ボクらがケモノをやめたなら

かかし

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「ヨッシーお弁当入れた?忘れ物ない?」
「………お前は俺のなんなんだ。ないよ。」

共寝した高城がいつも通りに動く気配で起きてしまい、吉塚はいつもよりも早く目が覚めてしまった。
寝てていいよと高城は言うけれど、寝ていてもどうしようもないからと高城の手伝いをしつついつもより早く朝ご飯を食べ………結局やることがなくなったのでいつもよりも早く学校に行くことになった。

「ルーチンが崩れると調子も崩れるからね。じゃあ出ようか。」

戸締りを確認する高城に着いて回りながら、吉塚もダブルチェックと称して確認していく。
今日は工事の都合上沢山の人間が出入りすることとなる。
いくら颯太が立ち会いをしてくれるとはいえ、不測の事態が起きないとも限らない。
普段はしないが昨日の前例もあるから各々の部屋にも念の為鍵をかけておいて、家を出た。
各自の部屋に立ち入る必要性がないことは、既に確認済みである。

「いつもより早く着いたら、ゆずちゃん達に何か言われるかな?」
「普通に早く起きたでよくない?どっち道いつも向こうの方が遅いじゃん。」

高城が吉塚を拾い上げてから数ヶ月。
吉塚は高城が思った以上に早く慣れ、今やプライドの女子達ととても仲良くなっている。
なんなら高城と以上に仲良くなっているので、高城としてはやきもきしてしまう時もあった。
勿論、吉塚は彼女達に恋愛感情は抱いていないし、彼女達も吉塚に恋愛感情を抱いていない。
それは理解しているが、抱き合ったり肩を寄せ合ったりを目の前でされると、目の保養でもあるしやきもきしてしてしまうし………兎に角複雑なのだ。
なんていったって吉塚はストレートな訳だし。

「おはようございます。」

玄関の鍵をかけてさぁ学校にと思った瞬間、吉塚と高城は聞き覚えのない声に挨拶をされた。
自然と浮かんだ驚愕を、それでも隠しながら声のする方を向く。
そこに居たのは、吉塚ですら何度か遠くから会釈したことある程度にしか知らない、本宅で住み込みで働いているハウスキーパーの男性だった。
精神を病んでいる母親相手だからかラガーマンのように体格の良い男性だが、何故彼が本宅に居るのだろうか?

「今から学校ですか?」
「失礼ながら貴方は何故ここに?ハウスキーピングは本宅しかお願いしていない筈ですよね?」

馴れ馴れしく話し掛けてくる男に、吉塚が反応するよりも早く高城がそう質問を返した。
男の問いに答える義理はない。
警戒する吉塚を自身の長身を活かして背中にそっと隠してやる。

「………見知らぬ人間が居たら、警戒するのが普通では?お友達ですか?」
「雇用主から伺ってませんか?俺は離れのハウスキーピングを任されている者です。」

雇用契約書もありますよという高城に、吉塚はその背中に隠れながら驚愕の表情を浮かべた。
当然男も驚愕の表情を浮かべながらも、高城のことを疑うような目線を止めてはいない。

「失礼ですが、高校生………ですよね?」
「それが何か?お疑いならば、吉塚氏に確認をされても結構ですよ。先程もお伝えした通り、雇用契約書もありますので。」

バチバチと、聞こえる筈のない音が聞こえるような気がした。
困惑する吉塚を他所に、高城の警戒はピークに達していた。
妙に食い下がっているのだ、この男。
そもそも朝の忙しい時間に本宅ではなく何故離れに居るのか。
先程からその事に一度も答えていないのも怪しい。

「………」
「黙るなら好い加減本宅に戻っては如何ですか?それとも、大地が学校に遅れても構わないとでも?」
「いいえ………お忙しい中、失礼致しました。」

グッと声を低くして高城がそう言葉を叩き付ければ、男は漸く諦めたのか本宅の方へ戻って行った。
そうして男の姿が完全に見えなくなると同時に、高城はポケットに忍ばせていたスマホを操作する。

「何してんの?」
「通話切ってる。アイツに話し掛けられた段階で颯太さんに通話繋いで放置してたから。上手くアイツの声が入ってたら良いけど。」

あまりの手際の良さに、吉塚は感心してしまう。
先程の対応といい、高城は同じ年だというのに場馴れしているような気もする。
頼もしいけれど、逆に心配にもなってしまう。

「さ、もう行こうか。少なくとも颯太さんが怪しんでる中でこっちには来ないでしょ。」

いつもの笑みで高城はそう言って、この話を終わらせた。
今はまだあの男が例のストーカーだという確証はないし、颯太には報告というか知らせてはいる。
子供だけでこれ以上警戒したところで無駄だろう。
一応警察に行った時にもう一度今の話をして指示を仰ごうと、高城は結論付けて吉塚の手を取った。

「あとさ、雇用契約書って本当?」
「ほんと。直ぐバレるようなハッタリかましてもしょうがないでしょ?ま、住み込みじゃなくて雇用時間は朝一と夕方からだし、一応タイムカード的なの切ってるけど法に触れない程度だよ。だから後は俺とヨッシーのプライベートタイム。」

住み着いてるのは変わらないと、高城はカラカラと笑う。
その言葉に、吉塚はちょっとだけホッとした。
金で雇われた友人でしたと言われたらどうしようかと思ったのだ。
それでも離れたくないと、縋り付いてしまいそうになるから。

「俺がヨッシーの傍に居たいから居るだけ。ダメ?」
「ううん、ダメじゃないし嬉しい。………ありがとう、レオン」

ポツリと吉塚が小さく呟いた言葉は、それでも確かに高城の耳に届いた。
呼ばれ慣れた名前。
日本人らしくないけれど、でも大好きな祖父がつけてくれた、誇らしい名前。
それを好きな人に呼ばれるのは、こうも嬉しいものなのか………

「よよよよヨッシー!今の!まっ!もう一回。」
「何が?早く学校行くぞ。」

昨日一日で怒涛の勢いで悪いことばかりが起きてしまったけれど、もしかしたら良い変化が起きるのかもしれない。
期待に胸を膨らませたのは、高城と吉塚、果たしてそのどちらだろうか。
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