77 / 77
終章 新たなる旅立ち
2
しおりを挟む
《大中央駅》に、一人の新しい旅人がリンクして出現した。
いかにも初心者らしく、周りのプレイヤーにぶつからないよう、覚束ない足取りで辺りをきょろきょろと見回していた。身軽な皮の上下、灰色のシャツに、羽飾りのついた帽子を被っている。耳が尖がり、目は菫色をした、エルフの装束だ。
「あんた、初心者ね!」
出し抜けに声を掛けられ、旅人は顔を真っ赤に染めた。見ると、一人の女性プレイヤーが、にこにこと笑みを浮かべ立っている。
丸まっちい身体つき。身長はせいぜい百五十五~六㎝といったところか。肉付きのいい腕と太腿が、軽装の着衣から弾けそうに覗いている。女性プレイヤーは、腕を上げ、握手を求めてくる。旅人は、思わず手を握り返した。
「あたし、仮想現実ではタバサって名前で通っているの! あんたみたいな初心者の案内するのが、あたしたちの役目。どう、あたしたちの案内で仮想現実を冒険してみない?」
「あ、案内……ですか?」
ようやく旅人は、声を発することができるようになった。
「そうさ、おれたちが手ほどきすれば、すぐあんたもベテランだ」
どこから現れたのか、新手のプレイヤーが声を掛けてきた。こっちは顔の半分が真っ黒、もう半分は普通の顔色の、奇妙奇天烈な格好のプレイヤーである。
「おれは、影二郎。もとは客家二郎、シャドウという名前で通っていたが、今では影二郎という名前にしている。よろしくな」
立て続けに喋り捲られ、新来の旅人は圧倒されていた。影二郎と名乗ったプレイヤーのポケットから、金属の球体がぽん、と飛び出してくる。球体は宙に浮かぶと、きんきん声で話し掛けてきた。
「わたくし、影二郎さまの助手を勤めますティンカーと申します。よろしく!」
旅人はごくりと唾を飲み込む。
「あ、あのう、どうして僕を案内してくれるんですか? 見返りは?」
タバサと影二郎は顔を見合わせる。タバサは「にっ」と笑うと、影二郎に話し掛けた。
「この人、馬鹿じゃなさそうね。ぼけっと、油断していないもの」
「ああ。頭は回るな。いい、プレイヤーになりそうだ!」
タバサが旅人に顔を向け、話し掛ける。
「見返りは貰うわよ。ただし、あんたの同意の上でね! 欲しいのは、あんたの〝ハビタット〟!」
「僕の……? 僕の〝ハビタット〟を、どのくらい要求するつもりですか?」
影二郎が一歩、前へ踏み出す。ぎらりと、両目が鋭く光った。
「全部だ! あんたが仮想現実に接続するための全て、貰いたい!」
新来の旅人は驚きのあまり、仰け反った。
「な、何でそんな途方もない規模を?」
益々、ぬーっと影二郎は顔を近づける。両目が怪しく、爛々と光っている。
「おれたちは宇宙を創造するんだ! 丸ごと一つだ! そのためには〝ハビタット〟は幾らでも必要だ。安心していい。あんたの〝ハビタット〟も、おれたちの宇宙の一部になるから、結局あんたは何も失うことはない。そうだろう? 新しい宇宙では、全ての〝ハビタット〟は参加する全員が共有することになるんだから」
「宇宙、丸ごと?」
旅人の声は驚きのあまり、掠れていた。
二郎は頷く。
「そう。今のところ、規模はやっと太陽系を収めるくらいには成長したが、最終的には銀河系全体を狙っている! 面白いぞ……おれたちの宇宙では、ワープ航法や、重力制御も当たり前にできる。百光年くらいの半径になったら、宇宙人を登場させようと思っている。SFの世界が、そのまんま再現されるんだ!」
二郎の言葉に、エルフの旅人はぼうっ、とした表情になっていた。宇宙を丸ごと! まったく、何て夢なんだ……。
ふと旅人はタバサと名乗った女性プレイヤーの外見が気になった。むちむちとした肉付きのいい身体つき。スマートとは、お世辞にも言えない低い身長。仮想現実でプレイするなら、もっと格好いい分身を用意するのが普通じゃないのだろうか?
旅人の視線に気付いたのか、タバサはにっこりと笑みを浮かべ、話し掛けてきた。
「あたしのこの格好、変だと思っているんでしょう?」
「い、いいえ! そ、そんな!」
慌てて否定するが、完全にお見通しである。
「まあね。あたしも、最初はこんな格好じゃなくて、女の子なら誰でも夢見るファッション・モデルみたいな分身にしてた。でも、あたしはあたしよ。外見はどうでもいい、って気付いたの。だから、実際の外見をそのまま分身にして、プレイしているのよ。案外、そのほうが、仮想現実ではもてるのよ!」
得意そうにタバサはウインクをする。
「へえ……」と、旅人は感心する。もしかしたら、そうなのかもしれない。
それにしても、宇宙一つを仮想現実に再現してしまうとは。本当にこの二人なら、実現するのかも。
「そ、それじゃ、あと一つだけ!」
指を一本ひょいっと立てる。タバサは首を傾げた。
「なあに?」
「どうして、僕が初心者だって判ったんです?」
いかにも初心者らしく、周りのプレイヤーにぶつからないよう、覚束ない足取りで辺りをきょろきょろと見回していた。身軽な皮の上下、灰色のシャツに、羽飾りのついた帽子を被っている。耳が尖がり、目は菫色をした、エルフの装束だ。
「あんた、初心者ね!」
出し抜けに声を掛けられ、旅人は顔を真っ赤に染めた。見ると、一人の女性プレイヤーが、にこにこと笑みを浮かべ立っている。
丸まっちい身体つき。身長はせいぜい百五十五~六㎝といったところか。肉付きのいい腕と太腿が、軽装の着衣から弾けそうに覗いている。女性プレイヤーは、腕を上げ、握手を求めてくる。旅人は、思わず手を握り返した。
「あたし、仮想現実ではタバサって名前で通っているの! あんたみたいな初心者の案内するのが、あたしたちの役目。どう、あたしたちの案内で仮想現実を冒険してみない?」
「あ、案内……ですか?」
ようやく旅人は、声を発することができるようになった。
「そうさ、おれたちが手ほどきすれば、すぐあんたもベテランだ」
どこから現れたのか、新手のプレイヤーが声を掛けてきた。こっちは顔の半分が真っ黒、もう半分は普通の顔色の、奇妙奇天烈な格好のプレイヤーである。
「おれは、影二郎。もとは客家二郎、シャドウという名前で通っていたが、今では影二郎という名前にしている。よろしくな」
立て続けに喋り捲られ、新来の旅人は圧倒されていた。影二郎と名乗ったプレイヤーのポケットから、金属の球体がぽん、と飛び出してくる。球体は宙に浮かぶと、きんきん声で話し掛けてきた。
「わたくし、影二郎さまの助手を勤めますティンカーと申します。よろしく!」
旅人はごくりと唾を飲み込む。
「あ、あのう、どうして僕を案内してくれるんですか? 見返りは?」
タバサと影二郎は顔を見合わせる。タバサは「にっ」と笑うと、影二郎に話し掛けた。
「この人、馬鹿じゃなさそうね。ぼけっと、油断していないもの」
「ああ。頭は回るな。いい、プレイヤーになりそうだ!」
タバサが旅人に顔を向け、話し掛ける。
「見返りは貰うわよ。ただし、あんたの同意の上でね! 欲しいのは、あんたの〝ハビタット〟!」
「僕の……? 僕の〝ハビタット〟を、どのくらい要求するつもりですか?」
影二郎が一歩、前へ踏み出す。ぎらりと、両目が鋭く光った。
「全部だ! あんたが仮想現実に接続するための全て、貰いたい!」
新来の旅人は驚きのあまり、仰け反った。
「な、何でそんな途方もない規模を?」
益々、ぬーっと影二郎は顔を近づける。両目が怪しく、爛々と光っている。
「おれたちは宇宙を創造するんだ! 丸ごと一つだ! そのためには〝ハビタット〟は幾らでも必要だ。安心していい。あんたの〝ハビタット〟も、おれたちの宇宙の一部になるから、結局あんたは何も失うことはない。そうだろう? 新しい宇宙では、全ての〝ハビタット〟は参加する全員が共有することになるんだから」
「宇宙、丸ごと?」
旅人の声は驚きのあまり、掠れていた。
二郎は頷く。
「そう。今のところ、規模はやっと太陽系を収めるくらいには成長したが、最終的には銀河系全体を狙っている! 面白いぞ……おれたちの宇宙では、ワープ航法や、重力制御も当たり前にできる。百光年くらいの半径になったら、宇宙人を登場させようと思っている。SFの世界が、そのまんま再現されるんだ!」
二郎の言葉に、エルフの旅人はぼうっ、とした表情になっていた。宇宙を丸ごと! まったく、何て夢なんだ……。
ふと旅人はタバサと名乗った女性プレイヤーの外見が気になった。むちむちとした肉付きのいい身体つき。スマートとは、お世辞にも言えない低い身長。仮想現実でプレイするなら、もっと格好いい分身を用意するのが普通じゃないのだろうか?
旅人の視線に気付いたのか、タバサはにっこりと笑みを浮かべ、話し掛けてきた。
「あたしのこの格好、変だと思っているんでしょう?」
「い、いいえ! そ、そんな!」
慌てて否定するが、完全にお見通しである。
「まあね。あたしも、最初はこんな格好じゃなくて、女の子なら誰でも夢見るファッション・モデルみたいな分身にしてた。でも、あたしはあたしよ。外見はどうでもいい、って気付いたの。だから、実際の外見をそのまま分身にして、プレイしているのよ。案外、そのほうが、仮想現実ではもてるのよ!」
得意そうにタバサはウインクをする。
「へえ……」と、旅人は感心する。もしかしたら、そうなのかもしれない。
それにしても、宇宙一つを仮想現実に再現してしまうとは。本当にこの二人なら、実現するのかも。
「そ、それじゃ、あと一つだけ!」
指を一本ひょいっと立てる。タバサは首を傾げた。
「なあに?」
「どうして、僕が初心者だって判ったんです?」
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
すごい表現力のおかげで読みやすい仕上がりになっていますね。話も面白くてついつい手が進んでしまいます。