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第七章 筑前守
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筑前守の巨大な双眼が、誾千代の全身を嘗め回すように凝視していた。
誾千代は筑前守の凝視に、全身を貫くような情欲を感じていた。
──誾千代殿、儂の子を産む気はないか? お主と儂の間に子が産まれれば、その子は強い〝サトリ〟の力を持つはずじゃ──
筑前守の脳裏に、全裸で絡み合う、誾千代と筑前守の映像が浮かんでいた。今まで誾千代は、男から同じような妄想を読み取っていたが、筑前守の想念はより具体的で、強烈だった。
──おぬしと儂、二人の子供なら〝サトリ〟の力は、途方もなく強いはずじゃ! 考えてみよ、その〝サトリ〟の力で、儂らの子孫は、この日本を……いや、日本はおろか、明国、朝鮮、さらには天竺まで従えるかもしれぬ──
筑前守の欲望は、際限もなく膨らんでいた。誾千代の心に、筑前守の容赦のない攻撃が加えられ、心の奥底へ灼熱の炎が浴びせかけられる。
強力な磁界に、鉄粉が吸い寄せられるように、誾千代の赤裸々な心は、筑前守の強烈な自我に折り曲げられようとしていた。
誾千代はこれほどまでに、強い我欲の人物を知らなかった。誾千代が知り合う人物といえば、父親の道雪の家臣か、あるいは道雪の主君、大友宗麟の家臣でしかなかった。
筑前守は下層階級の出自であり、自らの血筋について、一切の伝承を持たない、土民といってよかった。それが誾千代の経験したことのない、強い個性の原因なのだろうか?
誾千代は必死に耐えた。
想像のなかで、誾千代は自分の心に、何物も通さない、強固な結界を作り上げた。
が、それもすぐ筑前守の強烈な欲望の前には、淡雪のように溶けてしまいそうだった。
誾千代は真っ黒な絶望に、唇を噛みしめた。
自分の心が折り曲げられる感覚に、誾千代は全身の力が急速に抜けていくのを、感じた。
無意識に、誾千代は打掛の袂をまさぐっていた。その指先が、固いものに触れた。
嗅ぎ煙草を入れた、印籠だ!
そうだ!
誾千代は急いで手を動かし、印籠の蓋を外し、中身の煙草を掌に受けた。そのまま鼻先に持っていき、勢いよく吸い込んだ!
──!
ぐわっ、と嗅ぎ煙草独特の、強烈な匂いが鼻腔に充満し、誾千代はまるで殴られたかのような、衝撃を覚えていた。
が。
消えていた!
あれほど誾千代の心を、ぐわん! ぐわん! と、責め立てていた筑前守の想念が、一切合切、誾千代の中から消え去っていた!
誾千代は、筑前守に視線を戻した。
筑前守の、真っ黒な猿顔に、驚愕の表情が張り付いていた。両目を一杯に見開き、眉が吊り上がって、今にも真っ二つに裂けそうなほど、筑前守の顔の造作は変化していた。
誾千代は、筑前守の想念を、探ることはできなかった。無論、煙草のせいだ。が、誾千代の〝サトリ〟の力を用いなくとも、筑前守の驚きの内容は、判然としていた。
この時、誾千代は、新たな事実を手に入れた。
それは、煙草には、他の〝サトリ〟の力を無効にする作用がある、ということだ。
誾千代は筑前守の凝視に、全身を貫くような情欲を感じていた。
──誾千代殿、儂の子を産む気はないか? お主と儂の間に子が産まれれば、その子は強い〝サトリ〟の力を持つはずじゃ──
筑前守の脳裏に、全裸で絡み合う、誾千代と筑前守の映像が浮かんでいた。今まで誾千代は、男から同じような妄想を読み取っていたが、筑前守の想念はより具体的で、強烈だった。
──おぬしと儂、二人の子供なら〝サトリ〟の力は、途方もなく強いはずじゃ! 考えてみよ、その〝サトリ〟の力で、儂らの子孫は、この日本を……いや、日本はおろか、明国、朝鮮、さらには天竺まで従えるかもしれぬ──
筑前守の欲望は、際限もなく膨らんでいた。誾千代の心に、筑前守の容赦のない攻撃が加えられ、心の奥底へ灼熱の炎が浴びせかけられる。
強力な磁界に、鉄粉が吸い寄せられるように、誾千代の赤裸々な心は、筑前守の強烈な自我に折り曲げられようとしていた。
誾千代はこれほどまでに、強い我欲の人物を知らなかった。誾千代が知り合う人物といえば、父親の道雪の家臣か、あるいは道雪の主君、大友宗麟の家臣でしかなかった。
筑前守は下層階級の出自であり、自らの血筋について、一切の伝承を持たない、土民といってよかった。それが誾千代の経験したことのない、強い個性の原因なのだろうか?
誾千代は必死に耐えた。
想像のなかで、誾千代は自分の心に、何物も通さない、強固な結界を作り上げた。
が、それもすぐ筑前守の強烈な欲望の前には、淡雪のように溶けてしまいそうだった。
誾千代は真っ黒な絶望に、唇を噛みしめた。
自分の心が折り曲げられる感覚に、誾千代は全身の力が急速に抜けていくのを、感じた。
無意識に、誾千代は打掛の袂をまさぐっていた。その指先が、固いものに触れた。
嗅ぎ煙草を入れた、印籠だ!
そうだ!
誾千代は急いで手を動かし、印籠の蓋を外し、中身の煙草を掌に受けた。そのまま鼻先に持っていき、勢いよく吸い込んだ!
──!
ぐわっ、と嗅ぎ煙草独特の、強烈な匂いが鼻腔に充満し、誾千代はまるで殴られたかのような、衝撃を覚えていた。
が。
消えていた!
あれほど誾千代の心を、ぐわん! ぐわん! と、責め立てていた筑前守の想念が、一切合切、誾千代の中から消え去っていた!
誾千代は、筑前守に視線を戻した。
筑前守の、真っ黒な猿顔に、驚愕の表情が張り付いていた。両目を一杯に見開き、眉が吊り上がって、今にも真っ二つに裂けそうなほど、筑前守の顔の造作は変化していた。
誾千代は、筑前守の想念を、探ることはできなかった。無論、煙草のせいだ。が、誾千代の〝サトリ〟の力を用いなくとも、筑前守の驚きの内容は、判然としていた。
この時、誾千代は、新たな事実を手に入れた。
それは、煙草には、他の〝サトリ〟の力を無効にする作用がある、ということだ。
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