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苦楽魔{くらま}の巻
四
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お花は、そっと時太郎の袖を掴んだ。
時太郎がそちらを見ると、お花は目に一杯の涙を溜めている。微かにかぶりを振ってこう言っているようだ。
(大丈夫、あたし、あんたを信じてる。あんたは立派な河童淵の河童だわ!)
時太郎はお花の目を見つめ返した。
その時、天狗が「おほん!」と、わざとらしい咳払いをした。
「さて、そう言えば、まだおぬしたちの苦楽魔に来た目的というのを聞いてはいないようだが……水虎とやらの〝お告げ〟とは、どういうことかな?」
時太郎は、ぐい、と頭を上げて胸を張った。もう、心はすっかり平静を取り戻している。
「おれは、母さんを探しに行かなければならない。母さんは京の都にいるらしい。そのために、仲間が必要なんだ。水虎さまは、この苦楽魔で仲間を探せと、おれに言ったんだ」
「ふうむ……仲間を、のう……! しかし、誰がお前の仲間になるのだ? 水虎さまとやらは、この苦楽魔におる誰がお前の仲間になるか、言ってはおらんのか?」
時太郎は頷いた。
「ああ、そんなことは、ひと言も……。でも、水虎さまの〝お告げ〟だ。苦楽魔へくれば、判ると思ってた……」
天狗は困ったように黙り込んだ。
静寂が支配したその時、それまで一人だけ機械にへばりついていた翔一が、おずおずと口を開いた。
「あのう……大天狗さまにお尋ねになったら、いかがでしょうか?」
天狗が息を呑んだ。
「大天狗さま! うーむ……! 確かに、こういった難問には、大天狗さまの裁定が必要かもしれんな!」
時太郎が興味津々で訊ねる。
「大天狗さまって?」
「我ら天狗一族の長である。なにしろ、百年以上も生きておられ、我らを常に導いて下さる、偉い天狗さまなのだ!」
時太郎は、河童淵の長老さまのようなものかと理解した。それなら判る。
天狗は翔一に話しかけた。
「翔一! お前、大天狗さまのご予定は判るか? 今週の行動予定は記憶装置に入っているはずだな?」
「少々お待ちを」と返事をすると、翔一は再び文字打出鍵盤に向かい合った。素早く打鍵を打つと、すぐに紙が吐き出される。
眼鏡を直して、翔一は紙片の文面を読んで、振り返った。
「大天狗さまは今日一日、天儀台におられるようです」
「天儀台か……よし、二人とも、わしに従いてまいれ!」
背中を見せる天狗に向かって、翔一は慌てて声を掛けた。
「あのう……わたしも一緒に連れて行ってくださいませんか?」
「ん?」と天狗は翔一を見て、怪訝そうに眉を上げた。
「なぜじゃ? おぬし、大天狗さまに何か用があるのか?」
翔一は顔を俯け、もじもじとしている。
「はい……ちょっとお願いしたいことがありますので……」
「ふうん」と天狗は頷く。
「まあ、いいだろう、しかし、あまりしゃしゃり出るでないぞ! 判っておるな?」
翔一は頭を下げた。
天狗は時太郎とお花に命令した。
「さあ、行くぞ! 従いてこい!」
時太郎がそちらを見ると、お花は目に一杯の涙を溜めている。微かにかぶりを振ってこう言っているようだ。
(大丈夫、あたし、あんたを信じてる。あんたは立派な河童淵の河童だわ!)
時太郎はお花の目を見つめ返した。
その時、天狗が「おほん!」と、わざとらしい咳払いをした。
「さて、そう言えば、まだおぬしたちの苦楽魔に来た目的というのを聞いてはいないようだが……水虎とやらの〝お告げ〟とは、どういうことかな?」
時太郎は、ぐい、と頭を上げて胸を張った。もう、心はすっかり平静を取り戻している。
「おれは、母さんを探しに行かなければならない。母さんは京の都にいるらしい。そのために、仲間が必要なんだ。水虎さまは、この苦楽魔で仲間を探せと、おれに言ったんだ」
「ふうむ……仲間を、のう……! しかし、誰がお前の仲間になるのだ? 水虎さまとやらは、この苦楽魔におる誰がお前の仲間になるか、言ってはおらんのか?」
時太郎は頷いた。
「ああ、そんなことは、ひと言も……。でも、水虎さまの〝お告げ〟だ。苦楽魔へくれば、判ると思ってた……」
天狗は困ったように黙り込んだ。
静寂が支配したその時、それまで一人だけ機械にへばりついていた翔一が、おずおずと口を開いた。
「あのう……大天狗さまにお尋ねになったら、いかがでしょうか?」
天狗が息を呑んだ。
「大天狗さま! うーむ……! 確かに、こういった難問には、大天狗さまの裁定が必要かもしれんな!」
時太郎が興味津々で訊ねる。
「大天狗さまって?」
「我ら天狗一族の長である。なにしろ、百年以上も生きておられ、我らを常に導いて下さる、偉い天狗さまなのだ!」
時太郎は、河童淵の長老さまのようなものかと理解した。それなら判る。
天狗は翔一に話しかけた。
「翔一! お前、大天狗さまのご予定は判るか? 今週の行動予定は記憶装置に入っているはずだな?」
「少々お待ちを」と返事をすると、翔一は再び文字打出鍵盤に向かい合った。素早く打鍵を打つと、すぐに紙が吐き出される。
眼鏡を直して、翔一は紙片の文面を読んで、振り返った。
「大天狗さまは今日一日、天儀台におられるようです」
「天儀台か……よし、二人とも、わしに従いてまいれ!」
背中を見せる天狗に向かって、翔一は慌てて声を掛けた。
「あのう……わたしも一緒に連れて行ってくださいませんか?」
「ん?」と天狗は翔一を見て、怪訝そうに眉を上げた。
「なぜじゃ? おぬし、大天狗さまに何か用があるのか?」
翔一は顔を俯け、もじもじとしている。
「はい……ちょっとお願いしたいことがありますので……」
「ふうん」と天狗は頷く。
「まあ、いいだろう、しかし、あまりしゃしゃり出るでないぞ! 判っておるな?」
翔一は頭を下げた。
天狗は時太郎とお花に命令した。
「さあ、行くぞ! 従いてこい!」
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