ボクらがケモノをやめたなら

かかし

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「高城、今日の晩飯………つまり明日の弁当何が良い?」
「この間のつくねの照り焼きハンバーグ美味かった!毎日アレにして!」
「毎日は面倒だから無理。今日の晩飯になら良いよ。」

何故か一緒に暮らしているようなこの状態で、これまた何故か自然と家事の役割も決まっていった。
掃除は二人で手分けして。
朝食作りと皿洗いは高城が、洗濯と夕飯は吉塚がとなっている。
尚、二人とも同じメニューが続いても全く飽きない所か気にしていない性格なので、基本的に多めに夕飯を作り、それを翌日高城が朝食を作るついでに弁当に詰めることになっている。
多少ネットで聞き齧った程度の栄養バランスは保とうとしているが、その辺りは冷凍食品やら困った時のブロッコリーといった感じだ。

「それと今日の飯はスペシャル………晩飯限定だ!」
「なにそれ気になる!なになに?」

ワクワクと台所に近寄ってきた高城に、吉塚は冷蔵庫からドヤ顔でタッパを一つ取り出した。
蓋の方を見せられても、何が入っているのか分からない………。
しかし渾身のドヤ顔の最中にそれを言って水を指すのもアレなので、高城はそっと屈んで下から覗き込むことにした。
………結論、よく分からない。

「なにこれ」
「明太子!ちゃんとしたメーカーのだからちょっと高かったけど、貯めてた小遣い使って奮発してみた。」

ふんすふんすと鼻息荒く、吉塚はそう言った。
なるほど、これが明太子。
ファミレスのクリームパスタなどで食べたことはあるけれど、そのままの形のやつは初めて見た。
吉塚はタッパを開けて小鉢に一欠片ずつ乗せる。
薄い膜にぷりぷりと卵の粒が詰まっていてとても美味しそうだ。

「スケトウダラの卵だったよね。魚卵好き!」
「俺もー!早く食べよう!」

吉塚と高城は、わりと食の好みが合った。
食材にしても、食べ方にしても。
合わないのは精々デザートや飲み物くらいで、食事時に喧嘩になったことは一度もない。

食の好みって大事だよなー。

高城はいつもそう思いながら、吉塚が楽しそうに料理を作る様を見ていた。
吉塚はなんだかんだ言いながら、料理を作るのは嫌いではない。
それに一人ではない食事の時間は、最高の調味料でもある。

しかし、だからこそ吉塚は思う。

もしもクラスが違って吉塚がプライドから追放されてしまったら、もう高城はここに来てくれなくなるのだろうかと。
来ないに決まっている。
当たり前のことだ。
何が悲しくてわざわざ関わりのない男のところに行かなくてはならないんだ。

自問自答しては、苦しくなる。
せめて高城がこの家に対して都合が良いと思ってもらえないだろうか。
そうしたら、きっと離れてしまった後も―――

「ヨッシー?」
「っ!悪い、ちょっとぼっとしてた。」

ハッと我に返り、吉塚は慌ててフライパンの上で焼かれているつくねを見た。
幸い焦げ付いてはいない。
フライ返しで器用にひっくり返し、弱火にして蓋をする。
中までしっかり焼けたら最後に市販の照り焼きソースをかけるだけなので厳密に言えば照り焼きではないが、照り焼きソースがかかっているのでこれは照り焼きと呼んで大丈夫だろうと吉塚は思っている。

「料理中にボーッとしたら危ない。」
「ホントにな。焦げなくてよかった。」
「そういう事じゃないんだけど。」

やれやれと溜息を吐く高城に吉塚は素直に謝るも、どうやら高城が求めていた答えとは違うらしい。
とは言え高城と噛み合わないことはわりとよくあるので、吉塚は今回もそうだろうと敢えてスルーをした。

「高城、テーブル拭いておいて。」
「やったよー。ランチョンマットのセッティングもバッチリ。」

そろそろ出来そうだなという頃合で指示を出せば、ウインク付きの返事が来る。
ちなみに吉塚はウインクできない人間なので、高城みたいなイケメンしかできない動作なんだろうなと信じていた。
じゃないと俺が出来ないのおかしい。
したところで別の意味でおかしいけれど。

出来上がった料理を付け合せの野菜と共に皿に盛り、取り敢えず使った調理器具は水に浸しておく。
本当はすぐに洗うのが良いのだろうが、食い気の方が勝る。
それは高城も一緒で、いそいそと皿を取りに来たかと思うと手早くカトラリーのセットされたランチョンマットの上に並べた。
ちなみにこのランチョンマットは、そんな文化がなかった吉塚を連れ回して百均に行き揃いの絵柄で高城が買った物だ。
この家には今やマーキングのように高城との揃いの数々が種類を問わず存在しているのだが、吉塚はそんなこと一切気付いていなかった。

「「いただきます」」

二人で行儀良く手を合わせて晩飯に舌鼓を打つ。
高城も吉塚も食べることが好きだ。
無駄に話もせず、それでもしっかりと味わいながら食べる。
時折聞こえるのは高城の感謝の言葉と、それを受け止める吉塚の少し照れたような声。
それだけの音で、二人には十分だった。
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