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ウィナーズ

3-26「消えたい奴から……一人ずつ掛かって来いだお!!」

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 今の所は順調に戦えていると思う。敵は茜の土魔法で作った壁のせいで数の有利を生かせず、狭い場所での戦いを強いられている。
 だけど敵も戦闘職な事もあってか何も考えずに狭い通路を攻めてくる訳ではなく、盾持ちを前面に展開させて無理に攻めてこようとはしなかった。

「嫌な感じですわね、まるで守りに入っているようですわ」

「それもあるし、後ろのアレが気になるでござるな」

 そう、戦いを繰り広げている戦闘職の後ろ……鍛冶場に展開するモンスター達は戦いそっちのけでなんとをしているのだ。
 狭くなった通路の向こうにいる敵しか見えないけれど、たぶん各種族の職人系モンスター達が一心不乱にハンマーを金床に叩き付けていのだろう……奥の方から金属を打ち付ける音だけが聞こえる。

「このまま何かをするのを待っているのは得策ではありませんね」

「拙者に良い考えがあるでござるよ」

 僕と光の騎士達が戦っている後ろから仲間の相談の声が聞こえた。敵が守りに入っているお陰で会話を聞き取る余裕さえある。
 おっとっと、何をやるのか気になるけれど僕は僕のやる事をやらないとね。そのまま守りに入っているオークジェネラルに向かってハンマーを振るった。
 このジェネラルの持っている盾はなんと【ミスリルタワーシールド】だ。お陰で盾を壊して強引に攻める事が出来ないでいる。


 なかなか動きがない攻防を繰り返していると、敵の後方で何やら騒がしい声が聞こえた。

『グギャアア!!』『フゴオオオッッ!!』

 敵の悲鳴だろうか? あれ? 奥の方で一瞬だけれど執事とアイシャが見えたような? 僕は後ろが気になったけれど、さすがに振り返る事が出来ずにそのまま戦い続けた。


「うまくいったわ、敵の後衛職をそれなりに倒せたわ」

「さすが早瀬様の作戦勝ちでございますな」

 しばらくしてから今度は後ろから二人の声が聞こえる。一体何があったんだろう? う~、気になるよ。

「巧美様、一旦下がって休んで下さいませ」

「了解だお」

 僕は光の騎士と入れ替わって後方へ下がった。さっそく茜達に何をしたのか聞いてみると、敵の守りが手薄な壁の一部に人間が通れるくらいの穴を開けて、そこから執事とアイシャが敵後方へ奇襲をかけたようだ。
 ある程度の後衛の戦闘職は倒せたけれど、奥の鍛冶をしている職人の前にはジェネラル達が別に防衛ラインを敷いていて、そこは超える事は出来なかったようだ。

「敵戦力を減らせたのは大きいお。僕の方は最初以外はさっぱり敵を倒せずに停滞しっぱなしだったお」

「しかたがありませんわ、敵は明らかに守りに入っていますもの」

「え~、このままだと後ろからモンスターがして来ちゃうよ~」

「大丈夫でござる美百合殿、相手にはこちらの位置を察知できる敵は二人が倒してくれたでござる、あとは……」



 作戦は決まった……僕は槍と弓を持った光の騎士達と共に壁の前に立ち時を待つ。

「今でござる!!」

 茜の合図と共に目の前の壁、2メートル幅ほどが下がると僕達は一斉に駆け出した。敵集団はこちらを見て慌てた様子で騒いでいる。
 僕は走りながら投擲でダガーを投げると、それは面白いように命中していった。弓を持った光の騎士達も一斉に矢を放つ……敵は大混乱のようだ。
 そう、僕等は先程二人が攻め入った反対方面から敵背面に奇襲をかけたのだ。

「おーーほっほっほっ!! さすがですわ巧美様!! ナイツ達も続きなさい!!」

 見た目に反して今までしなかった高笑いをしながらエリザが光の騎士達を鼓舞する。彼女が立っているのは天井に迫るほど高い岩の塔だ。騎士達を指揮するためには彼等を視界に収めないといけないようなのだ。

 槍を持った光の騎士が敵集団に【ランスチャージ】を喰らわせる。僕の敵陣に飛び込むと【絶空牙】で敵を倒していく……おっと、そろそろ危ないかな?

 敵がこちらに気付いて包囲網を布こうと動き出す……それを察知した僕等は出てきた反対方向の岩壁へ走り出す。
 敵も僕等が背を見せて走り出したのを見て本気で追いかけて来た。それなりに数を減らせたとは言え、敵の数は未だに50体以上……ドドドドッという大きな足音が怖い。

「茜……信じているお、頼むお!!」

 目前に岩壁が迫っても足を止めない。このままの勢いでぶつかれば怪我では済まないだろう。恐怖心と戦いながらも僕等は壁に突っ込む……すると目の前の壁が下がって消えた。
 そのまま奥へ走り抜けると、後方で再び岩の壁がせり上がってゆき通路を塞いだ。
 ドガガガガン!! と音と共に『ボゴッ!?』『グギャギャ!?』『ヴォオオッ!?』などと叫び声が聞こえた……きっと壁に激突したのだろう。そしてそのぶつかった敵の後続が更にぶつかって大事故になったようだ。

 追い打ちをかけるように振り返った光の騎士が曲射で矢を放つ。お陰で壁の向こうから聞こえる敵の叫び声が追加された。
 敵は騎士達から見えない位置にいるのにも拘わらず、塔の上にいるエリザの指令で放った矢は敵にばっちりヒットしているようだ。

「作戦成功だお!!」

「巧美、お疲れ様……SPが回復したら次お願いね」

「おにぃ、大活躍だよ!! またばふばふしてあげるからね」



 こうして僕等の奇襲は大成功、これを何度か繰り返していくと、敵は警戒のあまり壁に沿って広く薄い防衛ラインを作っていく。
 だけど既に50体を切った敵に壁面全てを警戒する事は不可能だ。このまま敵の警戒が薄い場所をどんどん攻撃して行っちゃうよ!!

「む、これはまずいですね」

「え? 絶好調じゃないかお?」

「南東の部屋の敵がリポップしたみたい……まだ大丈夫だけど、ある程度壁が破られたらそっちを対処しないと」

 忘れていた、もうそんなに時間が経ったのか……せっかく良い調子だったのに、これからは後ろを気にしながら戦わないといけない。
 そして敵には未だ5種族のキングとジェネラルが残っている。さすがに不意打ちの特攻で倒す事は難しいかもしれない。

 ……とは言え僕等は取れる戦略を変える事は出来ない。同じように手薄な場所を攻撃する物の、コボルトやゴブリンのジェネラルを何体か倒す事は出来たけれど、オーク、リザードマン、オーガのジェネラルは簡単に倒す事が出来なかった……せめて1対1で戦えたら何とか出来るのに。



「最後の壁に差し掛かったでござる、拙者達は南の対処に行ってくるでござるので現状維持を頼んだでござる」

「わかったお、気をつけるんだお」

 僕は茜達を見送ると逆ハの字の出口に陣取って敵を迎え撃つ。無理に攻める必要は無い、茜たちが帰るまで耐えるのだ。

 オークジェネラルの盾から放たれる【バッシュ】を受ける。ガギィン!! という音と共にもの凄い衝撃が襲う。一体何だ? さっきよりも異様に攻撃が重くなったぞ?

【オークジェネラル LV:60+5 強さ:強い 弱点:火】

【鑑定】しても別にレベルは変わっていない……一体何だ? ん? 敵の盾がさっきと違うように見える。

【ミスリルタワーシールド+7】

 !?

 +7プラス7だって!? 最初はプラスは付いていなかったよね? いつの間に【錬成】された盾になっているんだ?
 自分の持つ【ミスリルシールド+4】を見るとゆがみが出来ている……これはマズい。
【錬成】で+3も差が付けば能力差も倍くらい付く。このまま攻撃を受け続ければ僕の盾は破壊されてしまうだろう。
 くそっ、油断した、予備の盾はあるけれど【錬成】までした物は用意していない。

「巧美様!?」

「だ、大丈夫だお!! 敵の攻撃は受けずに回避するから騎士を少し下がらせてほしいお!!」

 エリザが僕の言うとおり光の騎士を下がらせるとスペースが出来た。他のジェネラルが僕を包囲しようと動くけれど、弓を持った騎士が威嚇射撃をしてそれを防ぐ。
 大丈夫だ、さっき自分で望んだとおり1対1じゃないか……やってやる!!

 僕は盾を【アイテムボックス】に収納すると両手に【ミスリルソード+4】を装備した。今はアイシャがいないから二刀流を使っても怪しまれないよね……エリザに聞かれても大丈夫なように言い訳を考えなくては。

 再びオークジェネラルが【バッシュ】を放つ、僕はそれをギリギリで躱すと敵側面に回り込む。盾がない分素早く動ける……これなら行ける!!

「奥義【双空牙】だお!!

 僕は二刀から【ハードヒット】【ハイスラッシュ】を使った4連撃を喰らわせる。側面から4つの斬撃を受けたオークジェネラルは光となって消えていった。

「消えたい奴から……一人ずつ掛かって来いだお!!」

 僕は左手の剣を肩に乗せてもう片方の剣を敵に向けると、クールに……でも少しだけ謙虚に敵を挑発した。

「巧美様ぁ!! 素敵すぎますわ!!」

 まるでキュンとでも効果音が聞こえそうなエリザの声援を受けて僕のテンションは有頂天となった……この高揚感はしばらくとどまる事を知らないだろう。

 まだ茜たちは戻ってこない……でも、僕がこのまま決めてやるくらいの心構えで戦ってやろう。



 ……僕は剣を構えると敵に向かって歩き出した。

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お昼頃から初めて何とか日付変更する前に書き終えました。
案の定26話で収まるどころかまだ掛かりそうです……あと何話で終わるかな?
3章クライマックスにもう少しだけお付き合い下さい。

お読みいただきありがとうございます。
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