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指導者サーク
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時間は、少し戻る。
混乱の中、ジムとキャシーとヘロヘロの三人は《大校母》の巣の内部を盲滅法、遮二無二、右往左往と走り回っていた。
ともかく外へ出ようとしたのだが、なにしろ連れられた通路が迷路そのもので、二人はすぐ方向感覚を失ってしまった。ヘロヘロの記憶を利用して後戻りすればいい、という考えが浮かんだときは、すでに元の場所から遠く離れた所まで来ていた。
「臭え! たまんないな……」
ジムは鼻を押さえ目を細める。スカンクの奇襲を受けたような強烈な匂いで、目を開けているのも辛い。キャシーは頷き、手渡されたマスクを被った。
それに気付き、ジムもマスクを被る。たちまち、匂いが消え、二人はほっと溜息をつく。
「なんで、こんなに匂うんだ」
「もしここが蟻塚そのものとしたら、蟻は溜め込んだ食物を醗酵させるって聞いたことがあるわ。ここでも同じように、食糧を醗酵させているのかもしれないわね」
キャシーは憶測を述べたが、あくまでうろ覚えに過ぎない。本当にそうかは判らない。それでもジムは、キャシーの説明に納得した。
通路には時折、ボーラン人が通りすぎる。それらの姿を見るたび、ジムとキャシーは緊張したが、今では無視することを覚えた。
なぜなら、通路を歩くボーラン人も、ジムとキャシーに対し、まるっきりの無関心だったからである。
どうやら特別の命令が発せられない限り、ボーラン人はおのれの使命だけに集中していて、巣穴に原型の人間が歩いていようと、他の何かがいようと、お構いなしの様子だ。
その内に二人は、シャトルの乗り場らしい場所に行き当たった。
その場所だけは他の巣穴と違い、滑らかな壁と床でできていて、照明も明るい。壁に空けられた穴から溝ができていて、その先に一人乗りのシャトルが停止していた。
二人はシャトルを見て顔を見合わせた。
「どうする?」というジムの問いかけに、キャシーは頷く。
「乗り込みましょう。少なくとも、この巣穴からは出られるかもしれないわ!」
実はこのシャトル、シルバーが《大校母》に面会するために利用したものだったが、二人は無論それを知らない。
二人は一人乗りのシャトルに無理矢理どうにか身体を押し込んだ。さらにヘロヘロが乗り込むので、厭がおうにも二人の身体は密着する。
キャシーもジムも、どちらかというと小柄な体格なのだが、それでも一人乗りのシャトルは狭い。ジムは目の前にあるボタンに気付いた。これが発進ボタンなのだろう。腕を伸ばし、ボタンを押す。
途端にシャトルは動き出す。加速で、二人の身体はますます密着する。
「ここから格納庫へ直行するんだろうか?」
ジムの問いかけに、キャシーは首を振った。
「判らないわ。《呑竜》の繋留している格納庫に着けるかどうか……それに、どうせ《呑竜》には燃料がゼロだから……」
「そうだ! 燃料がゼロになっていたんだ!」
ジムは自分の頭をぽかりと叩いた。燃料がなければ、宇宙艇に辿り着いたとしても、どこへも行けない。
その時ヘロヘロが声を上げた。
「通信装置に、何か入っているみたいだ」
「えっ」と、ジムとキャシーは声を上げる。目の前のコンソールに通信装置があり、その画面が輝き出した。
ディスプレイに一人の原型の男が姿を表した。半白の髪の毛に、日焼けした逞しい印象を与える中年の男である。
「わたしは、サーク。この宙森で、原型の人間の地下組織の総帥を務めている。君たちの苦境を知り、こうして接触することにした。君たちは、危険に曝されている! どうやら《大校母》に何か起きたようだな? よかったら、教えてくれないか。そちらで何が起きた?」
ジムは答えた。
「おれは、ジム。こっちはキャシー。で、このロボットは、ヘロヘロってんだ。確かに《大校母》は、大変な状況になっているよ」
ジムは《大校母》に神経衝撃銃のビームを当てたことを早口で説明した。ジムの説明にサークは、にやりと笑い返した。
「それで分かった! 宙森の総ての〝種族〟たちに混乱が起きている。君たちは《大校母》が原型に何をしているか、知っているかね?」
キャシーが頷く。
「ええ、脳を摘出するって話しでしょ。今でも信じられないわ」
サークは頷き返した。
「事実だ! 今まで何人もの原型が《大校母》に捕えられ、脳を摘出されて、個人の意思を奪われ、宇宙船の部品として利用されている。我々は原型の人々が発する特別な波動を感知するシステムを造り上げ、こうして外部からやってくる原型を探し出して救出することにしている。君たちのことも検出されたのだが〝大海〟に連れ去られたので、どうしようもなかった。どうやら君たちはハブへ向かっているようだから、こちらで救出部隊を組織することができる。シャトルが停止した先に我々の差し向けた部隊が待っているから、安心してもらいたい」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。
「どうする? あんなこと言ってるけど」
ジムの言葉にキャシーは眉を寄せた。画面を見つめ、キャシーは口を開く。
「あたしたちは、宇宙艇の燃料がなくて困っているの。救助は結構だけど、いつまでもあたしたち、この宙森に留まっているつもりはないわ!」
キャシーの答えにサークは微笑した。
「そちらがそのつもりなら、わたしは嬉しいよ。我々も君と同じ考えだ」
キャシーはぽかんと口を開ける。サークは真剣な表情になった。
「我々、宙森の原型は、この場所を脱出することが希望なんだ! それには、君たちの協力が必要だ!」
サークの言葉に二人は目を丸くした。
混乱の中、ジムとキャシーとヘロヘロの三人は《大校母》の巣の内部を盲滅法、遮二無二、右往左往と走り回っていた。
ともかく外へ出ようとしたのだが、なにしろ連れられた通路が迷路そのもので、二人はすぐ方向感覚を失ってしまった。ヘロヘロの記憶を利用して後戻りすればいい、という考えが浮かんだときは、すでに元の場所から遠く離れた所まで来ていた。
「臭え! たまんないな……」
ジムは鼻を押さえ目を細める。スカンクの奇襲を受けたような強烈な匂いで、目を開けているのも辛い。キャシーは頷き、手渡されたマスクを被った。
それに気付き、ジムもマスクを被る。たちまち、匂いが消え、二人はほっと溜息をつく。
「なんで、こんなに匂うんだ」
「もしここが蟻塚そのものとしたら、蟻は溜め込んだ食物を醗酵させるって聞いたことがあるわ。ここでも同じように、食糧を醗酵させているのかもしれないわね」
キャシーは憶測を述べたが、あくまでうろ覚えに過ぎない。本当にそうかは判らない。それでもジムは、キャシーの説明に納得した。
通路には時折、ボーラン人が通りすぎる。それらの姿を見るたび、ジムとキャシーは緊張したが、今では無視することを覚えた。
なぜなら、通路を歩くボーラン人も、ジムとキャシーに対し、まるっきりの無関心だったからである。
どうやら特別の命令が発せられない限り、ボーラン人はおのれの使命だけに集中していて、巣穴に原型の人間が歩いていようと、他の何かがいようと、お構いなしの様子だ。
その内に二人は、シャトルの乗り場らしい場所に行き当たった。
その場所だけは他の巣穴と違い、滑らかな壁と床でできていて、照明も明るい。壁に空けられた穴から溝ができていて、その先に一人乗りのシャトルが停止していた。
二人はシャトルを見て顔を見合わせた。
「どうする?」というジムの問いかけに、キャシーは頷く。
「乗り込みましょう。少なくとも、この巣穴からは出られるかもしれないわ!」
実はこのシャトル、シルバーが《大校母》に面会するために利用したものだったが、二人は無論それを知らない。
二人は一人乗りのシャトルに無理矢理どうにか身体を押し込んだ。さらにヘロヘロが乗り込むので、厭がおうにも二人の身体は密着する。
キャシーもジムも、どちらかというと小柄な体格なのだが、それでも一人乗りのシャトルは狭い。ジムは目の前にあるボタンに気付いた。これが発進ボタンなのだろう。腕を伸ばし、ボタンを押す。
途端にシャトルは動き出す。加速で、二人の身体はますます密着する。
「ここから格納庫へ直行するんだろうか?」
ジムの問いかけに、キャシーは首を振った。
「判らないわ。《呑竜》の繋留している格納庫に着けるかどうか……それに、どうせ《呑竜》には燃料がゼロだから……」
「そうだ! 燃料がゼロになっていたんだ!」
ジムは自分の頭をぽかりと叩いた。燃料がなければ、宇宙艇に辿り着いたとしても、どこへも行けない。
その時ヘロヘロが声を上げた。
「通信装置に、何か入っているみたいだ」
「えっ」と、ジムとキャシーは声を上げる。目の前のコンソールに通信装置があり、その画面が輝き出した。
ディスプレイに一人の原型の男が姿を表した。半白の髪の毛に、日焼けした逞しい印象を与える中年の男である。
「わたしは、サーク。この宙森で、原型の人間の地下組織の総帥を務めている。君たちの苦境を知り、こうして接触することにした。君たちは、危険に曝されている! どうやら《大校母》に何か起きたようだな? よかったら、教えてくれないか。そちらで何が起きた?」
ジムは答えた。
「おれは、ジム。こっちはキャシー。で、このロボットは、ヘロヘロってんだ。確かに《大校母》は、大変な状況になっているよ」
ジムは《大校母》に神経衝撃銃のビームを当てたことを早口で説明した。ジムの説明にサークは、にやりと笑い返した。
「それで分かった! 宙森の総ての〝種族〟たちに混乱が起きている。君たちは《大校母》が原型に何をしているか、知っているかね?」
キャシーが頷く。
「ええ、脳を摘出するって話しでしょ。今でも信じられないわ」
サークは頷き返した。
「事実だ! 今まで何人もの原型が《大校母》に捕えられ、脳を摘出されて、個人の意思を奪われ、宇宙船の部品として利用されている。我々は原型の人々が発する特別な波動を感知するシステムを造り上げ、こうして外部からやってくる原型を探し出して救出することにしている。君たちのことも検出されたのだが〝大海〟に連れ去られたので、どうしようもなかった。どうやら君たちはハブへ向かっているようだから、こちらで救出部隊を組織することができる。シャトルが停止した先に我々の差し向けた部隊が待っているから、安心してもらいたい」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。
「どうする? あんなこと言ってるけど」
ジムの言葉にキャシーは眉を寄せた。画面を見つめ、キャシーは口を開く。
「あたしたちは、宇宙艇の燃料がなくて困っているの。救助は結構だけど、いつまでもあたしたち、この宙森に留まっているつもりはないわ!」
キャシーの答えにサークは微笑した。
「そちらがそのつもりなら、わたしは嬉しいよ。我々も君と同じ考えだ」
キャシーはぽかんと口を開ける。サークは真剣な表情になった。
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