宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

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キャシーの打ち明け話

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 実験室の中央に置かれた台の上に、銀色の身体が横たわっている。がっしりとした巨体は全身が銀色で、まるで彫像のようにも見えた。
 その隣に、ロボットのシルバーが同じような台に横たわっていた。
 キャシーは、祖父のフリント教授の実験を見守っていた。キャシーの背後にヘロヘロが、やや心配そうな表情で控えている。
 フリント教授は興奮していた。
 忙しく手にした計測器を使ってシルバーの身体を検査すると、上機嫌に頷く。
「さて、シルバー。お前の人工脳にある人格だが、それは走査されて隣の身体に移植される。その瞬間、お前は新たな身体に生まれ変わり、替わりに、元の身体の中の人工脳は消去されてしまう。これは走査ビームによる“やむをえない措置”だが、お前はすでに新たな人体に蘇生しているから、まあ、気にすることはない! ここまでの話は判ったな?」
 横たわったままのシルバーは、重々しく頷いた。皮膚は灰色のプラスチックでできていて、多少の表情を与えられているが、人間のような感情を表すのは得意ではない。
 しかし、ロボットのシルバーは期待に興奮しているようだった。
「判っております、フリント教授! わたしは、いよいよ、人間と同じ感覚を持つことになるのですね。わたしは様々な感覚を与えられておりますが、それは、あくまで人間のイミテーションです。このような機会を与えられ、心から感謝いたします」
「うむうむ」と教授は何度も頷いた。
 手の平を擦り合わせると、ひらりひらりと飛び回るように実験室の装置を操作する。
 ちょいちょい、とヘロヘロがキャシーの手を引っ張り、注意を喚起する。
「ね、キャシー。シルバーは人間になるのかい?」
 キャシーは首を振った。
 正直なところ、判らない。
 祖父の話では、今こうして目の前に横たわっている銀色の身体は、人間と同じ感覚を持つ実験体で、これが成功すれば遺伝子エッチング・マシンにデータを転送して、いずれは同じ身体を持つ超〝種族〟が続々と生まれる予定だという。
 この超〝種族〟は、今まで原型はおろか様々な環境に適応した〝種族〟でさえも殖民できなかった苛酷な環境の星に殖民できるようになり、銀河系の総ての惑星に知的生命が溢れるようになる。
 ヘロヘロは、疑わしそうに呟いた。
「人間の身体って、そんなにいいもんかねえ?」
 キャシーは微笑した。
「さあ、あたしは人間だから、今更そんなこと聞かれたって、判らないわ。あんたは、どうなの?」
 ヘロヘロは首を振った。
「僕は厭だな……僕はこの身体が気に入っているからね」
 そんなことを話し合っているうち、実験が開始された。
 見るからに禍々しい形の操作装置がロボットのシルバーの上から圧し掛かり、先端が頭部を、かちかちと音を立て走査して行く。
 教授はじっと、実験工程を見守っていく。時々、計器にちらりと目をやるほかは、ほとんど身動き一つしない。
 息詰まるような時間が経過する。
 やがて教授は「ほっ」と息を吐き出した。キャシーもまた、全身が緊張しきっていたことに気付く。
 教授は銀色に輝く身体に話しかけた。
「どうじゃ、気分は?」
 ぴくぴくと銀色の身体の持ち主が瞬きをした。ぴくり、と腕が持ち上がる。
 その腕を、しげしげと眺める。
 教授に目をやった。
「わたしは……新しい身体に生まれ変わったのですか?」
 教授は大きく頷いた。
「そうだ! お前の見ている腕は、今まで隣に横たわっていた身体のものだ。見ろ! 隣に、今までのお前のボディがある!」
 銀色に輝く顔が隣のロボットの身体に向き、その目が大きく見開かれた。
「本当だ! わたしは生まれ変わった!」
 教授は大声を上げた。
「シルバー! さあ、立ってみろ!」
 銀色の巨体が、おずおずと身動きした。足が上がり、台から降りると、床に降り立つ。
 バランスがとれないのか、しばしの間、ふらふらとしていたが、やがてしっかりと力を込め、立ち上がった。
 キャシーは息を呑んだ。
 銀色の巨人の表情が変化する。それまでの彫像のような無表情から、いきなり驚きの感情を浮かべたのだ。
「わたしは……生きている! これが、生きているということか! 知らなかった……」
 教授は、ほくほくとした笑顔を見せた。
「うむ! お前の身体は、ほとんど金属だが、神経組織に関しては、人間のものと同じだ。今まで感じなかった感覚は、どうだね?」
 巨人はじろりと教授を見つめた。
 キャシーは「はっ」となった。
 その目付き! なにか、とても危険な感じがする……。
 教授もまた同じ感情を抱いたようだ。さっと一歩、後じさる。
「どうしたシルバー……。気分が悪いのか?」
「ふっ」とシルバーと呼びかけられた銀色の巨人は笑いを浮かべる。
 人格が激変したかのようだ。
「気分? 気分は上々だ。これまでにない、いい気分だよ、フリント教授」
 どすの利いた、低く轟くような声音。
 教授の顔が蒼白になった。
 ゆっくりとシルバーは、部屋の出口へと向かう。じろりとキャシーの顔を見る。
 キャシーはシルバーの目に、冷やりとした鋭い光を認めた。
 教授は追いすがった。
「待て! どこへ行く?」
 シルバーは教授を振り返った。
「あんたには、礼を言う。この身体に生まれ変わらせてくれて、おれは今まで知らなかった世界を感じることができた。おれはこれから、もっとこの世界を楽しんでやる!」
 シルバーは出口へ向け、悠然と歩き出す。キャシーと教授は呆然とシルバーを見送るだけだった。
 シルバーが出て行くと、キャシーは教授に話しかけた。
「お祖父ちゃん、いったいシルバーは、どうしちゃったの?」
「判らん!」
 渋面を作り、教授は頭を振った。ごしごしと両手の手の平で顔を擦る。
「あのような態度に出るとは、想像もしなかった! これから奴は、何をしでかすのか……」
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