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その異変に気付いたのは、かつて吉塚に辛酸を嘗めさせられたとある男子生徒だった。
お気に入りのサボりスポットで昼寝をしていたら気が付けば放課後となってしまい、取り敢えず鞄を取りに行くかと教室に帰っていた時に目撃したのだ。
吉塚を抱えて走る、複数の男子生徒を。
慌てた様子で校外へと出る男子生徒と、ぐったりと抱えられた吉塚。
具合が悪いからかと一瞬思ったが、どう考えても様子がおかしい。
片方の袖が取れたワイシャツもおかしかったし、そもそもあの吉塚があんなにも弱った様子を他人に晒すだろうか?
仮に晒すとして、その身を預けるのをあの高城が許すだろうか?
何もかもを放り出して吉塚を自分の手で帰す筈だ。
「おい!何してる!」
「やべっ!」
「走れ!」
声を掛ければぐったりとしているままの吉塚に構うことなく駆け出し、そして慌てた様子で校外に停められていた黒のワンボックスカーの後部座席に滑り込むように乗り込んだ。
漸く追いついた頃にはもうその車は走り出していて、嫌な予感というかとんでもない事に巻き込まれてしまったのではと思いとにかく高城を探しに校内へと戻った。
吉塚が校内に居たということは、高い確率で高城も校内に居る筈だ。
「高城!」
「あ?」
案の定、高城は教師からプリントを受け取り何かを話している。
睨みつけられ凄まれたが、そんなことを気にしている余裕なんてなかった。
ここまで戻って来るまでに目撃した吐瀉物、あれはきっと吉塚が吐き出した物だろう。
そうだとしたら、想像以上にヤバい。
「高城、吉塚が!」
「………大地が、何?」
今見てきた情報を説明すればする程、一緒に聞いていた教師の顔は青褪め、高城からはどんどん表情が抜け落ちていく。
その瞬間、高城のスマホが震え出した。
「颯太さん?………アイツ居ないんですよね。アイツに大地が拐われたっぽくて………申し訳ないです、俺の所為で………」
ギリギリと高城が拳を握り、悲痛な表情を浮かべる。
高城の所為とはどういう事なのだろうか?
校内で拐かされるだなんて、誰も想像つかないだろうに。
「相馬」
「お、おう………」
「教えてくれてありがとう。先生、俺ちょっと教室戻ります。」
「えっ!ちょっと待ってくれ高城………!」
高城はいくつか言葉を交わすと電話を切り、相馬と呼んだ男子生徒にそう礼を言うと再びどこかに電話をかけながら教室に向かって走り出した。
話を聞いてしまった教師が慌てて駆け出したが、邪魔になるだけだろうと思いながらも相馬も後を追った。
落ち着かないのだ。
あんなにも強くて苛烈な吉塚が、まるで小さな子供のように無抵抗な状態で連れ拐われて。
思わず出てしまったのだろう吐瀉物も、ただ体調が悪いだけとも思えなくて。
散々辛酸を嘗めさせられたが、だからと言ってざまぁとは思えなかった。
ただどうか無事であるようにと、願わずにはいられなかった。
お気に入りのサボりスポットで昼寝をしていたら気が付けば放課後となってしまい、取り敢えず鞄を取りに行くかと教室に帰っていた時に目撃したのだ。
吉塚を抱えて走る、複数の男子生徒を。
慌てた様子で校外へと出る男子生徒と、ぐったりと抱えられた吉塚。
具合が悪いからかと一瞬思ったが、どう考えても様子がおかしい。
片方の袖が取れたワイシャツもおかしかったし、そもそもあの吉塚があんなにも弱った様子を他人に晒すだろうか?
仮に晒すとして、その身を預けるのをあの高城が許すだろうか?
何もかもを放り出して吉塚を自分の手で帰す筈だ。
「おい!何してる!」
「やべっ!」
「走れ!」
声を掛ければぐったりとしているままの吉塚に構うことなく駆け出し、そして慌てた様子で校外に停められていた黒のワンボックスカーの後部座席に滑り込むように乗り込んだ。
漸く追いついた頃にはもうその車は走り出していて、嫌な予感というかとんでもない事に巻き込まれてしまったのではと思いとにかく高城を探しに校内へと戻った。
吉塚が校内に居たということは、高い確率で高城も校内に居る筈だ。
「高城!」
「あ?」
案の定、高城は教師からプリントを受け取り何かを話している。
睨みつけられ凄まれたが、そんなことを気にしている余裕なんてなかった。
ここまで戻って来るまでに目撃した吐瀉物、あれはきっと吉塚が吐き出した物だろう。
そうだとしたら、想像以上にヤバい。
「高城、吉塚が!」
「………大地が、何?」
今見てきた情報を説明すればする程、一緒に聞いていた教師の顔は青褪め、高城からはどんどん表情が抜け落ちていく。
その瞬間、高城のスマホが震え出した。
「颯太さん?………アイツ居ないんですよね。アイツに大地が拐われたっぽくて………申し訳ないです、俺の所為で………」
ギリギリと高城が拳を握り、悲痛な表情を浮かべる。
高城の所為とはどういう事なのだろうか?
校内で拐かされるだなんて、誰も想像つかないだろうに。
「相馬」
「お、おう………」
「教えてくれてありがとう。先生、俺ちょっと教室戻ります。」
「えっ!ちょっと待ってくれ高城………!」
高城はいくつか言葉を交わすと電話を切り、相馬と呼んだ男子生徒にそう礼を言うと再びどこかに電話をかけながら教室に向かって走り出した。
話を聞いてしまった教師が慌てて駆け出したが、邪魔になるだけだろうと思いながらも相馬も後を追った。
落ち着かないのだ。
あんなにも強くて苛烈な吉塚が、まるで小さな子供のように無抵抗な状態で連れ拐われて。
思わず出てしまったのだろう吐瀉物も、ただ体調が悪いだけとも思えなくて。
散々辛酸を嘗めさせられたが、だからと言ってざまぁとは思えなかった。
ただどうか無事であるようにと、願わずにはいられなかった。
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