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千代吉の巻
四
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「出てきなさい。わしは、そちらの敵ではないよ」
五郎狸の声は穏やかだった。時太郎はその声に嘘は無いと思った。
「おい、出て行くぜ」
お花と千代吉に声を掛け、荷物の隙間から姿を表す。五郎狸は時太郎の姿には驚かなかった。
ところが、背後から千代吉の姿を認めると、さすがに目を見開いた。
「若様……!」
「五郎狸さん。これは、どういうことですか?」
千代吉の言葉に五郎狸は微かに首を振った。
「あの震天雷の威力を目の当たりになさったで御座いましょう? あのようなもの、狸穴の狸が持つと、碌なことになりませぬ。あれは、あまりに強力で御座います。いや、狸ばかりでなく、どんな勢力が持っても危険であろうと思います」
千代吉は頷いた。
「わたくしも、そう思います。母上はあの南蛮人に誑かされているのです!」
千代吉の言葉に、五郎狸はわが意を得たりという表情になった。
「さすが、若様! じつは、時太郎殿とお花殿のお二人が捕えられた時、わたくしがお救い申し上げようと思っていたのですが、先を越され、いったい誰がと推察を巡らせていたのですが、若様だったのですね!」
「ねえ! さっきからさっぱり判らないわ! ちゃんと説明してよ!」
お花は苛立っているのか、軽く足を踏み鳴らす。五郎狸はちょっと笑って頷いた。
「左様か……。ちと説明不足であったようで御座るな。もともとは若様と狸御殿の姫さまとの縁組にわしが駆け回っていたころ、狸御殿の家老、芝右衛門殿と談判するようになって、お互い理解を深めたのじゃ。その結果、狸穴と狸御殿は協力し合うことが肝要という結論になった。しかし、あの南蛮人が御前に近づくようになって、状況が変わった! なんと、あの南蛮人め、御前に人間界への侵攻という考えを吹き込みおった! そのため、御前は狸御殿との縁組を解消し、あまつさえ戦いを仕掛けようという……。これは狸全体にとって未曾有の危機と、わしは思ったのじゃよ」
五郎狸の長広舌に、皆ふむふむと聞き入っている。
「それで密かに、わしは狸御殿と連絡を取り合うことにした。連絡にはうってつけの連中がおった」
ぽんぽんと五郎狸は手を叩く。
「それが、わたくし、という訳で……」
頭上から声が降ってきて、時太郎とお花は積み重なっている荷物を見上げ、ぽかんと口を開けた。
荷物の上に立っていたのは豆狸だった。豆狸は深々とお辞儀した。
「姿を消し、申し訳御座いませぬ。しかし、どうしても五郎狸殿と連絡を取り合う必要があったので、やむなくあの場を逃げ出した、という訳なのです」
五郎狸が後を引き取る。
「これ、この通り、豆狸はこのように小そう御座いましょう? 今まで幾度となく、豆狸どもに協力願ったという訳で御座る」
時太郎は腕を組み、叫んだ。
「なんだ、それじゃおれがこの狸穴にやってきたのも、そいつらの差し金か?」
五郎狸は「まあまあ」と両手を挙げた。
「すまん! なにしろ、事は秘密を要するのでな。しかし若様とわしの思いが同じということが判って、喜ばしいかぎりじゃ。南蛮人の震天雷は、ことごとく廃棄せねばならぬ。そのこと、判ってくれるか?」
「そりゃ、まあ……」
時太郎は面白くはなかったが、不承不承、頷くことにした。これで千代吉が狸御殿に同行してくれるなら、まあいいかと思ったのである。
「そうかい、そういう絡繰だったのかい!」
出し抜けの大声に一同は飛び上がった。
土蔵の入口に、夕日を背に受け、おみつ御前が立ちはだかっていたのである。
五郎狸の声は穏やかだった。時太郎はその声に嘘は無いと思った。
「おい、出て行くぜ」
お花と千代吉に声を掛け、荷物の隙間から姿を表す。五郎狸は時太郎の姿には驚かなかった。
ところが、背後から千代吉の姿を認めると、さすがに目を見開いた。
「若様……!」
「五郎狸さん。これは、どういうことですか?」
千代吉の言葉に五郎狸は微かに首を振った。
「あの震天雷の威力を目の当たりになさったで御座いましょう? あのようなもの、狸穴の狸が持つと、碌なことになりませぬ。あれは、あまりに強力で御座います。いや、狸ばかりでなく、どんな勢力が持っても危険であろうと思います」
千代吉は頷いた。
「わたくしも、そう思います。母上はあの南蛮人に誑かされているのです!」
千代吉の言葉に、五郎狸はわが意を得たりという表情になった。
「さすが、若様! じつは、時太郎殿とお花殿のお二人が捕えられた時、わたくしがお救い申し上げようと思っていたのですが、先を越され、いったい誰がと推察を巡らせていたのですが、若様だったのですね!」
「ねえ! さっきからさっぱり判らないわ! ちゃんと説明してよ!」
お花は苛立っているのか、軽く足を踏み鳴らす。五郎狸はちょっと笑って頷いた。
「左様か……。ちと説明不足であったようで御座るな。もともとは若様と狸御殿の姫さまとの縁組にわしが駆け回っていたころ、狸御殿の家老、芝右衛門殿と談判するようになって、お互い理解を深めたのじゃ。その結果、狸穴と狸御殿は協力し合うことが肝要という結論になった。しかし、あの南蛮人が御前に近づくようになって、状況が変わった! なんと、あの南蛮人め、御前に人間界への侵攻という考えを吹き込みおった! そのため、御前は狸御殿との縁組を解消し、あまつさえ戦いを仕掛けようという……。これは狸全体にとって未曾有の危機と、わしは思ったのじゃよ」
五郎狸の長広舌に、皆ふむふむと聞き入っている。
「それで密かに、わしは狸御殿と連絡を取り合うことにした。連絡にはうってつけの連中がおった」
ぽんぽんと五郎狸は手を叩く。
「それが、わたくし、という訳で……」
頭上から声が降ってきて、時太郎とお花は積み重なっている荷物を見上げ、ぽかんと口を開けた。
荷物の上に立っていたのは豆狸だった。豆狸は深々とお辞儀した。
「姿を消し、申し訳御座いませぬ。しかし、どうしても五郎狸殿と連絡を取り合う必要があったので、やむなくあの場を逃げ出した、という訳なのです」
五郎狸が後を引き取る。
「これ、この通り、豆狸はこのように小そう御座いましょう? 今まで幾度となく、豆狸どもに協力願ったという訳で御座る」
時太郎は腕を組み、叫んだ。
「なんだ、それじゃおれがこの狸穴にやってきたのも、そいつらの差し金か?」
五郎狸は「まあまあ」と両手を挙げた。
「すまん! なにしろ、事は秘密を要するのでな。しかし若様とわしの思いが同じということが判って、喜ばしいかぎりじゃ。南蛮人の震天雷は、ことごとく廃棄せねばならぬ。そのこと、判ってくれるか?」
「そりゃ、まあ……」
時太郎は面白くはなかったが、不承不承、頷くことにした。これで千代吉が狸御殿に同行してくれるなら、まあいいかと思ったのである。
「そうかい、そういう絡繰だったのかい!」
出し抜けの大声に一同は飛び上がった。
土蔵の入口に、夕日を背に受け、おみつ御前が立ちはだかっていたのである。
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