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宙森からの脱出
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「ちょっと変なとこ、触んないでよっ! くすぐったいじゃないの……」
「無理を言うな。おれだって、触りたくって触ってる訳じゃない。そっちこそ、もう少し身体を離してくれよ。暑苦しくてたまんねえぜ!」
「もう……二人とも、こんな狭いところで喧嘩しないで欲しいなあ……。あーあ、こんなことなら来るんじゃなかった!」
一人乗りのシャトルに、ジム、キャシー、ヘロヘロの三人が無理矢理ぎゅうぎゅう詰め込まれているので、どうしても二人の身体は密着する。ちょっとでも余裕を持たせようと身動きすると、手足があらぬところに潜り込む。
自分でも、どうしようもなく、二人はじっと唯々シャトルが目的地へ停止するのを願っているのみであった。
ディスプレイのサークは、同情するような、それでいて面白がっているような表情を浮かべていた。
「もうすぐの辛抱だ。あと二、三分でシャトルは到着する。こちらの探査で、そのシャトルの行き先は、秘密の通路に繋がっているようだ。多分、《大校母》の手先が待っているだろうから、油断するな!」
ジムは、ほっと安心した。
「本当か! 有り難え!」
身動きした拍子に、ずりっとキャシーの身体が動き、どうしものか、ジムとキャシーの頬がぴったり密着してしまう。
キャシーは真っ赤になった。キャシーの頬の火照りが直に感じられ、ジムもまた頬に血が昇るのを感じていた。
「ジム……あのね、あたし……こうしたくて、こういう姿勢になってる訳じゃないからね! 誤解しないでね!」
キャシーは消え入りそうな声で囁く。
「分かってる……」
ジムも、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だ。
それから暫く、無言のときが流れた。
そのうち、シャトルの動きが徐々に減速するのを感じ始めた。目の前の計器の表示で速度を示す数値が下がっていき、遂にゼロになって、シャトルは停止した。
かぱっ、とシャトルのドアが開き、すかさずジムとキャシーは、転がり落ちるように外へ飛び出す。
はあああっ! と二人とも思い切り深呼吸を繰り返した。シャトル内にはちゃんと換気装置があったが、その狭さに二人は、息の詰まる思いをしていた。
「お前たち、誰の許可を貰ってシャトルに乗り込んできた?」
不意に怒声が響き渡り、ジムは顔を上げた。視線の先に、ずんぐりとしたバルト人の警備員が立っている。全身、これ筋肉の塊りといった身体つきで、その目は油断なくジムたちを見つめていた。
なるほど、こいつが《大校母》の手先って奴だな。
ジムは立ち上がり、手にした武器を構えた。神経衝撃銃である。巣穴から、ジムは忘れずに持って来たのだ。
バルト人はジムの手にした神経衝撃銃を見て、たじたじとなった。顔色がさっと蒼白になる。神経衝撃銃の威力を存分に承知している表情である。
「へっ!」とジムは笑いかけてやる。ゆっくりと銃口を上げ、引き金に指が掛かっていることを示す。
「こいつにやられたら、死ぬことはないけど、どうなるか分かっているよな?」
「ぐ……!」と、バルト人は言葉もなく頷いた。ありありと恐怖の色が浮かんでいる。
〝種族〟に対して優位に立てたことに、ジムは狂喜していた。一瞬、引き金を絞って目の前のバルト人を苦痛に悶えさせてやろうか、という危険な考えが脳裏をよぎる。
どやどやとバルト人の背後から数人の足音が聞こえてきた。
新手か! とジムは緊張したが、現れたのは見るからに見すぼらしい襤褸を纏った、数人の原型の男たちだった。先頭は原型にしては巨体を誇る大男だ。
大男は神経衝撃銃を構えるジムを見て、はっとなった。
「あんた、ジムか? で、そっちにいるのが、キャシーっていうお嬢ちゃんだな?」
キャシーは明らかに気分を害したようだった。
「お嬢ちゃんなんて、言わないで! あたし、こう見えても二十三才なのよ!」
大男は唇をすぼめる。
「すまねえ! つい……。ところで、おれたちはサークから、あんたらを保護するよう命令を受けている。一緒におれたちのところへ来て貰いてえ!」
サークという言葉に、バルト人は反応した。
「サーク! その名前は知っているぞ。《大校母》さまの指名手配を受けている反逆者だな!」
「なにが反逆者だ! 《大校母》がおれたち原型に何をしたか、知らんわけがないくせに……!」
大男は怒りの声を上げる。バルト人はジムの構える銃口を見て黙り込んだ。
大男はジムたちを見て顎をしゃくる。
「長居は無用だ! ともかく、おれたちの組織に加わってくれ! おれたちには、あんたらが必要なんだ!」
キャシーは頷く。
「そうね! 長居は無用ってのは、賛成だわ。行きましょう」
ジムの腕を掴み、歩き出す。ジムはキャシーに引っ張られる格好になった。それでも油断なく、バルト人に銃口を構えつつ、大男たちとともにその場を去っていく。
バルト人は、じっとその場を動かずにいた。
「無理を言うな。おれだって、触りたくって触ってる訳じゃない。そっちこそ、もう少し身体を離してくれよ。暑苦しくてたまんねえぜ!」
「もう……二人とも、こんな狭いところで喧嘩しないで欲しいなあ……。あーあ、こんなことなら来るんじゃなかった!」
一人乗りのシャトルに、ジム、キャシー、ヘロヘロの三人が無理矢理ぎゅうぎゅう詰め込まれているので、どうしても二人の身体は密着する。ちょっとでも余裕を持たせようと身動きすると、手足があらぬところに潜り込む。
自分でも、どうしようもなく、二人はじっと唯々シャトルが目的地へ停止するのを願っているのみであった。
ディスプレイのサークは、同情するような、それでいて面白がっているような表情を浮かべていた。
「もうすぐの辛抱だ。あと二、三分でシャトルは到着する。こちらの探査で、そのシャトルの行き先は、秘密の通路に繋がっているようだ。多分、《大校母》の手先が待っているだろうから、油断するな!」
ジムは、ほっと安心した。
「本当か! 有り難え!」
身動きした拍子に、ずりっとキャシーの身体が動き、どうしものか、ジムとキャシーの頬がぴったり密着してしまう。
キャシーは真っ赤になった。キャシーの頬の火照りが直に感じられ、ジムもまた頬に血が昇るのを感じていた。
「ジム……あのね、あたし……こうしたくて、こういう姿勢になってる訳じゃないからね! 誤解しないでね!」
キャシーは消え入りそうな声で囁く。
「分かってる……」
ジムも、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だ。
それから暫く、無言のときが流れた。
そのうち、シャトルの動きが徐々に減速するのを感じ始めた。目の前の計器の表示で速度を示す数値が下がっていき、遂にゼロになって、シャトルは停止した。
かぱっ、とシャトルのドアが開き、すかさずジムとキャシーは、転がり落ちるように外へ飛び出す。
はあああっ! と二人とも思い切り深呼吸を繰り返した。シャトル内にはちゃんと換気装置があったが、その狭さに二人は、息の詰まる思いをしていた。
「お前たち、誰の許可を貰ってシャトルに乗り込んできた?」
不意に怒声が響き渡り、ジムは顔を上げた。視線の先に、ずんぐりとしたバルト人の警備員が立っている。全身、これ筋肉の塊りといった身体つきで、その目は油断なくジムたちを見つめていた。
なるほど、こいつが《大校母》の手先って奴だな。
ジムは立ち上がり、手にした武器を構えた。神経衝撃銃である。巣穴から、ジムは忘れずに持って来たのだ。
バルト人はジムの手にした神経衝撃銃を見て、たじたじとなった。顔色がさっと蒼白になる。神経衝撃銃の威力を存分に承知している表情である。
「へっ!」とジムは笑いかけてやる。ゆっくりと銃口を上げ、引き金に指が掛かっていることを示す。
「こいつにやられたら、死ぬことはないけど、どうなるか分かっているよな?」
「ぐ……!」と、バルト人は言葉もなく頷いた。ありありと恐怖の色が浮かんでいる。
〝種族〟に対して優位に立てたことに、ジムは狂喜していた。一瞬、引き金を絞って目の前のバルト人を苦痛に悶えさせてやろうか、という危険な考えが脳裏をよぎる。
どやどやとバルト人の背後から数人の足音が聞こえてきた。
新手か! とジムは緊張したが、現れたのは見るからに見すぼらしい襤褸を纏った、数人の原型の男たちだった。先頭は原型にしては巨体を誇る大男だ。
大男は神経衝撃銃を構えるジムを見て、はっとなった。
「あんた、ジムか? で、そっちにいるのが、キャシーっていうお嬢ちゃんだな?」
キャシーは明らかに気分を害したようだった。
「お嬢ちゃんなんて、言わないで! あたし、こう見えても二十三才なのよ!」
大男は唇をすぼめる。
「すまねえ! つい……。ところで、おれたちはサークから、あんたらを保護するよう命令を受けている。一緒におれたちのところへ来て貰いてえ!」
サークという言葉に、バルト人は反応した。
「サーク! その名前は知っているぞ。《大校母》さまの指名手配を受けている反逆者だな!」
「なにが反逆者だ! 《大校母》がおれたち原型に何をしたか、知らんわけがないくせに……!」
大男は怒りの声を上げる。バルト人はジムの構える銃口を見て黙り込んだ。
大男はジムたちを見て顎をしゃくる。
「長居は無用だ! ともかく、おれたちの組織に加わってくれ! おれたちには、あんたらが必要なんだ!」
キャシーは頷く。
「そうね! 長居は無用ってのは、賛成だわ。行きましょう」
ジムの腕を掴み、歩き出す。ジムはキャシーに引っ張られる格好になった。それでも油断なく、バルト人に銃口を構えつつ、大男たちとともにその場を去っていく。
バルト人は、じっとその場を動かずにいた。
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