71 / 107
指導者サーク
4
しおりを挟む
時間は、少し戻る。
混乱の中、ジムとキャシーとヘロヘロの三人は《大校母》の巣の内部を盲滅法、遮二無二、右往左往と走り回っていた。
ともかく外へ出ようとしたのだが、なにしろ連れられた通路が迷路そのもので、二人はすぐ方向感覚を失ってしまった。ヘロヘロの記憶を利用して後戻りすればいい、という考えが浮かんだときは、すでに元の場所から遠く離れた所まで来ていた。
「臭え! たまんないな……」
ジムは鼻を押さえ目を細める。スカンクの奇襲を受けたような強烈な匂いで、目を開けているのも辛い。キャシーは頷き、手渡されたマスクを被った。
それに気付き、ジムもマスクを被る。たちまち、匂いが消え、二人はほっと溜息をつく。
「なんで、こんなに匂うんだ」
「もしここが蟻塚そのものとしたら、蟻は溜め込んだ食物を醗酵させるって聞いたことがあるわ。ここでも同じように、食糧を醗酵させているのかもしれないわね」
キャシーは憶測を述べたが、あくまでうろ覚えに過ぎない。本当にそうかは判らない。それでもジムは、キャシーの説明に納得した。
通路には時折、ボーラン人が通りすぎる。それらの姿を見るたび、ジムとキャシーは緊張したが、今では無視することを覚えた。
なぜなら、通路を歩くボーラン人も、ジムとキャシーに対し、まるっきりの無関心だったからである。
どうやら特別の命令が発せられない限り、ボーラン人はおのれの使命だけに集中していて、巣穴に原型の人間が歩いていようと、他の何かがいようと、お構いなしの様子だ。
その内に二人は、シャトルの乗り場らしい場所に行き当たった。
その場所だけは他の巣穴と違い、滑らかな壁と床でできていて、照明も明るい。壁に空けられた穴から溝ができていて、その先に一人乗りのシャトルが停止していた。
二人はシャトルを見て顔を見合わせた。
「どうする?」というジムの問いかけに、キャシーは頷く。
「乗り込みましょう。少なくとも、この巣穴からは出られるかもしれないわ!」
実はこのシャトル、シルバーが《大校母》に面会するために利用したものだったが、二人は無論それを知らない。
二人は一人乗りのシャトルに無理矢理どうにか身体を押し込んだ。さらにヘロヘロが乗り込むので、厭がおうにも二人の身体は密着する。
キャシーもジムも、どちらかというと小柄な体格なのだが、それでも一人乗りのシャトルは狭い。ジムは目の前にあるボタンに気付いた。これが発進ボタンなのだろう。腕を伸ばし、ボタンを押す。
途端にシャトルは動き出す。加速で、二人の身体はますます密着する。
「ここから格納庫へ直行するんだろうか?」
ジムの問いかけに、キャシーは首を振った。
「判らないわ。《呑竜》の繋留している格納庫に着けるかどうか……それに、どうせ《呑竜》には燃料がゼロだから……」
「そうだ! 燃料がゼロになっていたんだ!」
ジムは自分の頭をぽかりと叩いた。燃料がなければ、宇宙艇に辿り着いたとしても、どこへも行けない。
その時ヘロヘロが声を上げた。
「通信装置に、何か入っているみたいだ」
「えっ」と、ジムとキャシーは声を上げる。目の前のコンソールに通信装置があり、その画面が輝き出した。
ディスプレイに一人の原型の男が姿を表した。半白の髪の毛に、日焼けした逞しい印象を与える中年の男である。
「わたしは、サーク。この宙森で、原型の人間の地下組織の総帥を務めている。君たちの苦境を知り、こうして接触することにした。君たちは、危険に曝されている! どうやら《大校母》に何か起きたようだな? よかったら、教えてくれないか。そちらで何が起きた?」
ジムは答えた。
「おれは、ジム。こっちはキャシー。で、このロボットは、ヘロヘロってんだ。確かに《大校母》は、大変な状況になっているよ」
ジムは《大校母》に神経衝撃銃のビームを当てたことを早口で説明した。ジムの説明にサークは、にやりと笑い返した。
「それで分かった! 宙森の総ての〝種族〟たちに混乱が起きている。君たちは《大校母》が原型に何をしているか、知っているかね?」
キャシーが頷く。
「ええ、脳を摘出するって話しでしょ。今でも信じられないわ」
サークは頷き返した。
「事実だ! 今まで何人もの原型が《大校母》に捕えられ、脳を摘出されて、個人の意思を奪われ、宇宙船の部品として利用されている。我々は原型の人々が発する特別な波動を感知するシステムを造り上げ、こうして外部からやってくる原型を探し出して救出することにしている。君たちのことも検出されたのだが〝大海〟に連れ去られたので、どうしようもなかった。どうやら君たちはハブへ向かっているようだから、こちらで救出部隊を組織することができる。シャトルが停止した先に我々の差し向けた部隊が待っているから、安心してもらいたい」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。
「どうする? あんなこと言ってるけど」
ジムの言葉にキャシーは眉を寄せた。画面を見つめ、キャシーは口を開く。
「あたしたちは、宇宙艇の燃料がなくて困っているの。救助は結構だけど、いつまでもあたしたち、この宙森に留まっているつもりはないわ!」
キャシーの答えにサークは微笑した。
「そちらがそのつもりなら、わたしは嬉しいよ。我々も君と同じ考えだ」
キャシーはぽかんと口を開ける。サークは真剣な表情になった。
「我々、宙森の原型は、この場所を脱出することが希望なんだ! それには、君たちの協力が必要だ!」
サークの言葉に二人は目を丸くした。
混乱の中、ジムとキャシーとヘロヘロの三人は《大校母》の巣の内部を盲滅法、遮二無二、右往左往と走り回っていた。
ともかく外へ出ようとしたのだが、なにしろ連れられた通路が迷路そのもので、二人はすぐ方向感覚を失ってしまった。ヘロヘロの記憶を利用して後戻りすればいい、という考えが浮かんだときは、すでに元の場所から遠く離れた所まで来ていた。
「臭え! たまんないな……」
ジムは鼻を押さえ目を細める。スカンクの奇襲を受けたような強烈な匂いで、目を開けているのも辛い。キャシーは頷き、手渡されたマスクを被った。
それに気付き、ジムもマスクを被る。たちまち、匂いが消え、二人はほっと溜息をつく。
「なんで、こんなに匂うんだ」
「もしここが蟻塚そのものとしたら、蟻は溜め込んだ食物を醗酵させるって聞いたことがあるわ。ここでも同じように、食糧を醗酵させているのかもしれないわね」
キャシーは憶測を述べたが、あくまでうろ覚えに過ぎない。本当にそうかは判らない。それでもジムは、キャシーの説明に納得した。
通路には時折、ボーラン人が通りすぎる。それらの姿を見るたび、ジムとキャシーは緊張したが、今では無視することを覚えた。
なぜなら、通路を歩くボーラン人も、ジムとキャシーに対し、まるっきりの無関心だったからである。
どうやら特別の命令が発せられない限り、ボーラン人はおのれの使命だけに集中していて、巣穴に原型の人間が歩いていようと、他の何かがいようと、お構いなしの様子だ。
その内に二人は、シャトルの乗り場らしい場所に行き当たった。
その場所だけは他の巣穴と違い、滑らかな壁と床でできていて、照明も明るい。壁に空けられた穴から溝ができていて、その先に一人乗りのシャトルが停止していた。
二人はシャトルを見て顔を見合わせた。
「どうする?」というジムの問いかけに、キャシーは頷く。
「乗り込みましょう。少なくとも、この巣穴からは出られるかもしれないわ!」
実はこのシャトル、シルバーが《大校母》に面会するために利用したものだったが、二人は無論それを知らない。
二人は一人乗りのシャトルに無理矢理どうにか身体を押し込んだ。さらにヘロヘロが乗り込むので、厭がおうにも二人の身体は密着する。
キャシーもジムも、どちらかというと小柄な体格なのだが、それでも一人乗りのシャトルは狭い。ジムは目の前にあるボタンに気付いた。これが発進ボタンなのだろう。腕を伸ばし、ボタンを押す。
途端にシャトルは動き出す。加速で、二人の身体はますます密着する。
「ここから格納庫へ直行するんだろうか?」
ジムの問いかけに、キャシーは首を振った。
「判らないわ。《呑竜》の繋留している格納庫に着けるかどうか……それに、どうせ《呑竜》には燃料がゼロだから……」
「そうだ! 燃料がゼロになっていたんだ!」
ジムは自分の頭をぽかりと叩いた。燃料がなければ、宇宙艇に辿り着いたとしても、どこへも行けない。
その時ヘロヘロが声を上げた。
「通信装置に、何か入っているみたいだ」
「えっ」と、ジムとキャシーは声を上げる。目の前のコンソールに通信装置があり、その画面が輝き出した。
ディスプレイに一人の原型の男が姿を表した。半白の髪の毛に、日焼けした逞しい印象を与える中年の男である。
「わたしは、サーク。この宙森で、原型の人間の地下組織の総帥を務めている。君たちの苦境を知り、こうして接触することにした。君たちは、危険に曝されている! どうやら《大校母》に何か起きたようだな? よかったら、教えてくれないか。そちらで何が起きた?」
ジムは答えた。
「おれは、ジム。こっちはキャシー。で、このロボットは、ヘロヘロってんだ。確かに《大校母》は、大変な状況になっているよ」
ジムは《大校母》に神経衝撃銃のビームを当てたことを早口で説明した。ジムの説明にサークは、にやりと笑い返した。
「それで分かった! 宙森の総ての〝種族〟たちに混乱が起きている。君たちは《大校母》が原型に何をしているか、知っているかね?」
キャシーが頷く。
「ええ、脳を摘出するって話しでしょ。今でも信じられないわ」
サークは頷き返した。
「事実だ! 今まで何人もの原型が《大校母》に捕えられ、脳を摘出されて、個人の意思を奪われ、宇宙船の部品として利用されている。我々は原型の人々が発する特別な波動を感知するシステムを造り上げ、こうして外部からやってくる原型を探し出して救出することにしている。君たちのことも検出されたのだが〝大海〟に連れ去られたので、どうしようもなかった。どうやら君たちはハブへ向かっているようだから、こちらで救出部隊を組織することができる。シャトルが停止した先に我々の差し向けた部隊が待っているから、安心してもらいたい」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。
「どうする? あんなこと言ってるけど」
ジムの言葉にキャシーは眉を寄せた。画面を見つめ、キャシーは口を開く。
「あたしたちは、宇宙艇の燃料がなくて困っているの。救助は結構だけど、いつまでもあたしたち、この宙森に留まっているつもりはないわ!」
キャシーの答えにサークは微笑した。
「そちらがそのつもりなら、わたしは嬉しいよ。我々も君と同じ考えだ」
キャシーはぽかんと口を開ける。サークは真剣な表情になった。
「我々、宙森の原型は、この場所を脱出することが希望なんだ! それには、君たちの協力が必要だ!」
サークの言葉に二人は目を丸くした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる