78 / 107
伝説の星
3
しおりを挟む
「どこにあるんだ、地球は?」
操縦席でジムは不機嫌にキャシーに向かって叫んだ。キャシーは副操縦席で青ざめた顔を、目の前の計器に向けている。
コンソールの無数の計器は、現在《弾頭》が停船している宇宙空間のありとあらゆる数値を示していたが、そこに地球を思わせる惑星は、影も形も見当たらなかった。
ヘロヘロに隠したデータによると、主星からこの距離の公転面には、居住可能な惑星が存在しなければならない。しかし今、ジムとキャシーが見ている空間には、直径三五〇〇キロに僅かに足りない岩石の固まりが浮かんでいるだけだった。
この大きさでは居住可能となる大気を保持する引力は弱く、惑星の表面は、ほぼ完全な真空である。
ヘロヘロのデータによると、地球は直径一三〇〇〇キロと少し、表面重力加速度は、きっかり一G。大気の主成分は七十五パーセントの窒素と、二十数パーセントの酸素でなければならない。
目の前に浮かぶ星を見ているキャシーの目が、大きく見開かれた。
「これは……もしかすると!」
ぐるりとジムに向き直ると、興奮した口ぶりで話し出す。
「これは〝月〟よ! 地球の周りを回っていた衛星よ! あれは惑星ではなく、月なんだわ!」
キャシーの意外な言葉に、ジムはあんぐりと口を開けた。
「まさか! だって、あの大きさだぜ! 地球の大きさから考えてみろよ。データによると地球はあの惑星の四倍ほどの直径になる。つまり、母惑星と衛星の大きさの比は、四対一ってことになる。そんな箆棒な対比の衛星なんて、聞いたことない!」
すると、それまで黙りこくっていたサークがディスプレイの中で口を開いた。
「地球にはひどく大きな衛星があった、という伝説は、わたしも聞いている。地球には色々な伝説が語られているが、巨大な衛星もその一つだ。今、目の前にあるのは、それかもしれない」
ジムは頭を振り、呟く。
「それじゃあ、肝心の地球は、どこへ行ったんだ? なぜ、月しかないんだ?」
ヘロヘロが遠慮がちに、口を挟みこんだ。
「あのねえ……、さっきから、あの──月か──あそこから、なにかビーコンのようなものが送信されているんだけど」
ヘロヘロの言葉に、全員が「何だと!」とばかりに視線を集中させた。不意に注目を浴び、それが嬉しいのか、ヘロヘロの口許に「してやったり」の表情が浮かぶ。
ジムはキャシーを見た。キャシーは強く頷く。
「行きましょう!」
全員が賛成のようだった。
ジムは手早くビーコンの発信源を確認すると、コースを算定する。操縦桿を握りしめ、ぐっと前へと倒した。
巡洋艦《弾頭》は、月へと針路を取った。
操縦席でジムは不機嫌にキャシーに向かって叫んだ。キャシーは副操縦席で青ざめた顔を、目の前の計器に向けている。
コンソールの無数の計器は、現在《弾頭》が停船している宇宙空間のありとあらゆる数値を示していたが、そこに地球を思わせる惑星は、影も形も見当たらなかった。
ヘロヘロに隠したデータによると、主星からこの距離の公転面には、居住可能な惑星が存在しなければならない。しかし今、ジムとキャシーが見ている空間には、直径三五〇〇キロに僅かに足りない岩石の固まりが浮かんでいるだけだった。
この大きさでは居住可能となる大気を保持する引力は弱く、惑星の表面は、ほぼ完全な真空である。
ヘロヘロのデータによると、地球は直径一三〇〇〇キロと少し、表面重力加速度は、きっかり一G。大気の主成分は七十五パーセントの窒素と、二十数パーセントの酸素でなければならない。
目の前に浮かぶ星を見ているキャシーの目が、大きく見開かれた。
「これは……もしかすると!」
ぐるりとジムに向き直ると、興奮した口ぶりで話し出す。
「これは〝月〟よ! 地球の周りを回っていた衛星よ! あれは惑星ではなく、月なんだわ!」
キャシーの意外な言葉に、ジムはあんぐりと口を開けた。
「まさか! だって、あの大きさだぜ! 地球の大きさから考えてみろよ。データによると地球はあの惑星の四倍ほどの直径になる。つまり、母惑星と衛星の大きさの比は、四対一ってことになる。そんな箆棒な対比の衛星なんて、聞いたことない!」
すると、それまで黙りこくっていたサークがディスプレイの中で口を開いた。
「地球にはひどく大きな衛星があった、という伝説は、わたしも聞いている。地球には色々な伝説が語られているが、巨大な衛星もその一つだ。今、目の前にあるのは、それかもしれない」
ジムは頭を振り、呟く。
「それじゃあ、肝心の地球は、どこへ行ったんだ? なぜ、月しかないんだ?」
ヘロヘロが遠慮がちに、口を挟みこんだ。
「あのねえ……、さっきから、あの──月か──あそこから、なにかビーコンのようなものが送信されているんだけど」
ヘロヘロの言葉に、全員が「何だと!」とばかりに視線を集中させた。不意に注目を浴び、それが嬉しいのか、ヘロヘロの口許に「してやったり」の表情が浮かぶ。
ジムはキャシーを見た。キャシーは強く頷く。
「行きましょう!」
全員が賛成のようだった。
ジムは手早くビーコンの発信源を確認すると、コースを算定する。操縦桿を握りしめ、ぐっと前へと倒した。
巡洋艦《弾頭》は、月へと針路を取った。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる