どなたかピンク髪の少女を知りませんか? あ、こう見えても実は俺、異世界から来たんです。

若松利怜

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第一章 初めて行った異世界で、俺の中に別の何かが覚醒した。

第9話 #異世界犯罪者をインタロゲイション(尋問)

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 その後、俺はミランダ隊長を含む五人から、地下牢に収容されている盗賊達への尋問許可を貰った。

 最後に捕まえた二人がボスっぽいよな。

 先ずはあいつらに会ってみないと。

 早速、収容所への案内をミランダにお願いすると、今すぐですかと驚いてはいたが快く彼女は承諾してくれた。

 すると、フローリアが俺にお出かけの際にはこれをと、ルビエンド家の紋章の付いたネックレスを手渡してきた。

 表には紋章が刻印されており、裏には複雑な紋様が刻まれている。

 さらに、俺の話を聞いていたキャロルが、いつの間にかモーリスに馬車を頼んでくれたらしい。

 キャロルとメリルにお出掛けのご用意が出来ましたらこちらへと、俺とミランダは宿の正面玄関へ案内されたのだ。

 何だかキャロルもメリルも気が利くと言うか、色々と準備が早いよな。

 空気が読める人って言う感じ?

『この人達、賢い人達なのよ』

 なるほど、身の周りの状況をよく理解してる人達なんだなー。

 俺とミランダはキャロルやフローリア達に見送られ、宿の前に用意された馬車で収容所へ向かう。

 この街の郊外に収容所はあると言われたが、土地勘の無い俺にはアニマが近隣マップをサーチしてくれていた。

  そして馬車は十数分走ると、強固な石造りの建物の前に停まった。


「ハルト様、こちらが収容所です」

「あ、ここ?」


 そこは宿からは二キロ程離れた辺りの街外れだが、エルの街を囲む川の様なお堀の外じゃないのか?

 門がある橋を渡った気配が無い。

 脳内のマップを見てみても、やはり大きな川はまだ先にある。

 馬車を降りて辺りを見回すが、目の前の大きなレンガ造りの建物の他に建造物は見当たらない。


「では、ご案内致します」

「あ、うん」


 そう言われ、ミランダの後をついて建物に入ると、数名の衛兵達が出迎えてくれた。

 アニマが表示してくれている接近者のステータスログに、幾つか見覚えがある人が居る様だ。


「あ、スカーレット?」

「はい。彼女は今夜の勤務の筈ですが、もう来ている様ですね」


 そこには、今朝部屋で会った副隊長のスカーレットと、昨日の夜門番をしていた衛兵の姿もあった。

 彼女、昼過ぎに俺達と一緒に居たのに今夜は勤務なのか。

 その他にも見覚えのある顔もあったが、ミランダと俺が簡単な挨拶を澄ますと、ランタンを手にした衛兵にこちらですと地下階段へ案内をされた。

 どうやらこの建物の地下に収容所があるらしい。

 地下一階には畳一畳程の小部屋が多くあり、一般的に先ずはここに留置されるらしい。

 そして、身体能力や魔法の有無、罪の種類によって地下二階か三階へ移される様だ。

 二階へ降りると、廃村に居た二十数人の盗賊達が収容されていた。

 ランタンの明かりを衛兵があててくれるが、俺には必要無いんだけどね……。

 明らかに過去に会った事のある奴らばかりだ。

 ダーっとログが流れるが、ボスらしき奴は居ない。

 そして地下三階へ降りて来ると、俺達に気付いた囚人が何処からか声を掛けて来た。
 

「おい! 衛兵!」


 声の方を見るとそこは部屋では無く、地面に頑丈そうな金属格子が見える。

 その格子の中を上から覗き込むと、辛うじて立っていられる縦穴が掘られており、そこから囚人が叫んでいるのだ。

 うわっ!

 こんな穴に入れられるんだ⁉

 横に寝転がる事も出来ないじゃん。


「なあおい! もう女王へは報告したのか⁉」


 俺が唖然として見ていると、案内してくれた衛兵がランタンを向けて穴を覗き込んだ。


「昨夜の内に領主へ報告は済ませてある」

 
 衛兵が囚人を見下ろしてそう言うと、そいつはふてぶてしくも呆れた表情を見せた。


「領主だぁ?」


 そうか、こいつはボンゴって言う奴か。

 アニマがこいつのステータスを俺の脳裏に映し出した。


「おいおい、この国の女王へ報告しなくて良いのか?」

「うるさい! 大人しくしてろ!」

「ふんっ……おい、水をくれ!」


 ふてぶてしい囚人に衛兵が対応しているが、身体の大きいボンゴには縦穴がかなり狭そうだ。

 てか、こいつ門の前にいた奴じゃん?

『うん、最初に上から殴って倒した奴ね』

 だよな?

 あいつがボンゴって名前だったのか。

『ハルト、ボンゴに水やって』

 は? 俺がっ⁉

『ちょっと触れるだけよ』

 ああ、そう言う事か。

 部屋の真ん中に置かれた水瓶から、衛兵が木の器で水を汲んでいる。


「あ、その水ちょっと貰える?」

「え? あ、はい」


 そして、衛兵から水の入った木の器を受け取ると、俺はボンゴの格子に近寄った。


「ほら、水だよ」


 ボンゴが手の指を格子の間から出すと、俺はその指に少し触れた。

 その瞬間、アニマがボンゴのステータスを上書きする。

 昨日は頭を叩いただけだったから、こいつの詳細は不明な所も多かったのだろう。

 しかし、金属の格子が邪魔で水の入った木の器は受け取る事は出来ない。


「ちっ! そのままかけてくれ」


 そう言うとボンゴは格子の下から口を開けて上を見上げた。


「ああ」


 俺は若干戸惑いながらも格子の隙間から水を流す。

 あー、しかし……やだねぇ、こんな牢屋暮らしは……。

 で、もう一人は何処だ?


「ミランダ、こいつと居たもう一人は?」

「はい。あちらです」


 そう言ってミランダが薄暗い部屋の奥を指差した。


「あっち?」

「はい、一番奥に収容しております」


 やっぱりボスって事で区別してるのかな?

 その穴を覗き込むと、思ったよりも若い男と目が合った。

 だがこいつは確かに橋の手前でアニマが腹パンした奴だ。

 早速アニマが表示したステータスログが流れている。

 名前はケスパーか。

 こいつも涼しい顔をして俺を見上げているが、ボスとか幹部とかこういうもん?


「おや、あなたは……見ない顔ですね」

「あ? ああ」


 さっきの奴といい、こいつといい、どうしてこんなに冷静だ?

 こんな穴から絶対に出られないと、既に観念して諦めてるのか?

『ハルトから聞いちゃダメよ?』

 何で?

『こちらから質問したら、その答えが相手にとって交渉の切り札になり得るから』

 そうなの?

 あれ?

 でも、尋問する為にここに来たんでしょ?

 こっちから聞いちゃダメって……。

 すると、ケスパーが俺に声を掛けて来た。


「初めまして、ですね?」

「ああ、お初」

「あなたがここの領主のお使いですか?」

「んー、お使いでは無いけどね」


 まあ、こうしてこいつから聞いて来てたら、こっちから訊く間もないけどさ。

 これで尋問なんて出来るのか?

 こっちから訊けないってむずいぞ?


「え? 私が捕まったから来たんじゃないんですか⁉」

「んー、どうかな」

「どうかなって……早くこの国の女王へ報告しなくて良いんですか⁉」

「女王へ……か」


 くーっ! コノヤロー、俺が質問しない事を良い事に……。

 穴の下から見上げてる癖に上からモノを言って来やがる!


「ど、どうしたんですっ⁉ あなたは何者ですかっ⁉」


 こ、こいつ、質問ばっかじゃん!

 いい加減にしろーっ!

 俺だってこいつに訊きたい事いっぱいあるのにっ!

 こっちが尋問するんじゃ無いの⁉

 これじゃ俺が尋問されてんじゃん⁉

『ふーん、やっぱり怪しいわね』

 え? そうなの? 何が?

『この二人、自分が捕まった事をこの国の女王に報告したのか、かなり気にしてるじゃん』

 は?

 あ……そうか!

 ボンゴもケスパーもそれを気にしてたな!

『もういいわ。面倒だからあたしに代わって』

 あ、やっぱり?

 とか言いながらアニマが質問攻めとかしない?

『しないわよ』

 え? マジでっ⁉

 それでこいつらから何か聞き出せるのかよ……。

 つーか何だか俺、こういうのって緊張しちゃって……。


「おいあんた! 何者なんだよ!」

「えっと、一応報告しとくね」

「え? な、何を?」


 アニマが操る俺はケスパーの穴をそっと覗き込んだ。


「昨夜、あなた達を捕まえた事とその処分を女王陛下に伺ったら、その返信がさっき早馬で届いたんですよ」


 するとミランダがハッと俺の目を見た。

 うんうん、知らない筈ですよね。

 嘘ですもん。

 そんなに見つめないでー!

 しかし、ケスパーは安堵の表情でこちらを見上げている。


「な、何だ。そうだったんですか。だったら……」

「あー、お待ちかねのその処分なのですが、領主の娘に危害を加え、永い年月その領土にも脅威を与えた盗賊達のその処分は、全て領主に任せると言う文書が届きました」


 ケスパーの話を遮る様にそう言うと、ミランダは相変わらず驚いた表情で俺を見ているが、ケスパーは背伸びをしてガシッと金属の格子を両手で掴んだ。

 ミランダさん、アニマが言ってる俺の言葉は全部嘘です!

 今の俺は大ウソつきなんです!

 しかしケスパーはミランダ以上に驚いた様子だ。

 格子にしがみ付いてこちらを見ようとする彼の、その表情が尋常ではない。


「なっ⁉ そんな筈はっ!」

「そんな筈かー」

「あ、いや……そうだ! 領主の娘を襲ったのは南の森の野盗ですよっ⁉」

「そうですかー、南の森の野盗ねー」

「そうなんだっ! 違うんだ! 俺じゃ無いんだ!」

「ふーん」


 そうか、俺が最初に居た場所は南の森って言うのか。

 あの五人組はあそこを縄張りにしてたんだな。

 待てよ、こいつ……そんな筈は無いってどういう事だ?


「そ、それに永い年月って言っても、私があの村へ来てまだ五年ですよ⁉」

「そうですか、あなたが村へ来たのは五年前でしたかー」

「そ、そうですよ⁉」

「それにしても、あんな盗賊達が居る村へ普通来ますかねぇー」

「そ、それは……」


 それにしてもケスパーの奴、べらべら話し出しやがった。

 アニマからは何も聞いちゃいないのに……。 


「あー、言いたく無ければ結構です。五年も前の事は忘れちゃいましたよねー」

「い、いやっ! 話すっ! 話すから!」

「えー? 話すのー?」

「ああ! 全部話す!」

「えー? 全部ー?」


 って、やっと訊いたと思ったらそれっ⁉

 話すって言ってんだからいいじゃん!

 もう話聞こうよ……。


「ああ、全部話すっ!」


 ケスパーは重い金属の格子を両手でグイグイと動かそうとするが、勿論ビクともしない。

 すると、アニマの操る俺は穴を覗き込む様にしゃがむと、その手にそっと触れてニヤッと笑みを浮かべた。

 同時にケスパーのステータスログが詳細なものに書き換えられた。


「んー、何も話さなくて良いよ」


 は、はい?

 アニマが操る俺はすっと立ち上がるとその場から離れる。

 き、聞かないのかよっ!


「は、はぁ⁉」

「全部話し聞くの、めっちゃながくなりそうだしー」

「な、何でっ⁉」
 
「さーてと、ミランダさん。このまま埋めちゃおうか?」


 そう言って穴の中から見えない所まで来ると、困惑した表情をしているミランダにウインクしてみせた。

 アニマ……こ、こいつ……。


「ちょ、ちょっと待ってくれっ!」


 穴のケスパーは俺が離れて行った事に焦りまくっている。

 格子に顔を押し付けて上の様子を見ようとしているが、勿論穴の中からはこちらが見えない。


「そうですね、女王様が処分を任せると仰っている様ですし?」

「じゃ、サクッと埋めちゃいますかー!」

「でしたら土で埋めるのではなく、水を入れた方が早いです」


 ミランダはそう言ってクスッと笑った。

 ミランダまでアニマに乗っかったよ……。


「あー! それは賢い、ミランダさん!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよっ!」

「嫌だよ。どうせ回りくどくあれこれ嘘言うし」

「そ、そんなっ! 嘘は言わないっ! 本当だっ!」

「あんたの話なんて聞きたくないからなー」

「た、頼むっ! 俺は裏切られたんだ! ちょっと話を聞いてくれ!」

「んー、あ、衛兵さん椅子ある?」

「あ、はい!」


 すると、慌てた衛兵は壁際にあった椅子を手にした。


「あ、もう一つある?」

「は、はい!」


 もう一つは上の階にある様だ。

 衛兵は勢いよく階段を駆け上がって行った。

 それを見てアニマはミランダへ椅子に座る様に薦め、そっとケスパーの穴を覗き込んだ。

 彼は何とも悲愴な表情で俺を見つめていたが、全くもってお前に同情する気持ちはない。


「ではミランダ隊長。ケスパーの罪状を」

「はい。ケスパー、貴様は昨夜ボンゴと二人エルの街正門にて、村に監禁していた住民の首を送り付けると村長を脅迫した。更には領主の血縁と知りながらキャロル様を脅し、強いてはハルト様にも危害を与えようとした」

「あ、僕の件は良いんだけど?」

「あ、すみません」

「続けて?」

「はい。ではケスパーには、これより更なる鞠訊きくじんを行う」


 ミランダはそう言うと俺の目を見た。

 きくじんって何?

『詳しく話を聞くって事よ』

 あ、そうすか。


「さてと、ケスパー。ミランダさんはこう言ってるけど、あんたの話は聞くかどうかはこれから決める」

「え……あ、ああ」

「僕の質問にイエスかノーで答える事。それが出来たらあんたの話を聞くから」

「わ、分かった」

「あ、嘘言ったら埋めちゃうよ?」

「う、嘘はつかない!」


 丁度そこへ衛兵が椅子を持って来た。


「ハルト様、椅子をお持ちしました!」

「あ、どもありがと」


 アニマはニコッと笑顔を見せて衛兵にそう言うと椅子に座る。

 そしてミランダと目を合わせると小さく頷いた。


「じゃあ、行くよー?」

「あ、ああ」

「あ、イエスかノーって言ったよね? 埋めちゃうよ?」

「い、イエス! あ、いや、ノー! ノー!」

「どっちだよ……」

「の、ノー……です」


 ミランダが穴のケスパーから見えない様にして、声を殺して笑っている。

 だが俺には分る。

 絶対にアニマは調子に乗ってケスパーを揶揄ってやがる。

 あんまり遊ぶなよ……。


「冗談だよ。出題はここから。第一問! じゃじゃん! ボンゴはガルドル王国の出身である、イエスかノーか!」


 は?

 ボンゴがガルドル王国出身?

 ど、どうして⁉

『ま、いーから』

 てか、じゃじゃん! って、絶対お前遊んでるだろっ⁉


「い、イエス……」


 ま、マジかよっ!

『あら、ビンゴ』

 まさかお前っ!

 当てずっぽうかよっ!

『核心から離れた所から答えさせるのよ』

 そ、そういうものなのか……?


「はい、次。ボンゴは五年前に村へ来た、イエスかノーか!」

「……い……イエス」


 ぬおっ⁉ マジかっ!

 って事は、こいつと一緒に村に来たって事か!


「では、次。ボンゴはガルドル王の依頼で村へ来た、イエスかノーか!」

「の、ノー!」


 何だと⁉ 違うのか⁉

 嘘言ってるんじゃ無いのか⁉

『いちいち動揺しないの』

 だ、だってお前……。


「はい、次。ボンゴはバルム公爵の依頼で村へ来た、イエスかノーか!」

「い、イエス……」


 な、何だとっ! 

 バルム公爵か!

 そう言う事だったのか!

 てかアニマ、お前どうしてボンゴの事しか訊かないんだ?

『ケスパーが五年前に村へ来たと聞いた時、二人が五年前に初めて会ったと予測してたの。自分の不利になる事より、付き合いの浅いボンゴの事なら答えやすいでしょ』

 な、なるほど……。


「では、次。バルム公爵はガルドル王と繋がっている、イエスかノーか!」

「そ、そうなんだ! 繋がってるんだよ!」

「むっ! イエスかノーか!」

「イエスだ! イエス、イエスーっ!」

「うっさいなー、イエスもノーも一回でよろしい」

「い……えす」

「ま、もういいや。飽きちゃったから埋めちゃおうか?」


 そう言って立ち上がると、ケスパーが格子を掴んで泣き喚いた。


「何でっ⁉ イエスかノーで答えたろっ⁉ 話を聞いてくれよっ! 頼むからっ!」


 すると、ミランダとアニマはニヤッと笑って椅子に腰かけた。


「で、ケスパー。あなたは何処の誰に頼まれて村へ来た? 本当の話だけならこのミランダ隊長は聞くよ?」

「ああ、事実だけを述べてみよ。嘘を言った場合、油を注いで火をつける」

「ひっ! 嘘は言わないっ! 頼む……ます」


 ケスパーは格子を掴んでいた手を緩めると、涙ながらにゆっくりと話し始めた。


 ♢


 その後、収容所を出て宿前へ着いた頃にはすっかり日は落ちていた。

 ミランダに宿の裏口を案内され中に入ると、俺は早速フローリア達に最上階の大部屋へ集まって貰った。

 勿論、彼女達に尋問した結果を報告する為だ。

『じゃ、私が皆へ話すからね』

 ああ、頼む。

 ケスパーの話を元に構成したアニマの分析はこうだ。

 凡そ二十年前、この大陸の北東に位置しているガルドル王国は、大陸全土を領地にしようと近隣諸国に圧力をかけ始めた。

 その為には大陸のほぼ半分を領土にしている、ルルディア国を攻め落とすことが最終目的だった。

 そしてガルドル王国は近隣諸国を事実上制圧し、やがてルルディア国の国境に面したバルム王国に攻め入ると隠密に遣いを出した。

 バルム王自身の命と引き換えに、バルム王国の国王としてルルディアに吸収合併を提案させたのだ。

 そして言葉巧みに吸収合併の条件として、バルム国王をルルディア国の公爵とさせたのだ。

 その後時機を見計り、王室への世話役としてルルディア国の中枢へ位置させる圧力を王室へかけ、その際邪魔になり得る貴族は暗殺された。

 そうしてルルディア国を内部から崩し落とし、最終的に占拠する計画を進めて行ったのだ。

 しかし、ルルディア国内の中でも特に元ジュエリナ国領土だった地域が攻略困難であると判断し、ジュエリナ女王血族であるルビエンド家領内へ圧力をかけ始めた。

 そうして暗殺者を遣いながら邪魔な貴族を排除しつつ、それまでは王家であったルビエンド家を王族としては追放し、新たなルルディア国としての侯爵へ叙爵したのが十三年前。

 さらにバルム公爵はルビエンド家領土に重税を課すが、反抗もせずにきちんと納税をして来たルビエンドに対し、今度はエルの街付近に元から住み着いていた南の森の野盗に目を付けた。

 野盗の当時のボスに給金を与えて北の森を占拠させ、更にエルの街へ執拗な嫌がらせを行わせたのだ。
 
 しかし、中々攻略できないエルの街にしびれを切らしたバルム公爵は五年前、ケスパーを送り込んだ。

 その際バルム公爵に、右腕として連れて行けとケスパーが紹介されたのが、ガルドル国出身のボンゴと言う大男。
 
 ボンゴはガルドル王国の傭兵だったのだが、ガルドル王の命を受けた使者としてバルム公爵と接触し、ケスパーと共に村へ来たのだ。

 更に、ルルディア王室の現状は女王の城がある城下町を除いて、その他全てはバルム公爵が事実上管理しているらしい。

 ルビエンドからの女王への手紙や伝達は、やはり十二年前から断絶されている様だ。

 ルルディア国において現在のルビエンド領は孤立した状態だという事だった。

『ま、こんなとこでしょ』

 そうだな……。

 フローリアをはじめ、キャロルやメリルも王室の状態を聞いてショックを受けている。

 しかし、俺が想像していたよりもスムーズに尋問は成功した。

 スムーズ過ぎて呆気ない気もする。

 やっぱアニマって凄くね?

『かなり状況も掴めたし、後はフローリアに委ねないとね』

 え? そうなの?

『ガルドル国に、この国へ攻めるデメリットを知らしめようとは思ったけどさ、今じゃルルディア国はバルム公爵を介してガルドル国の手中でしょ?』

 ああ……そうだな。

『こうなると、ここで何か目立った事したら、ルビエンド家のクーデターって事になるよ?』

 あ、そうか……。

 俺なんかが介入する事じゃ無いのかもな。

 この領土をどうするのかは、領主である彼女が判断する事だ。

 俺は異世界の人間だ。

 沙織さん達が地球に関与出来なかった様に、俺も大きな関与はしない方が良いだろう。

『そうじゃないよ、ハルト』

 え?

『私はフローリアが好きだし、キャロルもみんな好き。だから出来る事はしたい』

 なっ! お前、それはずるくない⁉

 それは俺だってっ!

『フローリアに決断して貰うの。クーデターを起こしてでもこの国を護るって』

 そ、そうか……。

 多くの犠牲も覚悟して戦う事になるかもだからな。

 俺はそっと皆を見回すと、最後にフローリアの目を見た。


「そう言う訳だけど、フローリアさんはどう考えます?」

「はい……。実は、ほぼ夫が推測していた通りの事でしたので、ある程度の覚悟は出来ておりました」

「そうなんですか⁉」


 てか、領主の旦那さんは何て呼べばいい?

『殿下でも領婿でも良いんじゃない?』

 りょうせい?

『呼び名なんてハルトに関係無いでしょ。そもそも旦那さんにも名前はあるんだろうし』

 まあ、そうだよな。

 すると、キャロルがフローリアを見て呟く様に言った。


「そうでしたか……だからお父様は一昨日の夜、私にエルの街へは行くなと……」

「ええ、出来る限りルビエンド城下からは出ない方が良いと」

「でも、お母様やお姉様にとってエルは大切な街でしょう?」

「ええ。ですから街の厳重な警備や河川の補強をしていたのです。それにルビエンド家にとってどこの街も大切な街なのです」

「はい……」


 なるほど、エルの街のお堀や厳重な警備はこの十数年の事か。

『早くフローリアさんに決断して貰ってよ。私が代わっても良いけど、ここはハルトが仕切ってご覧?』

 あ、ああ、分かった。


「では、フローリアさん。今こそ決断の時です」

「ええ、そうですね」

「旦那様には後で僕が話をしに行きますけど、フローリアさんとしての決断をお聞かせ下さい」


『あ、こら! 今、旦那さんの話をしたらながくなるでしょーが!』

 あ……そう?


「え? 夫に? ハルト様が?」

「え、ええ」

「明日ですか?」

「あ、いえ、早い方が良いので夜の内に行ってきます」

「えっ⁉ それは危険です! 盗賊達が居なくなったとしても、この街の外にはバルム公爵の使用人が居るかも知れません」

「あー、空を飛んで行くつもりですけど……」

「そ、空を……。そうでしたか、でもどうやって夫にお会いするおつもりですか?」

「どうやってって……」


『ほらね……ながくなったでしょ』

 う……ごめん。


「ハルト様、夫の面識も何もございませんでしょう?」

「あー、それはキャロルの血縁でしたら分かりますけど、あ、キャロルとお父さんは血縁が無いとか?」

「いいえ? キャロルは夫と私の娘です」

「それなら問題無いです。キャロルと濃い血縁者の男性を探すつもりですから」

「な、何と……」

 
 で、出来るよね? アニマさん。

『出来そうだけど、確認の為に名前は聞いておいてよ』

 あ、ああ、そうだよね。


「あ、キャロル、お父さんの名前は? 間違えてお爺ちゃんとかだったら面倒だし」

「父方の祖父は他界しておりますが、母方の祖父母は城下におります。あ、父の名前はヘンリーです」

「ヘンリーさんね、了解」


『それと、大まかな居場所も。今頃は城のどの辺りーとか』

 そ、そうだよな。

『あ、忘れてた。フローリアさんに旦那さん宛の簡単な手紙も預かって』

 なるほど! それは話が早そうだ。


「じゃあ、フローリアさん。先ずは決意表明を」

「え、ええ……」

「今のルルディア国はバルム公爵を介してガルドル国の手の中。既にルビエンド領は孤立状態です。よって、何か行動を起こせばそれはクーデターとなってしまいます」

「クーデター……そうですね」

「はい。ルルディア王国に寄生したバルム公爵を捕らえ、更にはガルドル王国に占領された各国を全て解放する。そして最終目的として、この大陸全土をルビエンド家が治めて欲しい」

「え、えーっ⁉」

「ハルト様⁉」

「そんな事っ!」

「あ、最後は俺の希望になっちゃったけど、フローリアさんはこの大陸全土を統一し、その女帝になるんです!」


 フローリア達は絶句したまま俺を見ていた。

 この人、頭大丈夫?

 彼女達のそんな心の声が聞こえる気がする。


『あはははー! そう来なくっちゃ!』

 アニマにそう言われると心強い。

 俺はこの人達にならこの力を遣っても良いと思う。


「大丈夫、俺が居るから。キャロルやフローリアさんが大切にしている領民や、ルルディア王国を絶対に護る!」

「ハルト様……」

「俺はフローリアさんやキャロルなら信じられる。あなた達は多くの人達の上に立つ人だよ。フローリアさんの決意を見せて欲しい。後は俺達が何とかするから」


『あ、馬鹿……』

 ん? どした?


「え? 俺達?」


 キャロルが不思議そうに俺を見たと同時に、皆が一斉に俺を不可解な面持ちで見た。

 彼女が口にした事で、俺達と言った事が妙にクローズアップされてしまった。


「あ、いや、俺! 俺が何とかする!」

「あ、はい……」


 あぶねーっ! 

『あぶねーって……何にも誤魔化しきれて無いわよ』

 あ、ごめん。

 するとフローリアがすっと立ち上がるとその場で跪いて頭を下げた。


「分かりました。全てはハルト様の仰せのままに」


 それを見たエルデがフローリアに倣うと、キャロルとメリルも慌てて立ち上がった。

「お母様……」

「私はハルト様を信じております」


 そうフローリアが言うと、皆が同じ様に跪いて頭を下げてしまった。


「あ、いえいえ! 信じて貰えるのは嬉しいけど頭は上げてよ!」

「ハルト様……」

「それじゃ、旦那さんに簡単でも良いので手紙を書いて貰えます? 行き成り俺が現れて説明しても疑心暗鬼になるだろうし」

「はい、すぐに!」


 フローリアが顔を上げてそう言うと、素早くエルデが少し離れた机へ向かった。

 筆記具を用意するのだろうが、手にしたのはガラスの様な物で出来た長い……。

 あれがペン?

『そんな事よりキャロルにはお父さんの居場所を聞いて』

 あ、ああ、そうだった!


「ねえキャロル。お父さんが今何処に居るか分かる?」

「はい、この時間ですと……普段は書斎に居る事が多いですね」

「書斎ね、よし分かった」


 書斎ってのが何処にあるんだか分からないけど、ルビエンド城内ならあの紋章を見せたら、誰かが案内をしてくれそうだ。


「あ、ハルト様。城へ行かれたら是非、姉のグロリアにお会いして戴きたいのですが……」

「あ、お姉さんね、オッケー! 例の結婚の話、白紙で良いんだよね?」

「はい! 私からも姉宛の手紙を書きますので、少しだけお時間を下さい!」

「うん、分かった」


 キャロルのお姉さんか……どんな人だろう。

 国を護る為に嫁に行く決意をしたとか、何だか凄い決意をしたんだろうな。

 早く安心させてあげたい。

 その後、フローリアとキャロルから手紙を預かると、俺は見送りの皆と一緒に宿の屋上へと上がった。



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5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
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ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
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 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
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「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

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