宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

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時を止めた少女

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 操縦席に戻ると、船窓に無数の警察宇宙艇が宇宙空間に集合して《呑竜》の周りを取り囲んでいる。
 白と黒のツートーン、船体の外にパト・ライトが旋回して、ちかちかと瞬いている。船腹には「帝国警察」の文字が、でかでかと書かれていた。
 サイレンの音は宇宙艇の「環境音再現システム」による効果音だ。宇宙艇からサイレンを鳴らすための電波が放射され、それを受け取った《呑竜》のシステムが鳴らしているのだ。このサイレンを拒否することはできない。
 モニターの画面に厳しい顔つきの、警官の制服を着用したボーラン人の顔が映し出された。皮膚は昆虫を思わせる硬質のもので、キチン質に覆われ、一見ロボットのように見える。が、まぎれもなく〝種族〟の一員である。
 ボーラン人は蟻のような社会を形作ることで知られている。
 母性の女王を中心に、無性の下級階層が奉仕する仕組みで、本質的に官僚に適合した性質を持つ。上からの命令には絶対服従で、断固やり遂げるという性格をしているため、どんな言い訳も許さない。
 コチコチの石頭、いや、人工超硬度透明ダイヤモンド頭、いやいや、立方晶窒化炭素頭揃いである。
 ボーラン人は昆虫そっくりの口を開いた。キチキチ……と聞こえる奇妙な音声が聞こえてくる。
「そちらの船には、盗難の被害届けが提出されている。すぐ洛陽シティに戻るよう命令する!」
「盗難届け? どういうこった?」
 ジムが聞き返すと、警官は答えた。
「中古宇宙船販売の店主が、自分の敷地から宇宙船を盗まれたと訴えてきたのだ」
 ジムの頭にかーっ、と血が昇る。
「馬鹿を言うな! あのスクラップの山から好きなのを掘り返していい、と言ったのは、親爺のほうだぞ! なんでもタダで呉れてやるって、おれはこの両耳でしっかりと聞いたんだ!」
 ぎろりとボーラン人の複眼がジムを見返した。
「事情は聞いていない。当方は、そちらの宇宙船を接収せよと命令を受けているのだ。拒否するなら、逮捕する!」
「やるなら、やってみやがれ!」
 ジムは叫び返した。
 警官が何か言いかけるのを待たず、ジムは操縦桿をぐいっと引いた。
 だしぬけに《呑竜》は全速力で飛び出した。
 船内の加速度調整装置が働き、大部分の加速は吸収できた。それでも処理できない僅かな加速が、プレス機のようにジムを操縦席に押しつける。
 警察の宇宙艇は慌てて《呑竜》の追跡に入った。それでも《呑竜》の加速が勝っているのか、見る見る彼我の距離が開く。
「すげえ!」
 ジムは喚声を上げた。
 一瞬にして《呑竜》は亜光速になっていた。
 モニターに映し出された警察の宇宙艇は後方に押し付けられたように平べったくなって見えている。ローレンツ短縮のせいである。
 赤方偏移により、薄暗く赤みがさして見えていた。やがて距離が開きすぎ、船のカメラの撮影可能範囲を超えてしまい、捉えきれなくなって見えなくなる。
 あっという間に《呑竜》は外惑星を越え、最外縁を構成するオールト雲まで達していた。
 さて、それでは超空間ジェネレーターを始動させようかとジムが考えていると、いきなり《呑竜》は巨人に掴まれたかのように、がくんと速度が落ちた。
 急激に停止状態に陥り、巨大な慣性が熱に変換されて船の外部放熱板に送り込まれ、赤外線となって放出される。
「どうしたのっ?」
 ヘロヘロがやっと操縦室へと走りこんでくる。
「判らねえっ! いきなり速度が落ちやがった……」
 船窓を見たジムの顎が、がくりと落ちた。
「ありゃ……」
 ぱくぱくと言葉なく、口だけが動く。驚きに言葉を失う。
 目の前に、途轍もなく巨大な宇宙戦艦が見えていた。
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