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想い出は永遠{とわ}に
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がらがらと崩れ落ちる家の中でキャシーは目覚めた。土埃が舞い、辺りはほとんど見えない。見上げると、天井に亀裂ができて、その隙間から毒々しい夕空が見える。
素早く周囲を見回し、自分がいつの間にか祖父の実験室にいるのに気付く。
様々な機器が雑然と置かれ、部屋の真ん中には、がくりと膝を折った一台のロボットが蹲っていた。
シルバー……。
いや、かつてシルバーと呼ばれた祖父の助手ロボットである。その〝人格〟は抜き取られ、今は新しいボディに再生している。蹲っているのは、ただの抜け殻に過ぎない。やや俯けられた顔の両目はただのレンズのごとく差し込んでいる夕日を反射しているだけ。
微かな呻き声に、キャシーはそちらを見て、悲鳴を押し殺した。
老人が床に横たわり、長々と仰向けに寝そべっている。こめかみから顎にかけ、べっとりと血糊がこびり付き、眼鏡は罅割れていた。
キャシーは近づき、膝を下ろした。
「お祖父ちゃん……?」
そっと呼びかける。
ぱちぱちと老人の瞼が震え、不意にぱっちりと、両目が見開かれた。
「キャシー……」
弱々しく呼びかける。
キャシーの両目に涙が溢れる。
違う! この老人は祖父のフリント教授では絶対、有り得ない! 祖父はキャシーの目の前で死んだのだ。今、見ている場面は何かの間違いだ!
必死に自分に言い聞かせるが、徐々に確信が揺らいでいく。
これは……これは……夢?
「お祖父ちゃん、死んじゃ厭!」
思わず叫んでいた。あの日の通りに。
老人の手が差しのべられ、キャシーの右肩をがしっ、と意外な強さで握った。
「キャシー……失敗だった……。わしは大きな間違いを犯した……! シルバーはわしの失敗作だ! あやつに人間の感覚を与えたのが間違いだった。あいつめ、人間の感覚を憶えると、ロボットには有り得ない野望を抱くようになった。なんという計算間違い……」
老人の目が実験室を彷徨う。
蹲っているロボットに止まり、震える指先で指し示す。
「あいつ……あの日、新たな実験体で目覚めると、ここを飛び出し、あろうことか、軍隊に飛び込みおった。たちまち軍隊で実権を握り、政治まで動かし、戦争を始めおった……。次は、何をしでかすか……」
ぐっとキャシーを睨む。
「キャシー! わしの研究……、あれを守れ! あれは、わしら原型……いや、もしかしたら宇宙全体の運命を握ることになるかもしれない……なんとしても守り通せ! わかったな?」
キャシーは無言で頷いた。
唐突に老人の口調が変わった。
「キャシー……あれは……どこに隠した? え、どこに隠したのじゃ? 《呑竜》か? あの船に隠したのじゃな?」
キャシーの全身に戦慄が走る。
素早く周囲を見回し、自分がいつの間にか祖父の実験室にいるのに気付く。
様々な機器が雑然と置かれ、部屋の真ん中には、がくりと膝を折った一台のロボットが蹲っていた。
シルバー……。
いや、かつてシルバーと呼ばれた祖父の助手ロボットである。その〝人格〟は抜き取られ、今は新しいボディに再生している。蹲っているのは、ただの抜け殻に過ぎない。やや俯けられた顔の両目はただのレンズのごとく差し込んでいる夕日を反射しているだけ。
微かな呻き声に、キャシーはそちらを見て、悲鳴を押し殺した。
老人が床に横たわり、長々と仰向けに寝そべっている。こめかみから顎にかけ、べっとりと血糊がこびり付き、眼鏡は罅割れていた。
キャシーは近づき、膝を下ろした。
「お祖父ちゃん……?」
そっと呼びかける。
ぱちぱちと老人の瞼が震え、不意にぱっちりと、両目が見開かれた。
「キャシー……」
弱々しく呼びかける。
キャシーの両目に涙が溢れる。
違う! この老人は祖父のフリント教授では絶対、有り得ない! 祖父はキャシーの目の前で死んだのだ。今、見ている場面は何かの間違いだ!
必死に自分に言い聞かせるが、徐々に確信が揺らいでいく。
これは……これは……夢?
「お祖父ちゃん、死んじゃ厭!」
思わず叫んでいた。あの日の通りに。
老人の手が差しのべられ、キャシーの右肩をがしっ、と意外な強さで握った。
「キャシー……失敗だった……。わしは大きな間違いを犯した……! シルバーはわしの失敗作だ! あやつに人間の感覚を与えたのが間違いだった。あいつめ、人間の感覚を憶えると、ロボットには有り得ない野望を抱くようになった。なんという計算間違い……」
老人の目が実験室を彷徨う。
蹲っているロボットに止まり、震える指先で指し示す。
「あいつ……あの日、新たな実験体で目覚めると、ここを飛び出し、あろうことか、軍隊に飛び込みおった。たちまち軍隊で実権を握り、政治まで動かし、戦争を始めおった……。次は、何をしでかすか……」
ぐっとキャシーを睨む。
「キャシー! わしの研究……、あれを守れ! あれは、わしら原型……いや、もしかしたら宇宙全体の運命を握ることになるかもしれない……なんとしても守り通せ! わかったな?」
キャシーは無言で頷いた。
唐突に老人の口調が変わった。
「キャシー……あれは……どこに隠した? え、どこに隠したのじゃ? 《呑竜》か? あの船に隠したのじゃな?」
キャシーの全身に戦慄が走る。
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