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第十三章 対決

61本目

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 黒狼は最初からこちらを敵と見定めているようでグルルルと唸り声を上げてドランを睨み付けている。
 突然狼が横に飛ぶと元いた場所に3本の矢が刺さった。オーレスさんの不意打ちを避けるなんて……。

 するとドランの身体を光が包み込んだ……ケニーの補助魔法だと思う。それを確認したドランは果敢にも自分より遙かに大きな黒狼に向かって走り出した。

 それを見た黒狼が巨大な身体で飛びついてくる。すぐに横に飛んで攻撃を避けると、着地で一瞬動きを止めた黒狼の身体にオーレスさんの放った矢が刺さる。
 だけどグルルルッと不機嫌そうな声を上げただけで大きなダメージにはなっていないみたい。

「ドラン、おそらく魔道具で使役しているはずです……道具の使用者を狙いましょう!!」

 ケニーが大声で声を上げる……それって相手に作戦が筒抜けになっちゃうんじゃ? ドランが黒狼を無視して向こうの馬車に向かおうとすると、そうはさせまいと飛び上がって馬車の前に立ち塞がった。やっぱり狙い通りにさせてくれない。

 しかし、それを予期していたようにオーレスさんの矢が黒狼の頬に刺さった。ギャウ!! っと、さすがに痛そうな声を上げる。
 そうか、わざと誘拐犯を狙うと宣言して、それを黒狼に守らせる事によって動きを制限しているんだ。
 誘拐犯が馬車の陰に引っ込むと黒狼の動きが緩慢になった……もしかしたら目視してないと上手く操れないのかな?
 本当なら黒狼が本気を出したら危険だけど、誘拐犯を守るという命令のせいで本気を出せないみたい……これなら何とかなる。

「行くぜ、首を洗って待っていろ!!」

 ドランが挑発しながら大きく迂回して馬車に向かおうとするとそれをさせまいと黒狼が回り込む。すると今度は馬車の近くにオーレスさんの矢が撃ち込まれる。

「くっ、一人を相手に卑怯な」

 誘拐犯が的外れな文句を言ってきた。最初は同じ人数だったんだから卑怯も何もないと思うよ。

 あ、護衛魔法使いが杖を拾った。矢が刺さったままで痛みを堪えながらみたいだけど凄い根性だよ。こうなったらわたしも出し惜しみしないでやっちゃうんだから!

「ウーちゃん、やっちゃおう!!」

『ウーーーッドゥッ!』

 その声を合図に護衛魔法使いと誘拐犯の足下から木の根っこが飛び出して一気に身体を拘束した。

「こんな魔法、見た事無い!!」

「うわっ、なんだこれは!! 離せ!!」

 護衛魔法使いは根っこの拘束に再び杖を落とした。誘拐犯は魔道具を手放したらどうなるかわからないから動けなくするだけに止めている。

「早くこのでかい奴を引っ込めろ、でないとその根っこがどんどん絞まっていくぞ」

 ドランはわたしのジョブの力を初めて見たはずなのに上手くアドリブをしてくれている。それならわたしもそれに応えて……

「ぐうっ、絞まってくる……おのれ……」

 ……演出で根の拘束を強くした。はやく黒狼を引っ込めて、さすがに人を傷つけるのは躊躇われるよ。

「くっ、どうせこのままでは私は破滅だ……それならいっそどうにでもなれ!!」

 誘拐犯が自由になっている腕にを振りかぶって何かを地面に叩き付けると、黒狼がワオオオオオッっと遠吠えを上げる。そして、今まで操られていた恨みとばかりに誘拐犯へ向かって馬車ごと体当たりをした。

「まーくん!!」

 黒狼の巨体に馬車が大きく転がりながら飛んで行き街道脇の木にぶつかって止まった。
 それを見た瞬間わたしの中で何かが外れた……気付いたらわたしはジョブの力、根っこで黒狼を雁字搦がんじがらめにしていた。


 皮肉にも誘拐犯は黒狼の体当たりから逃れたようで、拘束され立ったまま気を失っている。
 でも、今はそんな事はどうでも良くて、わたしは既に飛んでいった馬車に向かって走りだしていた。



 ……まーくん、まーくん、お願いだから無事でいて!!
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