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旅立ちの巻
四
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小川に沿って歩いていた時太郎は、不意に異変を感じて立ち止まった。
尾けられている……!
誰か判らない。だが、確かに後を尾けている相手がいる。微かな気配が、背中に纏わりついているのを感じていた。
「誰だ! 出てこい! 尾けてきているのは、判っているんだぞ!」
がさがさ……と草が掻き分けられる音がして、ぴょこりと飛び出た相手の姿に時太郎は、ぱっくりと口を開けていた。
「お花……!」
ようやく声が出た。
「くくっ!」と、お花は笑った。
「時太郎って、勘がいいのね! 気配は殺したつもりなんだけどなあ……」
「な、な、な……なんで……」
あまりの驚きに、うまく言葉が出てこない。お花は、わざと顔を顰めて見せた。
「あんたが心配だったからよ! 今から行く所、知っているの?」
「知ってらあ! 天狗の住んでいる苦楽魔だ!」
「で、あんたは、天狗と会ったことあるの?」
お花の質問に時太郎は押し黙った。が、気を取り直して、逆に聞き返す。
「お花のほうこそ、どうなんだ?」
ふん、とお花は横を向く。
「そりゃ、あたしだって、会ったことないわよ。でも、あんた一人で天狗に会いに行って、それから先どうすんの?」
「そりゃ……」
うぐっと言葉に詰まった。
「ほうらね!」と、お花は得意げに、時太郎の顔を覗きこんだ。
「あんた、のこのこ天狗の所へ出て行って、自分は河童淵から来た時太郎です。母親を探すため、仲間が必要なんですって、言うの?」
立て続けに捲し立てられ、時太郎はたじたじとなった。お花がこうなると、いつも時太郎は言い負かすことなどできない。
「いけないか?」
「馬鹿ねえ……」
お花は、ころころと、いよいよ可笑しそうに笑い転げた。
「いくらあんたが、河童の時太郎って威張ったって、相手は信じないわよ。誰がどう見たって、あんたは人間の男の子だもん」
「お花まで、そんなこと言うのか? おれは河童だぞ! 〝土掘り〟なんかじゃ……」
かっとなった時太郎の唇に、不意にお花は宥めるように、指を押し当てた。
「そこまで! 何かあるとあんた、いっつも馬鹿の一つ覚えみたいに、同じこと言うんだから……! まあ、このお花ちゃんに任せなさい! 悪いようには絶対しないから」
「任せろって、どういうことだよ」
「あたしが、一緒に行くってことなの!」
驚きに、時太郎は思わず仰け反った。腰を抜かしそうになる。
「お花!」
ぐっと、お花は覆い被さるように近寄った。
「いいわね? 時太郎。とにかく、あんたはあたしが目を離すと何をするか判んないから、あたしが従いていってあげるって、言ってんのよ!」
まるで小さな子供に言い聞かせるように、ひと言ひと言はっきり区切って話しかける。
時太郎は言葉を失い、硫黄泉に茹で上げられた鯉のように、口をぱくぱくさせた。
お花は、さっさと先に立って歩き出した。
立ち止まり、半腰抜け状態で動けないでいる時太郎を振り返る。
「なに愚図愚図してんの? 苦楽魔に行くんでしょ?」
尾けられている……!
誰か判らない。だが、確かに後を尾けている相手がいる。微かな気配が、背中に纏わりついているのを感じていた。
「誰だ! 出てこい! 尾けてきているのは、判っているんだぞ!」
がさがさ……と草が掻き分けられる音がして、ぴょこりと飛び出た相手の姿に時太郎は、ぱっくりと口を開けていた。
「お花……!」
ようやく声が出た。
「くくっ!」と、お花は笑った。
「時太郎って、勘がいいのね! 気配は殺したつもりなんだけどなあ……」
「な、な、な……なんで……」
あまりの驚きに、うまく言葉が出てこない。お花は、わざと顔を顰めて見せた。
「あんたが心配だったからよ! 今から行く所、知っているの?」
「知ってらあ! 天狗の住んでいる苦楽魔だ!」
「で、あんたは、天狗と会ったことあるの?」
お花の質問に時太郎は押し黙った。が、気を取り直して、逆に聞き返す。
「お花のほうこそ、どうなんだ?」
ふん、とお花は横を向く。
「そりゃ、あたしだって、会ったことないわよ。でも、あんた一人で天狗に会いに行って、それから先どうすんの?」
「そりゃ……」
うぐっと言葉に詰まった。
「ほうらね!」と、お花は得意げに、時太郎の顔を覗きこんだ。
「あんた、のこのこ天狗の所へ出て行って、自分は河童淵から来た時太郎です。母親を探すため、仲間が必要なんですって、言うの?」
立て続けに捲し立てられ、時太郎はたじたじとなった。お花がこうなると、いつも時太郎は言い負かすことなどできない。
「いけないか?」
「馬鹿ねえ……」
お花は、ころころと、いよいよ可笑しそうに笑い転げた。
「いくらあんたが、河童の時太郎って威張ったって、相手は信じないわよ。誰がどう見たって、あんたは人間の男の子だもん」
「お花まで、そんなこと言うのか? おれは河童だぞ! 〝土掘り〟なんかじゃ……」
かっとなった時太郎の唇に、不意にお花は宥めるように、指を押し当てた。
「そこまで! 何かあるとあんた、いっつも馬鹿の一つ覚えみたいに、同じこと言うんだから……! まあ、このお花ちゃんに任せなさい! 悪いようには絶対しないから」
「任せろって、どういうことだよ」
「あたしが、一緒に行くってことなの!」
驚きに、時太郎は思わず仰け反った。腰を抜かしそうになる。
「お花!」
ぐっと、お花は覆い被さるように近寄った。
「いいわね? 時太郎。とにかく、あんたはあたしが目を離すと何をするか判んないから、あたしが従いていってあげるって、言ってんのよ!」
まるで小さな子供に言い聞かせるように、ひと言ひと言はっきり区切って話しかける。
時太郎は言葉を失い、硫黄泉に茹で上げられた鯉のように、口をぱくぱくさせた。
お花は、さっさと先に立って歩き出した。
立ち止まり、半腰抜け状態で動けないでいる時太郎を振り返る。
「なに愚図愚図してんの? 苦楽魔に行くんでしょ?」
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