が馬鹿になる!
ふわふわとした笑顔でそう言ってすんなりと寝入ってしまったクィルに、思わず頭を抱えてしまいたい衝動に駆られる。
何で今の今まで無事だったんだ、この生き物。
私はそう思いながら、気を紛らわせる為にホワイトスライムを寝ているクィルの上に乗せた。
可愛いに可愛いが合わさっただけで、悪化してしまった。
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