宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
92 / 107
銀河の危機

しおりを挟む
「銀河の危機とは……」と口を開いたフリント教授は、ふと顔を上げ眉を寄せた。
「今のは、何だ?」
 教授の言葉に全員、不安そうな顔を見合わせる。
 ジムが叫んだ。
「揺れているぞ! 地震か?」
 ずしん……と、内部に低い震動が響き渡った。黒い壁に無数の輝点が湧き上がる。
 今度は、はっきりと、全員の身体に伝わるほどの振動が伝わった。
 ジムは背後を振り返る。真っ黒な闇が切り裂かれ、眩しい外光が差し込んでくる。
 ぎえええ……と、悲鳴に近い軋み音とともに、周りの壁がぼろぼろと剥落し始めた。一抱えは優にありそうな真四角な黒い固まりは、床に落下するとさらに小さな四角い固まりに分解してがしゃりと音を立て、散らばる。
 思わず屈みこんで一つを手に取り、握りしめると、手の平の中でぐしゃりと潰れた。手の平を開くと、やはり真四角な欠片となっている。
 どさどさとブロックが内側に倒れこむ中、外部から武器を手に、数十人の〝種族〟が雪崩れ込んでくる。その先頭を歩く人影を見て、キャシーとジムは同時に声を上げていた。
「シルバー!」
 シルバーは二人の声に気付き、にやり、と笑いかけた。ぎょろりと大きな目で内部を見渡す。
 と、その目が壇上に立っているフリント教授の姿に釘付けになった。
「フリント教授! 死んだはずではなかったのか?」
 壇上のフリント教授は猛然と怒りの声を上げていた。
「何者だ! ここは人類の知識の集積所なのだぞ。お前たちが破壊しているのは、かけがえのない知識、そのものなのだぞ!」
 叫びつつ、指を振り上げる。
 その様子に、シルバーは一人「なーるほど」と頷いていた。
「察するところ、あなたは、フリント教授の記憶の再生らしいな。おれの姿を見て判らなかったのが、その証拠だ」
 フリント教授は、ぽかんと口を開け、ジムとキャシーを見た。
「こいつは、何を言っているのか? 一目でわしが再生された記憶であることを見抜くとは、只者ではないが……」
 ジムは叫んだ。
「だから、こいつがシルバーなんだって! あんたが記憶を保存したあと、下働きのロボットの記憶を新しい身体に移植したって説明したろう?」
 教授は仰天した様子だった。
「あれが、シルバー! なんとも変われば変わるものだ……」
 しかし教授の目付きは興味深そうにシルバーを見つめていた。
「その身体は炭素を基にしたものではなく、金属を主成分としているらしいな。ふむ、興味深い……! となるとDNAではなくG(ゲルマニウム)NAで核酸を構成しているのか。なぜ、わしがお前のような身体を設計したのか、その理由が知りたいな。おそらく……」
 教授の視線はうつろになり、自分だけの思索に耽り始めたようだった。
 キャシーは、そんな教授を見上げ、苛々と足踏みを繰り返す。
「お祖父ちゃん! 今は、そんなこと言っている場合じゃないでしょう? どうするの、この場所が、こんなに破壊されて……!」
 二人の間延びした遣り取りに、シルバーは高笑いを上げていた。
「あははははは! 教授は、こんな記憶の再生になっても、相変わらずだな! さすがは真理の探究者、といったところか」
 ひとしきり笑いを上げると、背後から近づく移動橇に乗った巨大な頭の〝種族〟を振り向き、命令する。
「おい! ここはいったい、どういう場所なのだ? お前には判るか? フリント教授は、知識の集積所と言っていたが」
 巨大な頭を振りたてて〝巨頭種族〟は、まだ無事な壁面に近づいた。橇から伸び上がるようにして壁面に顔を近づけ、大きな丸い目をまじまじと見開いて、壁面に映し出されている紋様に見入る。
 この騒ぎで、総ての壁面には無数の光の紋様が浮き出ている。巨大頭は目にルーペに似た分析装置を押し当てた。
 機能はルーペそのものだが、様々な波長、拡大率を同時に走査でき、単純な拡大鏡とはとても言えない。
 その途端「わっ!」と声を上げ、巨大頭は顔を仰向けた。どさり、とその場に引っくり返り、幼児のような手足をばたばたとさせる。口許からぶくぶくと泡が零れた。
 シルバーは驚いて駆け寄った。
「おい、どうした?」
 ひくひく、と巨大な頭蓋骨の皮膚に、無数の血管が浮いて〝巨頭種族〟は、青ざめた顔でシルバーを見上げる。その目に浮かぶのは、恐怖そのものであった。
「こんな……こんなことって……!」
 呟くと、眼球が白目に裏返り、そのまま気絶してしまった。
 シルバーは再び教授に向き直り、どすどすと足音高く近づくと喚いた。
「教授! いったい、ここは何の目的で建てられた場所なのだ? 知識の集積所とか、ほざいていたな? その意味は何だっ?」
 詰問の声に、教授は我に帰った。うつろだった視線が喚き散らすシルバーに戻り、眉がぐっと狭まり、表情に暗い影を作った。
「さっきも説明しかけていたが、現在この銀河系は崩壊の危機にある。それを食い止めるため、わしはこの建物を作ったのだ」
 さっとシルバーの表情が真剣なものになった。怒りの表情が掻き消え、冷静そのものに変わる。
「銀河系の崩壊? なんだ、そりゃ?」
 じっとシルバーを見つめる教授は、言葉を続ける。
「多分、わしが後年お前のような身体を設計したのは、その危機が原因なのだ。危機に対処するための一つの方法だったのだろうな。しかし、他にお前のような個体が存在しないところを見ると、試みは失敗したのだろう」
 シルバーの表情に、再び怒りが浮かぶ。
「おれが、失敗作だと……」
 シルバーの口調は軋むようであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...