107 / 107
大団円
2
しおりを挟む
月のフリント教授の装置で、シルバーの新たな原型の身体が作られた。シルバーのゲルマニウムを基とするゲノムが、蛋白質に翻案され、急速な成長を施された原型の身体は、ぴかぴかのプラチナ重合体であるシルバーの元の身体と瓜二つであった。
再びシルバーは転移装置に横たわっている。隣には原型の身体が眠るように装置に寝かされていた。
その身体を見ながら、シルバーは見守っているキャシーとジムに声を掛けた。
「それじゃ、お別れだ。今のおれは、お前たちを忘れるが、お前たちは新しいおれに出会うことになる。よろしく頼む!」
ぴかぴかと光る装置が頭に近づき、シルバーは目を閉じた。
ガラスの管理人は黙々と操作を続けている。
低い唸り声をあげ、暫く装置は二つの身体を繋ぎとめていた。
作業を見守るキャシーの顔に、複雑な表情が浮かぶ。惧れ半分、期待半分といったところであろうか。見守るキャシーは、両手をぎゅっと握り締めていた。
そのうち、装置の唸りは止まった。管理人は顔を上げた。
「終わったのか?」
ジムの質問に管理人は頷く。
と、原型の身体の目がぱっちりと開いた。
「シルバー……」
キャシーが呟く。その声に、原型のシルバーは口を開いた。
「シルバー? それは、おれの名前か?」
がばり、と原型のシルバーは身体を起こした。しげしげと自分の両手を見つめている。
「これがおれの身体……。不思議だ……。確かに、おれのものなのに、奇妙に新しい」
ヘロヘロがおずおずと尋ねた。
「気分はどうだい?」
シルバーは顔を上げ、にやりと笑った。
「気分? おれの気分か……。そうだな、まるで生まれ変わった気分だ……。おれは……おれは……」
何か言いたそうであるが、言葉が出てこない。やがて両目が大きく見開かれた。
「そうだ! おれは今、生まれた! おれは今から生きるんだ!」
立ち上がる。全身に力が漲り、活気が充満するかのようだ。
と、その目がある一点に集中した。
「あれは、宇宙船だな?」
シルバーの言葉にジムが返事する。
「ああ、あれは《呑竜》といって……」
返事も待たず、シルバーは出し抜けに走り出した。「あっ」と追いかけるジムとキャシーを尻目に、シルバーは飛ぶように《呑竜》に駆け寄り、その船内に飛び込んだ。
「これは、おれが頂く!」
エア・ロックから宣言すると、シルバーは操縦席に座った。エア・ロックが閉まって《呑竜》は浮かび上がる。
「シルバー! 何をするっ!」
ジムの叫びも耳に入らず、シルバーは《呑竜》を発進させた。月の開いた格納庫から宇宙へ飛び出し、あっという間に見えなくなる。
「泥棒っ! あたしの船を返して……!」
キャシーが叫ぶが、もう遅い。管理人はモニターから顔を上げ話しかけた。
「超空間フィールドが展開しました。あの船は、行ってしまいました」
「どこへ?」
キャシーの問い掛けに、管理人は首を振った。
「判りません。どういうわけか、計器が矛盾した答えしか返さないのです」
キャシーとジムは顔を見合わせた。
「シュレーディンガー航法!」
二人同時に叫ぶ。キャシーは頭を抱える。
「やられたわ……!」
ジムはキャシーを見つめ、尋ねた。
「これから、どうする?」
ぐい、とキャシーは顔を上げジムを見つめ返した。その目がらんらんと闘志に満ちている。
「決まってるわ! シルバーを追いかけて、あたしの船を取り返す!」
それを聞いてジムは、にやりと笑った。
「そうじゃなくちゃ! おれも手伝うぜ」
ヘロヘロが二人を見上げた。
「僕もさ!」
再びシルバーは転移装置に横たわっている。隣には原型の身体が眠るように装置に寝かされていた。
その身体を見ながら、シルバーは見守っているキャシーとジムに声を掛けた。
「それじゃ、お別れだ。今のおれは、お前たちを忘れるが、お前たちは新しいおれに出会うことになる。よろしく頼む!」
ぴかぴかと光る装置が頭に近づき、シルバーは目を閉じた。
ガラスの管理人は黙々と操作を続けている。
低い唸り声をあげ、暫く装置は二つの身体を繋ぎとめていた。
作業を見守るキャシーの顔に、複雑な表情が浮かぶ。惧れ半分、期待半分といったところであろうか。見守るキャシーは、両手をぎゅっと握り締めていた。
そのうち、装置の唸りは止まった。管理人は顔を上げた。
「終わったのか?」
ジムの質問に管理人は頷く。
と、原型の身体の目がぱっちりと開いた。
「シルバー……」
キャシーが呟く。その声に、原型のシルバーは口を開いた。
「シルバー? それは、おれの名前か?」
がばり、と原型のシルバーは身体を起こした。しげしげと自分の両手を見つめている。
「これがおれの身体……。不思議だ……。確かに、おれのものなのに、奇妙に新しい」
ヘロヘロがおずおずと尋ねた。
「気分はどうだい?」
シルバーは顔を上げ、にやりと笑った。
「気分? おれの気分か……。そうだな、まるで生まれ変わった気分だ……。おれは……おれは……」
何か言いたそうであるが、言葉が出てこない。やがて両目が大きく見開かれた。
「そうだ! おれは今、生まれた! おれは今から生きるんだ!」
立ち上がる。全身に力が漲り、活気が充満するかのようだ。
と、その目がある一点に集中した。
「あれは、宇宙船だな?」
シルバーの言葉にジムが返事する。
「ああ、あれは《呑竜》といって……」
返事も待たず、シルバーは出し抜けに走り出した。「あっ」と追いかけるジムとキャシーを尻目に、シルバーは飛ぶように《呑竜》に駆け寄り、その船内に飛び込んだ。
「これは、おれが頂く!」
エア・ロックから宣言すると、シルバーは操縦席に座った。エア・ロックが閉まって《呑竜》は浮かび上がる。
「シルバー! 何をするっ!」
ジムの叫びも耳に入らず、シルバーは《呑竜》を発進させた。月の開いた格納庫から宇宙へ飛び出し、あっという間に見えなくなる。
「泥棒っ! あたしの船を返して……!」
キャシーが叫ぶが、もう遅い。管理人はモニターから顔を上げ話しかけた。
「超空間フィールドが展開しました。あの船は、行ってしまいました」
「どこへ?」
キャシーの問い掛けに、管理人は首を振った。
「判りません。どういうわけか、計器が矛盾した答えしか返さないのです」
キャシーとジムは顔を見合わせた。
「シュレーディンガー航法!」
二人同時に叫ぶ。キャシーは頭を抱える。
「やられたわ……!」
ジムはキャシーを見つめ、尋ねた。
「これから、どうする?」
ぐい、とキャシーは顔を上げジムを見つめ返した。その目がらんらんと闘志に満ちている。
「決まってるわ! シルバーを追いかけて、あたしの船を取り返す!」
それを聞いてジムは、にやりと笑った。
「そうじゃなくちゃ! おれも手伝うぜ」
ヘロヘロが二人を見上げた。
「僕もさ!」
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
シルバーは百年もオールト雲で待ってたんですか。ストーカーの鏡ですねw
百年待ち続けたシルバーの正体は……おっと! あぶなく、ネタバレするどころだった!
これくらい明かしてもいいかな?
キャシーとシルバーの対決がありますよ!
これから楽しみにしてください。
すみません。最初読んだ時に『なんで音が?』と思ってしまいました。そういう設定だったのですね。
うはははは!
初めての感想、すっごく嬉しいですっ!
これからもよろしく!